第1話「旋風圏域」
支配するのは掌握するイメージ。
相手へと握り潰す、と判定した感覚が奔り、機体へとフィードバックされる。
その行動原理に応じるように、オレンジ色のテストカラーに塗られた《エクエス》の銃撃を瞬く間にかわし、機体は滑走していた。
すれ違いざまに一閃。引き抜いたビーム刃が発振し、ビームサーベルがまずは一機、《エクエス》を撃墜する。
斬撃を浴びせる瞬間に敵機のメインカメラに焼き付いていたのは漆黒の《エクエス》であった。
自機の姿を僅かに残像させ、すぐに次の標的へと腰にマウントしたアサルトライフルをマニピュレーターで握り、速射モードに切り替えて照準する。
こちらへとプラズマライフルの銃口を向けていたテスト機の《エクエス》の頭部が破損し、メインカメラを失った形の相手へとバーニアを焚いて肉薄。
そのままアサルトライフルを胴体に叩き込んで銃身を焼いてから捨て去る。
すぐに死に体の敵《エクエス》を盾にして二機の連携を見せる《エクエス》が迫っていたが、それを黒い《エクエス》は両腕に握り締めたビームサーベルで先んじて行動を読んで手首を焼き払っていた。
片腕の袖口を失った形の二機が愚かにも標的を見失っている間に、黒い《エクエス》は格闘兵装の出力を絞って振り払う瞬間だけ発振させる。
最低限度の動きで二機の《エクエス》のコックピットに穴が開き、総数四機編成のテスト機の《エクエス》部隊は沈黙していた。
ほう、と感嘆の声を上げたのは今の今までその体験映像に身を浸していた軍高官である。
「素晴らしいな、このパイロット。伊達に仕上げている風ではない。ろくなカスタムも施していない《エクエス》一機で四機編成をやる」
短髪を刈り上げた軍高官はゴーグルを上げてもなお興奮気味であった。
それも当然。
疑似体験とは言え、エース級パイロットの視点を追体験したのだ。
如何に会議室の似合う身分であったとしても、元は下士官。昂ぶるものがないと言えば嘘になる。
「――では、皆さん我が社のパッケージをご覧になった上で、お決めになっていただきたい」
パンパン、と手を叩いてこの場を取り仕切っていたのは営業スマイルのよく似合う眼鏡の男であった。
痩せた中年男性で清潔感がある。
そんな男を囲うように、自分を含む軍高官達は机に座り込んでいた。
「……今次の品評会に出すにしてはかなりの逸品ではないか。エンデュランス・フラクタルの――」
「タジマです。どうぞごひいきに」
タジマと名乗った男は人のいい笑みを浮かべる。
それに対して一人の高官が渋面を浮かべていた。
「しかし、《エクエス》は最早型落ちですぞ? 我ら軍警察はもう新型機開発と、その拡充に乗り出している。どれほど《エクエス》使いと言えど……」
「《エクエス》使いと言うのは語弊があります。彼は、どんなモビルスーツでも、同じように乗りこなせる。いいえ、もっと言えば《エクエス》でこれほどやってのけるのです。パフォーマンスのいい機体さえあてがえば、あとはどうとでも」
「口では吼えられるものだ。そんな一級のエージェントなら我々にこうして買い叩く場を与えるかね?」
「商売ですので」
タジマはそう涼しげに返す。
軍高官はテーブルモニターに映し出された相手先の情報を読み取っていた。
「エンデュランス・フラクタル社は一機でもMSが欲しいと見えるが、それは何故かね? 君らのプラント設備はそれなりに譲歩されているはずだが」
「それももしもの時を考えての行動と思ってくだされば。我が社はエージェントに関してはそれなりですが、人を育てるのと環境を育てるのは微妙に違います。今は、環境が欲しい」
「それは本音ではないだろう。腹の内ではこう思っているはずだ。《エクエス》なんかでは何も出来ないとでも」
「それはあなた方も同じなのでは? 地球での枯渇しかけている資源ではこれ以上の兵器開発は難しい。殊に、新型MSの開発を急いでいるのは目に見えておりますゆえ。ゆえにこそ、欲しいのですよ。《エクエス》であろうとも」
「死の商人め。貴様らが欲しがっているのは目先の《エクエス》数機ではなかろう?」
「恫喝するのはご勝手に。我々はあくまで、ビジネスとして、でございます」
食えない男だ、と軍高官は静かに隣の高官と目配せする。
この場では自分はまだ年若いが発言力だけならば一番の立ち位置に居る。それを理解しているのかいないのか、タジマは先ほどから全員を相手にしているようでずっとこちらを向いていた。
まるで自分以外は意味がないのだと最初から理解しているかのように。
「……一つ、気になる事がある。《エクエス》を揃え戦力の拡充、そして特一級のエージェントの戦い振り、文字通り体感させていただいた。だが呑み込めぬものもある。こんなにやれるエージェント、放し飼いをしているはずもあるまい」
「ええ。今も彼がミッションの只中に居ます。なので、皆さんに実際の軍事演習を見せるのは難しいので、疑似体験をしていただいた次第でございまして」
「如何に無人機とは言え、《エクエス》四機編成相手に一人で立ち回る。伊達ではない技量だ。そんなパイロットはどこに居る?」
タジマは少し考えた仕草をした後に、天井を指差していた。
全員が困惑したように辟易する中で、彼は微笑む。
「――宇宙(そら)に」