機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第268話「宇宙の徒花」

 

『弾薬は全く足らないんだ。《サードアルタイル》のパーティクルビットで加護を引き受けつつ、王族親衛隊の対聖獣弾頭を叩き落とすぞ』

 

 ダビデからもたらされた言葉にメイアはふんと鼻を鳴らす。

 

「弾頭を叩き落とすって根性論じゃん? なかなかに難しいと思うなぁ」

 

『やってみせるんだろう? なら、少しは見せてもらわないとな』

 

「はいはーい。ま、一宿一飯って言うか、それくらいは返すよ」

 

 余裕を気取ってみせるが、既に劣勢。

 

《パラティヌス》が前衛後衛を入れ替えつつ、間断なく砲撃してくるのに対して、こちらはパーティクルビットによる護りしかまともにない。

 

 しかも、《ネクロレヴォル》隊も介入してくるとなれば戦力は絞られていくばかりだ。

 

「……まったく、嫌になっちゃうなぁ。こうも敵との彼我戦力差ってのがあると」

 

『弱音を吐いている場合でもないぞ。敵勢を駆逐する』

 

《レグルスブラッド》の後部につき、ミラーヘッドの段階加速を経て《ネクロレヴォル》隊と、そして王族親衛隊との決戦に分かれていた。

 

 自分は《ネクロレヴォル》との交戦だ。

 

「悪いね。そっちにも一宿一飯はあるんだけれど、更新されちゃった」

 

 ビームサーベルを打ち下ろすが、さしもの相手もレヴォルタイプ。

 

 パワー面での不足は否めず、瞬時に腰部にマウントされていたレールガンで距離を稼ごうとする。

 

 しかし、相手は瞬時にミラーヘッドを展開し、全方位からの攻撃に切り替えていた。

 

 メイアはマニュアルで推進剤を焚き、火砲を掻い潜っていく。

 

「なかかなにしつこいじゃんか。それとも何? ボクがこっちに居るほうが意外?」

 

『……メイア・メイリスだな。始末するように命令が出ている』

 

「その命令系統ってさ、やっぱしエンデュランス・フラクタルなのかな。キミらはリクレンツィア艦長に忠誠を誓っていたはずだろう?」

 

『艦長は関係がない。我々は駒だ。大事を成すために、世界を欺く事を許されし駒。ならば、駒には駒の意地がある』

 

「駒の意地ね……。なら、ボクだってそうだ! 宇宙最強のアーティストに――成っちゃいないんだからさ――っ!」

 

 何度か刃を交錯させつつ、ビームライフルで牽制し、メイアは戦場の移り変わりを目の当たりにしていた。

 

「敵勢はクラードとアルベルトに分かれた……。でも、油断出来ないよね。このままじゃどうなるのかまるで分からないんだから」

 

『貴様らは敗北する。我々は勝利する、それが確定事項だ』

 

「確定事項、ねぇ。そういう風な事言う奴は、大概負けちゃうんだけれど。フラグって奴? でもさ、ボク相手に勝つなんて強気だね? 《レヴォル》を動かせたって言うのに」

 

『最早、レヴォルタイプはオープンソースだ。それを特別視する事に意義を見出せない』

 

「分かってるって。マジレスやめなよ」

 

 相手がこれで少しでも隙を見せてくれれば、と思っていたが、敵機は思ったよりも冷静らしい。

 

『一つ、言っておくが、私を含め騎屍兵に揺さぶりは通用しない。時間稼ぎもいいところだな』

 

「……そうかな。こっちも一つ、言っておくとさ。ボクってば中距離戦のほうが得意なんだよね」

 

『近接格闘兵装を使っておいて吼えるものだ。次で首を刎ねる』

 

「威勢結構。さぁ、やろうか」

 

 ミラーヘッドの両翼を用いた重火力でこちらの足を潰す方策を用いつつ、本体が大上段に刃を掲げる。

 

 メイアは火線を抜けつつ、携えたビームサーベルの剣戟で鍔迫り合いを行う。

 

 スパーク光が目に焼き付く中で、慣性運動で機体を横滑りさせて、弾かれ合った直後にビームライフルを照準しようとして、そのロックオン機能を奪われていた。

 

《ネクロレヴォル》の隠し玉だったのか、袖口から射出されたアンカーナイフがビームライフルを握るマニピュレーターへと深々と突き刺さる。

 

 途端、膨れ上がった暴発で視野を眩惑されたメイアは後退しようとして、段階加速を経た《ネクロレヴォル》に距離を詰められていた。

 

『終わりだな』

 

「そうだね……キミが」

 

 相手がこちらの思惑に理解する前に、メイアは宙域を流れるビームライフルへとワイヤーアンカーを絡みつかせていた。

 

