機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第214話「戦士の帰還」

 

 響き渡った声を認識する前に、回転軸を伴わせた刃がミラーヘッドビットを断絶し、白銀の機体がコックピットの前に舞い降りる。

 

 それはかつて目の当たりにした、騎士の威容を持つ機体。

 

 名を――。

 

「《アルキュミア》……? どうして……」

 

『どうしてもこうしてもねぇ。オレは……もう二度と! 凱空龍の面子を、裏切るような真似だけはしねぇって心に誓ったんだ!』

 

 聞こえるはずのない声が聞こえる。

 

 吼えるはずのない声が吼える。

 

 そして――白銀の粒子を伴わせて、騎士は再臨する。

 

 その身に帯びるのは二度と後悔を背負わないと言う覚悟。

 

「アル、ベルト……?」

 

『どうして……。私は夢を見ているの?』

 

『クラードもユキノも、歯ぁ食いしばれ! これは夢でも何でもねぇ! リアルだって事を頭に刻んでな!』

 

『見た事のない機体である、が、新型機か。邪魔立ては無用』

 

 ミラーヘッドビットが全方位より照準するのを《アルキュミア》の新型機はビームジャベリンを一回転させて睨み据える。

 

 真紅の眼窩に光が灯り、蒼く分裂した残像を見据えていた。

 

『“照合完了。ミラーヘッドビットの解析を開始、承認。ミラーフィーネ、散布を開始します”』

 

「……ピアーナ・リクレンツィア……?」

 

『悪いが、多くは喋っている時間はねぇ。ちぃと戦場に邪魔する……ぜっ!』

 

 瞬間、世界が静止する。

 

 ミラーヘッドビットが硬直し、動きを止めていた。

 

 だがまさか、という思いが先行する。

 

「……ミラーヘッドビットを……停止させたって言うのか」

 

『“停止信号は有効。アルベルトさん、50セコンドですよ”』

 

『充分! 《アルキュミアヴィラーゴ》、アルベルト・V・リヴェンシュタイン、出るぞー!』

 

 一振りのビームジャベリンを分割させ、双剣と化した刃が奔り、ミラーヘッドビットを一つ、また一つと粉砕する。

 

 その様はまるでこれまでの《ラクリモサ》の戦闘とはかけ離れている。

 

 万華鏡が一方的と言えるほどの戦場で、蹂躙されていた。

 

『ミラーヘッドビットが自分の意志を伝達しない。何をしたのか』

 

『何も! ただちょっと黙ってもらっているだけだ!』

 

『理解に苦しむな、貴君は』

 

 射程へと潜り込んだ《アルキュミアヴィラーゴ》に、クラードは反射的に声を発していた。

 

「いけない! その距離は……!」

 

 稼働した節足が《アルキュミアヴィラーゴ》を溶断する前に、ビームジャベリンの刃が伸長し、《ラクリモサ》を拘束する。

 

 まさか、《ラクリモサ》ほどの機体を抑え込むだけのパワーゲインを持っているとは想定出来ず、そのまま《ラクリモサ》は《アルキュミアヴィラーゴ》に振り回されていた。

 

『そぉーれ! これで墜ちろ!』

 

『大佐! 《ラクリモサ》の今のステータスでは……!』

 

『杞憂だ』

 

 ミラーヘッドビットを速度の減殺のために用いて、制動をかけた《ラクリモサ》は直後、その心の臓を貫くために《アルキュミアヴィラーゴ》が突き進んだのを大写しにしたいに違いない。

 

『貰ったぜ! 万華鏡の心臓――ッ!』

 

『悪いが我が心臓の明け渡し先は決まっているのでね』

 

《ラクリモサ》のコックピットがパージされ、《パラティヌス》のマニピュレーターへと保持される。

 

 その瞬間には、アステロイドジェネレーターを貫いた《アルキュミアヴィラーゴ》はハッと感覚して《ラクリモサ》を振り抜いていた。

 

 直後、収縮爆発が拡散し、ビームジャベリンの穂先が消え失せる。

 

『やりやがった……自爆なんて……』

 

『いずれにせよ、《ラクリモサ》は破棄だ。次で本気を出そう』

 

 ジオを抱えたまま、王族親衛隊は撤退機動に移っていく。

 

 牽制砲撃を浴びせかけながら後退していく相手まで追う趣味はない。

 

 遠ざかっていく敵影に、クラードは改めて《アルキュミアヴィラーゴ》へと視線を移す。

 

「……本当に、生きていたんだな。アルベルト」

 

『おう、まぁな。……何だ、ユキノ。泣いてのか?』

 

