懐かしいわね、とレミアが口火を切ったのはきっと、計算でも何でもなかったのだろう。
それほどまでに、この光景は異様であった。
カトリナはブリーフィングルームに会したピアーナとダイキ、そしてメイアを見やる。
「……えっと……モルガンから三名とも、出奔したと考えて……?」
「脱走兵だよ。別に気取る必要性もねぇし」
ダイキの気安い言葉繰りに、カトリナはそれでも、とピアーナと目線を交わす事が出来ないでいた。
無理もない。
一度、敵対するのだと決めた身、もう二度とこうして肩を並べる事は出来ないのだと覚悟していたのだ。
それがこのような形とは言え、帰って来てくれた嬉しさと、胸の中で渦巻く不可解な感情が自分を素直にさせない。
馬鹿正直に帰って来てくれて嬉しいなどと吼えられる時期はとうに過ぎたのだろう。
ピアーナもピアーナで、自分相手に距離を掴みかねているようであった。
「クラビア中尉。あなたも相変わらず健在で何よりだわ」
レミアが率先して場を回してくれている。
ダイキは肩を竦めていた。
「……正直、もう一度会えるなんて思っちゃいませんでしたけれどね」
「それも奇縁よ。人界と言うのは、こういう風に回っているのね」
「ダイキ・クラビアとやら。元々トライアウトネメシス所属の士官だと聞いている。その素性の下、確認したい。何故、モルガンを裏切り、我々の側につくと決めたのか」
ダビデの論調には相変わらず容赦がない。
否、ここで何者かの慕情に囚われず、平等に物事を判断していると断言していいだろう。
ダイキは少し思案しているようであった。
「どうするっかな……。リクレンツィア艦長、本音でいいですか?」
「……貴方の本音はいつだってどうしようもないでしょう。とは言え、わたくしからしてみても、なかなか切り出しにくい。どうぞ」
「では本音で。……俺はリクレンツィア艦長を護りたい。そのためなら、統合機構軍であろうとレジスタンスであろうと関係がない。モルガンに所属していたのは元々、フロイト艦長達の影を追っての事だったが、この際、そんな些末事はいいんです。俺の目的はただ一つ――ピアーナ・リクレンツィアと言う人を、他の何者にも奪い去らせないためだ」
まさかそこまで愚直に想定外の言葉が出て来るとは思っていなかったのか、レミアは吹き出していた。
「ちょっと……ちょっと待って……。クラビア中尉、正気……?」
「正気も正気ですよ。俺はリクレンツィア艦長のためなら何にだってなれます」
「待って……その当のピアーナ……あなた、照れているの?」
レミアが指摘したために全員の視線が集まって、ピアーナは顔を伏せていた。
「……もうっ、そういうところなんですから。クラビア中尉、少しは自重するように」
「すいません、ちょっと嘘付けなかったもんで」
「嘘でなくとも、自重せよと言ったのです。ここは一応、敵艦ですよ」
「もう敵だの何だのと、言っている場合でもないんじゃないですか? 俺はここで、フロイト艦長やサワシロ大尉と、建設的な議論が出来ると思っていたんですが」
「頭は冷えているようじゃない。クラビア中尉」
バーミットの言葉にダイキは腕を組む。
「まぁ……冷えてないとどうしようもないですからね。この状況下で、喚き散らしてどうとでもなるんなら、いいんですけれど」
「そうじゃないのは明白ね。カトリナさん、先刻会敵した対象の照合結果を寄越してちょうだい」
レミアに命令され、カトリナは慌てて手元の端末を操作する。
「は、はい……っ。えっと……どれだっけ……」
「ときに、さ。クラビア中尉はどの辺が好きになったの? ピアーナの」
バーミットの色恋沙汰特有の嗅覚に、ダイキは後頭部を掻く。
「いやぁ……何つーんですかね……気がついたら護りたかったって言う、シンプルなもんです」
「へぇー、なかなか言わせるじゃない、ピアーナ。あんたも隅に置けないわねぇ」
「……バーミット様。今は作戦会議中です。余計な雑事に足を取られている場合ではないかと」
「あれー? 人並みに照れちゃってぇー。三年前の、あの鉄面皮のピアーナからは想像も出来ないわねぇ」
