機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

269 / 323
第266話「代価の道を行く」

 

「弾数……全然足りねぇ……ッ! こんなのってあるかよ……!」

 

『《アルキュミアヴィラーゴ》、帰還したぞ! すぐに補給班を回せ! ミラーヘッドジェルの回復も、だ!』

 

 サルトルの声が響き渡る格納デッキでアルベルトは汗が滲んだ顔を拭っていた。

 

『アルベルトさん、お疲れ様です。首尾は……』

 

 不意に接続された接触回線にアルベルトは視線を振り向けていた。

 

「ああ、シャルか……。こっちは似たようなもんだ。すぐに戻らないと全員、危うい……。《サードアルタイル》……グゥエルのほうはどうなってる?」

 

 コックピットブロックが開放されると同時にノーマルスーツに身を包んだシャルティアが視界に入る。

どうやら彼女も機体整備を手伝って漂っているようだ。

 

『グゥエルさんは常に回線をオンにしていただいています。何せ……聖獣ですので……』

 

「ヤバいのか?」

 

『……《サードアルタイル》の状況は今のところ、王族親衛隊、《パラティヌス》の対聖獣弾頭を受ければ弱体化します。それを狙わせないように、ピアーナさんの率いるブリギットの部隊が展開しているみたいですが……』

 

「ピアーナ、か……。あいつなら上手くやってくれるだろ」

 

『“何ですか! アルベルトさんは相変わらず、オリジナルのわたくしに信を置き過ぎでしょうに!”』

 

 浮かび上がったマテリアにシャルティアが僅かに怯えたように後ずさっていた。

 

『うわっ……コックピットの中なら、頭身も自由って本当だったんだ……』

 

『“当然ですよ、シャルティアさん。あ、いえ……これは別段、自分でメイキングしたのであって、そりゃあ通常戦闘時は二頭身のほうが燃費もいいですので”』

 

 マテリアはピアーナと同じ頭身に自身を再デザインしているが、彼女の要望なのか胸元だけの主張が強い。

 

「……あのよ、マテリア。MSのコックピットに女が二人押しかけるのってカッコつかないんだが」

 

『“何を言ってるんですか! 今くらいですよ! この宙域はそうじゃなくとも、存在力と言うべきものがとても強いんです。恐らくは、地上で破壊された《ティルヴィング》の影響を、わたくし達も自然と受けていると考えるべきでしょうね”』

 

『……と、言う事は……今ならミラーヘッドも普段より強い、って事ですか?』

 

「そう楽観的になれるかよ。マテリア、ミラーヘッドオーダーの受諾速度は?」

 

『“現在、こちらが優位に立っていますが、相手は王族親衛隊。優先権があります”』

 

「……ってこたぁ、このまま長期戦になればなるほど、押されちまうって事か。分かりやすいが、ちとマズイな。王族親衛隊と真っ向からやり合うのは初めてだが、連中、かなりの使い手なのは間違いねぇだろうし……。マテリア、《アルキュミアヴィラーゴ》の反応速度、上げておいてくれ」

 

『“今のままでもかなりレスポンスは向上していますが?”』

 

「オレが反射的にそう思った瞬間には武器が動いているほうがいい。RMの深度レベルも最適化して欲しい」

 

『“ですがそれは……アルベルトさんの意識の低下を招きます。もしもの時に撃墜でもされれば……”』

 

「迷っている暇ぁ、ねぇんだよ、マテリア。頼む」

 

 こちらの声が真に迫っていたせいだろうか。

 

 それともマテリアとて、この戦場が決して上手く回っていない事を理解しての決断だったのかもしれない。

 

『“相変わらずの分からず屋ですね。しかし、専属アイリウムとしてはその決断を後押しせずにはいられません。了承しましょう”』

 

「……さて、そろそろミラーヘッドジェルも装填される頃合いだろうぜ。《アルキュミアヴィラーゴ》、再出撃を――」

 

『待って……! 待ってください、アルベルトさん……!』

 

「何だよ、シャル。今は一秒でも戦場を離れるわけにはいかねぇんだって……」

 

 シャルティアは不意にノーマルスーツのバイザーを上げ、そっと自分の唇へと口づけしていた。

 

 想定外よりも完全な不意打ちに、アルベルトは驚嘆したまま彼女を見返す。

 

