機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第191話「死者の惑い」

 

「……はい。こちらでも確認しました。MF01、《ファーストヴィーナス》は健在。我が方から送ったはずの王族親衛隊は撤退機動に。回収しますか?」

 

『いいえ、彼らには彼らの流儀があります。求められれば回収作業に。しかし、災難でしたな、リクレンツィア艦長』

 

 タジマの物言いに辟易するものを感じつつ、ピアーナは艦内の状態を脳内に呼び起こす。

 

「……まったく、酷いものです。アステロイドジェネレーターは今を持ってようやく通常状態へと移行。重力下航行は想定されてはいましたが、無重力からの変移となればなかなか馴染まないのも当然です」

 

『心中、お察ししますよ』

 

 そう言いつつも虚飾に塗れたタジマの微笑みは、今ほど鬱陶しく思えるものもなかった。

 

「MFは……《ファーストヴィーナス》は追撃しないでいいのですか」

 

『あれの相手は私達の身分ではありません。それに、もっと気にかかる拾い物をしたという情報を得ています』

 

 耳聡いな、と思いつつピアーナは海中より拾い上げた存在を認識する。

 

 マリオネットのように項垂れているが、それでもまだ生きているのが窺えた。

 

 現状の人類の叡智では開けない、それは禁断の扉の一つ。

 

「……MF03、《サードアルタイル》……。突然に糸が切れたかのように海底に沈んだのは想定外としか言いようがありませんでしたが」

 

『一手先を講じられたのは大きい。《サードアルタイル》にはパイロットを充てる予定ですが、相応しい者は居ますか?』

 

 それは聖獣に捧げても惜しくない戦力は居るか、という質問と同義だろう。

 

 ピアーナは頭を振っていた。

 

「……いいえ。一人として居ません」

 

『そうですか。それは残念。モルガンでの運用も考えていたのですが……よろしいでしょう。ポートホームで適した人材を送ります。全ては彼に任せてください』

 

「待って欲しいのですが、聖獣を人類が動かす事への、躊躇いや、畏怖は? まさか何もないとは言わないですよね?」

 

『こちらの想定とは少し違いますが、彼もエージェントです。それ相応の実力者である事をお忘れなく』

 

「実力者、ですか。しかしMFのパイロットなればそれは世界の命運を握らせているも同じなのでは?」

 

『ご安心を。首輪はしっかりと、付けておりますので』

 

 それは言葉通りの意味だろう。エンデュランス・フラクタルに逆らえば、問答無用で発動する首輪なら自分も付けられている。

 

「そうですか。手綱の握られている兵士ならば結構。わたくしも出迎えに向かいます」

 

『どうぞよしなに。……ああ、そうそう。艦長、少しよろしいですか?』

 

「何でしょう。今のわたくしに、余裕はありませんが」

 

『いえ、王族親衛隊、万華鏡のジオ・クランスコールとの会話ログがありますね。彼の心象はどうでしたか?』

 

 まさか盗聴を勘繰られたか、と予感したがこれは純粋な興味なのだろう。

 

 ピアーナは落ち着き払って返答する。

 

「……機械のようなお方でしたね」

 

『彼に関しても読めない情報が多い。現状の我が社は少しばかり損耗している。この機会に付け込んでくる輩が居ないとも限らない』

 

 ピアーナは中天に位置する《ファーストヴィーナス》を仰ぐ。

 

 あれほどの性能を発揮してみせた聖獣、自分達の味方として引き入れられるとも思ってはいないのだが。

 

「気は張り詰めているつもりです。それもこれも、全ては我が社が最終的な勝利者の座に就くために」

 

『理解はされているようで結構。では、エージェントの現着をもって、MF03の操縦者としての登録をお願いします。彼は長年、我が社を支えてくれました』

 

 そこまでのエージェントが果たして存在しただろうか、と感じつつピアーナは通信を切って《ラクリモサ》の先導する部隊の位置情報を把握していた。

 

