機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第219話「聖獣捕獲任務」

 

 結論は先延ばしにしてもいいのではないか。

 

 そう言った甘い言葉が出てしまうくらいには、自分は少し疲弊していたらしい。

 

 ブリーフィングルームで顔を突き合わせたレミアは即座に断じる。

 

「駄目よ、カトリナさん。あなたが一番分かっているはずでしょう? ……《サードアルタイル》のパイロットに信を置くべきじゃない」

 

「で、でもですよ……。だって彼は……グゥエルさんで……」

 

「そんな彼から、直通回線が届いているわ。……さすがは聖獣、こっちの秘匿暗号通信なんてお手の物ってわけ」

 

 どこか不承気なバーミットは投射画面を繋いでいた。

 

『……何て言えばいいんでしょうね。お久しぶりです、とでも……』

 

「グゥエルさん……!」

 

「失礼、グゥエル・レーシング本人である証を見せてちょうだい。そうでないと回線は即座に切らざるを得ないわ」

 

 レミアの切り詰めたかのような声音に、カトリナは思わず反論する。

 

「ま、待ってくださいっ! グゥエルさんですよ! ……だって間違えようもなく……」

 

「エンデュランス・フラクタル本社は彼をエージェント化した。その過程を間違っては、喰われるのはこちらになるわ」

 

 一時も緊張の糸を切らさないようにしているレミアに、カトリナはおずおずと引き下がっていた。

 

「でも……月軌道決戦で……拾われたんじゃ……」

 

「そんな生易しいものではないのは承知の上でしょう? ……グゥエル・レーシング、あなたはあの時、撃墜されそして戦死した、そのはずよね?」

 

 どうしてレミアはそこまで警戒を解かないのかくらいは、自分でも分かる。

 

 この三年間、エンデュランス・フラクタルは世界を欺いてきた。

 

 その証左が《ネクロレヴォル》と、そして自分達の境遇。

 

 だから、一時でもグゥエルの形を取る相手に、温情など与えてはならない。

 

 それが形式上でも艦長職を全うする事になるのならば。

 

 しかし、カトリナはそこまで切り捨てられないでいた。

 

 奇跡的に生還していた可能性だってある。

 

 ならば、喜ぶべきではないのか――そう楽観的に考える一方で、グゥエルの身そのものが本社の投げてきた爆弾である可能性も捨てきれない。

 

 かつての仲間と同じ姿かたちをして、彼は事実、《サードアルタイル》を用いて都市圏を制圧しようとしていた。

 

 そこに彼の意思があったかどうかは関係がない。

 

 問題なのは、三年前にはただの二軍の兵隊でしかなかったグゥエルが、聖獣を動かすに足る人材へと変貌を遂げている現実である。

 

 エンデュランス・フラクタルのおぞましき技術の粋が、彼の肉体には刻み込まれているはずだ。

 

 その禁忌を警戒しての布陣であろう、ユキノ達を用いての制圧陣形を取っているのは何も間違いではない。

 

 一手でも異常があれば、即座にコックピットブロックを撃ち抜ける距離に、《アイギス》の編隊が位置していた。

 

『……信じてもらおうとは、思っていません。実際、俺も何でここに自分が居るのか……現実認識が追いついていないんです』

 

「その言葉を信じろとでも?」

 

『……いえ、分かっているつもりです。俺はあの後……恐らくエンデュランス・フラクタル本社に収容された。そして人格改造の有機伝導施術を受け、別人格が表に出ている可能性が高いと言う事くらいは……』

 

「別人格……」

 

「だからと言って、あなたの罪が帳消しになるわけでもないわ」

 

 前に歩み出たレミアの有無を言わせぬ物言いに、カトリナは思わず踏み出していた。

 

「ま、待ってください! 本当に別人格だって言うんなら、グゥエルさんに非はないはずですっ!」

 

 レミアは憂いを帯びた泣きボクロの瞳に、厳しい詰問の色を浮かべさせていた。

 