「……お前……」

 

「……必ず帰ってきて。これは委任担当官としての……いえ、何でもないのかもしれませんけれど」

 

 どこか遊離したような光景に、アルベルトは今の今まで封殺していたラジアルの面影を重ねていた。

 

「……違う、お前は……ラジアルさんとは……違うんだ」

 

「ええ、違います。姉とは違う、シャルティア・ブルームとして。……生きて帰って来てください。命令ですよ」

 

 シャルティアはバイザーを下げて機体から離れていく。

 

 放心した状態の自分へとマテリアが小突く。

 

『“いつまでそうやってるんですか、アルベルトさん? もしかして、はじめてのチューでしたか?”』

 

「バ……ッ! 馬鹿、てめぇ何言って……!」

 

『“……ちぇー、何だか損した気分です。他人のノロケなんて一番見せつけられたくないって言うのに”』

 

「……お前、やっぱピアーナとは違うんだな。そんな事、あいつは言わねぇだろ」

 

『“だから、わたくしはマテリアなんですってば。で? どうでした?”』

 

「どうって……オレみたいなのに、……あんな約束、するもんじゃねぇだろ。そればっかりは、……あいつの期待に応えられるかどうか……」

 

『“いえ、そうではなく。キスの味と言うものを、知りたかっただけですので”』

 

 完全に毒気を抜かれたという意味ではマテリアの軽口に、アルベルトは面を伏せて言い返す。

 

「本当にてめぇは……! 下らねぇ事言ってねぇで準備しろ。アイリウムが機能しないんじゃ、MS乗りに取っちゃ形無しもいいところなんだからな」

 

『“はいはーい、じゃあ充分に仕事しましょうか”』

 

 二頭身に戻ったマテリアが機体制御系に干渉し、コックピットの中が再び戦闘の息吹を帯びて《アルキュミアヴィラーゴ》がカタパルトデッキへと移送されていく。

 

『アルベルト氏、中距離専用のガトリングガンを追加装備しておきましたっす。接近戦だけでは辛いはずですので』

 

 トーマの言葉にアルベルトは目線だけで応じて返答する。

 

「近距離だけの敵じゃ、ねぇだろうからな」

 

『気を付けてくださいよ。……先ほど入った情報ですが、宙域に艦影あり、そのクラスからして恐らくは……モルガンとの解析結果が出てるっす』

 

「モルガン……って事は……」

 

 最悪の遭遇戦になる可能性に、アルベルトは奥歯を噛み締める。

 

 相手がトキサダであろうと誰であろうと、今は振り解くのみだ。

 

 今の戦局で敵を選り好みしている時間も余裕もない。

 

「……了解した。《アルキュミアヴィラーゴ》、カタパルトに固定」

 

『カタパルトボルテージを80まで上昇。アルベルト君、もう聞いているかもしれないけれど、モルガンの騎屍兵が来るとすればこの局面と読みが出ているわ。あたし達は前を行くMS部隊の援護砲撃くらいしか出来ない。だから、前は任せたわよ』

 

「了解です。どっちにしたって……オレは前に行くしか……」

 

 そこでつい先ほどの口づけを思い返す。

 

 シャルティアの心は自分に縋っている。

 

 そんな状況で、負けるわけにはいかない。

 

「……重いよな。こんな重さを背負って……お前は行ったのか、クラード。……なら……負けてられねぇよなァ……ッ!」

 

『《アルキュミアヴィラーゴ》、射出タイミングをパイロットに譲渡します』

 

「了解ッ! 《アルキュミアヴィラーゴ》、アルベルト・V・リヴェンシュタイン! 出るぞー!」

 

 青い電磁を弾き飛ばして《アルキュミアヴィラーゴ》の躯体が宇宙へと躍り出る。

 

 瞬間、最大風圧のように向かってくる砲撃網を関知して掻い潜っていた。

 

『“瞬間高熱源! 回避運動を取ります!”』

 

「サポート頼むぜ、マテリア! 相手の懐に潜り込む!」

 

《アルキュミアヴィラーゴ》が加速し、そのまま敵影と衝突していた。

 

 敵機は《ネクロレヴォル》に無数のバーニアと火力装備を施した重火力型の機体であった。

 

 青い推進剤を散らし、速度面でこちらを圧倒した敵機は、腹部隠し腕よりビームサーベルを現出させる。

 