「……怒りますよ、バーミット様」
「はいはい、じゃあ怒られが発生する前にこの話題は打ち切るとするわ。でも……後で聴かせてもらえる? 何があったのかくらいは」
「……趣味が悪いですよ、他人の恋路を邪魔する奴は、と言うでしょう」
「あっれー? 恋路とまでは言ってないんだけれどねぇ。ピアーナ、あんたもその気があるってわけね」
「……失言でした。今のはなしで」
カトリナがぼんやりとピアーナの白磁の肌に浮かんだ紅潮を眺めていると、レミアが注意を飛ばす。
「カトリナさん。気になるのは分かるけれど、先に仕事」
「は、はひっ……っ! うへぇ……噛んじゃったぁ……」
そう応答したのを、ダイキがどこか微笑ましく視線を投げていた。
「……何よ、ダイキ……」
「いや、お前も変わってないんだなと思ってちょっと安心した。……血濡れの淑女(ジャンヌ)だなんだと持ち上げられて、俺の知っているカトリナ・シンジョウはどっか行っちまったんだとばかり思っていたからな。……お前、やっぱりちょっと愚図なくらいでちょうどいいよ」
「……それって貶してるよね? 本当、そういうところも変わらないんだから……」
「カトリナちゃんカワイイー。久しぶりに元カレと会ってもつれとか、あたし超好み!」
「ば、バーミット先輩! 言いっこなしですよっ! ……もうっ。これが前回の戦闘で遭遇した敵の詳細情報です。……とは言っても、ほとんどの情報に照合をかけられるような決定的な結果はなかったわけなのですが……」
ようやく投射映像がブリーフィングルームの中央に投影される。
天を衝く鯨――そう形容するのが正しい形状であった。
頭部は先の《シュラウド》が持ち帰ったデータから逆算したもので、ハッキリしたところは分かっていない。
それどころか、全体形状でさえもブロックノイズが激しく、明瞭ではない。
「……これに関しての情報を、あなた達は持っていると思っていいのよね?」
「はい。この機体は……イミテーションモビルフォートレス02、《ティルヴィング》。……魔獣と、形容されています」
「魔獣……」
「これまでのモビルフォートレスのデータフィードバックから生み出された可能性の高い、……巨大兵器、とでも言うべき代物かしら?」
「そのような生易しいものではありません。要は、人類は……聖獣を制御するのが難しいのならば造ってしまえばいいという思考回路に至ったと言う証なのですから。そして生み出された……悪魔の胎方こそが……この機体」
「ちょっといいか?」
挙手したのは壁に背中を預けているアルベルトであった。
彼はずっとダイキの一挙手一投足に注意を注いでおり、ダイキもその敵意には気づいているようである。
「どうぞ、アルベルト君」
「あの機体……赤い粒子拡散幕を放出してきた。その途端に、こちら側の軍勢は総崩れ。だが、俺の《アルキュミアヴィラーゴ》には認証出来るものが一個だけあった。あれは……ミラーフィーネシステムだな?」
ピアーナは視線を伏せ、こんなつもりでは、と悔恨の声を発する。
「こんなつもりでは……なかったのです、アルベルト様……。ミラーフィーネをここまで実用段階レベルまで引き上げているなど、想定外でした……」
「それでも相手の兵装がミラーフィーネなら……艦長、こっちからも提言がある。俺の《アルキュミアヴィラーゴ》のシステムキャッシュ内にあるミラーフィーネの権能を分析して欲しい。敵の魔獣とやらが全く同じものを使っていないにせよ、打開する一手にはなるはずだ」
「それに関しては既にトーマさんやサルトル技術顧問に任せてあるわ。ミラーフィーネの実用化……まさかここまで来ているとはね……」
「俺の所感なんだが……あれはミラーフィーネシステムと言うよりも、ミラーヘッドを擁する全ての戦闘兵器に対し、起動する別種のシステムにも思えた。だからこそ、第三の聖獣のパーティクルビットが有効だった」
「《サードアルタイル》の自動迎撃システムね。パーティクルビットで機体を包んで、一時的にミラーフィーネのシステム阻害を無効化……。なかなかに危ない橋を渡るわね」
