機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第264話「塵芥の戦場」

 

『ミラーヘッドビットだって……!』

 

 通信網を叩いたアルベルトの戸惑いの声に、クラードは《ダーレッドガンダム》で前衛を務めつつ、敵影を見据えていた。

 

 真紅のX字の異形より放たれた無数の敵意に、クラードは改めて対象を捉える。

 

「……新型の《ラクリモサ》……王族親衛隊、ジオ・クランスコールか」

 

『クラード、こっちヤバいぜ! オレらは上がって来たばっかだ! まともな戦闘なんて出来る状態じゃ……!』

 

「分かっている。俺が、敵を抑える。その間に、オフィーリアとブリギットはそれぞれ、安全な航路を取ってくれ」

 

『……何、言って……』

 

「聞こえなかったの? 俺が奴を仕留める。王族親衛隊が来るって言うのなら、諸共だ。《ダーレッドガンダム》なら、それが出来――」

 

 断言しかけた自分へと、アルベルトの機体から接触回線が弾ける。

 

『馬鹿言ってんじゃねぇ! ……お前を、何度も何度もしんどい目に遭わせて、それで平気だとでも思ってんのか! ……オレらはもう、一蓮托生だとかそういうの超えてんだ。今さら……またどっか行っちまうなんて、言わないでくれよ』

 

《アルキュミアヴィラーゴ》がビームジャベリンを翳し、もう片方のマニピュレーターを中空に掲げていた。

 

 それはきっと――自分達にとっての約束手形なのだろう。

 

 ここまで、数多の犠牲があった。

 

 ここに来るまで、どれだけの骸を打ち立てて来ただろう。

 

 その果てに、待っているのが万華鏡との決着であるのならば、応じるのが自分であり、エージェント、クラードの答えのはずだ。

 

 しかし、それ以前に。

 

 アルベルトへと、まだ答えを保留にしていた。

 

 クラードはそっと、左腕を接触させる。

 

 気安い態度で、何でもないように応えて、そして、終わらせてみせよう。

 

「……ああ。俺はエンデュランス・フラクタルのエージェントであり……凱空龍の切り込み隊長だ」

 

『……クラード、オレ達も出来る限り、露払いってのをさせてもらうぜ。お前が万華鏡と戦いやすいようにな。……三年前には出来なかった戦いってヤツを』

 

 今はこうしてアルベルト達も力を誇っている。

 

 ならば、少しばかり任せる事もまた、信を置く戦いには必要だろう。

 

「……ああ、他の連中は任せた」

 

『……クラード……。よし、行くぞ、お前ら! オフィーリアのRM第三小隊、力の見せつけどころだ! 敵が王族親衛隊だろうが知ったこっちゃねぇ! オレらはオレらのために戦うまでだ!』

 

『蛮勇は……馬鹿を見る……!』

 

 一斉掃射されたのは赤い弾頭であった。

 

《パラティヌス》の狙いは明らかに《サードアルタイル》だ。

 

 まずは聖獣を潰し、それから時間をかけて自分達を圧搾していくつもりなのだろう。

 

 平時ならば、自分が矢面に立ち、弾頭を押し曲げるなりするところであったが――クラードは動かなかった。

 

《アルキュミアヴィラーゴ》が駆動し、ビームジャベリンを振り下ろして弾頭を斬り裂いていく。

 

 後方支援であったはずの部隊が動き、めいめいに銃撃を王族親衛隊の《パラティヌス》に向けて放っていた。

 

『何を馬鹿な……! 我々は王族特務だぞ!』

 

『知った事じゃないわよ! 第一、もうとっくに怖がる領域は過ぎている……ってね!』

 

 ユキノの声を嚆矢として、オフィーリアとブリギットより部隊が押し上げていく。

 

 それぞれの声が常闇の宇宙に弾ける中で、クラードはただ、《ラクリモサステイン》を睨んでいた。

 

「……お前の相手は……この俺だ」

 

『納得づく、という風に映る。それとも、やはり蛮勇なのだろうか。王族親衛隊は貴君らに倒される程度の熟練者ではない』

 

「そうだとしても……俺は連中を信じたい。いや、信じてもいいのだと、思えるようになってきた」

 

『信じてもいい、か。それは自分の知るエージェント、クラードの言葉とは、どうにも捉え難い』

 

「お前の知っているクラードは、三年前に一度死んでいる。だが、今度はどうだ? 万華鏡、ジオ・クランスコール。俺を完膚なきまでに、殺し尽くせるか? 二度と立ち向かってこないようにまで」

 

『《ラクリモサステイン》にはそれが可能だ。貴君は今一度、敗北の前に打ちひしがれるがいい。ミラーヘッドビット、電荷』

 

 四方八方より迫るミラーヘッドビットの軌道に、クラードは右腕を払うイメージを伴わせる。

 

 途端、ベテルギウスアームに内包された漆黒の電磁が拡散し、引き絞られかけたビーム粒子を霧散させていた。

 

 ミラーヘッドビットは恐れを抱いたように硬直する。

 

「答えはそう容易くはない。――行くぞ、ジオ・クランスコール。最後の……戦いだ」

 

『貴君の赴き、そして戦い振り、しかと見届けてきたつもりであったのだがな。想定以上だとも、エージェント、クラード。通信回線、Pの73621を開け』

 

