機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第260話「英雄の走馬灯」

 

 ――扉を潜った先は暗礁の宇宙で、戸惑うよりも先に攻勢に移るべきと言う冷徹な己を発見する。

 

 だが、この次元宇宙の人々はどれもこれも廃材のような人型兵器に身を包んでいるものだ。

 

 それを捕捉した直後には照準補正を行い、向かってくる艦隊へと超重力砲撃を敢行する。

 

 照射された極黒の重力磁場は命中する前に切断されていた。

 

「まずは、一射目が失敗。《ガンダムレヴォル》、次いで第二射を行う。敵の識別信号を受信した後に、重力の投網にかける。ミラーヘッドシステムを受信、この世界の周波数に合わせる」

 

 ロジックで固めた声音で機体に命令し、順応したアイリウムが推進剤に火を通していた。

 

 問題があるとすれば、この次元宇宙での技術特異点たる、「ガンダム」。

 

 だが、先の高重力砲撃を断ち切った相手がこの世界においての「《ガンダムレヴォル》」とは思えない。

 

「敵味方識別を実行したいところだが、今の状況化は得策ではない。艦隊規模への砲撃を持続させ――」

 

 そこで操っていた機体へと向かってくる敵影を関知する。

 

 戦闘機形態へと可変した敵機には無数の武装コンテナが接続され、それそのものが重火力のヤマアラシのようであった。

 

「……あれが、この世界の《ガンダムレヴォル》か」

 

 直感的なものであったのは間違いないが、それでも判断材料としては充分。

 

 そして、迎撃するのに相当する時間も適切であった。

 

「《ガンダムレヴォル》、これより迎撃戦闘を開始する」

 

 照射した高重力砲撃とのたうつ磁場の嵐の中を相手は突破してくる。

 

「……使い手か」

 

 しかしそれは関係がない。

 

 扉を潜って来た以上、ある程度の敵対勢力は予測された領域だ。

 

 それでも相手の執念深さは驚嘆に値する。

 

 武装コンテナより編み出した円柱型の武装が機体表層に触れた途端、相手の回線が入り混じっていた。

 

「……《レヴォル》の掌底を極大化した武装だ。とくと喰らえ」

 

「この、声は……」

 

 戸惑いを浮かべたのが敗因であったのか、あるいはその声に反応したのが決定打であったのか。

 

 自機の機体表層が打ち砕かれ、内蔵骨格が激震される。

 

「……《ガンダムレヴォル》……補正値を設定。敵の脅威判定を更新、敵を《ガンダムレヴォル》だと規定して、ミラーヘッドを帯びた回避運動を」

 

 しかし自分の操る機体の唯一の弱点は、咄嗟の回避がまるで不可能な事。

 

 相手の攻勢に対して、付け焼刃のミラーヘッドでは回避も叶わず、次々と連鎖爆発が起きていく。

 

「《ガンダムレヴォル》……敵機へと最大出力での重力磁場砲撃を開始。拡散重力によって敵を近づけさせるな」

 

 こちらの命令系統を潜り抜けてきた敵機が最大出力を浴びせ込む。

 

 遥かに矮躯でありながら、その速度は目を瞠るものがある。

 

 その掌底が装甲面を貫き、コックピットブロックを叩き据える刹那――夢を、見ていた。

 

 天を衝く巨大構造物と、赤と青の連星に支配された宙域――故郷の記憶が今際の際に掠め、その星で育まれた英雄と言う名の概念が自分を生み出した経緯が瞬間的な走馬灯となって流れ行く。

 

「……俺は、こんなところで終わりなのか……何一つ、救えないまま」

 

 敵機のゼロ距離衝撃波が熱波と獄炎を纏わせてコックピットに守られた自分を焼き尽くす。

 

 最後に感じたのは、死はこうも容易いと言う、ありふれた思考回路であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――さん、クラードさん、聞こえていますか?』

 

 何度か呼びかけられ、クラードはようやく眠りの淵から目を覚ます。

 

「……今のは……」

 

 自分の記憶の中にはない――だが遥かにリアルな光景であった。

 

『クラードさん、現状、《ダーレッドガンダム》の性能評価を下したいのですが……構いませんね?』

 

 接触回線のティーチの訝しむ声にクラードは応じる。

 

「ああ、構わない」

 

『では。クラードさん、《ダーレッドガンダム》の性能面での洗い出し、完了しました。どうやらこれは……別物のMSと見てよさそうです』

 

 ティーチの評価にクラードは《ダーレッドガンダム》のコックピットに潜り込んだまま、インジケーターを確かめる。

 

