機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第202話「騎士、再臨」

 

「駆動系は変化なし。《アイギス》と同じ、第二世代機か。……《アルキュミア》、待たせたな」

 

『“本当ですよ。いつまで待たせたと思ってるんです? アルベルトさん”』

 

 浮かび上がったのは二頭身ほどにデフォルメされたピアーナのマスコット姿であった。

 

「……ぴ、ピアーナ? じゃああれは……?」

 

『“わたくしは第三世代型アイリウム、ピアーナ・リクレンツィアの持つ個別情報と固定権限を引き受けた存在です。ふふん、すごいでしょう?”』

 

 マスコット姿のピアーナのアイリウムに、何だかせっかくの別れを台無しにされた気がして、アルベルトは眉間に皺を寄せる。

 

「……何だかなぁ。てめぇもよくやるじゃねぇか」

 

『“こら。実体のわたくしを相手にするのはもうおやめなさい。これからはわたくしが、貴方のサポートを行います。大丈夫です、これでもここ数十年のエンデュランス・フラクタルの技術結晶そのものですから。実体のわたくしよりも有能かもですよ?”』

 

「……ったく、カッコつけさせてもくれねぇんだな。じゃあお前の事は? 何て呼べばいい?」

 

『“普通にピアーナでいいのでは?”』

 

「それじゃややこしいだろうが。……愛称でも何でもいいから、何かねぇのかよ」

 

『“わたくしはピアーナ・リクレンツィア本体より切り離された独自権限の膨大な資料(マテリアル)の一部に過ぎませんから。アイリウムとしての自我は後付けですし”』

 

「ああ、分かったよ、クソッ。じゃあお前は今からマテリアだ。聞こえてるか? マテリア」

 

『“……それは、人間が自分の赤子に人間と名付けるようなものでは? ひねりがなさすぎます”』

 

「うっせぇな。行くぞ、マテリア。《アルキュミア》で発進――」

 

『“失礼、補足事項を。この機体は三年前の《アルキュミア》とは本質的に異なる機体構造となっております。名を冠するのなら――《アルキュミアヴィラーゴ》。真に発展した機体となるでしょう”』

 

「……注文多いな、まどろっこしい」

 

『“認証しないと出撃させませんよ”』

 

「ああ、分かった分かったから! 余韻ぶち壊すな! ……ったく。《アルキュミアヴィラーゴ》、アルベルト・V・リヴェンシュタイン、出るぞー!」

 

 上層の緊急発艦カタパルトが最終積層まで開き、オールグリーンを示したのを目にして、アルベルトは丹田より出撃させていた。

 

《アルキュミアヴィラーゴ》は新たなる命を得て、その祝福のままに飛翔する。

 

 空域を駆け抜ける自分達へと、緊急発進した《ネクロレヴォル》が追いすがっていた。

 

「……追い付かれる……! もっと速度出ねぇのか! マテリア!」

 

『“起き掛けです! これでも最高速度!”』

 

「……しゃあねぇ、いっちょ追い払うぞ!」

 

『“武装を承認。ビームジャベリンです”』

 

《アルキュミアヴィラーゴ》がビームジャベリンを携え、《ネクロレヴォル》へと太刀筋を交わしていた。

 

『……モルガンから発艦したとなれば、穏やかではない。……何者かの裏切りか』

 

「知らねぇだろうがなぁ……この世には、まだ尊い約束ってもんがあるんだよ! 騎屍兵め!」

 

『……その声……やはり生きていたのか、ヘッド……』

 

「騎屍兵に知り合いは居ねぇ!」

 

《ネクロレヴォル》の打ち下ろした太刀筋をビームジャベリンの発振した刃が押し返す。

 

 その攻勢に対し、《ネクロレヴォル》が後続の機体を制していた。

 

「……何のつもりだ?」

 

『……ファイブ、何を……』

 

『今は、おれに任せてくれ』

 

 頭部コックピットハッチが開き、風圧に煽られた喪服のパイロットスーツが露わになる。

 

 何と相手は、そのヘルメットを外して見せた。

 

『“警告、警告! 距離が近過ぎます!”』

 

「……いや、待て……。その顔は……」

 

 しかし、そんなはずは。

 

 あり得ない再会がこうも立て続けに起きるなど。

 

『……変わらないな、ヘッド。そういうところとかがさ』

 

「トキサダ……? トキサダだってのか!」

 

 頬にRM施術痕が走っているがその相貌は間違いなく、トキサダ・イマイのものであった。

 

