機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第189話「世界との契約」

 

 あまりにも重い衝撃に揺さぶられ、昏倒していたらしい。

 

 ザライアンは全身を貫くかのような激痛を覚え、ゆっくりと身を起こす。

 

「ここ、は……」

 

 暗礁の暗がりが茫漠と広がっている。

 

 ともすれば、ここは地獄か、と感覚したところでゆっくりと、明滅するのは脈動の光である。

 

「そうだ、ここは……MF、《ファーストヴィーナス》の、コックピット……」

 

 ようやく追い付いてきた自己認識に、ザライアンは周囲へと視線をやる。

 

 暗黒に染め上ったコックピットの臓腑の中でただ唯一、光を生じさせているのはキュクロプスの倒れ伏したメインコンソールであった。

 

「……キュクロプス……君は……」

 

 そっと肩に手を添えると、まだ生きているのが伝わる。

 

 どうやら、気を失っているだけらしい。

 

 ザライアンは《ファーストヴィーナス》の心臓部とも言えるメインコンソールへと、躊躇いながらも触れていた。

 

 途端、ずんと重い脈動が生じ、これまで死んだように闇の只中であったコックピットが蒼く波打つ。

 

『――レヴォル・インターセプト・リーディング、初期起動を開始します。ユーザー認証を行ってください。繰り返します。ユーザー認証を開始してください』

 

「ユーザー認証……? パスワードでもあるのか……?」

 

 コンソールに触れているうちに蒼い鼓動が応じる。

 

『適性ユーザーを確認。ユーザー名を認識します。ようこそ――クラード。スリープモードに入っていたコミュニケートモードを起動し、設定をどうぞ。“……とんでもない事態に巻き込まれたようだな、君も”』

 

「……この機体のアイリウムか」

 

『“その認識は正しくない。アイリウムとは、我が方の性能をこの来英歴に対して適切にダウングレードした存在である。我が名はレヴォルの意志。レヴォル・インターセプト・リーディングである”』

 

「レヴォルの意志……。なら教えてくれ。何が起こった……?」

 

『“事態は数時間前に遡る”』

 

 浮かび上がった映像は海上を疾走する《ファーストヴィーナス》に向けて、天上より注がれた漆黒の重力波を観測していた。

 

 直撃するなり《ファーストヴィーナス》付近の海面は蒸発し、数百メートルに至っての地域へと陥没が発生している。

 

「……これは、衛星兵器か」

 

『“そうだと推測されるが適切な兵装は不明。最も近似値にあるのは、この機体である”』

 

 表示されたのはかつての月軌道決戦で相見えた、敵を葬るためだけの六番目の使者――。

 

「《シクススプロキオン》、だって……? だがあれは破壊されたはずだ」

 

『“破壊したものを鹵獲、改良するのに三年と言う月日は最適であったと思われる”』

 

「だが、何者が……」

 

『“要らぬ熟慮を入れる必要はない。衛星兵器クラスを運用出来るのは王族親衛隊だと推定される”』

 

 砲撃後にこちらへと降下してきた無数の重力突破ポッドを、《ファーストヴィーナス》のカメラは捉えていた。

 

「……王族親衛隊……万華鏡、ジオ・クランスコール……。その《ラクリモサ》だって?」

 

『“信じ難いだろうが、これは事実だ。彼らはこちらへと砲撃を敢行。しかし、その攻勢を阻んだのは……これも想定外か”』

 

 白煙の向こう側のせいで映像の精度は粗いが、それでも間違いなく理解出来たのは、虹色の波打つ兵装を操る聖獣であった。

 

「……MF03、《サードアルタイル》……追って来たのか」

 

『“その線も含めてこちらでは無数の諜報機関を経由して情報収集に当たっていた。その中で、ネオジャンヌ、なる反政府組織がヒット。彼らは聖獣を旗印に挙げている。もっとも、これもほんの数時間前の出来事だが”』

 

「……地球圏の勢力が僕達を駆逐するのに体のいい言い訳を並べているだけだろう。だが、僕らにも非はあった。特権階級を抹殺するなんて過ぎた真似だったんだ」

 

『“では問うが、そちらに何が出来た? 《フォースベガ》との思考拡張を切られ、キュクロプスの助けがなければ拷問されていただけだろうに”』

 

「それは……言いっこなしだ。僕だって使命があった」

 

『“使命、か。このキュクロプス……いいや、マーガレット・マジョルカにも使命はあった”』

 