「……何機かは撃墜されたようですわね」

 

「艦長、今の《ファーストヴィーナス》に仕掛けるのは得策とも思えません。それに、聖獣を確保したからと言って、人類の言う事なんて聞くのでしょうか……」

 

 クルーの不安も無理からぬ事。

 

 これまで絶対的な存在として屹立してきたMFがこの期に及んで味方に転がるなど、人類のどこを探しても想定外のはずだ。

 

「……身構えるべきはわたくし達、なのかもしれませんね」

 

 ピアーナが管制室を出るなり、騎屍兵達が両脇を固める。

 

 彼らには武装が許されており、ポートホームから派遣されてくるエージェントの検分も入っている。

 

「ファイブ。貴方は前回、先走りが過ぎましたね」

 

『失礼を。あの戦場で相手方を押し上げていた敵を撃墜せねば、と気が急いた結果です』

 

「……優秀な兵士はそれゆえに、結果を求め過ぎてしまう。それが如何なる形であっても」

 

『我々は死者です。リクレンツィア艦長、ご命令があればいつでも』

 

「その心構えはよろしい。ですが、足をすくわれてからでは遅いのですよ。今は一手でも、優位な情報が必須のはず。どの陣営にとっても……」

 

 ポートホームに着く際、壁に背を預けていた人影にピアーナは足を止めていた。

 

「こんなところで油を売っている場合ですか。ヴィクトゥス・レイジ特務大尉」

 

「諫言痛み入る。しかし、私としても愛機が半壊させられた状態だ。正直に言うと手が余っているのだよ、フロイライン」

 

 相変わらずの甘ったるい口調だけは確かなようで、ピアーナはヴィクトゥスにため息を返す。

 

「……貴方が死ぬかもしれないなど、杞憂だったようですね」

 

「信を置いてもらっている証なのだと思っているがね」

 

「わたくしをその舌先三寸で懐柔出来ると思わないように。お得意の口さがだけは、まだまだ死んでも直らなさそうですからね」

 

「万華鏡とやり合えば、死も覚悟する。しかし、君があそこで呼んでくれて助かったとも」

 

 それは自分にとっての失態だ。

 

 まさか前後不覚になって彼の失ったはずの名前を紡いでしまうなど。

 

「……忘れてください」

 

「忘れないとも。何よりも、艦長に名を憶えてもらったと言うのは光栄でね」

 

「だから、忘れてと言っているでしょうに……」

 

「格納デッキに収容されたあれを見た。凄まじいな、月の聖獣とは」

 

 そう言えば、とピアーナは益体のない質問を感じ取っていた。

 

「……聖獣をあの距離で見た事は?」

 

「月軌道決戦時以来だな。あれだって最大望遠だ。まぁ、私は一度死んだ身。あの時の記憶は誰かの残滓のようなものだろう」

 

「……では《サードアルタイル》のパイロットが充てられると言うのも」

 

「初耳だ。しかし、現行人類であれを扱えると言うのか? 聖獣に乗っていたのは婦女子であったと聞く」

 

「口の軽い整備班も居たものですわね。とは言え、確証めいたものは何一つありません。前回の戦闘ログを参照するに……コックピットに相当する場所にファム……彼女が……乗っていたと言うだけの……」

 

 網膜の裏側に映し出されたのは、《ダーレッドガンダム》に収容された銀髪の少女の映像であった。

 

 まさか不幸の象徴(ファム・ファタール)――生きていたとは。

 

「私にとって面識は薄いのだが、ベアトリーチェでのクルーであったと記憶している」

 

「ええ。……そのはずだったのですが……どうして見落としていたのでしょうか。彼女の記録は全て抹消済みです。今アクセス出来る領域は……万華鏡、ジオ・クランスコールの妹と言う、嘘としか思えない情報のみ」

 

「万華鏡の妹君か。それは、確かに不幸を呼ぶな」

 