「なろ……っ!」

 

 ビームジャベリンを打ち下ろし、干渉波のスパーク光が散る中で、接触回線が弾けていた。

 

『……その機体、《アルキュミア》の改修機……! アルベルト、あんただな?』

 

「てめぇ……トキサダ! トキサダなんだろ! だったら、こんなの意味がないって分かるはずだろうが! お前は……オレよか頭も回るヤツで――」

 

『黙れ。アルベルト、あんたはいつもそうだよな。要らない感傷に足を取られて、それで敗北するんだ。あんたには分からないだろうさ。おれが失ってきたものも、これから先、失い続けるものも。あんたはそうやって……無遠慮に奪っていく。だから、おれも奪わせてもらう。あんたの腐った理想を、《ネクロレヴォル高度改修型弐番機》――《プロミネンス》の恩讐の炎で!』

 

《プロミネンス》と機体照合された紅色の《ネクロレヴォル》は弾かれ合いながら、マウントされているビームタレットと実弾のマシンガンを掃射していた。

 

 弾幕をこちらもビームガトリングガンで応戦しながら、アルベルトは胃の腑を押し上げる重圧を感じつつ、《アルキュミアヴィラーゴ》で接近戦を挑む。

 

「何のためだ! オレらが戦う理由なんざ……ねぇはずだろうが! そりゃ……お前も辛かったのは分かる……! この三年間、騎屍兵身分だったって言うんなら……。だけれどよ、トーマさんは待ってんだぞ! お前の帰りを……ずっと、ずっと……!」

 

『それこそ戯言だよ、アルベルト。あんたはそうやって、誰かに戦う理由を押しつけて、さぞいい身分だろうな。おれには自分という一しかなかった。昔から、ずっと。だからクラードと仲間ごっこをするあんたが……鬱陶しかったんだ……!』

 

「クラードだって辛ぇんだ! オレが分かってやんなくって誰が分かるってんだよ!」

 

『その辛さを他人に帰属している時点で、あんたはおれには勝てない。イレブン、騎屍兵部隊を敵艦へと向かわせてくれ』

 

 自分が相対している隙を狙い、他の《ネクロレヴォル》編隊が第一線を突き抜けてオフィーリアへと向かおうとする。

 

「させるか! マテリア、やれるな?」

 

『“誰に言ってるんですか! 思考拡張、マルチロックオンシステムを解放! アルベルトさん、ちょっと思考を借りますよ!”』

 

 瞬間、脳内に割り込んできたマテリアの領域を飲み込み、ライドマトリクサーの照準システムが介在され、《アルキュミアヴィラーゴ》に仕組まれた白銀の自律兵装が四方八方を飛び交っていた。

 

『……これは、まさかミラーヘッドビット……!』

 

「当たれぇ――ッ!」

 

 拡散した思考脳波を拾い上げた自律兵装が小刻みに稼働し、《ネクロレヴォル》部隊の道を阻むようにビーム粒子の砲火を放つ。

 

 アルベルトは今の一撃だけでも息を切らしていた。

 

 マテリアに譲渡しているとは言え、自身の思考脳波を相手に間貸しする感覚は何度も味わうものではない。

 

 しかし、渋っていればそれだけ損耗が出る。

 

 ならば――自分の切り売りくらいは喜んで請け負おう。

 

『……アルベルト、あんた、おれ達相手に勝てると思っているのか? それがどれほど傲慢な事か、分かっての行動なんだな?』

 

「……ああ……っ! オレはトキサダ……てめぇを止める。止めるだけの意地がある……!」

 

『止めるだけの意地、か。事ここに至って殺すと言えないあんたの弱さが滲んでいるよ。おれ達は騎屍兵! 世界の裏側で戦い続ける、骸の兵隊だ!』

 

「……なら、そんな宿命からお前を取り戻す……! それがオレなりの……運命への叛逆だ……!」

 

『……ちょっとやそっとで下がりそうもない敵だな。イレブン、これから好機を作る。その間に敵艦へと一気に攻めてくれ。そうしなければここで立ち往生だ』

 

「攻め立てる? そんなの、許すと思ってんのか? ……トキサダ、オレはお前をもう一度……取り戻すまで、ここでてこでも離れる気はねぇ……!」

 

『てこでも、か。いい事を教えてやろう、アルベルト。今モルガンにはある要人を同乗させている』

 

「……それを守るのがてめぇらの役目ってワケか」

 

『別に、そんな義理はないんだがな。アルベルト、そいつの名は――ディリアン。ディリアン・L・リヴェンシュタインだ』

 

 最初、何を言われたのかアルベルトは認識出来なかった。

 

 トキサダは今、誰の名前を口にしたのだ?