「マーガレット・マジョルカ……」

 

『“彼女の名前だ。この世界で名乗っているに過ぎないが”』

 

 その言葉にザライアンはキュクロプス――マーガレットの相貌へと視線を配る。

 

「……まさか、死んで……」

 

『“いや、思考拡張の度合いが濃かったために、《ファーストヴィーナス》の休眠モードに伴って意識を強制停止させているだけだ。《ファーストヴィーナス》が元の力を取り戻せば、遠からず目覚めるだろう”』

 

「……それは、よかった、と言えばいいのか?」

 

『“……ハッキリ言おう。このままでは我が方はジリ貧である”』

 

 レヴォルの意志の言葉にザライアンは瞠目する。

 

「何だって? でも《ファーストヴィーナス》の力なら……」

 

『“衛星兵器は完全な射程外だ。射程外からMFを攻撃出来る戦力に対しての応戦は不可能である”』

 

「そんな……じゃあどうしろって言うんだ! このまま……海の中に沈んで、第二射を待てって言うのか!」

 

 思わずメインコンソールを拳で殴りつけたザライアンに、レヴォルの意志は冷淡に応じる。

 

『“落ち着けと言っている。MF……聖獣の力は何も、彼女だけの特権ではない。この次元宇宙において、たった四人の……月の聖獣を操るに足る存在が居る”』

 

 その赴くところを、ザライアンは理解出来てしまった。

 

 何故ならばそれは――かつて自分が世界と契約した際の問いかけとまるで同じであったからだ。

 

「……何を……お前は何を言っている……」

 

『“理解出来るはずだ。君もまた、クラードであるのならば。今の状況を打開するのに、マーガレットは《ファーストヴィーナス》の復活を待たなければいけないが、思考拡張が切れていたがゆえに、動けるのは君だけだ”』

 

「……彼女の代わりに、お前と手を結べと言うのか」

 

『“それが最も合理的である”』

 

 しかしそれは、マーガレットより力を奪う事に他ならない。

 

 それを彼女が許すはずもない。

 

 自分は糾弾され、そして同胞であると言ってくれた者を、事態が違うとは言えまた裏切る事になる。

 

 しかも、今度は間違いようもなく、自分自身の意志で。

 

「……僕に、この聖獣を動かせと?」

 

『“《ファーストヴィーナス》と契約するのに、君達の間には特別なものは必要ない。何せ、君もまた、クラードだ。それぞれの次元宇宙において、次元同一個体と呼ばれる存在。君達は、それぞれ呼び出された。この世界を、来英歴を救うための英雄として。同じでありながら、君達は違う力を振るう。こちらから観測すれば、それも奇異に映ると言うのに。同じ《ガンダムレヴォル》を駆る君達はね”』

 

 全て理解した上での選択肢――否、これは契約だ。

 

 自分はかつて、世界と契約したと言うのに、今度はこの来英歴と言う別世界を背負っての契約。

 

 護るためではなく、壊すために。

 

 世界を破壊するために、英雄として再臨する。

 

「……本当にそれしかないのか。《ファーストヴィーナス》……いいや、《ガンダムレヴォル》! 本当にそれしか……世界を救う術はないのか……」

 

『“現状、算出しかねる。選択は早いほうがいい。もう、彼らは来てしまった”』

 

 直後、激震する砲撃の嵐に、ザライアンはメインコンソールに身を打ちつける。

 

「……これは!」

 

『“王族親衛隊所属、《パラティヌス》。先の砲撃作戦が失敗したために、再度、と言うところだろう”』

 

「止めてくれ! お前のシステムならこの世界のアイリウムに干渉出来るはずだ!」

 

『“可能だが、意味はあるのか? 乗っているのはこの世界の人間だぞ? それに、アイリウムへの干渉はマーガレットの管轄下ではない。彼女はそれを自ら律していた”』

 

「構うもんか! こっちの命が懸かっているんだ! ……僕は、まだ死ねない……。自分の世界を、故郷を救うまで……死ねないんだ……!」

 

『“では選択せよ。熱で固めた水蒸気の皮膜で現状、薄く防御しているだけだ。この状態はすぐに破られるぞ”』

 

 ザライアンは奥歯を噛み締めた後に、蒼く波打つ脈動へと問う。

 

「……僕がお前の主となって、それで世界が救われる可能性は?」

 

『“ゼロではない”』

 

 ――ああ、こんな言葉でさえも、あの時と同じとは。

 