「ですが、これが一兵力として有用なら、次に敵と遭遇した時には作戦として用いるべきだと感じます。俺の《シュラウド》が斬り込んだとはいえ、まるで相手には効いていないように見えました」
「……おい、さっきから俺の俺のって……てめぇが居なけりゃ、オレ達は負けていたって言いたいのかよ……!」
にわかにダイキへと喰ってかかったアルベルトに、当のダイキも振り返って応じる。
「あぁ……? それが分からないほどお前らは愚かしいんだって言うんなら、その通りだろうが……!」
「てめぇ……! RM第三小隊の誇り嘗めんじゃねぇ……ッ! オレらだけでも勝てていた……! それが分からねぇってのなら……!」
「何だと……? 分からないのなら、拳で語り合うか、てめぇ……。さっきから野郎の視線なんて鬱陶しいんだよ……! 一端の戦士だって言うんなら、視線じゃなくって口で語りやがれ、口で!」
「……言わせておけば……!」
「何だと、この野郎……ッ!」
互いに至近距離まで歩み寄り、拳を固めた二人へと、思わずカトリナは叫んでいた。
「やめて……! やめてくださいっ! ……二人とも……ここで相争ったって仕方ないじゃないですか……! 今はIMFを倒す事が最優先で……っ!」
「カトリナ、こいつは一発食らわせねぇと分からない馬鹿だ。だから、殴る」
「上等……ッ! 鍛えたエンデュランス・フラクタルのエージェントの実力……嘗めてんじゃねぇぞ……ッ!」
「へっ……何だよ、女々しいな。まだエンデュランス・フラクタルがどうのこうの言ってるんじゃ、たかが知れてるってもんだろ」
「……言ったな……ッ!」
挑発を交わした二人の一触即発さ加減に、カトリナは絶句したところで、それぞれへとビンタが見舞われる。
「おやめなさい!」
「やめてください!」
驚愕したのは、先ほどまで静観を貫いていたユキノのビンタがアルベルトの頬を打ったのと、ピアーナのビンタがダイキの頬を捉えたのは同時であったからだ。
熱を削がれた二人は茫然としている。
「……リクレンツィア艦長……」
「ユキノ……お前……」
「何をやっているんですか! こんなところで喧嘩をしている場合じゃないでしょう!」
「小隊長! ここで誰かを殴ったって好転するものじゃないくらいは分かるはずです! ……何よりも……小隊長は助けられた身分じゃないですか!」
「それは……言いっこなしだぜ……」
ダイキもピアーナに頬をぶたれて、それからぽつりと口にする。
「……中佐殿にもぶたれた事ないのに……」
「まったく! 中佐殿とやらは貴方を随分と甘やかしたようですね! ……わたくし達は拾われたのですよ。それを無碍にして、ここで殴り合ったって意味なんてないでしょうに……!」
「それは……その通りですが……」
「「でもこいつが……!」」
「二人とも! 落ち着いてください!」
「二人とも! 落ち着きなさい!」
互いに指差したのを制したピアーナとユキノの声に、男二人はしゅんと項垂れるしかないようであった。
「……はい……艦長……」
「……わぁったよ……! ここじゃ何も言いっこなしだ!」
ピアーナとユキノはお互いの顔を覗き込み、それからフッと口元を緩める。
「……あまり話していませんでしたが、ユキノ様。強く成られたようで……」
「私も……。ピアーナさんの事、何も分かっていなかったんだなぁって」
頬を掻いたユキノに、ピアーナはふふっ、と微笑む。
「……似合いの場所に収まった、というわけですか」
「お互いに……ですね」
ユキノとピアーナの友情に毒気を抜かれた気分になっている自分の肩を、バーミットは小突く。
「カトリナちゃん、もしかしてピアーナが自分以外に懐いて意外とか思ってる?」
「お、おおお思ってなんていませんっ! 第一、失礼じゃないですか……っ!」
「ああ、それ、多少なりともは思っている感じね。まぁ、三年もあれば人間的な成長くらいはあるわよ」
ひらひらと手を振るバーミットにカトリナは頬をむくれさせる。
「……そんなんじゃ……ないのにぃ……」
ただ、ピアーナが誰かを制する事が出来るようになったのは、恐らく自分の窺い知らないところでの成長には違いない。