「非はない? 本気で言っているの、カトリナさん。彼は、この世界と言う盤面を突き崩す、聖獣の乗り手なのよ?」

 

「そ、その論理なら、ファムちゃんだって……!」

 

「カトリナちゃん。ファムはずっと医務室で眠っているの。聞き出せるような状態じゃないのは分かっているでしょう?」

 

 バーミットの言葉にも、カトリナはレミアと向かい合ったまま、対峙する姿勢を崩さなかった。

 

 ここで押し負ければきっと、自分は永遠に自らの職務を捨て去る事になるだろうというのは、予感出来ていたからだ。

 

「……私は委任担当官です……っ。凱空龍の人達専用の、窓口……だから、逃げない……っ!」

 

『カトリナさん……』

 

「聞いておくけれど、委任担当官は死ぬ職務じゃないのよ」

 

「分かっています……っ。でも、死にに行くエージェントに何も出来ないのは、じゃあもっと違うでしょう……!」

 

 暫しの睨み合いの後、レミアは嘆息一つで追及を打ち切っていた。

 

「……分かったわ。私は所詮、後から来た人間だもの。三年間戦い抜いてきたあなたの覚悟には敵わないものもある。グゥエル・レーシング君」

 

『は、はい……。何でしょうか』

 

 レミアはグゥエルと向き合い、あろう事か頭を下げていた。

 

 その行動に誰しもが瞠目する。

 

「……ごめんなさい。あの時……月軌道決戦であなた達を守られなかったのは、素直に艦長としての落ち度だった。ずっと……謝らなければいけないと思っていた……」

 

 まさかレミアも痛みを抱えているとは思いも寄らない。

 

 グゥエルはやんわりと、その言葉に首を振る。

 

『……頭を上げてください、レミア艦長。俺達はあの時、使命に殉じられたんです。凱空龍として、だけじゃない。ベアトリーチェを故郷とする人間としての、やるべき事をやっただけ。艦長が気負う事はないですよ』

 

「それでも。私はあなた達の命を投げられるべきと規定した。……どれだけの誹りも甘んじて受けるわ」

 

『……俺も、よく分からないうちに聖獣のパイロットになってしまったんです。自分で選んだ結果でもなく。艦長は、艦長として然るべき判断をしたのに、謝られたら困っちまいますよ』

 

 ようやく頭を上げたレミアは少し涙ぐんでいるようにも映った。

 

「目下のところ問題なのは、《サードアルタイル》を巡って襲ってくると予想される、王族親衛隊ではないのか」

 

 ダビデが話題を切り替える。その言葉に応じたのは特別に同席しているアルベルトであった。

 

「いや、それは……大丈夫だとは思う。万華鏡、ジオ・クランスコールがどれほどなのかは分からねぇけれど、専用機を撃墜したんだ。そう簡単に追っては来ないだろうとは……うちのアイリウムが予測判定を下しているんだ」

 

『“何ですか、その不承気な言い草は。このマテリアが、わざわざ敵の予想陣形まで張っているんです。感謝されてしかるべきでしょう”』

 

 その論調も、ましてその声音も、カトリナは見覚えがあった。

 

「……ピアーナ、さん、じゃ、ないんですよね……?」

 

『“こちらではお初にお目にかかります。わたくしはピアーナ・リクレンツィアの統合データをスタンドアローン化させた《アルキュミアヴィラーゴ》搭載アイリウム。……カトリナ様、でよろしかったですね?”』

 

「あ、はい……。ピアーナさんが戻って来たみたいで、私はちょっと嬉しいかもです」

 

『“それは何よりです。わたくしのオリジナルは貴女に相当ご執心だったようですが、残念ながら分離されたわたくしの性癖はノーマルなので、そういう気分に成れないのが残念ですが”』

 

 その言葉にはカトリナも愛想笑いを浮かべるしかない。

 

 それにしても、とブリーフィングルームを妖精のように駆け回る二頭身姿のピアーナのアイリウム――マテリアはこれまで自分達が培ってきたアイリウム技術の先にあるような気がしていた。