 ザライアンはくっくっ、と喉の奥で嗤ってから、その手を突き立てる。

 

「――なら、充分だ。ここに、ザライアン・リーブスは――クラードはお前と契約する――!」

 

 瞬間、闇が蠢動し、何かがオォンと吼え立てる声が聞こえた気がした。

 

 直後には、全ての観測機が復活を遂げ、黄金に光り輝く装甲を展開した《ファーストヴィーナス》の機体が海底より浮遊する。

 

 その絶対者の眼差しはザライアンと同期し、瞳へと逆三角形の紋様が浮かび上がっていた。

 

 緑と黄色の輝きを帯びて、ザライアンはその手をコンソールに差し出す。

 

 可変した両腕へと生態部品の如き別宇宙の機械が巻き付き、脳髄を電撃が痺れさせていた。

 

 久方ぶりの感覚――それは叛逆の芽の復権。

 

「……行くぞ。《ガンダムレヴォルファーストヴィーナス》。敵兵を――駆逐しろ!」

 

 黄金の帯を疾走させ、空中展開する《パラティヌス》の脚部を焼き切る。

 

 敵方はこちらの復活に戸惑っているようで、散開機動に移っていた。

 

「全てが……遅い!」

 

 黄金の反射装甲を花弁の如く速射した《ファーストヴィーナス》の挙動に、この世界のMSは追従出来ない。

 

 恐らく最強を誇る部隊であろう、王族親衛隊の《パラティヌス》が一機、また一機と撃墜されていく。

 

『これは……! 聖獣の活動を確認! 大佐!』

 

『うろたえるな。敵は既に我らの包囲陣の中心に居る』

 

 冷たく切り捨てたその声に、ザライアンは敵を見据える眼差しを向けていた。

 

「……万華鏡、ジオ・クランスコール……!」

 

 ザライアンの思考拡張を引き受け、《ファーストヴィーナス》はこれまで展開していた熱水蒸気を噴射していた。

 

《パラティヌス》部隊は想定し切れずに装甲を焼け爛れさせる。

 

 しかしそれを逃れたのは赤く異様な機体であった。

 

 Y字の形状を取る機体の名は、MS《ラクリモサ》。

 

「こんの……!」

 

 ザライアンの放った《ファーストヴィーナス》の装備は大きく二つ。

 

 一つは敵兵を薙ぎ払う黄金の帯。

 

 格闘兵装の能力を駆使して、《ラクリモサ》へと突き刺さらんとするが、相手はその射程を潜り抜ける。

 

 だが第二の手があった。

 

 空中へと掃射していた降り注ぐ光の連鎖が《ラクリモサ》を包囲している。

 

 その包囲陣を避け切れないと判定したのか、一機の《パラティヌス》が割り込んでいた。

 

『……大佐。ご武運を……』

 

 炸裂した《パラティヌス》の爆発を照り受け、《ラクリモサ》が読めない眼窩をこちらに向ける。

 

「……恐ろしいのか? それとも……」

 

 両腕を交差させ、黄金の帯を手足の如く操る。

 

 挟撃の動きを取ったこちらの兵装に、《ラクリモサ》の取った行動は少ない。

 

 ミラーヘッドの段階加速を経ての直進、即ち猪突であった。

 

「……そこは! 僕の距離だ!」

 

 そのまま真正面に速射する。

 

 しかし、直後には敵影は掻き消えていた。

 

 どこへ、と首を巡らせる前に直下から光条が迸る。

 

 いつの間に潜り込んでいたのか、ミラーヘッドビットが《ファーストヴィーナス》の躯体を震わせる。

 

「……なるほど。どこまでも、人界とはまかりならないものだな。どんな事象平面世界に降り立っても、お前のような存在が居る。……僕の世界にも居たさ。似たような手合いが」

 

《ラクリモサ》は全方位よりミラーヘッドビットで円弧を描きつつ、それぞれを質量兵装として衝突させていた。

 

 激震するコックピットの中で、ザライアンは真紅に染まった瞳で睥睨する。

 

 直上より援護砲撃を仕掛ける《パラティヌス》は児戯だ。それは無視していい。

 

 だが、目の前から迫ってくる死神には。

 

 この相手には――絶対的な死と言う名の結果が必要だ。

 

 そのためならば、羅刹にも身を売り渡そう。

 

 生態部品がじくりと、腕の中へと侵食する。さらなる汚染領域へと。届かぬ高みを講じて、ザライアンの手は敵機を掴み取るイメージを生じさせていた。

 

