機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第204話「歩く程度の速さで」

 

 追跡任務は、とシャルティアは口火を切っていた。

 

「依然、実行中です。それにしても……推進力がまるで既存のMSやMAとは異なりますね……。これがMF……月の聖獣だって言うんですか」

 

「ファムがこっちに居る以上、私達には追う義務がある。……とは言え、頭痛の種には違いないわね」

 

 ブリーフィングルームで渋面を突き合わせたのは、カトリナとシャルティア、それにレミアとダビデであった。

 

 レミアは頭痛薬を口に放りこんで水で流し込む。

 

「その……MF追撃に成功したとして、我々の主力装備では攻撃などまるで無意味かと推測されます。届くとすれば……」

 

「先の戦闘でも謎の現象を見せた……《ダーレッドガンダム》……ですよね」

 

 自分の発した言葉にダビデとレミアは揃って承服し切れない声を返す。

 

「……だがあの機体と、そしてエージェント、クラードには分からぬ事が多過ぎる。このまま追撃しても、MFのやる事だ。どの陣営もだんまりを決め込めば、最終的な勝利者はそのパイロットの所有者になるだろう」

 

「つまりはエンデュランス・フラクタルの上層部、か。……彼らにとっての意義は聖獣の名を借りての、敵対勢力の一掃、でしょうね」

 

「でもそれって……! 一方的な大虐殺になるんじゃ……!」

 

「この世で一方的でなかった事などない。それはミラーヘッドの形式が整ってからずっとそうであっただろう。第四種殲滅戦の延長線上にあるだけだ」

 

「それでも……放置は出来ない、というのがあなたの見立てよね? カトリナさん」

 

「……はい。だって、あれにはファムちゃんが乗っていたんです。もし……自分の乗って来た機体が人殺しを行ったのだとすれば、私なら平静じゃいられません……」

 

 胸元でぎゅっと拳を握り締めた自分に対し、意見を述べたのはシャルティアであった。

 

「……その、私も、シンジョウ先輩の意見には賛成です。ファムさんの事とか、……三年前のベアトリーチェの事、ログでしか知りませんけれどでも……背負わせちゃいけないような気がするんです」

 

「……しかし、MF相手にまともな戦力はなし。この数十年間、現行人類の叡智を拒んできた第三の聖獣への有効策なんて思い浮かぶわけがない。せめてMFを打倒出来る作戦でも用意出来れば違ってくるんだが……」

 

「聖獣討伐は、既にクラードが行っている。ノウハウは彼にしか分からない領域にある、としか言いようがないわね」

 

「……やはり、ここでもクラードか。言わせてもらうが、あなた方は少し、あのクラードに頼り過ぎじゃないか? 三年前の戦いを責めるわけではないが、全ての因果を彼に集約させたのは失策だ。お陰であのクラードにしか分からない領域が多過ぎる」

 

「……そうね。私達はクラード一人にずっと、背負わせてきた。その清算をしろって、言われているようなものなのかもね……。

 

 沈みかけたレミアの論調に、カトリナは、でも、と声を発する。

 

「……クラードさんはでも、彼岸に……あっち側に行っちゃわないって、言ってくださいました。一人で誰も知らない場所になんていかないって、一個だけ……っ! 約束してくれたんですっ。だから、まだあの人は、ここに居てくれる……」

 

「そうは言うが、クラードの持ち得る力は超人的だ。MS単位での空間跳躍に、波長生命体だと……? どういう事なのかはさっぱりだな……」

 

「それに関して、少し私のほうで下調べと言うか、調査は尽くしてみました。……さすがに本社のデータベースを参照は出来ませんけれど、オフィーリアの残存ログを辿って」

 

 おずおずと挙手をしたシャルティアにカトリナは瞠目していた。

 

 レミアとダビデも同じようで、まさかシャルティアが率先して調べているとは思いも寄らなかったのだろう。

 

「……あなたが?」

 

「結果はどうだったんだ?」

 

「それが……やはり“波長生命体”なるログは公式には存在しませんでした。ですが、月面、テスタメントベースにて、ヴィルヘルム先生とサルトル技術顧問と、それに……アルベルトさん、シンジョウ先輩の証言が残っていました。これは極秘事項に抵触するのですが、月面で待っていたのは、レヴォルの意志に酷似した情報集積体であったと。自らをエーリッヒ・シュヴァインシュタイガーと名乗る、そういう存在であったと言う過去の調書が」