 

「……ピアーナさんの分身……みたいに思えばいいんですかね」

 

「こいつ、ピアーナ本人よりもよっぽど我儘ですんで、適当にあしらってもらって構いませんよ」

 

『“何ですか、その言い草は! わたくしの建てた作戦立案書、要らないんですか?”』

 

「ほら、すぐヘソ曲げちまうんです。こういうところ、ピアーナにはなかったでしょう?」

 

 渋面を作ったアルベルトに、マテリアはポカポカとその小さな手で殴りつける。

 

『“偉そうに言わないでくださいまし! アルベルトさん、搭乗者がそのようなものだから、もっと上手くやれた局面を逃すんですよ!”』

 

「へいへい。……ったく、これじゃピアーナを抱えて帰還したほうがマシだったな」

 

 その言葉繰りに思わず笑顔に成ったのはカトリナだけではなく、バーミットやレミアも、であった。

 

 ダビデは不承気に腕を組んで憮然とする。

 

「……そのアイリウム、作戦立案まで可能だと言うのか?」

 

『“伊達にアイリウムだと思わないでください! オリジナルのわたくしが培ってきた技巧は全て、このマテリアの物となっております!”』

 

 ふふん、と自慢げに胸を反らすマテリアに、ダビデは小首を傾げる。

 

「分からんな。技術と言うものはいつだって、兵士には遠い代物だろうから」

 

『“その技術を第一線で使うのが兵士のはずでしょう? トライアウトのダビデ様、貴女は少し軽率が過ぎます”』

 

「むっ……そうか。そう言われてしまうのか……」

 

 まさかダビデを言いくるめるとは、とカトリナは舌を巻いていた。

 

「でも、マテリア……でいいのかしら、呼び方は」

 

『“レミア・フロイト艦長。何なりと、好きな呼び方で構いません”』

 

「次の作戦として立案されたこのミッションだけれど、どう考えても布陣の中に《サードアルタイル》を組み込んでいるように思うのは私だけかしら?」

 

『“何を仰います。鹵獲したのならば使わないと損でしょう? 《サードアルタイル》だけではありませんよ”』

 

 カトリナも作戦に目を通して、当惑していた。

 

「……鹵獲していた《ネクロレヴォル》も使って……ですか?」

 

『“ゴースト、スリー、でしたっけ。彼女のデータはわたくしのほうが詳しい。それを分析した結果、戦力として組み込むのならばその位置と判定したのです”』

 

「……前回の戦闘から猶予も経っていない。騎屍兵を丸め込めるのか?」

 

『“わたくしのオリジナルは騎屍兵団の師団長ですよ? それくらい造作もありません”』

 

 自信満々なマテリアにブリーフィングルームに集った全員が困惑していた。

 

「……おい、マテリア。ゴースト、スリーの説得にオレが充てられてんのは、何かの当て付けか?」

 

『“失敬な。わたくしのオリジナルでもそうした、と言う判断ですよ。彼女には正式にオフィーリアの戦力になってもらいます。そのためには、一度は対面が必要でしょう?”』

 

「……ボスの命令……って言うか、そのコピーの命令で動くのかよ、騎屍兵は」

 

『“動きますよ。殊に、彼女のデータベースならば。アルベルトさん、少しはわたくしを信用してくださいまし。貴女の機体の専属アイリウムなんですからね”』

 

「とは言っても、てめぇだって信用なるかって言えばそうじゃないだろうが……」

 

 後頭部を掻いて困り果てているアルベルトに、カトリナは声をかけようとして、少し躊躇いが出てしまう。

 

 その陰鬱な間を相手も感じ取ったようで、アルベルトは自ずと視線を逸らしていた。

 

『“何です? 何か気まずい事でも?”』

 

「お前……そこは言わないもんだろ」

 

『“人間と言うのはこれだから性質が悪いのですよ。過去の遺恨があろうがなかろうが、それでも手を組むほうが合理的と判断されれば、そうするのが理想でしょうに”』

 