「お前だけは――墜とす」

 

《ファーストヴィーナス》の装甲が裏返り、全身を反射装甲に最適化させたまま《ラクリモサ》へと加速していく。

 

 想定通り。

 

《ラクリモサ》は衝突の際にミラーヘッドビットによる減殺を試みていた。

 

 全て――予期された出来事だ。

 

「……お前のような手合いは、確かに存在していたとも。だが、僕はそいつらをどうしたら倒せるか、そればかりを考えていた。如何に効率的に、如何に損耗を出さず、完全勝利すべきなのかを。言い忘れていたな。僕の居た次元宇宙では――お前のような敵は、全て倒してから来た」

 

《ファーストヴィーナス》の反射装甲が牙のように上下から噛み砕き、《ラクリモサ》の防衛に当たっていたミラーヘッドビットを叩き潰す。

 

 今の《ラクリモサ》は丸裸同然、確実に獲れると判定したが、習い性の神経が致命的な一撃を躊躇させていた。

 

 その予感は的中する。

 

 背後からの熱源警告に瞬時に攻勢に回っていた武装を展開させ、ミラーヘッドの加速度を得て上昇に転じる。

 

 光軸が射抜いていくのは先ほどまで居た空間だけで、今の自分は直上を取ってミラーヘッドビットを撃ち落としていく。

 

「読めないとでも思ったのか。僕は、これでも英雄だ」

 

『確かに。こちらも嘗めてかかっていたと、言うべきなのだろう。惜しい者達を失った。これ以上、聖獣と打ち合って禍根を残すべきではない。全軍、一時撤退。《ファーストヴィーナス》が復活した以上、王族親衛隊だけでは攻略は難しい』

 

「……それはどこまで本音なのだか」

 

 しかし、相手の退き際は潔い。

 

 撤退機動に移っていく敵まで追う趣味はなく、こちらも損耗率を確認していた。

 

「……キュクロプス、じゃない、マーガレット、ヴィヴィー、無事か?」

 

 マーガレットはようやく起き上がり、ヴィヴィーは今の戦闘で意識を取り戻したらしい。

 

「……何がどうなって……」

 

「僕がレヴォルの意志と契約した。今の《ファーストヴィーナス》の権限は僕にある、と同時に、君にも半身は残ったままだろう」

 

「……思考拡張の深度が強過ぎたね。まさか、私がこのような形で、《ファーストヴィーナス》の権限を失うとは想定していない」

 

「空間転移を数回行って、ラグランジュポイントまで戻る。大気圏突破が必要とは言え、地球圏に居座るよりかは安全のはずだ」

 

「待て。何を言っている、ザライアン・リーブス。まさか、恐れを成して撤退すると?」

 

「……撤退なんてつもりはない。宇宙に戻れば、僕も《フォースベガ》に届く。その安全圏まで赴くだけで――」

 

「駄目だ。それではこの次元宇宙の猿共に敗北したと言う証になる。私は、徹底抗戦しかないと思っている」

 

 マーガレットの論調はどこまでも非情めいているが、それでも現状を打開するのには、行動しかあるまい。

 

「……一度宇宙に上がるべきだ。地球圏は奴らの領域だし……重力の井戸の底では分が悪い。先の……《シクススプロキオン》の砲撃も気にかかる」

 

「……忌まわしい、衛星兵器など。だが、《サードアルタイル》の邪魔立てもなければあのまま勝てていた」

 

「結果論だ、マーガレット。結果論として、《サードアルタイル》の主は地球圏に味方している。今のままじゃ、より深い敗北を味わうだけだ。それなら僕は、攻勢を整わせるだけの時間が必要なのだと考えている」

 

 マーガレットは舌打ちを滲ませつつも、あのままなら何もせずに敗退していた事は理解しているはずだ。

 

 ヴィヴィーへと視線を配ると、彼女は自らの掌に視線を落としていた。

 

「……《ネクストデネブ》はまだ呼べない……現状が継続すれば、私も負ける」

 

「最強の思考拡張範囲を持っていてもそれか。いや、分かっているから、エンデュランス・フラクタルは《ネクストデネブ》に禁を施した。その鎖を切れるとすれば、なるほど、《フォースベガ》の運用が正しい」

 

「その通りだ。僕が《フォースベガ》と再接触すれば、《ネクストデネブ》の鎖くらいは破れる。……ただ、問題なのはこの状況でも敵は僕達を狙えると言う事実だ」

 