「全く別種、か。聖獣の心臓の稼働率は?」

 

『それも、なんですけれど……どうやらこの機体、《シクススプロキオン》の権能の一部を引き継いでいるとしか思えないんです。形状に関しては、テーブルモニターを参照してください』

 

 テーブルモニターに映し出された《ダーレッドガンダム》のシルエットは前回までと異なっている。

 

 両肩部に新たなる武装と思しき突起があり、内蔵武装も四つほど増えているようであった。

 

 否、それよりも特筆すべきはベテルギウスアームの形状であろう。

 

 鉤爪の前腕部に、巨大な撃鉄めいた機構が付属され、アーム全体の形状も刺々しく変異している。

 

「……先の報告にあった、変質しているって言うのは本当なんだ?」

 

『ああ、クラード。こいつを前回までの《ダーレッドガンダム》と同一だと判定するのも難しい。正直、出たとこ勝負なのは事実だが……使えそうか?』

 

 サルトルの慮る声にクラードは接続口へと両手を翳し、軽く操って見せる。

 

「両腕の反応速度は問題なし。可動部への思考拡張も接続すればロスは限りなくゼロに出来る。……ただ、整備班の懸念も分からないわけじゃない」

 

『こいつには手を焼くな……。毎回、出来る事と出来ない事が変容するなんざ、まるで生き物みたいだ』

 

「……生き物、か」

 

 サルトルの評もさもありなん。

 

 もし――MFがそれ単体でも成り立つ生命体だとすれば。

 

 操っている自分は一体何者だと言うのだろう。

 

 波長生命体としての力を帯びてでしか、扱えない兵装と仮定して、自分は一体、何に成ろうと言うのだろうか。

 

「……答えのない問いかけだな」

 

『クラード、一応、ティーチの進言でベテルギウスアームの認証する……ダーレッドバスターだったか。それには二段階認証を設ける事にした。お前さんだけの現場判断じゃ危険だってのはおれが見ても分かるからな』

 

「二段階認証? もしもの時に遅れれば困る。それ、俺にとっても有益なんだろうな?」

 

『ああ、これはとっておきなんだが――』

 

 放たれた言葉にクラードは瞠目していた。

 

「……本気?」

 

『本気も本気だとも。これがお前には一番効く薬だってな』

 

「それ、皮肉もいいところだよ。俺が嫌がるって分かってやってる?」

 

『嫌がろうが、お前がダーレッドバスターを撃つに当たって、一度考える時間くらいは必須だろうさ。そのための機構だ』

 

 別段、サルトル達は面白がって付属した機能であるわけではない。

 

 わけではないのだが――。

 

「……やっぱり、飲み込みづらいよ、それ」

 

『だろうな。飲み込みづらいだろうと言うのも織り込み済みだ』

 

 長年寄り添ってきたからこそ出るアイデアなのだろう。

 

 クラードは嘆息をついた後に、《ダーレッドガンダム》の機能を呼び起こす。

 

「……《ティルヴィング》に追い付いたらすぐに戦闘だ。レミアから勝てる作戦を貰えれば俺はそれでいい。……少しこいつと話す」

 

『オーライ、おれ達は《ダーレッドガンダム》を万全にする。それでいいはずだな?』

 

 無言を是として、クラードはレヴォルの意志へと繋げていた。

 

『レヴォル・インターセプト・リーディング、コミュニケートサーキットを構築。専任ユーザーとの120セコンドの対話に移ります。“どうかしたのか? クラード”』

 

「とぼけるな。お前には分かっていたのだろう。……聖獣の心臓を取り込めば、機体が変容する事も」

 

『“予測出来かねる事態だ。何も万能ではないよ”』

 

 その語り口調に既視感を覚えつつ、クラードは問い返す。

 

「……ダーレッドバスターはどのような意味を持つ?」

 

『“こちらで計測している限りは、第六の聖獣の超重力砲撃とベテルギウスアームの持つ砲弾を組み合わせた、画期的な兵装だとも”』

 

「その内情は不明のままで、お前に乗れと言うのは難しい。もっと詳しくは分からないのか?」

 

『“反証不能。何よりも、オフィーリア整備班によってこれ以上の解析は阻害されている”』

 

 サルトル達がレヴォルの意志によって勝手に書き換えられるのを阻んでいるのだろう。

 

 クラードは鎧のパイロットスーツに包まれたまま、いくつかシステムを稼働させる。

 

「……お前が強くなったのならば、それでいい。俺は力だけを望んでこの世界に舞い戻った。……《ティルヴィング》を撃墜出来るのならば、悪魔のような力でも……」

 

 その先を言葉にしようとして直通回線が割り込む。

 