 ピアーナと同じ声のマテリアにそう諭されれば、どこかそれはピアーナの本音のようで、カトリナは咳払い一つで調子を取り戻し、アルベルトと向かい合っていた。

 

「あ、アルベルトさん……っ!」

 

「あ、はい……。何……ってとぼけている場合でもねぇか。カトリナさん、何となく話すのが難しいってのはずっとだったんですが、……どう言っちまえばいいのかな……」

 

『“――好きなんでしょう?”』

 

 出し抜けに放たれたマテリアの言葉に、アルベルトは顔を真っ赤にして大仰な動作で否定する。

 

「バ――ッ! 何言ってんだ、マテリア! オレがいつ、そんな事を――!」

 

『“いえ、そうではなく。カトリナ様が立案される作戦に沿う事が好きなのでしょう? どうせ。それでわたくしの案に乗り気ではないだけで”』

 

 これは藪蛇と言うものであったのだろう。

 

 まんまと言葉を引き出されたアルベルトは紅潮した頬を掻く。

 

 カトリナも思わぬ告白に戸惑っていた。

 

「えっ……いや、それってその……どういう……」

 

「鈍いのねぇ、カトリナちゃん。アルベルト君も。いつまでも先延ばしにしたんじゃ、男が廃るってものよ?」

 

 バーミットが面白がって口を挟んだ事で、つまりは「そういう事」なのだと、鈍い自分でも分かってしまう。

 

「……えっ、えっ……。でもアルベルトさん、そんな事、一度だって……」

 

「……言いましたよ。カトリナさんの親父さんが死んだ時に、どさくさでしたけれど。……でも、こんな風に改まって言う事になるなんて思わなかったっす……」

 

 作戦立案の場でまさか好意を露見されるとは思っておらず、カトリナは当惑していた。

 

「いや……あ、嫌じゃないんですけれど……でも、えー……だってアルベルトさん、そんなの勘付かせなかったじゃないですか……」

 

「女に勘付かれるほど、オレもデリカシーがないワケじゃねぇって事ですよ……。ったく、せっかく帰投したのに、こんなのあんまりだぜ……」

 

 気まずい沈黙を挟んだ後に、カトリナはアルベルトの気持ちと真正面から向かい合っていた。

 

 きっと彼はずっと、その気持ちを押し殺してきたのだろう。

 

 ならば、応じるべきなのは――。

 

「その……でも、ごめんなさい……。私、アルベルトさんの告白はその……受けられません……」

 

「分かってますよ、それくらい。……分かっていたから、保留にしたのもあるんですが……」

 

「あれー? じゃあカトリナちゃん、今はフリーって事?」

 

「ば、バーミット先輩! 今は作戦立案中ですよっ!」

 

「ふふーん。じゃあカトリナちゃんは好きな人、もう居るんだ?」

 

「そ、それはですね……」

 

 完全に固まってしまった事で、何よりも雄弁に語ったようなものだ。

 

 ダビデが大仰に咳払いする。

 

「……いいだろうか? 作戦の立案中のはずだ」

 

「お堅いわねー、ダビデちゃんは」

 

 バーミットの怖いもの知らずの論調は無視して、ダビデは投射画面の作戦を読み上げる。

 

「マテリアとか言うアイリウム。この作戦は、《ダーレッドガンダム》の能力を十全に活かした編成だが、エージェント、クラードにはこの事は?」

 

『“既に同期済みです。無論、彼は了承しましたが”』

 

「……そうだとしても、前提条件が厳しいのではないか? ダレトを開くなど……」

 

 この場において全員が脳裏に想定していた言葉を、ダビデは代弁していた。

 

 ――今次作戦の遂行には、《ダーレッドガンダム》の能力の一つである、ダレトを開く力が必要不可欠、と。

 

『“無茶だとは思っていませんよ。前回、そういうデータがあったのは知っていますし、これはわたくしのオリジナルが想定していた事象ですが、《ダーレッドガンダム》には超空間を形成する能力がなければ説明がつかない、とも”』