 

「それ、エンデュランス・フラクタルに露見したらオフィーリアに追撃部隊を送って来るわよ。枝は切ったんでしょうね?」

 

「……一応、私なりの方法で、ですが……」

 

 委縮したシャルティアにカトリナは問い質す。

 

「それで? 何か分かったの?」

 

「あ、はい……。波長生命体なる固有名詞はこれ以降には出ていません。もちろん、これ以前にも。ですがエーリッヒ・シュヴァインシュタイガーと言う名称を探ってみたところ……彼の存在は歴史の影に時折語られる人物として合致しました」

 

「……そのエーリッヒなる何某が、波長生命体の手掛かりだと?」

 

「確証はありませんが、手探りのまま探し回るよりかはマシなはずです。このエーリッヒなる人物、語られるのはどれもこれも、月のダレトに関しての論文関係なのですが……」

 

 濁したシャルティアに、カトリナは疑問を呈する。

 

「どうしたの? 何が……」

 

「いえ、彼の偉業、その歴史的な歩み……それらは全て、偽書と呼ばれる……偽りの歴史です」

 

「偽りの……」

 

 絶句した自分達を相手に、シャルティアは情報をブリーフィングルームに投射する。

 

「はい。彼の著作はどれもこれも、嘘ばかりで並べ立てられた理論や、思考迷宮ばかりであり、この世界においてまともに取り上げられたものは一つもありません」

 

「まともな論文のない学者……だとでも言うのか」

 

「それも奇妙なんです。彼の生没年は意図的に隠されており、いつ生まれていつ亡くなったのかさえも不明なままなんです。その生涯を隠蔽されたまま過ごした、稀有な例と言ってもいいでしょう」

 

「……意図的に隠蔽された、偉人……」

 

 そこでカトリナはエーリッヒなる人物の名をどこかで聞いたような気がしたが、簡単には思い出せなかった。

 

「……分からんな。テスタメントベースとやらで、では出てきたのはその偽りの偉人だとでも言うのか」

 

「サルトル技術顧問の証言と、ヴィルヘルム先生の証言を鑑みるに、嘘偽りの情報にしてはあまりにも現実的だったというものがあります。これは私が二人に直接聞いた実感です。でも……ヴィルヘルム先生はまだ、何か隠されているような……そんな気はしましたけれど」

 

 そう言えば、テスタメントベースにてヴィルヘルムだけが何かを知っている風であった。

 

 全員が困惑するしかなかったあの場で、彼はエーリッヒの語る真実に肉薄していたはずなのだ。

 

「……ヴィルヘルム先生は何かを知っている……」

 

「でも教えてくれなかったんです。多分、語るつもりもないのでしょうけれど」

 

 しゅんとするシャルティアに、レミアは応じる。

 

「いいえ、これでも立派な一歩よ。よくやってくれたわ、シャルティア委任担当官」

 

「い、いえ、その……ある意味じゃ贖罪って言うか、レミア艦長達の事、私、信用してませんでしたから。歩み寄りもしようと思っていませんでしたし、そんななのに自分だけ取り乱したって、何にもならないって……それだけは分かったので、出来る事を、と思いまして……」

 

「……なるほど。カトリナさん。いい後輩を持ったわね」

 

 フッと微笑みを浮かべたレミアに、カトリナは責任を痛感する。

 

 元々、シャルティアはまだ十七歳。

 

 ハイスクールの制服が似合う身分なのに、彼女にここまで無理をさせたのは自分の至らなさでもある。

 

「……シャルティアさん。ごめんなさい、私がその……気が回らないばっかりに」

 

「いえ、シンジョウ先輩は立派な方だと思っています。私、素直に尊敬してるんですから、そんな風に卑下しないでください」

 

 それもこれも、今の自分には過ぎたる称賛か。

 

 カトリナはブリーフィングルームのモニターに浮かび上がった《サードアルタイル》の針路を見据えていた。

 

「……《サードアルタイル》は間もなく地上に到達します。それがどの陣営に与する国家であれ、あれは蹂躙するでしょう」

 

「それを許すわけにはいかない、か。カトリナさん、あなたも無茶を言うようになったわね」

 

「……はい。無茶でも実現しないと、だってそれは霧散しちゃいますから。願うのなら、少しくらいは傲慢なほうがいいって……」

 