 思わぬ要求にクラードは片耳に嵌めている通信回線を開いていた。

 

 その暗号通信が導き出す答えは――。

 

『幾度となく、お前の道標となってきたつもりであったのだが』

 

「……ロキ、か? この三年間、俺を支援してきた……」

 

 だがその正体がまさかジオ・クランスコールだとは思いも寄らない。

 

『お前は強くなった。だがその答えの果てに、自分が立つ。これは確定事項なのだろう』

 

「……惑わせるつもりか? それとも手心でも? 俺はお前がこの三年間、俺を生かしてきた理由なんて知るつもりはない。俺を殺せなかった、その不手際だけを悔いて、死んで行け」

 

『よく吼える。だがそれも事実か。自分は三年前に殺し損なったお前に、少し肩入れしていたらしい。あの時、何故死ななかった。いっその事、死んだほうが楽でさえもあっただろうに。それとも――ああ、そうか。《レヴォル》に守られて、無様にも生き永らえたか』

 

 その最大限の侮辱に、クラードはベテルギウスアームへと右腕を沈み込ませていた。

 

「――黙っていろ。今、お前のその喉笛を……噛み千切ってやる」

 

『獣に堕ちて、では如何にする。お前はその程度であったか、クラード』

 

 一拍の呼吸を挟み、クラードはその刃のような意志を真紅に染め上げていた。

 

「……《ダーレッドガンダム》、エージェント、クラード」

 

『名乗りとは、古風なものだ。だが、応じよう。《ラクリモサステイン》、ジオ・クランスコール』

 

「――ゲインをぶち上げろ。万華鏡、ジオ・クランスコールを……迎撃する!」

 

『そのほうの威勢を吹き飛ばす。行け、ミラーヘッドビット』

 

 再びミラーヘッドビットが高速で肉薄する。

 

 先ほどよりも細かく推進剤を焚いたミラーヘッドビットの段階加速は通常のパイロットではまるで読めない機動速度だ。

 

 だが、自分は――《ダーレッドガンダム》に乗り込み、そして波長生命体に至ったこの身ならば。

 

「……拡散重力磁場を放出。ミラーヘッドビットの攻撃網を掻い潜りながら、敵影へと接近する」

 

 闇を内包する鉤爪を振るい上げ、蒼い軌跡を描くミラーヘッドビットより引き絞られたビーム粒子を叩きのめしていく。

 

 その首筋に喰いかかる覚悟で、クラードは《ダーレッドガンダム》を加速させていた。

 

 まずは段階加速一段階目で《ラクリモサステイン》の絶対防衛網に至ろうとして、上下より噛み砕く顎の粒子の檻に阻まれる。

 

 しかし、今の自分には第六の聖獣の力もある。

 

 そのまま薙ぎ払った勢いでミラーヘッドビットの権能を奪っていき、相手が立ち回るよりも素早く、的確に。

 

 そして何よりも雄弁に。

 

 殺意と敵意だけを伴わせて、刃の如くあれ。

 

 鉤爪が《ラクリモサステイン》までの距離を阻むと言うのならば、その距離を「殺す」。

 

 一瞬で大写しになった赤い機体に、クラードは奥歯を噛み締めてベテルギウスアームを振るい落とす。

 

『なるほど、やるようになったというわけだ、一端程度には』

 

「嘗めていれば……お前は墜ちる!」

 

『だがこちらも、言わせていただこう。聖獣の心臓を喰らったのは、貴君だけではない』

 

 黄金の閃光が掠める。

 

 その一瞬にも満たない交錯で、クラードは瞬時に後退していた。

 

《ダーレッドガンダム》の躯体に差し込まれたのは金色の帯状の攻撃であった。

 

 その攻撃手段の持ち主を、自分は知っている。

 

 否――殺さなければならなかった対象だ。

 

「……《ファーストヴィーナス》の権能……」

 

『その通り。ここから先は、自分としても未知の領域だ、エージェント、クラード。聖獣の力、振るった程度でそう容易く踏み潰されないで欲しい。自分を三年前のように、失望させてくれるな』

 

《ラクリモサステイン》の纏っている戦闘の色彩が変異する。

 

 黄金の装甲と、そして帯を身に纏い、一瞬にしてその攻撃方法と手段が切り替わっていた。

 

 今の《ラクリモサステイン》は無数の自律兵装と、そして《ファーストヴィーナス》の力を兼ね備えた――最強の存在。

 

「……万華鏡、その名が廃る事はないと言うわけか」

 

『エージェント、クラード。刻むといい、第一の聖獣の息吹を。これが、貴君の死の形になるかどうかは、さて、何分持つだろうか、な』

 

 四方八方と言う生易しいものではない。

 

 空間を満たし切った殺意の刃が全方位より放たれ、クラードは次の瞬間には、鉤爪より溢れた黒白の磁場砲撃を実行していた。

 

 少しでも加減――否、力の使い方を見誤れば喰われる。

 

 それが双方ともに了承として降り立ち、深淵の宇宙の闇を掻くようにして、《ダーレッドガンダム》と《ラクリモサステイン》は交差していた。

 

 互いに能力の限りを尽くし、そしてお互いを殺すために。

 

 聖獣の力を手に入れた者同士、生き残るのは確実にどちらかという結果になる。

 

 明瞭なる事実に今は時さえも忘れて――殺し殺され合おう。

 

 

 

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