「後ろに目を付けなよ、ってね!」

 

 アンカー武装がトリガーを引き、《ネクロレヴォル》の機体を貫いていた。

 

 つんのめった《ネクロレヴォル》が、最後の足掻きとでも言うようにビームサーベルを引き抜いて接近する。

 

「ああ、もうっ! うざったいったら!」

 

《レグルス》で浴びせ蹴りを見舞うと共に収縮爆発が引き起こされ、片足を持って行かれていた。

 

『メイア・メイリス! 無事か?』

 

「ああ、うん。片足失ったけれど、これでも無事。……にしたって、性能差って奴かなぁ」

 

『……吼えられるのならば、ブリギットの包囲陣まで後退。パーティクルビットの守りも薄くなっている……。《サードアルタイル》はあれでも継続戦闘を行っている身だ。あまり無茶は言えなくなっているのだろうな』

 

「お優しいなぁ、ジェネシスのDDは。けれど、一旦後退ってのはマジの話。《サードアルタイル》の弾幕が薄くなっているのはきっと……操る人間の違いかもしれない」

 

『……報告にあったファム・ファタールと言う少女が元の持ち主、と言う話だったか。それもどこまで……いや、待て。メイア・メイリス。これは……高熱源……?』

 

「何で疑問形? ってか、この距離で熱源警告って……」

 

 声を放ち切る前に、ブリギットの横っ腹を叩いたのは放射されたビームの光軸であった。

 

 思わぬ攻勢にメイアは声を弾けさせる。

 

「モルガンの砲撃?」

 

『……いや、違う……新手か……!』

 

 ダビデの忌々しげな声音と共に拡大モニター上に投影されたのは艦艇よりも遥かに巨大な――。

 

「これ、何……? 鎧?」

 

『識別信号なし。艦でもなければ、MSでもない……。MAか?』

 

「こんな巨大なMAなんてある? いや、類似したものを上げるとすれば……これって……!」

 

『トライアウトブレーメンより声明が下っています。各員、オープン回線に合わせ……。今しがたの砲撃の意味、問い質さないわけにはいきません』

 

 ピアーナの切り詰めた声音にメイアは回線の周波数を合わせ、《レグルス》のコックピットの中で反響する通信を聞く。

 

『――通達。これよりトライアウトブレーメンは、エンデュランス・フラクタルと結託し、レジスタンス勢力の一掃を行う。王族親衛隊は下がっていただきたい。高出力ビーム兵装の邪魔になる』

 

「トライアウトブレーメン……? って、軍警察の第三勢力じゃんか……!」

 

『まさか、裏で動いていたとはな。色々と尾ひれのつくタイプの勢力であったが……ここで我々と敵対するか……!』

 

『こちらの主戦力はIMF01、《ヴォルカヌスカルラ》。貴君らが地上で戦ったIMF02、《ティルヴィング》を制御下に置いたものである。これと戦う意味が分からぬほど、無知蒙昧でもあるまい』

 

「……嘘でしょ。まさか、また魔獣? しかも今度は……空間戦闘用だって?」

 

『嘘でも狂言でもないのは、ああして屹立する事で明らかか。どうする、ブリギット艦長。このまま相手にされるがままと言うわけでもあるまい』

 

 ダビデの繋いだ言葉に、ピアーナから慎重な声が漏れ聞こえる。

 

『……通常ならば、このまま戦闘に入っても構わないのですが、我々の主戦力である、クラードの《ダーレッドガンダム》と、アルベルト様の《アルキュミアヴィラーゴ》は依然、戦闘中。しかも、クラードは万華鏡との戦いの中です。ここで援護してくれとは言えません』

 

「じゃあ、どうするってのさ! ……ボクらだけで魔獣と戦えって?」

 

『そうではありませんが……! 外交的な戦略を交えようにも、相手は既に一射してきました。撃つ気があるのは明白でしょう。戦場はこちらの不利に転がっています』

 

『悔しいがブリギットの艦長の言う通りだ。敵はこの局面を読んで、《ヴォルカヌスカルラ》とやらを投入してきていると見るべきだろう。思ったよりも厳しいな……』

 

「じゃあ……ボクらだけ……」

 

『ええ。クラード達の戦いを邪魔出来ない以上、我々だけで太刀打ちするしかないでしょう。《ヴォルカヌスカルラ》……ここで魔獣が立ち塞がると言うのならば……!』

 

 徹底抗戦の構えだが、敗色濃厚の感覚にメイアは息を呑む。

 

 このまま戦っても、犠牲なしに敵を倒す事は不可能だろう。

 

「……待って、ねぇ待ってって。ピアーナ、キミはそんな結末、望んじゃいないだろう? 犠牲なんて、ないほうがいいに決まってるんだ! だったら、ボクはそんな運命とやらに、牙を突き立てる!」

