機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第213話「扉の番人よ」

 

『アステロイドジェネレーターの臨界光を確認! ……クラード、行けるわね?』

 

 オフィーリアがモニターしたのは一機の《ネクロレヴォル》が《ラクリモサ》相手に特攻を仕掛けた一部始終であった。

 

「……騎屍兵が、特攻だと?」

 

『クラード。今までの常識じゃ考えられない事が起こっているわ。でも、間違えないで。あなたの職務は……』

 

「ああ、レミア。分かっている。無事に、帰還する事だ。聖獣相手ならばまずそれを優先する」

 

『……頼んだわよ。カトリナさんには言っておいたから、前みたいな無茶はしないとは思うけれど』

 

 クラードはインジケーターを調整しながら、カタパルトデッキへと移送される《ダーレッドガンダム》を感じ取っていた。

 

 先の戦闘で一時的とは言え、ダレトを開いた。

 

 それは敵味方に大きな脅威を与えているはずだ。

 

「……《ダーレッドガンダム》。その名の通り、こいつは扉の番人だとでも言うのか」

 

『レヴォル・インターセプト・リーディング、コミュニケートモードを30セコンド開始。“どうした? そこまで不安か?”』

 

「……弱気にもなる。俺だってダレトの力を使いこなせるとは思っていない」

 

『“意見の相違だな。力だけを手に入れてこの世界に舞い戻って来たお前ならば、力の振るい方だけには迷わないと思っていたが”』

 

「そうか……俺は、力だけを求めて、この世界に……。いや、きっとそれだけでは、ないのだろう。それだけじゃまかり通らない事が、この世には多過ぎる」

 

『“エージェントなのだろう、お前は”』

 

「それと同時に、俺は何かを……感じ取っているのか。俺は……幸せなのか……?」

 

『“要領を得ない質問だ。それを答えて欲しいのか?”』

 

「……いや、答えればこれは陳腐に落ちる。俺自身が、探し出すための問答なのだろうさ」

 

『カタパルトボルテージ上昇、《ダーレッドガンダム》、発進どうぞ。……クラード、片道切符じゃカトリナちゃんがまた無茶するんだから。あんたも、そろそろ往復するって事を覚えなさい』

 

「頭の片隅には留めておこう」

 

『……本当、可愛げのないったら……。一つ、報告。ファムの容体が安定しないわ。多分だけれど、あの聖獣、《サードアルタイル》のダメージと同期している可能性が高い』

 

「聖獣を救えと言うのか。また、無理難題だな」

 

『聖獣じゃないわ。あんたには――ファムを救って欲しいのよ』

 

 それがただ一筋の願いだとでも言うように、バーミットが口にする。

 

「バーミット、あんたも変わったな。誰かを救えなんて、口が裂けても言わなかった人間だろうに」

 

『それでも、よ。あんただけがファムを救える。それはハッキリしているでしょうに』

 

「俺だけが、か。……そこまで自惚れたつもりはないよ」

 

『馬鹿。自惚れたって文句言わないって太鼓判押してんのよ。はい、お喋りはここまで! 《ダーレッドガンダム》、発進どうぞ!』

 

「了解した。……自惚れても文句は言わない、か。それはどういう立場なんだろうな。……《ダーレッドガンダム》、エージェント、クラード。迎撃空域に先行する!」

 

 青い電流を波打たせて《ダーレッドガンダム》が出撃機動に入る。

 

 後方から隊列に組み込まれていくのはユキノと《ネクロレヴォル》、それに後方支援のダビデであった。

 

『……聖獣討伐作戦って言ったって、前回のようにイレギュラーが出ないとも限らない。各機、それぞれの持ち場を守れ』

 

 ダビデの声にRM第三小隊から了解の復誦が返る。

 

『ダリンズ中尉の言う通り、ここからは戦い抜く事でのみ、生きている証明を示せる空域なんだから。RM第三小隊、気を抜かないように!』

 

 応、と声が相乗するのを回線越しに聞いてから、クラードは独りごちる。

 

「……ユキノもらしくなったものだな」

 

 この感傷でさえも、自分のような独断専行型の人間からしてみればらしくないのかもしれないが。

 

 クラードは拡大化された視野に、横たわる《サードアルタイル》を巡って合い争う陣営を目の当たりにしていた。

 

「……騎屍兵団と、戦っているのは、《ラクリモサ》……王族親衛隊、か?」

 