『“声紋データ解読。トキサダ・イマイのログと一致”』

 

「……何で……何で騎屍兵なんかになってんだ! てめぇは!」

 

『こうしなければ生きられなかった。そう返答しても、あんたはまだ吼えられるのかよ』

 

 トキサダの言い分にアルベルトは完全に閉口していた。

 

 そうだ、彼は死んだ。

 

 あの月軌道決戦で、命を散らしたはずなのだ。

 

 だと言うのに、間違いの上で成り立つ生など、それこそあってはならない。

 

「……オレは……取りこぼした命を取りこぼしたまんまで……」

 

『“アルベルトさん! 緊急! 熱源接近!”』

 

「何――」

 

 その悔恨を噛み締める前に、後続の《ネクロレヴォル》が銃撃を行ったのだ。

 

 アルベルトはビームジャベリンを戦闘形態に変移させ、銃撃を防御する。

 

『何をするんだ! イレブン!』

 

『……お前がおかしくなったのは最近だと思っていたが、そうか。そういう事だったのか。まさか自分を殺した人間と、こうして出会えるとは思っても見ない』

 

『……何を言って……!』

 

『黙れ。その言葉は明瞭な裏切り行為だ。よってここで裁く』

 

 ビームライフルの銃口を突きつけた《ネクロレヴォル》に対し、別の機体がそれを制する。

 

『やめろ。仲間内でいがみ合っている場合か。今は、あの不明機を撃墜するのが先決だ』

 

『……トゥエルヴ……』

 

『だが……! ファイブは……我々を!』

 

『“今です、アルベルトさん。全滅させてしまいましょう”』

 

「お前……ッ! ちょっとは空気を読めねぇのかよ!」

 

『“空気なんて読んでいたら撃墜されるのはこっちですよ! せっかく自由になったのに、まだ450セコンドしか活動していません!”』

 

「ああ、うっせねぇなしかし……ッ!」

 

 機体を反転させ、アルベルトは一路、撤退機動に移っていた。

 

『待て! ヘッド! あんたは――!』

 

「悪いが、身内の喧嘩を吹っ掛けるほど、今は余裕なんてねぇんだ。悪いな、トキサダ……それにしたって、生きていたなんてよ……!」

 

『“推進装置は正常に作動中。このまま逃げ切れます”』

 

「逃げ切れ……か。それしかねぇよな、マジに……。オフィーリアとの距離は?」

 

『“概算中……いえ、待ってください。……オフィーリア及び、ブリギットは現在、追跡航行に移っているようです”』

 

「追跡? 何をだよ」

 

『“それが……オフィーリアの航路には……消えて行った《サードアルタイル》の針路が……”』

 

 まさか、とアルベルトは震撼していた。

 

「……嘘だろ……あの戦力で追うってのか! 何考えてんだ!」

 

『“わ、わたくしに当たらないでくださいよ……知りませんってば”』

 

 コックピット側面を思いっきり殴りつけた反動でマテリアが浮かび上がり、そのまま無重力空間のように漂う。

 

「っと……悪い。……だがあの戦力で《サードアルタイル》の追跡だと……。そんな事したって、敵は……」

 

『“待ってはくれません。恐らく《サードアルタイル》の出現に際し、手を打っている勢力があると考えるべきです。その勢力に呑まれるか、あるいは交戦となるか……”』

 

「最悪の選択肢が二つに一つって感じだな……。だが、今は飲み干すしかねぇ。マテリア、このまま《アルキュミアヴィラーゴ》は最大加速で追い上げる! ミラーヘッドオーダーの取得!」

 

『“既にオーダーを受諾しています”』

 

 マテリアが頭上に封筒を掲げ、それを開封する。

 

「よっしゃ! 今はそれでいい。ミラーヘッドの段階加速で追跡するぞ。いいな?」

 

『“駄目って言ったってするんでしょう?”』

 

「分かってるじゃねぇか。……オフィーリアを危険に晒すわけにはいかねぇ。このまま全速で追撃する!」

 

『“言っておきますけれど、わたくしのオリジナルはこんな事、絶対に推奨しないんですからね”』

 

「……それも、分かってんよ。今は拾われた命一つだ。この価値を問い質すまでもねぇだろ」

 

 白銀の騎士の威容を持つ《アルキュミアヴィラーゴ》が、黄昏の光を照り受けて未だ見えぬ宵闇へと疾走する。

 

 その足並みを止める事だけはしてはいけないはずだから。

 

 

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