「しかし先にも述べた通り、《ダーレッドガンダム》の性能に振り回されては敵わない。後ろからいつでも撃てる位置に居たとしても、あれを抑え切れる自信はないぞ」

 

「……大丈夫です。クラードさんは、約束を破ったりしません。……信じてとは言い切れませんけれど、少しだけ猶予をください。もし……クラードさんが間違えてしまった時には、同じように咎を受ける覚悟なのが委任担当官の役目のはずです」

 

「……カトリナ・シンジョウ……そこまで……」

 

 息を呑んだダビデにレミアは言い置く。

 

「……そうね、結局のところ出たとこ勝負なのは事実なのだし。それに、私達はクラードをこれまで信用してきた。彼が波長生命体を名乗ろうと、その血潮が人の赤ではなかろうとも、それだけで彼を信じない理由にはならない。だって、私達は同じ……彼に託したトリガーを、まだ諦めたわけじゃないんだもの」

 

 自分とレミアにしか分からぬ言葉に、少しだけ救われた気分を味わったカトリナは、針路上で大陸に差し掛かった《サードアルタイル》の座標を睨んでいた。

 

「……第三の聖獣を止めます。止めないといけないはずです」

 

「……言っても聞かない奴の言葉振りだ、それは」

 

「それでも、私達なりの叛逆を講じるしかないでしょう」

 

 ダビデは嘆息をついた後に、その身を翻す。

 

「……パイロットは格納デッキに待機しておいたほうがいい。それと、騎屍兵に関してだが……」

 

「それに関してはユキノさんが一任してくださると……私は聞いています」

 

 シャルティアの尻すぼみの声は騎屍兵に対しての恐れもあるのだろう。

 

 だが自分達は、そのような及び腰では勝てるものも勝てなくなってくる。

 

「……了解したわ。オフィーリア管制室にて、私は陣頭指揮を執ります。ブリギットのほうもそちらの指揮系統に任せるわ、ダリンズ中尉」

 

「……如何にトライアウトジェネシスとは言え、聖獣と会敵したなんてケースはない。死にに行けと言っているようなものだ」

 

「そう……あなたも辛いわね」

 

「そうだとしても、私は成り損ないのDDに過ぎん。あえてでも命令するとも」

 

 ブリーフィングルームを出る際、不意にシャルティアに呼び止められる。

 

「あの……シンジョウ先輩」

 

「シャルティアさん……どうしたの?」

 

「いえ、その……私、すいませんでした! シンジョウ先輩の指示を待たずに、勝手な調べを尽くした事……命令違反でしょうし……」

 

「そんな! シャルティアさんが調べてくれたから、今があるんだから。むしろ、ありがたいくらいだろうし。それと……ありがとう。クラードさんを、信じてくれて」

 

「……私が信じたいのは、この艦を護ると言う意志を最後まで貫き通した……どこかのだらしがない人の……そんな言葉だけですから」

 

 そう言って気丈に泣き笑いをするシャルティアは本来、誰かに頼っても縋ってもいい身分のはずだ。

 

 そんな彼女が前に進もうとしているのに、自分だけ後ろを向いて立ち止まっているわけにはいかない。

 

「……ありがとう」

 

「いいえ、私のほうこそ」

 

 その言葉を潮にしてお互いの戦場へ。お互いが輝けるだけの場所へと赴くのみだ。

 

 格納デッキでは今も忙しく作業が続行されていたが、クラードの搭乗する《ダーレッドガンダム》には、誰ともなく遠慮をしているようであった。

 

 カトリナはタラップを駆け下り、閉ざされたレヴォルタイプの鋭い双眸を持つコックピットの前で深呼吸する。

 

 クラードは今もきっと、苦しみの只中にいる。

 

 そんな彼を救うだけの言葉なんて自分は吐けないのかもしれない。

 

 だが、今は。

 

 今だけは、無遠慮で不格好でも、それでもいい。

 

 前に進めるだけの気概があるのなら、クラードを鼓舞するくらいわけないはずだ。

 

 頬を張り、よし、と気を張り詰めたところで不意にコックピットが開いていた。

 

「……何やってるの、あんた」

 

「く、クラードさん? ……えっとですねぇー……気合の籠った言葉でも言おうと思ったんですけれど……見てました?」

 