『クラード、次の戦い、正直ちょっとまずいんじゃない? ボクとしちゃ、ちょっと心配』

 

「……メイア・メイリス。生きていたのか」

 

『失敬だなぁ、死んだと思ってたの?』

 

「先の戦いでは生存率は低かったはずだ」

 

『《レグルス》でも案外やれちゃうね。ま、これもボクの才能! なんだろうけれどね!』

 

「冗長な話なら聞くつもりはない」

 

『……カトリナだっけ? あの人、きっとキミの事を誰よりも信じている。ブリーフィングルームの話はボクも聞かせてもらっていたけれど、なかなか出来る決断じゃない。《ティルヴィング》に……囚われているのがオフィーリア艦長の妹さんだっけ? そんなのさ、この土壇場で足を取られている場合じゃないでしょ』

 

「俺はレミアの保留し続けているトリガーだ。レミアがそう望むのなら、俺は引き金を引く権利がある」

 

『でもそれは……権利でしかないんじゃない? 義務とかとは違うはずだよ』

 

 分かった風な事を言うものだ。いや、元々メイアは、自分にとって分かった風な事を言ってのける不明瞭な誰かでしかない。

 

 それはきっと三年前から変わる事もなく。

 

「……レミアが望めば、俺はそうする覚悟がある。味方を撃てと言われればそれでもいい。ただ……権利と納得は近いようで遠い概念だという事だ」

 

『違いないね。納得付くの道なんて、なかなかないもんだよ。そんなのを戦場に求めてこれまでやってこれたわけでもないでしょ?』

 

「……惑わせるな。俺は撃てる」

 

『だろうけれど、ボクの話も聞いて欲しかっただけ。はい、通信終わり!』

 

 一方的に打ち切られたメイアとの会話に、クラードは重く沈殿するものを感じ取っていた。

 

「……撃つ前に、考える事、か。今の今まで見ないようにして来たな」

 

 ダーレッドバスターと呼称される武装が強大であるのならば、自分は一考の余地を挟むような余裕すらないはずだ。

 

 しかし、サルトルもメイアも「考えろ」と言った。

 

 それは何も意味のない殺戮機械へと堕ちるなという忠告であろう。

 

「……馬鹿馬鹿しい。俺は今も昔も、キリングマシーンだ……そうに違いないって言うのに……」

 

 今さら人らしさをこの手に握り締めて何になる。

 

 どこで手打ちになるのかも分からない戦いの中で、人間らしさに足を取られて、では戦えるのか?

 

 真っ当に、勝利を手に出来ると言うのか。

 

『クラード、オフィーリアは《ティルヴィング》への追撃可能距離に入ったわ。あんたの機体が前線を押し出す、それに関しちゃ前の作戦と同じ。違うのは』

 

「聖獣の心臓がこの手にある事。そして、ダーレッドバスターか。……バーミット、まさかあんたも関わったとかじゃないだろうな?」

 

『疑心暗鬼になるのも分かるけれど、今回あたしは関知していない。けれどまぁ、サルトル技術顧問から聞かされたと思うけれど、それってあんたをこの世界に押し留めるのには一番でしょ?』

 

「……どいつもこいつも知った風に言う」

 

『知っているから言えるのよ。そろそろ分かりなさい、あんたも。射出カタパルトへと移送を開始。《ダーレッドガンダム》を出撃姿勢に移らせます』

 

 切り詰めた声音はこの戦局が決して芳しくない事を告げているのだろう。

 

《ティルヴィング》がポートホーム集積地点に到達すれば、その時点で自分達の敗北。

 

 しかしだからと言って、何の考えもなく殺し尽くせばいいと言うわけでもない。

 

「……厄介だな、殺しちゃいけないってのも」

 

《ダーレッドガンダム》がリニアカタパルトへと固定される。

 

『リニアカタパルトボルテージを上昇。《ダーレッドガンダム》を出撃した30セコンド以内に、後続部隊を続けさせるわ。ブリギットから通信来てる。聞いていく?』

 

「必要ない。どうせ、ピアーナの苦言だろう」

 

『そこまで分かっているのなら、考えは一つです、エージェント、クラード』

 

 ハッキングされた通信網へとクラードは真紅の瞳を向ける。

 

「……無駄口を叩いている暇はないはずだがな」

 

『ですから、簡潔に。IMF02、《ティルヴィング》が暴走する事、それそのものでさえもエンデュランス・フラクタル上層部は織り込み済みであった可能性が高い』

 

「俺の一撃のせいじゃないと言いたいのか? 今さらそんな口上があったところで」

 

