機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第257話「悪魔の謀略」

 

「何が起こった!」

 

 オペレーター達に怒声を飛ばした途端、振り向いた人影を睨んでいた。

 

「おやおや、少しばかりイレギュラーが発生した様子」

 

「……タジマ、貴様……!」

 

「《ティルヴィング》、制御を失います!」

 

「完全に制御不能! 《ティルヴィング》、停止信号を受け付けません!」

 

 悲鳴のように劈くオペレーター達の報告に赤い警告色に沈んだ管制室で、まさか、と絶句する。

 

「……《ティルヴィング》が、墜ちた……?」

 

「そう簡単に事が運べば、まだよかったのですがねぇ」

 

 意味ありげにタジマの発した言葉より、連鎖して絶望的な宣告がもたらされる。

 

「《ティルヴィング》、制御系を全て解除し……このまま……大陸中部を目指して進行中!」

 

「進行方向に存在するのは……ポートホーム粒子加速器観測所七号! まさか……強い存在力に引かれて……」

 

「これは困った事になりましたねぇ。《ティルヴィング》が向かっているのは存在力の集積地点、もし《ティルヴィング》がミラーフィーネの権能を発動すれば、世界規模でのポートホーム事業が阻害、いいえ、完全に停止するのもそう遠くないでしょう。宇宙と地球の間が完全に分断されます」

 

 いやに落ち着き払った声音に、タジマは全て織り込み済みである事が把握出来ていた。

 

「……まさか、貴様……最初からそれが目的か……! 我が方で《ティルヴィング》を稼働させ、不可侵条約が結ばれているポートホームの集積地点を落とさせ……地上と宇宙を永遠に閉ざす……!」

 

「何故、そうお思いに? 私とて、宇宙に帰らなければいけないのですよ? 意味は何だと言うのです?」

 

 余裕を浮かばせたタジマへと、想定される最も忌避すべき推論をぶつける。

 

「……それは……貴様らエンデュランス・フラクタルが宇宙事業を支配するため……! 我々を売ったな、タジマ……!」

 

「火のないところに煙は立たないとは言われますが、散々な言われようだ。しかし、八割がたは正解、と言っておきましょう。《ティルヴィング》がポートホーム集積地点を抑えれば、それだけ彼の者達は動きづらくなる。地上からの増援を望めない以上、宇宙と地球は断絶され、そして約束の時が訪れる際、地球圏の特権階級の者達は指をくわえて待つ事しか出来ない」

 

「……貴様……!」

 

 ホルスターより拳銃を取り出し、引き金を絞る。

 

 弾丸は、間違えようもなくタジマの頭蓋を射抜いていた。

 

「……これが貴様らへの報いだ」

 

 肩を荒立たせた重役は撃ち抜かれたタジマの遺骸を蹴り、オペレーター達へと通達する。

 

「……絶対に止めろ。緊急停止信号でも、クロックワークス社の軍部を使っても構わん。我々がもし、ポートホーム集積地点を落としたとなれば、世界から糾弾を受けるのは必定だ」

 

「――困りますなぁ、ミスター。あなたの思惑だけで世界が回っているわけではないと言うのに」

 

 その声に振り返って弾丸を叩き込む。

 

 確実に殺したはずの相手は片腕を突き出し、耳の裏を撫でる。

 

 それだけで高重力が発生し、重役は無様に頭を垂れていた。

 

「……これ、は……ライドマトリクサー……か!」

 

 タジマは白い血液が伝い落ちる額をハンカチで拭い、弾痕を埋めていた。

 

「……ライドマトリクサーだけだとお思いですか? 既に扉の向こうの技術たる、ライドエフェクターの能力さえも得ている」

 

「……ライドエフェクター……それは、一体……」

 

「知る必要はない。何よりも、殺し損なった相手の口から聞く事の無様さくらいは分かっていての事でしょう? ミスター、あなたは全てが終わった時にこめかみに銃弾を一発、それで事足ります」

 

「……何が……何が目的だ……! 来英歴に生きているのならば、それは禁忌のはず……! ポートホームだけは、阻害してはいけないのだ! 我々の編み出した技術の粋を……エゴの一つで止めると言うのかァ……!」