『クラードさん、騎屍兵団と王族親衛隊が争う理由って思い当たりますか?』

 

「……騎屍兵団はピアーナの管轄と考えられる。ともすれば、地球圏の思惑とエンデュランス・フラクタルの思惑の対立か」

 

『じゃあ、ピアーナさん達が味方になってくれるとも?』

 

『そこまで楽観視はすべきではないだろうな。それに、モルガンがこれまで仕掛けてきた事実は変わらない。大方、利害の対立、と言った具合だろう』

 

 ダビデの見方は厳しいが、一番この状況に合致している。

 

 騎屍兵団が友軍になれば心強い以上に、後ろから撃たれまいか、という懸念が勝る。

 

 それに、とクラードは隊列に加わっている《ネクロレヴォル》を意識していた。

 

「……ゴースト、スリー。どう動くのかまるで分からない駒を扱うって言うのは、思ったよりも気を遣うはずだ」

 

 問題なのは、離反者が出ないとも限らないという想定外。

 

 そうなってしまえば自分達は内側から総崩れとなる。

 

《ダーレッドガンダム》に装備させたビームマグナムの照準を見定め、クラードは騎屍兵団と王族親衛隊、どちらに初撃を与えるべきか悩んだのはほんの一瞬であった。

 

 何故ならば、その時には攻撃範囲を延ばしたミラーヘッドビットが隊列を突き崩しにかかっていたからだ。

 

「ミラーヘッドビット……! 《ラクリモサ》、ジオ・クランスコール……!」

 

 因縁の名を紡ぎ上げた自分に対し、《ラクリモサ》はほぼ中破の状態に映っていた。

 

 それでも、自分達以外の騎屍兵団と、漆黒の痩躯の機体を相手取っても、まだ余裕があるかのように見える。

 

『……ねぇ、クラードさん。横たわっている《サードアルタイル》……あれでもまだ……脅威だって言うの……』

 

 ユキノの疑問もさもありなん。

 

《サードアルタイル》は腹腔を抉られた形のまま、直立する事さえも出来ないようで、大陸に身を横たえている。

 

 どう考えても無防備であるのに、王族親衛隊は砲撃の照準を向けたまま、照準を外そうとしない。

 

「……俺達の知らない聖獣の秘密があるのかもしれない。あるいは、それだけ事態を重く見ているという事か」

 

 ビームマグナムを速射モードに設定させ、出力値を絞った疑似パラドクスフィールド砲撃がミラーヘッドビットを打ち消していく。

 

「……破壊するのではなく、この世から打ち消す砲撃……」

 

 ティーチ達が頭脳を突き合わせて造り上げた、この世に在らざるはずの兵器であろう。

 

 だがこれまで建造されてきたどの銃撃兵装よりも馴染むのは、それだけ《ダーレッドガンダム》と言う未知のブラックボックスが解析された証かもしれない。

 

『エージェント、クラード。《ラクリモサ》をまず潰す。それで異存はないな?』

 

 ダビデの詰問にクラードは一拍の逡巡を差し挟んでいた。

 

 情況的には《ラクリモサ》をまず破壊し、それから王族親衛隊を相手取ったほうが勝率は高そうに思われる。

 

 しかし、相手はこれまで不可能を可能にしてきた不屈の万華鏡。

 

 加えて、これまで《サードアルタイル》と騎屍兵団を相手取っても、まだ余裕があるかのように振る舞えるだけの胆力の持ち主だ。

 

「……戦えばただでは済まないだろうな」

 

『では騎屍兵団を?』

 

「いや、《ラクリモサ》が出ているんだ。なら、俺は戦わなければいけないだろう。……あいつには借りがある」

 

 月軌道決戦時の借りと、重力の井戸の底へと堕ちてきた際に、二度も敗退している。

 

「三度も負けるのは……エージェントとして許されない」

 

 砲口を向けた《ダーレッドガンダム》に、《ラクリモサ》はミラーヘッドビットに円環を描かせて自在に操り、そのまま騎屍兵団の《ネクロレヴォル》を翻弄する。

 

 漆黒の機体が立ちはだかるかのように太刀を振り翳していたが、その機体をすり抜け、ミラーヘッドビットは自分達を標的にしていた。

 

「……ここで潰すべきは誰なのか、分かっていないわけではないだろう……!」

 