『ですが、戦地へと赴く足が少しは軽くなったでしょう?』

 

「……本当に、お前らは分かったような事を言うんだな。聖獣の心臓を取り込んだんだ。もう俺も……《ダーレッドガンダム》も違う」

 

『だとしても、諦めを踏み越えるのが貴方のはずです。通信終わり』

 

『ったく、もう。あんたらも素直じゃないんだから。はい! 時間ないんだから出撃シークエンスを省略! 《ダーレッドガンダム》、発進タイミングをエージェント、クラードに譲渡!』

 

 バーミットがわざとらしく声を張ったのも少しは自分を鼓舞する意味合いもあったのかもしれない。

 

 いずれにせよ――迷っているような余裕もない。

 

 戦いに赴くのに、心の行方を彷徨わせている時間は一刻たりとも惜しい。

 

「……《ダーレッドガンダム》、エージェント、クラード。迎撃空域に――先行する!」

 

 青い電流をのたうたせて《ダーレッドガンダム》の機体が射出される。

 

 即座に敵影を睨み据えた自分と呼応して、照準器が自動補正されていた。

 

 どうやらティーチ達が《ダーレッドガンダム》に施した特殊機構が活きるように設定されているらしい。

 

「……ありがたい事だ、敵を睨むだけでいいのは」

 

 両腕を可変させ、接続口からの電位が頭蓋に突き立つ。

 

 脳内ニューロンへと叩き込まれた情報の津波をいなしつつ、クラードは《ティルヴィング》の全容を眺めていた。

 

「前回開いた風穴はそのまま、か。それでも瓦解しない……まさに魔獣だな」

 

 下腹部に開いた風穴から誘爆してくれれば少しはマシな戦いを繰り広げられそうだがそうも言っていられない。

 

 クラードは上空へと展開したアルベルトの声を聞いていた。

 

『クラード。こっちはミラーフィーネで敵を挑発。少しだけでもいい、相手の動きを止める。それでいいな?』

 

「いいも何も、作戦概要は聞いたはずでしょ。なら、俺がいい悪いを口にする領域でもない」

 

『……相変わらずで安心するのも半分ってところだ。ブリギットから出撃した編隊! ダイキとか言うのを先行させて相手の足を潰すのに専念しろ!』

 

『誰に言ってやがる! 俺達が一番、《ティルヴィング》をこれ以上前に進ませやしねぇ! 行くぞ! 野郎共!』

 

 ダイキにもカリスマ性と言うのがあるのだろうか。

 

 あるいは元トライアウトの前歴が効いているのか、ブリギットより出撃したダビデを中心軸とするトライアウトの軍勢は少しばかり纏まりを取り戻したようであった。

 

『……エージェント、クラード。我々はあくまで、相手の進行方向を少しばかり鈍らせるだけだ。切り札はお前の中にある』

 

 ダビデの直通回線にクラードは応じていた。

 

「らしくないな。俺なんかに頼るほうじゃなかっただろ、あんたは」

 

『……そうだな。私も少し、気弱になっているのかもしれない。あれがミラーフィーネを発動させるか、あるいは集積地点を破壊でもすれば、宇宙と地上は三十年も断絶されると聞かされれば、自ずと身構える』

 

「今は身構えたほうがいい。先の触手による奇襲の策も相手は持っている。損耗を減らすのならば、少しばかりおっかなびっくりでもちょうどいいはずだ」

 

『……それもそうか。お前に諭されるとはな。これも意想外か』

 

「いずれにしたところで、これ以上進ませるわけにはいかない。《ティルヴィング》を迎撃する」

 

 ブリギットからの後続編隊が誘導ミサイルによる迎撃網を放つが、それらは《ティルヴィング》が振り向きもせずに放った防衛網によって阻まれる。

 

 ここまではある意味では予測通り。

 

 これ以上どう転がるのかは正直なところ、誰にも予測出来ない領域だ。

 

 クラードは真紅の瞳を《ティルヴィング》へと据えていた。

 

「牽制程度じゃ、蚊が刺したほどでもないんだろう。だからこそ……容赦はしない。ベテルギウスアームを展開、ビームマグナム、発射準備」

 

 鉤爪の兵装へと右腕を沈み込ませ、掌底と一体化した砲身を突き出す。

 

 直後、黒白の弾頭が《ティルヴィング》へと向けて放たれていた。

 

 トリガーを引き絞った感覚さえも薄いが、これまでティーチやトーマ達が造り上げてきた一級の砲弾だ。

 

 軌跡を掻き消し、重力磁場を散らして黒白の砲撃は《ティルヴィング》の表皮へと突き刺さる。

 