『馬鹿っ、馬鹿馬鹿、馬鹿――ッ! ヘッドは大馬鹿者です! 何で……あんな真似したんですか……あなたは……』

 

 涙声のユキノのオープン回線にアルベルトは困惑しているようであった。

 

『……ああもしねぇと、みんなを守れねぇだろうが。ただ……悪かった。軽率な行動だったと思ってるよ』

 

「アルベルト、再会を喜んでいるような状況でもない」

 

『ああ、そうだな』

 

 騎屍兵と《ゴスペル》、如何に《ラクリモサ》と王族親衛隊が退いたとは言え、絶対的な戦力だ。

 

 その上、《サードアルタイル》が翼を得て復活したとなれば穏やかではあるまい。

 

《ゴスペル》が前衛を担当し、刃を鞘へと格納していた。

 

『……総員、下がれ。ここで死合うは、戦士の名折れだ』

 

「意外だな。あんたは戦場なんて選ばない性質かと思っていた」

 

『私としてもそうしたいのは山々なのだがね。……騎屍兵の彼らにしてみれば、ここで私がけだものの如く喰いかかれば、せっかくの犠牲が泡沫と化す。私は人でなしだが、そこまで非情には成り切れない』

 

 先ほど《ラクリモサ》に撃墜されかかった《ネクロレヴォル》の乗り手は、助けられた友軍の機体を伝い、オープン回線を開いていた。

 

『……生きていたんだな。アルベルト・V・リヴェンシュタイン……』

 

 変声器を用いていない声音にはクラードも聞き覚えがあった。

 

「……まさか、トキサダ・イマイか?」

 

『クラードさん。あんたもあんただ。勝てない勝負をするもんじゃない。そんな事、あんたが一番よく分かっているはずだって言うのにな。……おれは一度死んだ。ゴーストだ。だが亡霊なりの意地はあると思ってもらいたい。おれ達はこれより、モルガンへと一時帰投、その後に戦力を整え、オフィーリアへと進軍する』

 

『トキサダ……! その流れは変えられねぇのか? 本当にそれしか……方法はねぇのか……?』

 

『ないよ。ないって分かってるんだろ、アルベルト……いいや、ヘッド。あんたはそれなりに賢しいはずだ。だから、その機体の乗り手に選ばれた』

 

『……道はあるはずだ。グゥエルは正気に戻ってくれた』

 

『……それもリミットがないとも限らないのにな。一つ言っておくとすれば、エンデュランス・フラクタルはどうあっても第三の聖獣を鹵獲したいらしい。その理由までは推し量れないが、しかしハッキリしているのは、ここで聖獣を手に入れた勢力が世界を手に入れるだろう。その時に、後悔のない選択が出来るかどうかは、戦士としての素質を問う』

 

『オレが戦士じゃねぇとでも……?』

 

『アルベルト……おれはあんたに焦がれ、あんたに憧れ、あんたのために死んだつもりだった。……だが、笑える話だ。実際には墓の下に居るはずがこうして現世を飛び回っている。――今一度、宣告するぞ、アルベルト・V・リヴェンシュタイン。おれはあんたを許すつもりはない。おれの手で、オフィーリアは沈む。その程度が、おれの出来る程度の介錯だ』

 

 騎屍兵団は信号弾を撃ってモルガンへと帰投ルートを辿っていく。

 

 取り残されたのはオフィーリアから出撃した自分達と、アルベルトのみ。

 

「……これからどうするんだ? アルベルト」

 

『そうだな。目下のところは腹が減っているからメシかな』

 

「冗談、言えるようになったじゃないか」

 

『お前ほどでもねぇよ。……悪ぃな、遅くなって。避難誘導をしていたら遅くなっちまった』

 

『“まったく! 何であんな真似に出たんですかね! 理解に苦しみますよ!”』

 

「うっせぇなぁ……。結果的に最良の登場シーンだったんだからいいだろうが」

 

 言い争いをする声に、やはり、とクラードは意識を改める。

 

「同乗しているのか? ピアーナ・リクレンツィア……」

 

『こいつはアイリウムさ。だが、ピアーナの魂の色を引き写したヤツでもある』

 

「話は……しっかりと聞かせてもらおうか。何よりも……見知った場所で」

 

『ああ、ちぃとばかし帰りが遅くなったのは謝る。すまなかったな、クラード。それに、ユキノ達も。オレは……もう一度、戦場に舞い戻れた』

 

 その感慨を噛み締めるかのように、アルベルトは声にしていた。

 

 亡霊の戯言ではない。

 

 しっかりとした、戦士の声音であった。

 

 

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