「目の前で何かやられたんじゃ、気にかかって集中も出来ない」

 

「うぅー……言われちゃってるなぁ……」

 

「それで? 用があるんでしょ」

 

「あ、そうです! そうなんです!」

 

「……うるさいよ」

 

「あっ、すいません……。その! でも分かったんですっ! 私、やっぱり諦められませんっ! 世界がどうこうなっちゃうのが私達の責任があるって言うんなら、一手でも間違いだけを正すために、行動したっていいはずなんですっ!」

 

「それは分かっている。それに……どっちにしたって奴は敵だ。アルベルトの言う、弔い合戦って言うのは苦手だけれどさ。それでも少しばかりは、戦う理由だってある。なら、俺は最後の一滴になるまで戦い尽くす。それだけが、俺の……」

 

 思い詰めたクラードの相貌へと、カトリナは自ずと手を伸ばしていた。

 

 その頬をさする。

 

 どうして、こうなるまで彼は独りで切り詰めてしまったのだろう。

 

 どうして、ここに至るまで自分は彼に寄り添えなかったのだろう。

 

 自分は――もっとクラードと共に戦う覚悟を決めるべきであったのだ。

 

「……何」

 

「いえ、その……私は、あなたの委任担当官です。だから、最後の最後まで、付き従う義務があります」

 

「それは分かっているけれど、この手、何なの」

 

「それは……クラードさんは、その、波長生命体とかじゃないですよ。きちっとした、人間の温かさがあります」

 

「……あんた、相変わらずの感情論だな。俺の血の色を見ただろうに」

 

「それでもっ……私は信じたい。クラードさんは私の知る時からずっと、変わってなんていないって事を。だってあなたは、自分を切り売りするように戦うけれど、それでも私達のために、いつだって戦い抜いてくれた。その真意だけは嘘じゃないはずなんです」

 

「……人であろうと思った事なんてない、冷たいトリガーであってもか?」

 

 その問いかけは確かに狡い。逃げ出せればどれほど楽か。

 

 だが逃げてはいけない。

 

 楽に――転がってはいけないのだ。

 

「……あなたが私のトリガーだとしても、だったらなおの事、私は手離しちゃいけないんです。あなたを扱う……責任があると言うのなら」

 

「……責任、か。そんな言葉で雁字搦めになった連中は大勢見てきたクチさ」

 

「でも……っ! 私の責任は違いますっ! クラードさん、あなたが絶対に、勝手に消えちゃったりしないように……! もう一度だけ、約束してくださいっ。必ず帰って来るって……」

 

「約束は難しい。相手は聖獣だ。俺でも二度も三度も勝てるとは思っていない」

 

「そ、それでも……っ」

 

「それでも、なのか? あんたは、相変わらず変わっているな。俺みたいな人間モドキ、投げたって何にも罪悪感なんてないだろうに」

 

「い、いえ、そんな事……」

 

「だが、約束は難しいが、誓う事なら出来る」

 

 クラードの手は自分の手を握り返し、小指を絡めていた。

 

「こうすれば、約束とは別の誓いなら、果たそう。俺はカトリナ・シンジョウ、あんたの扱ったトリガーであり、そしてエージェントだ。約束は別だが、誓いの一つは達成するように努力する」

 

「……もうっ。クラードさん、知ってました? 約束よりも誓いのほうが重いんですよっ」

 

「そうなのか。勉強不足だった。これから覚えるよ」

 

 少しむくれてみせると、クラードはその手を離す。

 

「なら、重いだけの誓いを、とっとと果たした後に、約束だろう。そのほうが随分と楽なはずだ」

 

 手が離れる。

 

 距離が空く。

 

 もう永劫に、彼と果たせるだけの約束なんてないのではないかという危惧が、焦燥が胸を掻き毟る。

 

 そんな痛みを抱えるのが苦痛で、カトリナは声を張っていた。

 

「クラードさんっ! その誓いっ、私の分なんですからねーっ!」

 

 サムズアップを最後にクラードの姿は《ダーレッドガンダム》のコックピットハッチに消えて行く。

 

 それでも、自分に納得のいく答えを果たせてよかった。

 

 誓い一つ、胸に抱けたのなら、それは明日への約束への糧になる。

 

「……ありがとう、なんて、絶対にまだ言いませんから。だって、まだ誓いがあるんです。その後でもいいはずでしょう? ありがとうって、言うのは……」

 