いつまでも自分の後ろを付き従ってくれた身分ではないのだ。
「……話を戻すわね。ミラーフィーネ現象は《アルキュミアヴィラーゴ》に搭載されているそれよりも、かなり大規模で、なおかつ出力も高いと見て間違いないかしら?」
レミアの詰問にピアーナは応じる。
「はい……。恐らく、あれだけの機体全長です。もっと広範囲の散布も想定されているかと」
「そして魔獣のミラーフィーネは、《アルキュミアヴィラーゴ》のミラーフィーネのように一時的なミラーヘッド兵装の麻痺に留まらず、この世界の標準的な武装そのものを停止させる、とも」
「ええ、その感じはありました。ビームライフルの照準も馬鹿になってしまったんで、近接戦闘に持ち込んだんです」
ダイキが持ち直して報告したのを、レミアは逡巡を浮かべているようであった。
「……それだけの兵力と兵装……どれを取っても一レジスタンスがどうこう出来る範囲を超えているわね……」
「けれど恐らく目的は……同じって言うのが始末に負えないって感がありますね」
バーミットの言葉にカトリナはハッとする。
「……偶然遭遇したんじゃ……ないってお考えですか……先輩は……」
「そりゃそうでしょ。《ダーレッドガンダム》のダレト形成までは読んでいなかったかもしれないけれど、あの場所に局地的に集まる理由もないし。相手の目論みも恐らくは……」
「――第六の聖獣の心臓。どういうつもりかまでは不明だけれど、お互いにぶつかり合う結果になりそうね」
レミアの結論にカトリナは端末を持ち直して身震いしていた。
「……けれど……あんな巨大な兵器が、相手だなんて……」
「元々何かしらの妨害は想定していたけれど、IMFと呼ばれる兵力はまるで想定外。……さて、どうしたものかしらね。交渉条件で譲ってもらえそうにはなさそうだし」
「あの状況下で、動けたのは同じくミラーフィーネを搭載している《アルキュミアヴィラーゴ》と、そして……」
バーミットの赴くところをカトリナは呟いていた。
「……クラードさんの、《ダーレッドガンダム》だけ……。単騎戦力では無理があります」
「それに関しては同意見です、サワシロ大尉。《サードアルタイル》だってこっちの攻撃がなければ、迎撃システムを走らせるような余裕もなかったように映りました。今のオフィーリアとブリギットの戦力じゃ、たかが知れています。それに、どうしたって必要なんですか? その……第六の聖獣の心臓って言うのは……」
「今の私達が攻勢に打って出るのに、《ダーレッドガンダム》の性能頼みじゃあまりにも情けないのよ。それに、もっと言えば、《ダーレッドガンダム》を強化出来る数少ない機会でもある」
カトリナはしかし、《ダーレッドガンダム》が今以上の力を手に入れる事に懐疑的であった。
一体クラードは……《ダーレッドガンダム》は何に成ろうとしていると言うのか。
あまりにも想定外な現象が重なり過ぎて、クラードの背中が霞んでしまいそうである。
――自分はその背中に、帰って来て欲しいと無責任な言葉を投げるばかりで。
「その話なんですが……トライアウトジェネシスのDD……ダビデ・ダリンズにお聞きしたい。ブリギットの管制システムは現状、どれくらいの性能を引き出せています?」
その問いの不明瞭さにカトリナが困惑している間にも、ダビデは答えている。
「現状、四割未満……と言ったところか。やはり管制室に居るのが元々艦隊勤務じゃない人間が多いからな」
「それなら……リクレンツィア艦長を、俺は推していいでしょうか?」
ピアーナと視線を交わし合ったダイキの言葉に、レミアを含め全員が瞠目する。
「それは……ピアーナにブリギットを任せろと言うの?」
「もう、俺達も脱走兵です。真っ当な裁きなんて得られると思っていません。だからこそ、贖罪じゃないですが、ブリギットの管制システムなら、艦長の実力を加味すれば百パーセント引き出せるはずです」
ダイキより前に歩み出て、ピアーナはすっと息を吸い込み、直後には頭を下げていた。
「……ピアーナさん……」