 途端、絶叫が放たれていた。

 

 ライドマトリクサーの電位が痺れ、接続された全ての機器が沈黙へと沈み込もうとする。

 

「……これは……ミラーヘッドジャマーか……! まさか咆哮だけでジャマー兵装と同等なんてな……!」

 

 ミラーフィーネにばかり気を削がれていては敗北するという事か。

 

 しかし、高空より仕掛けていたアルベルトの《アルキュミアヴィラーゴ》は白銀の機体を翻させる。

 

 ビームジャベリンを振り翳し、果敢に刃を突き立てていた。

 

《ティルヴィング》のムカデの口腔部より叫びが漏れ、全域に向けてのミラーヘッドジャマーが吼え立てられる。

 

『野郎……ッ! ようやく届いたんだ……無駄にさせっかよ……!』

 

《アルキュミアヴィラーゴ》が蒼い光を明滅させ、ミラーフィーネで相手の阻害兵装を無効化していく。

 

 そのまま二の太刀を振るいかけて《ティルヴィング》の全身が裏返り、砲身を構築していた。

 

《アルキュミアヴィラーゴ》を狙い澄ました砲撃の一斉掃射を、直前に察知して振り解いた機体が下降していく。

 

『“アルベルトさん! このままじゃ機体がバラバラに成りますよ! もっと丁寧に!”』

 

『んな事言ってる場合かよ、マテリア! 精一杯、ゲインを上げてくれ! この程度の馬力じゃ足りねぇ……ッ!』

 

 アルベルトも必死に活路を見出そうとしてくれている。

 

 後続部隊からの火線も絶えない。

 

《ティルヴィング》がようやく振り返り、自分達を敵勢だと認識したようであった。

 

「……今になって敵がこちらだと気付いたみたいな様子だな……!」

 

 全方位に向けて砲撃が仕掛けられ、こちらの機体を振り解こうとする。

 

 第三部隊であるシズクを筆頭とした機体の編成へと最奥に位置する《サードアルタイル》からパーティクルビットによる加護がもたらされていた。

 

『クラードさん……! それにヘッドも! 第三部隊による攻勢が入ります、一度オフィーリアまで帰投して次の手を! そうじゃないとこいつは……!』

 

 グゥエルの懸念が形になるのは、その三秒後にも満たない間であった。

 

《ティルヴィング》が赤い皮膜を形成し、途端に世界は禁じられた夕暮れに染まる。

 

「……ミラーフィーネの広域展開……オフィーリア! ポートホーム集積地点までの位置関係は!」

 

『もうさほど距離なんてないも同然! クラード、時間はないわ!』

 

「……だろうな。だとすれば……」

 

 ビームマグナムの砲身を外し、クラードは鉤爪の内側へと意識を飛ばしていた。

 

 ――感覚する。

 

 この手が喰らった第六の聖獣の鼓動を。

 

 脈動が己と同調し、肉体が拡張した感覚と共に、鉤爪が紫色に輝き、結晶化を果たしていた。

 

 直後には――七色に染まった鉤爪の兵装に熱と意識が宿っている。

 

「……まるで聖獣を右腕だけで御しているような感覚だな」

 

 今にも弾け飛びそうな右腕の疼きに、クラードは奥歯を食いしばる。

 

《ティルヴィング》がそれを関知してか、砲撃網を激化させていた。

 

 弾幕が張られる中で、クラードは敵影を睨む。

 

「……だが、俺達の切り札は、これじゃない」

 

『――ミラーヘッド、加速第二段階! 行きますっ!』

 

 丹田に力を込めた様子の声が弾けるのと同時にオフィーリアより弾丸の如く前線にまで到達したのは――ほとんど丸裸同然の《オムニブス》であった。

 

 まともな兵装はなく、全ては超加速に身を委ねるため。

 

 その速力は恐らく、《ティルヴィング》の関知する速度を超えていたのだろう。

 

 一直線に、愚直とも言える針路を取ったパイロットの声が残響する。

 

『……ファムちゃん……ちょっと苦しいかもだけれど、我慢して……!』

 

『ミュイぃぃぃ……』

 

 相手もまさか兵力として数えられもしない《オムニブス》が切り札だとは想定もしていなかったはずだ。

 

 その証左のように、《オムニブス》はミラーフィーネを受けて速力を減殺していくが、パーティクルビットの加護を得て今――届く。

 

《ティルヴィング》に開いた唯一の弱点。

 

 数多の装甲を打ち砕いた風穴へと。

 

《オムニブス》が触れた途端、声が響き渡る。

 

『キルシー……っ!』

 

 

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