『久方ぶりだな。エージェント、クラード』

 

「直通回線……!」

 

 うろたえたクラードへと、万華鏡の鋼鉄に磨き上げた声音が響き渡る。

 

『あの時、自分はお前を二度殺したつもりだった。三度死ぬのは墓標に相応しくないだろう。よって、ここでの死は数えられない』

 

 ミラーヘッドビットが包囲陣を敷き、磁石のように一斉に動き出す。

 

 それらの軌道は、星座の瞬きにも似て――繋がった瞬間には、絶対の死地の光条が戦場を射抜いている。

 

 挙動しろと、命令する前にRM第三小隊が散開機動に移ったのは、日ごろの訓練の賜物か、それともアルベルトの意志をここで無駄にしないという意地か。

 

 いずれにせよ、最も足枷になるであろう陣営を狙っての、自分の意識を分散させてからの本懐――格闘兵装を備えたビットが回り込んで《ダーレッドガンダム》を撃ち抜こうとしたのを瞬間的に察知する。

 

 直感の部分で、額で弾けた思惟の飛沫がライドマトリクサーの電磁の世界で伝わっていた。

 

「……今の、は……」

 

 感覚ではない。

 

 かと言って、第六感と言う戦場に相応しいものでもない。

 

 何物か分からぬものを振るって、自分は今、《ラクリモサ》の必殺の一撃を受け止めたのか。

 

 その感慨に耽るような間はなく、続けざまにミラーヘッドビットが光条を絞っていく。

 

 振り絞られた光の連鎖は全方位からの死神の息吹だ。

 

 クラードは《ダーレッドガンダム》の保持する小太刀を逆手に握らせ、ビームを偏向させていた。

 

 それは致命的な一打になり得る射撃。

 

 無論、致命打を防がれれば如何に相手が万華鏡とは言え隙が出るはず。

 

 そう考えての肉薄。

 

 ビームマグナムを突き出し、小太刀を本懐に携えて必殺の間合いへと踏み込む。

 

《ラクリモサ》は半壊しているも同義だ。

 

 片側のバインダーは根元から剥がれ落ち、ミラーヘッドビットも本来の数よりかは随分と減っているように映る。

 

 それでも、小隊編成を圧倒し、騎屍兵団を足止めするだけの力を有する。

 

 それだけの力を振るう事をこの世において許された――怪物。

 

「だが、怪物を殺すのは……同じく怪物であるはずだ」

 

 バインダーの陰に隠されていたミラーヘッドビットの三連砲撃が突き出したビームマグナムを爆ぜさせる。 

 

 それさえも計算のうち。

 

 爆発の余波で相手は一瞬とは言え眩惑されているはず。

 

 小太刀を背中で大太刀と連結させ、双剣を下段より振るい上げる。

 

 この一閃で、全てが決するという予感。

 

 その感覚に、ライドマトリクサーの身でありながらも、身震いを抑えられない。

 

 この牙が、この刃が――万華鏡に、届く。

 

 斜に振るった一撃は《ラクリモサ》を引き裂き、全ての因果を終わらせるはずであったのだが――。

 

『甘いな。エージェント、クラード』

 

《ラクリモサ》の腹腔に収められていたのは無数の節足である。

 

 今の今まで、《ラクリモサ》はバインダーに有した支持アームしか使ってこなかった。

 

 その読みの甘さが、まさかの隠し腕の存在を自分の意識から消し去っていた。

 

 節足がそれぞれビーム刃を有し、必殺のはずの一閃は脆くも防がれる。

 

「それでも……もう一撃……!」

 

 振りかぶった刃を唐竹割りの軌道で叩き込めば。

 

 そう判じた神経は、直後に背筋へと冷水を浴びせかけられたかのような感覚に上塗りされる。

 

 肌を粟立たせる戦闘神経が、咄嗟の後退を選んでいた。

 

『戦闘における瞬時の判断は健在のようだ。エージェント、クラード。獣に堕ちたわけではないらしい』

 

 三対の節足は、その内側に複合武装を隠し持っていた。

 

 もし、踏み込んでいれば、至近距離のビーム砲撃にコックピットを焼かれていただろう。

 

「……そこまでの装備、厳重を通り越して弱腰に映るぞ。ジオ・クランスコール」

 

『戦場を渡り歩くのだ。弱腰にもなる』

 