 

「……何、だって……?」

 

『ディリアン・L・リヴェンシュタイン。その名前を、あんたは忘れちゃいないだろう。ラジアル・ブルームを殺した原因を作った人間であり、そしてあんたの実の兄だ』

 

「……ディリアンが……あいつが、モルガンに居るってのか……?」

 

『何度も問い質すものじゃないだろう? ディリアンを、あんたは誰よりも殺したいはずだよな?』

 

 思考が白熱化していく。

 

 久方振りに湧いた芯からの怒りが、冷静な判断を失わせていた。

 

「……ヤツを……殺せるのなら……オレは……!」

 

『だがな、アルベルト。おれからしてみれば、モルガンは旗艦だ。どれだけ外道が居ようとも、守り通すのが騎屍兵としての職務だ』

 

 アルベルトは瞬間、ビームジャベリンを振るい上げていた。

 

 それに呼応するように《プロミネンス》が隠し腕のビームサーベルで弾く。

 

「……退けよ、トキサダ。今からモルガンを墜としに行く」

 

『退くわけないだろう。ディリアンを殺したければ――おれを殺して行け。それが最低条件だ』

 

「……退けよぉ……っ! お前だって、苦しかっただろうが! ラジアルさんの……あの人のかたき討ちが出来るって言うなら、オレは……!」

 

『もう生前の感情なんて忘れたよ。おれは何とも思っちゃいない。だが、あんたは行けるか? 殺したいほど憎い相手を、無視出来るような性質じゃないだろう? 殺しに行くのなら、おれを殺してから行けよ、アルベルト・V・リヴェンシュタイン』

 

「オレをその名で呼ぶんじゃねぇ――ッ!」

 

 怒りのままに《プロミネンス》と何度も交錯を続ける自分へとマテリアが呼びかける。

 

『“アルベルトさん! 他の騎屍兵が……包囲網を抜けて……!”』

 

「黙ってろ……! 今ばっかりは……漢の……戦いだ」

 

『クサい台詞を吐くようになったじゃないか、アルベルト。あんたにしてみれば、ラジアル・ブルームの死は格好つけるための逃げ口上か?』

 

「トキサダ……! お前が邪魔するんなら……お前だって敵だ……!」

 

『いいとも、アルベルト。来いよ。おれに勝てなければ所詮はそこまでだ。《プロミネンス》の性能を見せてやる』

 

「トキサダァ……ッ!」

 

《アルキュミアヴィラーゴ》のビームジャベリンが《プロミネンス》のビームサーベルと交錯し、干渉波のスパークを散らせる。

 

 互いに何度も弾かれ合い、何度も必殺の太刀を見舞うが、決定的な一打にはならない。

 

 それも、分かり切っている。

 

 ――何年間、お互いの背中を預け合ったと思っているのだ。

 

 信頼の証が今ばかりは凶兆となって差し込み、《プロミネンス》は段階加速で直上より弾幕を見舞う。

 

「……なろ……っ!」

 

 無理な回避運動を取らせながら、マテリアへと声を飛ばしていた。

 

「マテリア! 《アルキュミアヴィラーゴ》のミラーヘッドビットで相手を狙え! ……オレだけじゃ足りねぇ……ッ!」

 

『“でも、いいんですか……アルベルトさん。データ上には、トキサダ・イマイはあなたの……”』

 

「オレがいいって言ってんだ! ……それに何よりも……中途半端な気持ちじゃ押し負ける……! 殺すつもりで行かなけりゃ、やられるのはこっちになるぞ……!」

 

 それは明瞭に分かり切っていた。

 

 粒子束と実弾が何度も《アルキュミアヴィラーゴ》の白銀の躯体を震わせる。

 

 恐らく、火力上は相手のほうが上手。

 

 それでいて、敵機もレヴォル・インターセプト・リーディング搭載機となれば、半端な覚悟で勝つ事は不可能であろう。

 