 MS格納デッキで忙しく声が行き渡る。

 

『MS各隊、発進準備に移ってください。これより、第三の聖獣、《サードアルタイル》の追撃任務に当たってもらいます。各隊、発進準備』

 

 オペレーションの声が響き渡る中で、カトリナは指先で目尻に浮かんだ涙を拭っていると、不意に人影と行き会う。

 

「……ユキノさん……」

 

「カトリナさん? ……ああ、クラードさんに」

 

 どこか納得した様子の彼女は泣き腫らした目を隠そうとしたが、その微笑みは今にも崩れそうであった。

 

「……その……アルベルトさんは……」

 

「ヘッドがどうであろうと、今は私がRM第三小隊の小隊長です。……あーあ! 嫌だ嫌だ! 偉くなんてなるつもりはなかったんだけれどなぁ!」

 

 思いの丈をぶちまけたユキノに面食らっていると、彼女はふふっと悪戯っぽく微笑む。

 

「……なぁーんて。私は、戦います。目の前で憧れの人を失ったんです。なら、戦えますとも」

 

「……でもそれは、辛い事を強いているのと違わない道でしょう」

 

「たとえ茨道であろうとも、私は行くんです。だってこれは、ヘッドだけじゃない。カトリナさんやクラードさんが作ってくれた道なんですから。誇らないと損じゃないですか」

 

 ユキノは何度も何度も、大切なものを失った上で成り立つ道を歩んでいる。

 

 彼女の痛みの一端が分からないわけではないのに、それでも愚鈍を演じる事でしか、自分はユキノを送り出せない。

 

「……ユキノさん。《サードアルタイル》のパイロットのレコード……グゥエルさんの声だって聞きました」

 

「……私も馬鹿ですよねぇ。グゥエルが生きているわけがないのに。それに、生きていたところで、私は否定されちゃったんです。なら、もう仕方がないって言うのに」

 

 何度も仲間の生き死にに関わるのは誰だって慣れていないはずだ。

 

 それが近しい者であったのならばなおの事。

 

「……私は、委任担当官としての言葉でしか、あなた達を送り出せません。だから、その……弱くっても、その……」

 

 こちらが返事に窮しているのを悟ってか、ユキノは柔らかく微笑んでいた。

 

「辛気臭いですよ、カトリナさん。いつだって、あなたは無茶で、やる事成す事なんだって、出たとこ勝負の身体でぶつかっていくタイプでしょう? だったなら、私は託された側だと思うんです。前線で敵とかち合うのが私の役目ですから。ヘッド風に言えば、喧嘩するのは私達なんです」

 

「……でも、その喧嘩を遠くで見守るだけなんて……」

 

「遠くで、じゃないでしょう? クラードさんに啖呵切ったんです。それなら、あなたの戦場だってもう、一蓮托生のはずですし」

 

 あの時、トリガーとしての意味を見出したクラードに立ち止まって欲しかった。

 

 もう一度だけ、前のような関係に戻りたかった。

 

 だがそれは傲慢と言うものだ。

 

 誰だって一秒前に戻る事なんて出来ない。

 

 求めるのならば進み続ける事だけが、後退していない事への証明だ。

 

「……私の戦場も、あなた達と一緒でありたいと、その……思っています」

 

「なら、言葉は少なめでいいはずです」

 

 帰ってきて欲しいのなら、数多の言葉に埋もれる事のない、ただ純粋な背中を押す言葉だけでいい。

 

「……行ってらっしゃい」

 

「行ってきます。でもまぁ、こういうのも悪くないなって話ですし」

 

 挙手敬礼をしてみせたユキノは迷いを振り切ったように映ったが、それでも彼女の中では渦巻いているのだろう。

 

 グゥエルらしき人物の存在。

 

 アルベルトの死。

 

 それにイレギュラーばかり引き起こすクラードと《ダーレッドガンダム》。

 

 後ろを任せろとは言い難い戦局ばかりだが、それでも前進する事だけが、生きているという事実になる。

 

 証明事項は後々探せばいい。

 

 カトリナは格納デッキで発進準備にかかるMS部隊を視野に入れていた。

 

「……頑張ってください、皆さん……ううん、私も、頑張らないとっ……!」

 

 その一言で足を進められた。

 

 

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