 節足が再び格納される。

 

 相手の射程がこれで割れたわけではないだろう。

 

 むしろ、これまでの戦闘で一度として使ってこなかった武装をここで開示されたせいで、頭の中は懐疑心でいっぱいになっている。

 

 ――次はどの手で来るのだ、その次は? と。

 

 どこまで読んでも、ジオにはその先があるような気がして、致命打に踏み込めない。

 

「……まさに万華鏡という事か……渾名は伊達ではない……」

 

『エージェント、クラード。自分はこれでも疲弊していてね。出来れば戦闘は避けたい。それに、今は大人しいが、数秒後に《サードアルタイル》が起き出さないとも限らない。極力、能率を重視して、聖獣討伐は終わらせたいのが本音に違いない』

 

「……その言を真に受けて、俺達が撤退するとでも思っているのか」

 

『そうであって欲しい、という願望だ』

 

「そうであって欲しい……か。現実は大概、その逆を行くものだ」

 

 一振りの剣を大太刀と小太刀に分け、両腕で構える。

 

 現状の《ラクリモサ》は、素人目ならば死に体に映るだろう。

 

 数でも優位を保っているのはこちらなのだと。

 

 しかし、先の攻撃で、RM第三小隊は思い知ったはずだ。

 

 ――万華鏡、ジオ・クランスコールは相手の息の根を止めるためならば手段を選ばない。

 

 現に以前までの自分ならば足を止めて撃ち抜かれていただろう。その上、不明瞭な感覚が先行しなければ、隠し腕も見抜けなかった。

 

 詰みに入っているのは相手のようで、実のところはこちらなのだ。

 

 数だけ優勢を保っていても、RM第三小隊のほとんどは《ラクリモサ》相手に立ち向かうほどの命知らずではないだろう。

 

 ユキノも命令を下し損ねている。

 

 それだけ時間はロスする。

 

 そして、時間が消費されればされるほどに、《サードアルタイル》が復活するという可能性も高まってくる。

 

 イレギュラーを排したいのならば、いち早く《ラクリモサ》を迎撃すべきだが、敵はそれだけに留まるだろうか、とクラードは展開する王族親衛隊へと目線を振っていた。

 

 王族親衛隊の《パラティヌス》がこちらに砲撃網を向ければ、小隊編成は容易く崩れるであろう。

 

 それだけではない。

 

 騎屍兵団と、謎の漆黒の機体。

 

 この二つの異常事態を覆せなければ最終的な勝利者は相手に譲る事になる。

 

「……考えろ、考えるんだ……」

 

 汗が滴る。

 

 喉奥がやけに渇く。

 

 普段ならば自分だけ戦えばいい、勝てればいいという局面がもう通り過ぎていた。

 

 RM第三小隊を一人も死なせず、その上で騎屍兵団との衝突もなく、《ラクリモサ》を撃墜出来るのか――その命題は掲げるまでもなく否であろう。

 

 敵は自分がレヴォルに乗っていようが、《ダーレッドガンダム》に搭乗していようが関係がない。

 

 本来の意味で、関係がないのだ。

 

 どう動けば、どう戦えば、どう斬り込めば――誰が優位になり、誰が不利になるのかを直感と経験から知っている、赤き死徒――万華鏡の、《ラクリモサ》。

 

「どうやって……俺はどうすれば、こいつに勝てる……? 教えてくれ、《レヴォル》。お前なら、どう切り抜けたって言うんだ……」

 

『戦士としての素質を機械に問うか。それは軟弱者と呼ぶ』

 

《ラクリモサ》が次の挙動を仕掛ける。

 

 それは戦闘の息吹。

 

 確実に啄まれるのは自分の側だと、明瞭な理解が脳裏を掠める。

 

 その刹那に、身を起こした《サードアルタイル》が白い光芒を煌めかせていた。

 

「《サードアルタイル》……」

 

『またか。手間をかけさせる、貴君も』

 

 ミラーヘッドビットが一斉稼働し、《サードアルタイル》の弱点部位へと射撃網を迸らせていた。

 

 そのビームの網が《サードアルタイル》の機体を押し潰さんとするも、第三の聖獣は単眼に虹色の血潮を滾らせ、咆哮する。

 

 獣の雄叫びが大地を割り、地脈から溢れ出た虹の輝きを吸引して翼を押し広げていた。

 