 

『何を……メイア・メイリス、何を言っているのです。クラード達の戦い振りを見ているでしょう? 彼らに背を向けろなど……言えるわけがありませんよ……!』

 

 震える声音に、ピアーナとて恐怖を押し殺し切れていないのが窺えた。

 

 分かっている、ここでの魔獣との対立は、単純に戦力をひき潰すだけだ。

 

 それが誰よりも明瞭に理解出来ているからこそ、彼女は恐怖とそして責任に押し潰されそうになっている。

 

「……あのさ、ボクらを舐めないでよね。ピアーナ、キミを護るって決めているのは誰かさんだけじゃないんだ。その艦長席に座っている以上、キミが指揮官だ。ならさ……! 指揮官を護るために前を行くのは、ボクらの仕事でしょ!」

 

 引き寄せたビームライフルを利き手ではないほうのマニピュレーターで掴む。

 

 鑑みるに通常戦闘時の戦力の半分程度でしかないだろう。

 

 それでも、自分はピアーナを護ると決めた側の人間だ。

 

『よく吼えてくれた、メイアとか言うの。俺も気持ちは同じだ』

 

「とか言うのって……いい加減覚えなよ、鳥頭なんだからさ」

 

『悪い。俺、そういう芸能界とかには疎くってな』

 

 割り込んできたダイキの気安い軽口に救われつつ、ブリギットを守護するMS部隊が寄り集まっていく。

 

『……皆さん……本当に、いいのですか……?』

 

『いいも何もない。私達は、ただこの戦場で命を燃やし尽くすまでだ』

 

「そうだって。ピアーナ艦長が気を揉む事じゃないよ。……ま、一つあるとすれば、キミは信じて待ってくれればいい。最上の結果を届けてみせる」

 

 それにしても、とメイアは拡大モニター上に映し出された《ヴォルカヌスカルラ》の巨躯とその高出力に指先が震え出すのを止められなかった。

 

「……参ったな。ブルっちゃってるなんて。ライヴでもここまで震える事なんてなかったってのに……」

 

 ここで死ぬのは、もちろん怖い。

 

 だが――クラードが戦っているのだ。

 

 ならば――。

 

「信じる者達へ、何も出来ずに散っていくほうが、よっぽど怖いってね! ブリギットMS部隊、行くよ!」

 

『おい! 指揮官は俺だっての! リクレンツィア艦長、どデカいのをお見舞いしてやりましょうよ!』

 

『交渉は決裂、と見ていいのか』

 

「交渉? いきなり撃って来ておいて、交渉も何もないでしょ。王族親衛隊に弾が当たらないようにってのも建前だ。キミら結局、さ。殺し合いが見たいだけだろうに」

 

『……警告はした』

 

《ヴォルカヌスカルラ》が挙動する。

 

 無数の紺碧の艦艇より、エネルギーチューブを送電され、真紅の躯体がミラーヘッドの蒼の伝導率を伴わせて像がぶれていた。

 

「最大出力のミラーヘッドの砲撃、か……。避けられそう? DD」

 

『まず、無理だろうな』

 

「……案外、キミってば冗談通じるタイプだった?」

 

『……メイア・メイリス。ミラーヘッドの砲撃を逸らすのには同じだけの存在力か、あるいはMSで減殺する必要があるだろう。どれだけの技術力の粋かは知らないが、《ティルヴィング》と同等以上を名乗っているという事は……』

 

「簡単には止められない、か。死に時ってのは、思ったよかあっさりだなぁ」

 

『お前ら……俺が段階加速して相手の懐に潜り込む。それまで死ぬんじゃないぞ』

 

「あのさー、それってフラグなんだけれどー」

 

 ダイキの言葉に生意気に返していると、相手もそれを判じてかフッと通信先で笑ったようであった。

 

『……言ってろ。死地はここに在り!』

 

《ヴォルカヌスカルラ》の両肩に備え付けられたすり鉢状の砲撃器官が照準され、次こそ確実な命中と共に死が訪れると予見していた。

 

 この宙域に居る誰もが、直後の死への恐怖よりも、ここで一矢報いる事すら出来ない悔しさを滲ませる。

 

「……嫌だな。せめて……もう一度ギルティジェニュエンで、宇宙凱旋ライヴでもしてから……死にたかったかも」

 

 最後の最後に出た悔恨も我ながら女々しい――そう感じた矢先であった。

 

『――私達も同じ気持ちよ、メイア』

 

 その言葉の主を確かめるようにハッと天上を仰いだメイアは、何もない空間より放たれた漆黒の刃を目の当たりにする。

 