「それも本当かどうかは怪しいものですが。わたくしはこれより、エージェントと謁見します。貴方は……その必要はないかと存じますが」

 

「少しは艦長の職務を軽減出来るかと思う。もっとも、これも驕りかも知れないが」

 

 とは言え、エンデュランス・フラクタル本社からの特級エージェントと言う触れ込みだ。一度は顔合わせをしておいたほうが、後々に禍根を残さずに済むだろう。

 

「……了解しました。ファイブ、ナイン、わたくしの警護を」

 

「私は何をすればいい?」

 

「見ていれば結構」

 

 切り捨てた自分の声音に、ヴィクトゥスは肩を竦めるのみであった。

 

 ポートホームの位置情報設定を相手から受信し、量子転送されてきたのは一人の青年士官であった。

 

 しかし、その面持ちと姿に、ファイブが思わずと言った様子で声を発する。

 

『……グゥエル?』

 

 そう、自分にとっても見知った存在――ベアトリーチェクルーの一人であったグゥエルが、精悍な顔つきでこちらへと挙手敬礼する。

 

「エージェント、サイファー。これよりモルガンにて第三の聖獣、《サードアルタイル》のパイロットとして着任いたします」

 

 呆然とするとはこの事で、ピアーナは絶句していた。

 

 身を乗り出したのは想定外にファイブで、彼はグゥエルにしか見えない相手の肩を揺する。

 

『おい、グゥエル! グゥエルなんだろ! 何やってんだ、こんなところで……!』

 

「……ファイブ?」

 

 いつもの彼らしくない。全てを切り捨て、非情に徹する騎屍兵の態度とはまるで正反対であった。

 

「失礼ながら、騎屍兵ファイブ様。グゥエルとは誰なのです? 私はエージェント、サイファー。エンデュランス・フラクタルの擁する特級エージェントとして、《サードアルタイル》のパイロットに任命されて――」

 

『何言ってるんだ! お前はグゥエル……グゥエル・レーシングだろう! おれは……おれはお前が死んじまったって……あの時、月軌道決戦で聞かされて……、ああ、でもこれじゃ分かんないか……』

 

 ファイブは常時着用を命じられているヘルメットを解除し、その相貌を晒して見せる。

 

 ピアーナは露わになったファイブの素顔に、息を呑んでいた。

 

「嘘……でしょう……、トキサダ様……?」

 

 その段になってようやくファイブはこれが失策であった事を悟ったようであったが、それでも彼は止まる様子はない。

 

「グゥエル! お前が生きていたのなら、おれだって、無用な犠牲は出したくないんだ! ……アルベルトは……ヘッドは……まだ前に出たがっているが、それも止めさせて、全部……全部なかった事にしようぜ! おれ達なら、もう一回凱空龍を――!」

 

「失礼ながら誰かと勘違いなされているのではないですか。私はエンデュランス・フラクタルの所有物です。あなた方と面識はない。騎屍兵ならば、その面子を保つためにも、素顔は晒すべきではないと考えます」

 

「水臭い事……言ってんじゃねぇよ、グゥエル……! お前が生きていてくれただけでも……」

 

「だから、分からぬ事を言う。グゥエルとは誰なのです」

 

 振り解かれたファイブの腕は彷徨うばかりであった。

 

 あ、と言葉に詰まったファイブへと、グゥエルにしか見えないエージェントは冷徹に告げる。

 

「私は兵装として扱われるはず。リクレンツィア艦長、《サードアルタイル》へとガイドを頼みます。……しかし、鉄壁の騎屍兵が、言うのも何ですが聞いて呆れる。亡者の面影に囚われるなど」

 

 エージェントとしての声を振り向けて、襟元を正したサイファーに、グゥエル少年の面影は全く見られない。

 

 それでも見間違えようもなく、彼は――グゥエルにしか映らないのも事実。

 

「……お前……そんな言葉遣い、どこで覚えたんだ……! おれは凱空龍の副長で……」

 