『大佐……! 《サードアルタイル》が、これは、進化……?』

 

『見積もりが甘かったのはこちらのようだな。我々が騎屍兵にかけずらっている間に街並みのエネルギーゲインを吸い取り、大地を這うばかりの獣は翼竜と化すか』

 

『クラードさん! 《サードアルタイル》が……これは、飛びます……!』

 

「前に出ては! ユキノ!」

 

 ユキノの《マギアハーモニクス》が《ダーレッドガンダム》よりも先行する。

 

 それを止められなかった己の迂闊さを呪う前に、《サードアルタイル》は光背を帯びて拡散させる。

 

『……ユキノ、それにクラードさんも。オレにもカッコつけさせてくださいよ……』

 

 まさか、とクラードは瞠目していた。

 

 ユキノは接触回線越しに絶句する。

 

『……グゥエル』

 

「グゥエル・レーシング。本当に、生きていたのか……」

 

『勝手に死んで墓の下ってのは、性に合わないんですよ。それに……あの時、オレが気張れなかったから、ユキノが苦しんでいるんじゃ、男じゃないって言うんですよ……!』

 

《サードアルタイル》が拡散磁場を放出し、王族親衛隊を絡め取る。

 

 それは先ほどまでの戦場の逆襲であった。

 

『大佐……! 《パラティヌス》の出力では、《サードアルタイル》の足を止められません……!』

 

『うろたえは死を招く。総員、一時後退。落ち着いて照準し、ここで第三の聖獣を射殺せ。我が方の《パラティヌス》の性能ならば出来る』

 

『――させられないな!』

 

 急降下で割り込んできた漆黒の機体の辻風が《パラティヌス》を散らしていく。

 

 編隊を組み直そうとした相手へと、《ゴスペル》の機体照合がかけられた流星が幾何学の軌道を描いて突き刺さっていた。

 

『クラード君は私と踊るのだよ! そのための露払いならば喜んで引き受けよう!』

 

《パラティヌス》を格闘兵装で組み伏せ、正確無比な砲撃を刃で両断する。

 

『ビームを斬るって言うのは、それはもう怪物と言う!』

 

『怪物結構! 私も人間の身のままでは、踊るに値しない!』

 

 肘打ちで《パラティヌス》の駆動系をダウンさせた《ゴスペル》が次の標的を狙い澄まそうとして、《ネクロレヴォル》のうち一機が《ラクリモサ》を照準しているのをクラードは視界の隅で発見する。

 

『許さない……トゥエルヴには……彼女には帰れるだけの場所があった! 死者の意地なだけで死んでいい人間ではなかった! それを貴様! ジオ・クランスコール!』

 

 だがその照準軌道はあまりに拙く読まれている。

 

《ラクリモサ》が背を向けた一瞬を狙ったつもりなのだろうが、それは相手の思惑通りだ。

 

 疾走したミラーヘッドビットが《ネクロレヴォル》を包囲し、矢継ぎ早に両腕、両足を削いでいく。

 

 挙動に迷いはない。

 

 逡巡のない殺意は、鏡のように反射する。

 

 それこそが、万華鏡の真骨頂。

 

 ミラーヘッドビットがコックピットの位置する頭部へと直撃し、《ネクロレヴォル》が糸の切れた人形のように落下しかけるのを、隊列を崩してでも一機の《ネクロレヴォル》が腕を引っ掴んでいた。

 

『ファイブ! お前はまだ……死んでは……!』

 

『統率出来ない軍隊は軍隊とは呼ばんよ。貴君らでは自分に勝つ事は出来ない。そして、《サードアルタイル》のパイロット。どのようなつもりかは知らないが、逃げ切れると思わないほうがいい。ここは絶対の死地である』

 

『死地なんて……通り過ぎてきた頃合いだ!』

 

 パーティクルビットを構築しようとするが、平時の構築具合に比すればまるで児戯。

 

 その攻撃網も、防衛網も、どれもこれも弱く脆く、そして万華鏡の前では無意味。

 

 ミラーヘッドビットが単騎で虹の皮膜を突破し、《サードアルタイル》のコックピットを狙い澄ます。

 

 その砲身が熱を帯びた瞬間には、声が漏れ聞こえていた。

 

『……クラードさん。ユキノを、頼みます……』

 

「グゥエル……」

 

『――いいや! 二度も三度も、死なせやしねぇ!』

 

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