「……マテリア。オレの全部、お前に託す。ミラーヘッドビットを展開して、ヤツを包囲する。相手の動きが削がれたところに、格闘戦でケリつけりゃいいだけの話だ」

 

『“……分かりました。アルベルトさん、思考照準借りますよ。ミラーヘッドビット、ハイマニューバ! マルチロックオン!”』

 

 意識の片隅がマテリアによって間借りされ、アルベルトは機体を押し上げつつ、ミラーヘッドビットの拡散磁場を関知していた。

 

「外さねぇ……! 行け、ミラーヘッドビット!」

 

 白銀の穂先であるミラーヘッドビットが《プロミネンス》を照準すべく疾走するが、相手はその大柄な躯体に備え付けられているビームライフルで一射していた。

 

 ミラーヘッドビットのうち、一基が粉砕され、脳髄を揺るがすダメージフィードバックが集約する。

 

 悲鳴を上げたマテリアの身体がブロックノイズに揺れるのを視界の一部で感じつつ、《アルキュミアヴィラーゴ》を上昇させていた。

 

「……トキサダ……オレは……お前を、撃つ!」

 

『来いよ、アルベルト。そんなだからあんたは、いつだって取りこぼす。本気で殺しに来い。おれは手加減なんてしない。鬱陶しい――羽虫が!』

 

 背部より迫ったミラーヘッドビットを相手は振るい落としたサーベルで叩き落としていた。

 

 ダメージの疼痛を味わいつつ、アルベルトは奥歯を噛み締める。

 

「……敵機は、見えてやがんのか……?」

 

『“恐らく、アイリウムによる補助を最大まで拡張していると推測されます。……ですが、それは……あれだけの機体追従速度、パイロットのRMの規模が八十パーセント以上と推測されます”』

 

「……トキサダ……お前は……」

 

『今さら同情なんてするなよ、アルベルト。おれは勝利するためにここに居る。そうさ、おれは騎屍兵だ!』

 

 その覚悟に唾を吐けるわけもない。

 

 アルベルトは残存した自律兵装を機体後部に集め、ビームライフルを構えていた。

 

「それがてめぇの覚悟なら……! オレはそれを叩きのめすまでだ! 全砲門、一斉掃射!」

 

 機体各所のハードポイントが開き、重火力が《プロミネンス》へと突き刺さらんとする。

 

 敵機は機体を急速降下させて回避しようとするが、いくつかは掠めて装甲が赤熱化していた。

 

 舌打ち混じりにパージさせ、《プロミネンス》が真正面から向かってくる。

 

『あんたは……ここで墜ちろ!』

 

「トキサダァ――ッ!」

 

『おれはそんな名前じゃない! ゴースト、ファイブだ! いつまでも! 生前の名前にしがみつくのはみっともないって言っているんだ! それくらい分かれよ、あんたも!』

 

 刃を交わし、想いを交わしながら、情念だけが滑り落ちていく。

 

 こんな戦場に誰がした?

 

 こんな宿命に誰がしたと言うのだ。

 

 アルベルトは下唇を噛んで己の想いを封殺していた。

 

「……オレは守らなくっちゃいけねぇ……! クラードを、オフィーリアのヤツらを……! オレの大切なもの達を!」

 

『なら、おれを踏み越えて行け! アルベルトォッ!』

 

 互いに満身より咆哮し、振るった剣閃が装甲を融解させている。

 

「……どんだけ想いがあったって、そこまでだって言うのかよ……トキサダ……」

 

《プロミネンス》の砲火が機体へと集約する。

 

 それと同時に自律兵装を走らせ、相手の装甲を撃ち抜いていた。

 

 距離もない。

 

 そして、何よりも時間の猶予もない。

 

 クラードの決着の時、自分が宿縁を抱えていたのでは話にならない。

 

「……オレはオフィーリアを守る! もう、誰も死なせやしねぇ!」

 

『感動的だな、アルベルト。だが、あんたの言う理想はことごとく死んでいく!』

 

「なら、もう死なせないって誓うまでだ!」

 

 宇宙の深淵を引き裂く雄叫びを上げて、想いの形の両者がぶつかり合う。

 

 その戦域を一歩も譲らず、アルベルトとトキサダはただただ願いの具現として、刃を振るっていた。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。