機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第197話「戻れない刻を重ねて」

 

「《サードアルタイル》はこのまま上昇を続けています。宇宙にでも出るつもりなんですかね」

 

 バーミットの報告にレミアは艦長帽を目深に被り直す。

 

「……それにしても、辛いわね、やっぱり。人が死ぬのは」

 

「アルベルト君が死んだのは何も艦長のせいじゃないでしょう。彼は最後まで力強く戦った……それだけで充分じゃないですか」

 

「いいえ、私はそんな……そんな糊塗された虚飾で、あの月軌道決戦でもたくさん死なせたわ。また……間違えたのかしらね」

 

「艦長が間違ったとすれば、それはあたし達全員の責任として跳ね返ってきますよ。上下関係無視して正直言いますけれど――舐め過ぎですってば。あたし達は、だってもう一蓮托生ですし。艦長だけ痛みを背負うって言うんなら、それこそふざけんなですよ」

 

 バーミットの強気な言葉が背中を押してくれる。

 

 こういう時、対等な身分の女の言葉はありがたい。

 

「……すまないわね。まだ……弱音を吐くのには随分と早いみたい」

 

「艦長はオフィーリアの作戦行動にだけ気を割いてください。問題なのは……戦力の激減と、委任担当官、か」

 

「カトリナさんは上手くやってくれるでしょうかね」

 

「どうでしょうね。……クラードの事もありますし、正直あたしはカトリナちゃんがもう、どん詰まりまで来ているんだと思います。そこで腐るか、諦めないかは彼女の領域ですし」

 

「冷たいのね、バーミット」

 

「知っているでしょう? あたし、冷たいんですよ。もっとウェットな人間なら、どれほどよかったでしょうけれど」

 

「いいえ。今はあなたのドライな意見が欲しい。戦いにおいて、死者の妄執に足を取られた側が負けるのは必定。私達は、《サードアルタイル》を逃すわけにはいかない」

 

「とは言ってもなー。ファム、あんた何か感じないの?」

 

 先ほどから地球のマッピング機能で遊んでいたファムへの言葉に、彼女は小首を傾げる。

 

「ミュイ? ……さんばんめ、よくわかんない」

 

「それはあんたじゃ捕捉出来ないって事?」

 

「なんだかへん。さんばんめ、ふんいきかわった」

 

「そう言えば……MFがもし人が操るものだとすれば……ダレトの向こう側より来たりし聖獣は、人の手で構築されたものだと言うの? あれは……どう考えたって来英歴の技術の何歩も先を行っている。でもそうなのだと規定すれば、ダレトの向こう側はこの世界の理とは違う宇宙だって言うの?」

 

「ミュイぃぃぃぃ……むずかしいこと、わかんない……」

 

 髪の毛を巻いて当惑したファムに、それもそうか、とレミアは感じ取る。

 

 何せ、事ここに至るまでMFのパイロットが人間であった事でさえも驚嘆すべき事実であるはずなのだが、受け入れてしまっている自分達も居る。

 

 ファムならば――MF、《サードアルタイル》のパイロットであったとしても、あり得るのではないか、と。

 

「問題なのは、《サードアルタイル》の手綱が彼女にはない事。あそこまで自在に動かして見せたのに、離れればそれっきり? そんなはずもないと思うけれど……」

 

「分かりませんよ。MFは人智の及ばぬ存在ですし。ファムー、あんた、何か《サードアルタイル》に関して知っている事はないの? あれの弱点だとか」

 

「じゃくてん……? わかんない。だってあのこは、ファムのじゃないから」

 

「その言葉も……どこまで信じていいのかしらね。どっちにしたところで最悪に転がり始めているのはハッキリしているのだろうし。オフィーリアはモルガンの動向を見据えて、このままの距離を保ちつつ推進力を維持する。今度、アステロイドジェネレーターが損壊したら、命なんてないんだからね」

 

「炉心の状態は安定域に入りかけていますけれど、それでも一度ダウンしたんです。空間巡航の時みたいな力強さは失われたと思っていいかと」

 

「ここは重力の井戸の底。私達がこれまで培ってきたノウハウは通用しないと思っていいわ。それに……気にかかるのよ」

 

 声を潜めた自分にバーミットは心得たように応じる。

 

「……ネオジャンヌ、ですか。確かに、ファムが動転して内部分裂って感じでしたけれど、それでもあの……艦長の妹さん、そんな事を仕出かすようには映りませんでしたからね」

 

「そう……身内褒めになるかもしれないけれど、キルシーは私よりもよっぽど人心掌握術があったはず。だって言うのに、こんな簡単に空中分解したのは、何もMF03の力が強大であっただけじゃない。あのネオジャンヌは滅びるべくして滅びた」

 

「元々、即席の組織だったんじゃ? それにしては、軍警察の統率された《エクエス》ばかりでしたけれど」

 

「気にかかるのはそれも。キルシーと軍警察の癒着なんて、どこであり得たのか……。あの子は実家に預けておいた手前、偉そうな口を利けるわけじゃないけれど……フロイト家は軍警察に発言力を持っているとは思えないのよね」

 

「艦長がトライアウトネメシスに居たのも、偶然と言えば偶然ですし。そこまで計算して動けるタイプじゃないってのが見立てですか」

 

「個人的な、そういう感情なのだけれど……キルシーは勝てる算段があったから、ネオジャンヌの設立を早めた。そう思わないとおかしな事がたくさんある」

 

「それはMF単位での戦力の拡充だとか?」

 

「それももちろんだろうけれど……あの子が何を思っていたのか、今となっちゃ……」

 

 言葉を濁したレミアはマッピングされた地球儀を回して遊ぶファムを視野に入れる。

 

 キルシーはファムとの出会いによって劇的に何かが変わったのだろうか。

 

 それこそ自分の世界を変えてしまえるまでに。

 

「……けれど、キルシー。それはあの子の力に酔っていただけなのよ」

 

「いずれにしたって、事ここに至っては出来る事は少ないですし。あたし達は出撃した機体の収容と修繕を。そうしないと、次の戦場にも出られませんよ」

 

「次の戦場、か……。バーミット、やっぱりあなた強かね。これでもまだ、次があるって、言い切れるんだから」

 

「言葉の上くらいは強くないと何もかもを取りこぼしちゃいます。そうでなくっても、みんな弱気になっているんだし。ここは、それくらいは、ってところでしょう」

 

「そうね……言葉の上だけでも、強く、か……。あの月軌道決戦の時に、本気で戦い抜けなかった己への戒めね、ほとんど」

 

 今回ばかりは、一つとして取りこぼしてなるものか。

 

 あの時、失ったものを全て取り戻すと息巻いているのは何もクラードだけではない。

 

「……そう言えば、クラードは? まだ《ダーレッドガンダム》に?」

 

「乗っているみたいですよ。……ヴィルヘルム先生が言うのには、本当にクラードなのか? ですって。どういう意味なんですかね」

 

「ヴィルヘルムが分からないのなら、私達に講じられる事なんて少ないのでしょう」

 

「ま、分からないなりにやれる事だってあるはずなんですし。あたし達はオフィーリアの管制室を預かっている分、責任だけは立派に存在するんですから」

 

「そうね……責任だけは……今の私達にとって、これほどまでにない、現実感なのでしょうね」

 

 しかし掛け替えのない人を失ったのは事実。

 

 それをクラードがどう受け止めるのか。

 

 カトリナはどうやって、その痛みから立ち上がるのか――全ては自分のあずかり知ると事ではないのだろう。

 

「……何せ、もう私達は……あの二人の背中を追う事しか、出来ないんだから……」

 

 

 

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