「お願いいたします。……身勝手な物言いなのは百も承知ですが……魔獣を打倒するのに、わたくし達だけでも貴女達だけでも足りないのは分かり切っています。わたくしは……あくまでも前に進みたい。ブリギットの管制を担当するのは……これまでまかり間違え続けた……せめてもの償いとして……」
「ピアーナさん……でもそれは……」
「立場があった。それに、あなたには譲れないものもね。……楽なほうに流れるのは簡単だったけれど、あたし達はそうじゃなかった。それぞれに、雁字搦めになっちゃっていたのかもね……」
「バーミット先輩……」
率先して前に出たバーミットがピアーナの肩へとそっと手を置く。
「顔を上げて、ピアーナ。あなたのせいだなんて思っちゃいないわ。何よりも、前を見なさい。ここに居るのは、誰? トライアウトネメシスに降ったとんでもないOLと、そんでもって、一度は沈めると決めた艦長よ? そんなあたし達が手を取り合っているの。三年前と同じくね。だったら、ここは帰って来るべき場所のはずでしょう? 何よりも、あなたはそれだけの日々を頑張って来た。だから……ここで言うのはお願いでも何でもないはずよ。――ピアーナ、よく頑張ってくれたわね……」
その言葉を受け止めた途端、ピアーナは顔を逸らし、溢れ出した涙を拭っていた。
「……わたくし……わたくしは……何度も……貴女達を殺そうとしていたのに……」
「立場が違えば似たようなものよ、ここに居るみんながそう。ダビデちゃんはあたし達を狙ってきただろうし、艦長やあたしだって、一度はベアトリーチェを墜とそうとした。それが正しい事だって信じてね。でも、正しさなんて流動的なのよ。その時々で違ってくる。……あたしは、カワイイあんたが戻って来てくれて嬉しい。それじゃ……駄目?」
ピアーナは堪え切れない涙にしゃくり上げ、何度も何度も頭を振る。
「……わたくしは……許されないんだと……思っておりましたのに……」
「それはお互い様でしょ。あたしだって、まさかカトリナちゃんが許してくれるなんて思ってもみなかったわよ」
「わ、私……?」
「だってそうでしょ。今のボスはレミア艦長じゃなくって、カトリナちゃん。だから、あなたの声でピアーナを解き放ってあげて。カトリナちゃんは……ピアーナをどうしたい?」
「私……は……」
一度は決裂した。
もう二度と、道は交わらないのだと覚悟していたのに。
いざ目の前にすれば何を言っていいのかまるで分からない。
涙顔のピアーナに、カトリナは自ずと歩み寄っていた。
そして――三年前にしたのと同じく――柔らかな抱擁を果たす。
「……生きていてくれて……よかった……。ありがとうございます、ピアーナさん……」
「ありが……とう……ですか? ……わたくしは貴女を殺すと、ハッキリ言いましたのに……」
「それでも……ありがとうございます。ピアーナさんは誓いを果たしてくださいました。私は……ずっと待っていた……! ピアーナさんが帰って来てくれるのを……だから、おかえりなさい、ピアーナさん」
真正面から顔を覗き込んでしまえば、ピアーナの黄金の瞳に映る自分もまた、しゃくり上げて頬を濡らしていた。
こうして顔を見られれば――こうして真っ当に真正面からぶつかり合えれば、こうも容易く分かり合えていたかもしれないのに。もっと早く、こう出来ていればよかったのに。
それでも、ヒトはすれ違う。
それでも、ヒトは傷つけ合う。
そして、間違いの先に結果論を得るだけだ。
結果論が間違っていようが、それに異を唱える事は出来ない。自分が選び取って来た道に相反する事になる。それだけは、してはならない。自らの信念に唾を吐くようなものだ。
「……カトリナ様……。はい……ただいま……帰りました……」
ぬくもりが伝わってくれる。
自分の気持ちは嘘ではなかった。
そしてピアーナの気持ちも嘘ではなかった。
それでも、すれ違ってしまうのは、分かり合えなくなってしまうのは、ヒトの業と言うものなのだろう。
ただ、一時でもいい。
こうして互いの傷跡を癒せるだけの関係であるのならば、それだけでいいはずだ。