「言葉遣い? ああ、失礼でしたか。しかし、一度錯乱した騎屍兵の方をあしらうのには、この程度で充分かと」

 

「お前……!」

 

「そこまでです、ファイブ。彼はエージェント、それも本社より送られてきた特級の。よってこれ以上の個人的心象による阻害は、本社から咎められます」

 

 そこまで言ってから、ファイブはよろめいていた。

 

「……嘘……なんだろ……?」

 

「何が嘘なのでしょうか? 私はエージェント、サイファー。あなた達の言う、聖獣を駆るに値する者です。それ以上でも以下でもありません」

 

 そうと断じた機械としか思えない論調に、ファイブは今さらに、恥じ入るようにヘルメットを装着していた。

 

「艦長、彼へと厳命を。余計な感傷に気取られれば、それだけ戦場での致命的な損害になる。覚えておくとよろしい」

 

「え、ええ……それは心得ておきましょう。サイファー、貴方はこのまま《サードアルタイル》へと……」

 

「ご案内を。しかし、騎屍兵がうろたえなど。それは最早、戦場を闊歩する死者としては失格なのでは?」

 

 ――戦場を闊歩する死者。

 

 その呼び名にファイブは何も言えなくなっているようであった。

 

 ピアーナは目線でヴィクトゥスに了承を取り、彼は頷く。

 

「では、わたくしはナインと共に向かいます。ファイブ、貴方は少しばかり、前回の戦闘での疲労が蓄積しているようです。見えもしないものを見ている。よって、次回の戦場での出撃許可は出せません」

 

『そんな……艦長……!』

 

「騎屍兵は常に冷徹。そして、怜悧な眼差しで戦場を俯瞰する者。そんな死者達に、余分な感情は毒なだけです」

 

 そう断じる事でしか、今は彼を救えない。

 

 ヴィクトゥスがファイブの肩を叩き、下がらせていく。

 

 ピアーナは残されたナインと共に、サイファーと肩を並べていた。

 

「それにしても壮観に映る。エンデュランス・フラクタルの新鋭艦、モルガンは。まさか聖獣を鹵獲するなど思いも寄りません」

 

 声も、姿もグゥエルそのものに違いないのに、その立ち振る舞いと隙のない所作からエージェントとして最強格であるのは窺える。

 

「……偶然の産物ですよ。全ては」

 

「その偶然を制する事が出来るから、あなた方は強い。《サードアルタイル》の兵装は自律機動兵装なのだと既に耳にしております」

 

「そうですわね……あれは、言ってしまえば王族親衛隊、万華鏡の《ラクリモサ》が近いのでしょう」

 

「ジオ・クランスコール。一度お目にかかりたかったところです」

 

「もしかすると……相対する可能性もあります。それも戦場の敵として」

 

「いいでしょう。撃ってみせます。私は、そのために規定されたエージェントなのですから」

 

 ――ああ、そうまでして。否、そういう風に叩き込まれているように。

 

 エンデュランス・フラクタルの教えをまるで拒む事はなく、彼は祝福のように告げてみせていた。

 

「《サードアルタイル》で艦長の禍根は打ち切ります。それが私の役目なのですから」

 

「ええ、そうですわね。……それが、エンデュランス・フラクタルの、そうなのだと規定された、エージェントなのですから……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大丈夫か。平時とは思えなかった」

 

 ファイブと名乗っていたはずの騎屍兵の素顔は隠されているが、ヴィクトゥスは先ほど目にした相貌に心当たりがあった。

 

「……なるほど。君か。ベアトリーチェに居た、確か、トキサダ・イマイ……」

 

『その人間はもう死にました。今の私は……騎屍兵、ゴースト、ファイブ……』

 

「そう偏狭になるものでもない。それに、ね。もう知ってしまったものをなかった事には出来ないのだよ。逆はそうなのだとしても、理屈としては通らない」

 

『……あんたは……グラッゼ・リヨ――』

 