 

「そもそも築き上げてきた虚栄の城を今さら技術の粋だとのたまうのが間違ってはいるのですが……まぁいいでしょう。クロックワークス社が全ての泥を被り、地上の転送技術は三十年遅れる」

 

「……教えろ……! 何が、目的でそんな事をする……! 貴様らエンデュランス・フラクタルとて、困窮するはずだ!」

 

「ところが、その時には我々はもう、約束の時を迎えている。もう、この重力圏に縛られる事もない。自由なのですよ、どこまでも」

 

 その言葉繰りに重役は閃くものを感じ取っていた。

 

「……ダレトの向こうへ……扉を潜るつもりか……!」

 

「おや、最後の最後で賢しい判断が出来るとは。なかなかに見どころがあったようですね。しかし、私もお人好しではない。一度殺されて、はいそうですか、と宗旨替えはみっともないですからね」

 

「――タジマァ――!」

 

 その声が残響する前にタジマはその手に握り締めた拳銃のトリガーを引いていた。

 

 頭蓋に一発、二発と撃ち込まれた弾丸は重役の意識を完全に暗幕の向こう側へと閉ざしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、私としてもあなた方を殺すのは忍びない。どうです? エンデュランス・フラクタルへと転職でも?」

 

 呼びかけたタジマは途端に恐慌に駆られたオペレーター達より一斉に銃口を向けられていた。

 

「……残念ですよ」

 

 重力の投網がオペレーターを絡め取り、全員を這いつくばらせる。

 

 タジマは一発ずつ、入念に殺し尽くしてから、最後の一人の女性オペレーターと視線を合わせていた。

 

 わざわざ屈み込み、その眉間に銃口を当てる。

 

「いや……いやぁ……」

 

 タジマは泣きじゃくる相手とは対照的な営業スマイルを向けて首を傾げる。

 

「死に行く気分はどうです? さしずめ、小旅行ですか?」

 

「いやぁ……! いやぁ……っ!」

 

「言葉も忘れます? それがクロックワークス社のトップシークレットに携わった人材の末路ですか? あまりに脆い」

 

 何度もいやいやをする女性に、タジマはふむ、と一考の余地を挟んでいた。

 

「……冥途の土産、と言うのは好みの言葉ではないのですが、教えておきましょうか。何せ、皆さん、転職希望を聞く前に天国へと行かれたのですから。ああ、いや、これは可笑しい。IMFを利用しておいて天国とは。多分、地獄ですよね」

 

 何でもない事のように――ほんの営業トークの一環のようにタジマは語りつつ、その銃口を押し付ける。

 

「……IMFは次の次元に移りつつある。クロックワークス社の寡占ではなく、さらなる領域へと。《ティルヴィング》は大きさばかりが自慢のでくの坊でしたが、私達が生み出すのはそうではない。IMF03、《アデプト》の実装。それこそが新時代の幕開け。分かります?」

 

 女性オペレーターは何度も喉の奥から懇願するように呼吸音を漏らす。

 

 タジマは興味が失せたように笑顔を向けて、引き金を引いていた。

 

 鮮血が迸り、スーツを濡らす。

 

「ふぅ……服が汚れてしまった。それにしても、《ティルヴィング》の暴走は織り込み済みでしたが、これは想定外でしたよ、エージェント、クラード。まさか《ダーレッドガンダム》の権能の発現、そして世界を狂わせる砲撃ですか。これはこれは……また、面白くなりそうだ」

 

 タジマはレコードされた《ダーレッドガンダム》の砲撃を何度か巻き戻してから、ふふっ、とほくそ笑む。

 

「……何だか三年前に戻ったようですよ。あなたは相変わらず、確率論の向こう側で踊ると言うのは。少年の心で、あなた方を迎え撃ちましょう。とは言っても、最早宇宙と地上は永劫に途絶えた。あなた方が来られるとすれば、それこそ奇跡、ですかね」

 

 佇まいを正し、タジマは管制室を後にしていた。

 

 

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