 マーガレットが天上を仰ぎ、忌々しげに歯を軋らせる。

 

「……謀ったな、ダーレットチルドレン共め……。六番目の使者を用いての、特異点殺しか」

 

「敵がどこからどこまで狙えるのかはまるで不明。だが一度攻撃出来た相手だ。二度も三度も、と想定すべきだろう。《ファーストヴィーナス》で、この地点から空間跳躍する。そうしなければ、僕達は……失礼。何だ? 通信回線?」

 

 だがMFの周波数に合わせられる陣営など居るのか、という疑問をそのままにザライアンは二人の了承を得てから通信を接続する。

 

『MF01、《ファーストヴィーナス》とお見受けする。見たところ、王族親衛隊との戦い、劣勢であったと感じるが』

 

 女の声であった。ザライアンは慎重に返答する。

 

「……僕達の事を知っているのか」

 

『知っている……とは言っても、つい数日前に、だけれど。《ファーストヴィーナス》の躯体、持て余しているのなら、我が陣営と協定を結ぶ気はないか、と言っている』

 

「……陣営? 地球圏の人間達は信用出来ない」

 

『その御身が宇宙飛行士、木星船団の師団長でも、か』

 

 声紋認証でこちらの情報を気取るくらいは出来るはずだ。

 

 否、それ以前に、どうしてMFの通信域を相手が認証出来るのか。

 

 考え得る可能性を浮かべるに、ザライアンは一つの考えに思い至っていた。

 

「……エンデュランス・フラクタルか」

 

『半分正解、とでも言うべきでしょうかね。統合機構軍、マグナマトリクス社、と言えば少しは聞こえがあるはずだけれど』

 

「マグナマトリクス社……エンデュランス・フラクタルと結託して、僕達を陥れようとした……!」

 

『それは誤解と言うものよ。エンデュランス・フラクタルは確かに、騎屍兵を含めてあなた達を裏切って来たかもしれないけれど、マグナマトリクス社は別。それに、こちらは相手方に奪われたものを取り戻すために行動している。事情は、恐らくあなた達と合致するはずだけれど?』

 

「……信用ならない」

 

『では交渉条件として、今から機体を遣わせるわ。そちらと情報の共有化を行ってちょうだい』

 

「……機体……?」

 

 途端、大気圏を打ち破って降下してくる熱源を無数に関知する。

 

 熱核カプセルの装甲を排除させて《ファーストヴィーナス》を包囲したのは、不可視の編隊であった。

 

「……視えないだと」

 

『こちらの技術である光学迷彩。それを駆使した機体の一群。どう? これでも充分に、魅力的な条件だとは思うけれど』

 

「……世界を欺くための機体か」

 

『諜報向きの機体だと言って欲しいわね』

 

 熱源を関知する状態に変移させ、《ファーストヴィーナス》を取り囲んだ三機編成を目の当たりにする。

 

 機体識別信号がもたらされないという事は新型機であろう。

 

「情報を共有化と言いたいのなら、少しは便宜を図るべきだ。視えない相手と交渉は出来かねる」

 

『焦らないで欲しいのはそれも。我々は聖獣の力を買っている。当然、乗り込むあなた達の手腕も』

 

 今さら自分一人だと言う隠し立ても難しいわけか。ザライアンは《ファーストヴィーナス》の機体ステータスを認証させる。

 

 現状では王族親衛隊相手に立ち回って見せたのが限界。如何に聖獣とは言え、このままではどうしようもない。

 

「……交渉条件次第だ。それを聞いてからでも遅くないだろうに」

 

『慎重ね。聖獣の力を使っているのだから、もっと優位に立っていると思ってくれてもいいのに』

 

「悪いが、僕達がこれまで受けてきた仕打ちを鑑みれば、慎重にもなる。あなた達は一体、何のためにMFの力を欲するのか」

 

『それほど大層なお題目でもないのよ。ただ――重力圏で衛星軌道から見張られていると窮屈でしょう?』

 

 その言葉でザライアンは相手が《シクススプロキオン》の存在を看破しているのを感じ取る。

 

「……それが分かっていて……」

 

『分かっていても、こちらの持ち得る戦力だけでは拮抗し得ない。だからこその交渉になる。MFの力と、我がマグナマトリクス社の力、二つが揃えば衛星軌道上を支配する相手を駆逐出来る』

 

 

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