 

「……だとしても、それを行使出来る《ダーレッドガンダム》は、では何だと言うのだ」

 

「――モビルフォートレス……」

 

 赴くところの先を、呟いたのはアルベルトであった。

 

 全員の視線が集まる中で、彼は眼差しを上げる。

 

「……レミア艦長、あんたはそう言っていたはずだ。《レヴォル》はモビルフォートレスだった。なら、《ダーレッドガンダム》だってそれに類しても何もおかしくはないはず……」

 

 確かに《ダーレッドガンダム》がMFであるのならば、全ての事象に説明は付くのだが。

 

「……そうだとして、クラードさんは何なんです? MFを動かせる人材なんて……」

 

「それは分かんねぇですけれど、でもクラードも……きっと何かを感じ取っているはずなんです。そうじゃねぇと、あいつの覚悟だとか、そういうのも説明は付かないでしょう」

 

「波長生命体……か。何故あのような事を言い出したのかも、搭乗機が聖獣の一角であるのならば……。しかし、そうだとして、この作戦には無理がある。聖獣相当の戦力を二機、駒として使えとでも?」

 

 ダビデの反論にマテリアは封筒を頭上に掲げ、それを捲って読み上げる。

 

『“エンデュランス・フラクタルが聖獣を使えたのです。こちらで使えないという事はないのでは?”』

 

「そうではない……これは気持ちの問題だ。つい先刻まで敵のものであった機体と、そして不明瞭な動きを繰り返す機体、その二つを要とするのは……やはり困難なものを感じざるを得ない……」

 

 ダビデの論点は正しいのだろう。

 

 聖獣を作戦の一部として組み込む事もイレギュラーならば、《ダーレッドガンダム》の未知なる兵装を当然のものとして運用するのもリスクは高い。

 

『“そのための作戦なんですがね。《サードアルタイル》を撃ち抜いた高重力砲撃のデータは、皆さん参照出来ていますね?”』

 

「……これって……三年前のデータ照合と……」

 

 アルベルトの声音にマテリアは断定する。

 

『“ええ、一致する。よって《サードアルタイル》を中破させた攻撃は、MF06、《シクススプロキオン》の高重力砲撃であると想定します。これは《ダーレッドガンダム》のレコード内にも一致するものがあり、ほぼ間違いないでしょう”』

 

「……地上に《シクススプロキオン》が堕ちてきたって言うのか?」

 

『“エージェント、クラードと《ダーレッドガンダム》の記録情報の中には、さらに細分化された《シクススプロキオン》の姿かたちがあります。これは……ほぼ砲撃器官ですね”』

 

《ヴォルカヌス》が複雑怪奇にうねった砲身の引き金を抱えている映像に、この場に集った者達は絶句していた。

 

「どのような結果かは分からないけれど、地上へと聖獣が放たれたのは間違いないわけね……」

 

『“しかも、この状態は恐らく不完全か、あるいはほぼ死に体だと推定されます。三年前に《フルアーマーレヴォル》が戦闘した形状とまるで異なる。何者かが《シクススプロキオン》の遺骸を再利用し、高重力砲撃器官として地上運用を計画していた、と”』

 

「末恐ろしいもんがあるな。あれほどの威力の重力砲撃を、地上で使われるなんざ……」

 

『“だからこそ、です。次の作戦で必ず、物にしなければいけない。わたくしは改めて、地上に堕ちた聖獣の捕獲作戦を提唱します”』

 

 そう、これは強襲作戦ではなく――第六の聖獣の捕獲作戦なのだ。

 

「……位置情報の割り出しは出来ているけれど、ダレトを開いてそこにクラードを……と言うのは、現実的とは思えないわよ」

 

 レミアの提言にマテリアは別のデータを参照させていた。

 

『“空間跳躍を特別なものと捉えればそうでしょうが、既にエージェント、クラードは何度もそれを行使しています。ポートホーム技術の運用延長線上にあると考えれば、精神衛生上いいのでは?”』

 

