機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第287話「原初の聖獣」

 

『専任ユーザーへと、アイリウムによるコミュニケートサーキットを構築。対話モードを有効化』

 

「対話モード? 今はモルガンを目指しているところなのだが……」

 

 しかしヴィクトゥスは手にした《レヴォルトルネンブラ》の力の真髄に驚嘆もしていた。

 

「それにしても、パワーゲインがとんでもない。これで《レヴォル》のテストタイプなのだから、畏怖もあるさ」

 

『これよりアイリウム――エーリッヒ・インターセプト・リーディングによるユーザーへの対話を実行します』

 

「……エーリッヒ・インターセプト・リーディング……直訳するのならばエーリッヒの意志、か」

 

 蒼い円環が構築され、ゆっくりと脈打ち始める。

 

『“これを儂以外が手に入れているというのならば、それは継承すべき人物を見出したという事なのだろう。喜ばしい事実だ”』

 

 つい先刻話したばかりのエーリッヒの声音に、ヴィクトゥスは判定する。

 

「アイリウムに自らの人格データを転写……いや、不可能ではないな。殊に、“惑星のエーリッヒ”となれば、賢人であろう」

 

『“教え尽くせたかどうかは分からないが、知っての通り、この魔獣《レヴォルトルネンブラ》はイミテーションモビルフォートレス計画の先駆け、そして全ての聖獣を破壊するべくして建造された存在だ。その性能面で言えば、現行のMSでは敵いようもない。まさしく無敵の剣だとも”』

 

「それは理解出来るのだが、しかし得心がいかぬものもある。あなたは最初から、これを誰かに預けるつもりで造ったはずだ。一体どうして……? 造らなければ要らぬ争いも生まなかった」

 

『“それは結果論だよ、ヴィクトゥス・レイジ。儂は伝えるべくしてここに居る、とは言っても、所詮データを複写しただけのアイリウムだが”』

 

「あなたは何を伝えたい? 私に何を継いで欲しいと言うのだ」

 

 一拍の沈黙の後に、エーリッヒの意志は応えていた。

 

『“……持っているようだな。白銀の栞を”』

 

「あ、ああ。これはあなたから授かった……そしてフロイラインと私を繋ぐ縁そのものだ」

 

 携えた白銀の栞にエーリッヒの意志はなるほどと発する。

 

『“では意味までは、教えていなかったのか。いや、教えるのが憚られたのだろう。如何にも人間らしい判断だ”』

 

「……どういう事だ。何を言いたい……」

 

『“それはただの栞ではないのは、エーリッヒ・シュヴァインシュタイガー……いいや、ミハエル・ハイデガーを思い出せた事からも明らかだろう。それは特殊記憶媒体であり、この次元宇宙の理に縛られない、特異点だ”』

 

 ヴィクトゥスは胸ポケットに留めた白銀の栞を意識する。

 

「特異点? それは……どういう……」

 

『“分かりやすく言えば、それはモビルフォートレス……聖獣なのだよ”』

 

 放たれた言葉の意味を、一瞬はかりかねてヴィクトゥスは愚かにももう一度尋ねる。

 

「……待ってくれ。今何と……?」

 

『“二度も三度も問い返したところで変わるまい。それは聖獣――MF00だ”』

 

「……そのような事、オリジナルのあなたは一言も言わなかった……」

 

『“知っていても言えない、否、教えなければいけなくとも口に出来ない。それが人間の持つ不可解さの一つであり、0と1では分け切れないものだろう。そのおぞましさに気づいたのはミハエル・ハイデガーが地上のテスタメントベースに一人籠るようになってからの話だ。研究を重ねた結果、ただの偶然にしては出来過ぎていると、残存データを解析し、その結果として得られたのは、白銀の栞は記録を知っているのではなく、この来英暦で巻き起こる過ちを既に記憶しているのだと、そう判断した。そしてそれに類する存在を消去法で探していった結果、見出されたのは聖獣であるという事実であった”』

 

 ヴィクトゥスは今も胸元に留められている栞へと視線を落とす。

 

 どう見ても聖獣とは思えない。

 

 否、聖獣であったとして――このような形であるものか。

 

「……聖獣はダレトの向こう側より来たりし使者だ。この栞もダレトの向こうから?」

 

『“少し違う。思い出すといい、聖獣が来訪する原因は、思考拡張……その呼び声にこそある。当初はそれをダーレットチルドレンによるものだと仮定していたが、それにしては現状、六体もの聖獣が来訪するのは不自然だ。ならば、ダーレットチルドレン以外の、別種の存在が呼び込んでいると見るのが自然だろう”』

 

「別種の存在……聖獣を呼ぶのは、では何だと?」

 

『“ハッキリとした事は不明のままだが、聖獣同士が呼応するのならば、この世界にもそれと同等か、あるいは酷似した存在が不可欠となる。五十年先のRM技術へと対応したその栞は、まさしく技術に関して言えば特異点クラス。であるのならば、その小さな栞こそが、この来英暦におけるMFだと規定すれば説明も付く。即ち、オリジナルレヴォルとは、MF05《フィフスエレメント》の事ではなく、その栞のような小さな生命体の事を言うのではないか、と”』

 

 しかしその仮説はあまりに突飛だ。

 