「悪いがそれも死者の名前だ。私は今は、王族親衛隊所属、ヴィクトゥス・レイジ特務大尉だとも。……もっとも、こっちも知られてしまっていたとは。とんだ道化なのはお互い様か」

 

 ファイブは声紋をこれまで変更していたが、首筋のスイッチを押し込んで声を発する。

 

「……あんたの事だ。どこかで見通しはついていたんだろう。黒い旋風」

 

「それもどうだろうかな。私の眼は特別製だが、そこまで見通しはよくなかったとも。少なくとも、あの時、月軌道決戦で散った命がまさか騎屍兵に返り咲いているとは想定外であった」

 

「……おれの事、あんたは嗤ってもいいはずだ」

 

「嗤えるものか。互いに道化を演じている者同士、何が嗤えるものか」

 

 ヴィクトゥスとして見ればそれは本音に近い部分であったのだが、ファイブの意見は違うらしい。

 

「……おれはまだ、騎屍兵で居なくっちゃいけない。これはケジメなんだ。あの時、生き延びちまった人間のケジメであり……おれが凱空龍の夢を終わらせる。そうでなくっちゃ、いつまでも戦場におっとり刀で飛び出してくるアルベルトや、ユキノをどうこう出来ない」

 

「やはり、見知った者達だとは分かっていて、君は剣を取るのか。それは修羅の道だぞ」

 

「動きで丸分かりなんだ……二人とも。だが、おれはもう死んでいる。死んでいるからこそ、出来る芸当っていうものもある。あんたもそれを込みで、生き返ったクチだろう?」

 

「生き返った、か。しかし既にグラッゼ・リヨンという愚者は戦場に散り、その末に残存したのは、ピエロを演じるだけの三文役者だとも。私は私の因果に決着をつけない限り、グラッゼ・リヨンとしての魂の安息はない。ここに突き立つのは敗北者……敗北者(ヴィクトゥス)だけだ」

 

「……分からないな。あんたは、別に死に場所はあそこじゃなかっただろうに。おれは……もうベアトリーチェに居た誰にも、顔向け出来ないって言うだけなんだ」

 

「私もそうだ。そこまで厚顔無恥だとは思って欲しくない。戦いのための仮面を纏い、そして敵を討つ。それこそが、敗者の栄光に相応しい」

 

「敗者の栄光、か。……あんたは勝利者になるつもりはないらしい」

 

「勝利者とは、戦場を見据える識者にこそ輝くものだ。今の私は恩讐の徒。たった一つの目的のために鼓動を燃やし続ける」

 

「《ダーレッドガンダム》、か……」

 

「彼は美しき獣だろう。私が肉薄してみせたのだ。それくらいは獣としての意地を見せていただきたいところだが……しかし、あの機体は本能に赴くところが過ぎるな。戦場単位での空間転移。どう考えても人類の手に余る」

 

「……あんたもそう考えているのか。《ダーレッドガンダム》は……何かがおかしい、って」

 

「何か? あれは歯車を欠いた懐中時計のようなものだ。重要な部品がまるでないのに、正常に動く事、それそのものが異常なのだと……そろそろ誰もが気付き始めている頃合いだと、思っているがね」

 

「……おれの事、あんたは……」

 

「告げ口など三流がする事だよ。私は、戦場の一時に狂える修羅であればいい」

 

 ファイブは首筋のボタンを押し込み、騎屍兵の声紋で応じていた。

 

『……ああ、それならいいんだ。しかし、おれは……いいや、私は弱いな……。死に場所もそうなのだと決めた戦場ですら、自らで描けないとは……』

 

「兵士は死に場所を飾るのが本懐に非ず。最後の剣がどこに突き立つかだけを考えておけばいい」

 

『……それは誰の言葉だ?』

 

 その問いかけに、ヴィクトゥスはナンセンスだ、と返す。

 

「ただの……引用不明な言の葉に過ぎんさ」

 

 

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