 砲撃と見間違うほどの密度の重力粒子が変動し、《ヴォルカヌスカルラ》の放った緑色のビーム粒子を「切断」していた。

 

「……嘘……でしょ……生きてるじゃん……か」

 

 諦め切った肉体が虚脱するのと同時に、声の主を確かめるべくレーダーを凝視する。

 

『何奴――!』

 

 ダビデの声が弾けると共に宙域から滲み出したのは見知った艦艇であった。

 

「……ラムダ……どうして……? だってラムダはもう……」

 

『通達。これよりマグナマトリクス所属艦、隠密行動艦艇ベアトリーチェ級ラムダは、そちらの援護に入るわ』

 

 もたらされた事実と声に、メイアはパニックに陥っていた。

 

「……何で……生きて、るのさ……マーシュ……?」

 

『……ブリギット級、それにオフィーリアは我々の援護を受けて欲しい。こちらには聖獣二機の守りがある』

 

 光学迷彩で隠し通されてきたのはラムダより展開する無数の新型機だけではない。

 

『あれが……MF02、《ネクストデネブ》と……MF04、《フォースベガ》か……』

 

 絶句した様子のダビデに、《ネクストデネブ》と《フォースベガ》が肩を並べて《ヴォルカヌスカルラ》へと構えを取る。

 

「……まさか、聖獣が、味方……?」

 

『安心してちょうだい。この二機は友軍機。理由あって、協定を結んでいるわ。絶対に裏切る事はない』

 

『……ちょ……ちょっと待てって……! こっちは覚悟してたんだぞ! 何だってそんな……身勝手だろ、あんたら!』

 

 完全に出端を挫かれたダイキの《シュラウド》を視野に入れつつ、《ネクストデネブ》と《フォースベガ》より伝令がもたらされていた。

 

『こちら《フォースベガ》パイロット……名乗れば早いか。木星船団所属、ザライアン・リーブスである』

 

「木星船団って……まさか宇宙飛行士? 何だってそんな……」

 

『詳しい事は後で説明する。我々の目的は、魔獣《ヴォルカヌスカルラ》の撃墜と、そして君達の守り。ここまで来た事は称賛に値する。よって、少しの間かも知れないが、共闘関係に持ち込みたい。いいだろうか? ブリギットの艦長と、それにオフィーリア』

 

「いいだろうかって……どうすんのさ?」

 

『……今は呑みましょう。断るよりも、少しは生存率が上がりそうです』

 

『賢明な判断だ。もっともここで断られていたとしても、押し通してはいたが。……《フォースベガ》で敵IMFへと迎撃網を走らせる。その間に、《ネクストデネブ》が接近し、相手を蒸発させる』

 

『蒸発……穏やかではないな』

 

 ダビデの声音に宿った戸惑いも、今や些事のように、《ネクストデネブ》は一対の砲身を構え、その尖った爪を突き出す。

 

『……断っておくと、僕はどっちに転がったつもりもない。今は、そのほうが正道なのだと、思っただけの事だ』

 

《フォースベガ》ほどの戦力を維持するザライアンの論調には、僅かながら翳りが見える。

 

 しかし、それさえも吹き飛ばすかのように《ネクストデネブ》は高火力を放出していた。

 

 相手が射程外だと言うのに憤怒の塊のような、その攻撃網は緩まない。

 

 いくつかの砲撃が《ヴォルカヌスカルラ》を掠める中で、メイアは圧倒されていた。

 

 MFと言う力の権化に、だけではない。

 

 それを操る何者かの――止め処ない恩讐と、これは――。

 

「……悲しみ? 何を……悲しんでいるんだ。聖獣だって言うのに……」

 

 直観的でしかないが、《ネクストデネブ》のパイロットは、ただただ怒りだけではないような気がしていた。

 

 接触回線を開いたダビデが声を吹き込む。

 

『……メイア・メイリス。足を失った機体では前を行く編成には組み込めない。一旦、格納デッキまで後退。修繕を待って、我が方の赴く先を決める』

 

「あ、……うん。そうだね。まさか、MFが友軍機になるなんて……想定外もいいところだ。それに……」

 

 それにかつての古巣が何故、MFと組んでいるのかも不明なまま。

 

 死んだと思っていた相手へと、メイアは声を振り絞っていた。

 

「……マーシュ、また会えてよかった」

 

『……知り合いのようだが、今は』

 

「うん、了解。使えない戦力で戦場掻き乱すのもよくないだろうしね」

 

 反転したメイアは《ヴォルカヌスカルラ》へと向かっていく戦士達の背中を一瞥する。

 

「……でもついさっき……あの声……まさかイリス達? おかしいな……だってキミらは、ボクを撃てたじゃないか。なのに、今はそうじゃないみたいに……」

 

 真実は彷徨うばかりであった。

 

 

 

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