 栞にしか見えないそれが聖獣であり、さらに言えば生命体であるなど。

 

「……これが生き物だとして、では何故、聖獣を呼び続けるのか。それが知りたい」

 

 蒼い円環は揺らめき、その問いへと対応する答えを持っているようであった。

 

『“ミハエル・ハイデガーが五十年間研究し続けたのは、聖獣を呼び込むプロセスだ。何故、エージェント、クラードにしか《レヴォル》は動かせなかったのか。そういったシステムを構築したのは誰なのか”』

 

「エンデュランス・フラクタルではないのか? 彼らはクラード君にだけ、《レヴォル》を動かせるように細工をした」

 

『“だが後のデータには、メイア・メイリスも動かせたという記録がある。これは確定事項だ”』

 

 確かに自分自身、何者かが稼働させたレヴォルと会敵している。

 

 クラードだけが《レヴォル》に選ばれた、というわけではないのか。

 

「……では、前提条件が崩れる。クラード君ではなくてもいいのなら、何が決定打となるのか」

 

『“仮説に過ぎないが、ヴィクトゥス・レイジ。貴様がそれを持っている時点で運命の変動値は動いているという事になる。メイア・メイリスは何者かによって、《レヴォル》に最適化された存在、そしてクラードは、それと同等の《レヴォル》を動かせる絶対的な素質を持っているという事なのだろう”』

 

「絶対的な素質……それはセンスではなく?」

 

『“センスだけでは《レヴォル》は動かない。これはミハエル・ハイデガー本人が《レヴォル》のテストパイロットであった事にも起因する。《レヴォル》は特定波長を有し、アイリウムにその波長を人格データとして内包している。これをレヴォルの意志と呼ぶ。ミハエル・ハイデガー搭乗時にはレヴォルの意志は観測されなかった”』

 

 つまり、クラードが乗った以降でしか《レヴォル》の真の性能は発揮されていないというわけか。

 

「圧倒的な戦闘センスを持つクラード君に呼応したというよりも、クラード君でなければ《レヴォル》の性能は御し切れなかったという事か」

 

『“だが、それはMF05《フィフスエレメント》だけの特性ではない。全てのMFは等しく、クラードと言う存在に反応する。メイア・メイリスに関して言えば情報不足だが、クラードに関して言えば手札は揃っている。――次元同一個体、そう呼称される存在がクラードだ。クラードは全ての聖獣を操るだけの素質を持つ。それは後天的ではなく、先天的……クラードとしてこの次元宇宙に選ばれた瞬間から、だ”』

 

 あまりにも唐突な言説であったが、自分自身クラードを特別視している。

 

 クラードの能力が人並み外れた操縦技術だけに集約されているわけではなく、その存在そのものが禁忌であると言うのならば――命を懸けて戦うのに値するというもの。

 

『“ヴィクトゥス・レイジ。何故、笑っている?”』

 

「いや、失礼……。戦闘の喜悦を御し切れないのでは私もまだまだだな」

 

 だが喜ばしい。

 

 それほどまでの人物と渡り合える力が、今はこの手にあるのだから。

 

「生まれた瞬間からクラード君には聖獣を操るだけの資格があった、そう見るとすれば彼が《レヴォル》に選ばれたのは必然に感じる」

 

『“レヴォルの意志、あるいはレヴォル・インターセプト・リーディング。それらがクラードをどのような基準で感知しているのかは不足している情報だが、もし、MFがクラードへと引き寄せられているのだとすれば、三年前のデザイア崩壊時に《レヴォル》が緊急発進したのも頷ける。クラードには聖獣を御するだけの力がある”』

 

「なるほど。つまり聖獣がクラード君と呼び合うのは、何も偶然ではないと。……だが、だとすれば何故だ? 何故、この栞がMFだと言う?」

 

 MFと呼ぶのにはあまりにも脆弱に映る。

 

 聖獣の名を冠するのに、特別な素質があるとも思えないとは言え、ただの栞が世界を謀るなど。

 

『“最初に儂がそれに触れた時、ミラーヘッドの記憶が内蔵メモリーに干渉した。貴様も同じであったのではないか?”』

 

「……言われてみれば。あれはフロイラインの緊急SOSかと思っていたが……」

 

『“儂は高度なRM施術者に反応するそれを、五十年の歳月をかけて分析した。その結果、白銀の栞と、そしてもう一つはMFだと判定した”』

 

「……失礼。もう一つ?」

 

 自分がピアーナの艦長室から持ち出したのはこの栞一枚のはずだ。

 

 そう考えていると、蒼い鼓動が応じる。

 

『“テトラ・シンジョウ。オリジナルの儂が伴侶に選んだ女性に、差し出したものがあった。黄金の鍵……それは元々、月面探査で見つけ出されたオブジェクトの一つであった。固有波長を観測した結果、白銀の栞と黄金の鍵の波長はぴったりと、一致していたのだ”』

 

「……それは、つまり……」

 

 赴く先を濁していると、エーリッヒの意志は断言する。

 

『“そうだ。両者は二つで一つなのだ。この来英暦を繋ぐに足る鍵――ダレトの鍵である二つの存在は、どちらも同じくMF00《ゼロポラリス》なのだと認識した”』

 

 

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