「でも、ポートホームの技術は決まった場所に物を運ぶ程度で……」

 

『“技術革新は現場から行われるものです。《ダーレッドガンダム》の性能ならば、それは届く”』

 

「ピアーナ……じゃない、マテリア。この作戦を遂行するにしても、クラードの負荷が強過ぎるように感じるわ。それでも、なのよね?」

 

『“それでも、です。そうでなければ我々は勝てないでしょう”』

 

 覚悟を問い質したバーミットに確証めいた声音で返答したマテリアに、彼女は髪をかき上げていた。

 

「……オーケー、分かった。艦長、それにカトリナさんも。荒唐無稽だとか言っている状態はもうとっくに過ぎたのかもね。何よりも、聖獣を使えれば、私達の陣営は一気に戦力が拡充される。断る義理もないでしょう」

 

「……でも、クラードさんが無茶しちゃうのは……」

 

「あいつだけの無茶じゃないわ。あたし達全員で無茶無謀を通り越さないと、この作戦は達成不可能。要はこれまで通り、あたし達は自分達の力を信じて、無理を承知で貫き通すのよ」

 

 無理を承知で、とバーミットが付け加えたのはきっと、自分の感情も慮っての事なのだろう。

 

 クラードにこれ以上傷ついて欲しくないと考えている、自分の弱さを――。

 

「マテリア、作戦開始までの所要時間は?」

 

『“三時間後、それまでに全てをこなす必要性があります”』

 

「……簡単に言ってくれるのも、ピアーナが帰ってきたみたいね。カトリナさん」

 

「は、はい……」

 

「今は、沈んでいる場合でもないわ。グゥエル君の搭乗する《サードアルタイル》のメンテナンスまでは難しい。オフィーリア積載の全MSの整備を優先。……この作戦、信じましょう。それくらい楽観的になっても、いいはずでしょうからね」

 

 状況自体は重く凝っている。

 

 それでも、マテリアの提唱した作戦は希望の光となるはずであった。

 

「……仕方ないだろうな。私は兵士だ。決定には異を挟まない」

 

「あら、それにしてはダビデちゃん、ちょっと突っかかっていたみたいだけれど?」

 

 この場でダビデをからかえるのはバーミットくらいなものだ。

 

 ダビデは恨めしげな視線を一瞥してから、ふんと呼吸する。

 

「……少しはそちらの楽観視を、信じてみたい時だってある」

 

「だ、そうよ、カトリナちゃん」

 

「ええっ……何で私……」

 

「だって、委任担当官なんでしょう? グゥエル君の事も、帰って来たアルベルト君の事も、カトリナちゃんが責任持たないと。あ、でも振っちゃった手前、アルベルト君は合わせづらいか」

 

「も、もうっ……バーミット先輩っ!」

 

 茶化されれば照れもするが、今はその軽口が何だかありがたい。

 

 カトリナはアルベルトへと、視線を向けていた。

 

「……アルベルトさん、その、私……」

 

「いえ、いいんです、カトリナさん。そういうんじゃないって事くらい、分かっていたつもりっすから。……クラードをよろしく頼みます」

 

「へっ……何にも言ってないのに……」

 

「……そういうところっすよ。分かりやすいっての」

 

 虚を突かれていると、アルベルトは少し恨めしげな論調を返していた。

 

 言われた意味を理解した途端、顔が熱を帯びていく。

 

「はわわわっ……私は……っ」

 

『“カトリナ様。ヴィルヘルム、という有機伝導技師の医師が居ると聞いていましたが”』

 

 割り込んできたマテリアに、カトリナは戸惑いつつも応じる。

 

「ふぇっ……あ、ええ。そう言えばヴィルヘルムさん、来なかったけれど……」

 

『“ゴースト、スリーの件で、彼が一番分かっていそうなので、アルベルトさんと同伴させます。いいですね?”』

 

「あっ、それは……はい。でも、ヴィルヘルムさん、こういう時には絶対に居るものなのに……シャルティアさんも……?」

 

 

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