機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第288話「欺瞞の魔獣」

 

「RM第三小隊は小隊長の戦闘に引っ張られないで! このまま本丸を墜としにかかるわよ!」

 

 ユキノが叫び、自らの《アイギス》を先頭にしてミラーヘッドの両翼を押し広げる。

 

 残存したRM第三小隊は少ないものの、それでも彼らはここまで生き抜いてきた猛者達。

 

 そう簡単に墜ちるわけがない。

 

 信頼感を噛み締めて、ユキノは月軌道へと入る。

 

「月軌道……三年前から変わらないのね……」

 

 しかし変わったものもある。

 

 まさかトライアウトを離反した面々と力を合わせるとは思いも寄らない。

 

『ユキノ・ヒビヤ。《ネクストデネブ》による火力支援を行う。高出力兵装の巻き添えを食らわないようにしてくれ』

 

 後方から支援するべく、ダビデの搭乗した《ネクストデネブ》が砲門を突き出す。

 

 狙うのは月軌道に位置するトライアウトブレーメンの紺碧の艦隊だ。

 

「……前回みたいに《ヴォルカヌスカルラ》と真っ向からやり合えば、損耗も激しいはず。射程外から決めさせてもらうわよ……」

 

 光軸を放射し、《ヴォルカヌスカルラ》を擁する艦隊へと牽制砲撃を見舞う。

 

「RM第三小隊は敵IMF付近で散開! 相手に狙いをつけさせないで! あくまでもこっちの目的は打ち上げ基地にある魔獣だからね!」

 

 返答が返ってくる中で、ユキノはミラーヘッドオーダーの受諾率を視野に入れる。

 

「……相手はミラーヘッドを使わない? オーダーの受諾率はこちらが八割以上なんて……何か考えでも?」

 

 だが勘繰って踏み越えられないままでは意味がない。

 

《アイギス》に加速をかけさせて、ユキノは散開機動に移った後続部隊を確認する。

 

 ミラーヘッドの蒼い分身体を生み出し、トライアウトブレーメンの艦艇を包囲していた。

 

「これで……墜ちろ!」

 

 ビームライフルを照準した途端、艦下部より引き出された機影にユキノは瞠目する。

 

「……何……? 新手?」

 

 識別照合をかけさせようとするが、その途端ブロックノイズに阻まれる。

 

 細い体躯の銀色の機体は《アイギス》の系譜に思われたが、それにしてはあまりにも異質であった。

 

 両肩に装備された増設スラスターと、赤く沈殿するミラーヘッドジェルを覗かせる半透明なそれはくるりと機体を翻し、まるで異なるパワーゲインで向かってくる。

 

 咄嗟の習い性でビームサーベルを引き抜き、対応したが相手の出力値は遥かに上であった。

 

「……この機体……まさか新型?」

 

 単眼が覗き込み、異様に手足の長い機体は袖口からダガーナイフを射出する。

 

 ユキノは分身体を盾にして直撃を防いだが、直後には相手の肩口が展開し赤い皮膜を構築していた。

 

 途端、分身体が力をなくし、蒸発していく。

 

「……これって……まさか! ミラーフィーネシステムだって言うの?」

 

 ならば至近距離は危険だと、相手へと牽制銃撃を浴びせつつ距離を取ろうとして敵機は赤銅の分身体を生み出していた。

 

 構成された赤銅の影が襲い掛かってくる。

 

 データ上に認識された敵の戦い方は、ある存在と合致していた。

 

「……赤いミラーヘッド! いいえ、ミラーヘッドメギド……? 一般機が?」

 

 ミラーヘッドの蒼と赤銅の色相が交わし合い、衝突するなりユキノはダメージフィードバックの激痛を感じていた。

 

 相手のミラーヘッドメギドの焔は消えない。

 

 構築時における密度が違うのだ。

 

「……蒼いミラーヘッドじゃ、簡単に打ち負けちゃう……。総員、一旦敵部隊から距離を置いて――!」

 

『――遅いですよ、皆様方』

 

 耳朶を打った声を認識する前に、銀色の機体が散開機動を取って、こちらの《アイギス》と《レグルス》を迎撃していく。

 

 その鮮やかなる手際と、そして操縦技術に半端なパイロットはやられていくばかりだ。

 

「……この戦い方……エージェントのそれ……」

 

 だがだとすれば。

 

 トライアウトブレーメンと組んでいるのは、間違えようもなく――。

 

「エンデュランス・フラクタル上層部……! あなた達は一体、何がしたいって言うの!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何がしたいとは。それも愚問ですな」

 

 管制室よりタジマは眼鏡のブリッジを上げて戦局を見据える。

 

 後方に位置したトライアウトブレーメンのベアトリーチェ級はいつでも敵陣を狙えるように配備されていた。

 

「IMF03《アデプト》。全機、ステータスに問題なし。このまま敵陣営を押し込められます」

 

 オペレーターの冷淡な声にタジマは満足げに応じていた。

 

「結構。第三の魔獣は滞りなく実用化に至れただけでも僥倖です。これまでは量産計画は困難とされてきましたが、元々《アイギス》の発展機たる《アデプト》の開発計画に噛ませていただいて助かりましたよ。マグナマトリクス社の皆様」

 

『……勘違いをしてもらっては困るな、エンデュランス・フラクタルの。地上の《ティルヴィング》事件にて既に手垢の付いているクロックワークス社と手を切りたいのは見え透いているのだからな』

 

「これはこれは。嫌われたものだ」

 

『これから先の来英暦における戦争事業を回すのに、IMFの配備は急務。よって、貴社と手を組むのは何もやぶさかではない。軍警察とも渡りがあるのだろう? 《アデプト》の先行投資程度、必要な悪名と言うものだ』

 

「あなた方は慧眼ですよ。IMFの重要性に早々に気づけただけではなく、戦争産業への介入と、これから先のミラーヘッド事業への栄光。どれもこれも、一企業体だけで終わらせるのにはもったいない。統合機構軍として足並みを揃えようというのです」

 

『足並み、か。しかしレジスタンス部隊を駆逐した先、聖獣の確保とそしてダレトからもたらされる事業の一本化。滞りなく、と思っていいのだろうな?』

 

「それは無論。魔獣《アデプト》の試験運用には打ってつけでしょう。レジスタンス組織を壊滅させた実績があれば、MS開発事業としての隠れ蓑にもなる」

 

『言い草だな。我々は何も隠れ潜んで開発しているわけではない。公の事業としての《アデプト》への投資だ。ミラーフィーネシステムと、そして新時代のミラーヘッドたるミラーヘッドメギド。どれもこれも、我々からしてみれば光り輝く道と言っていいだろう』

 

「ミラーヘッドメギドは高密度の分身体を形成する事による既存のミラーヘッドへの対抗策として。実用化されている技術はオープンソースにされなければいけない」

 

『しかし、懸念があるとすれば。勝てるのだろうな? タジマ営業部長』

 

「些末事でしょう。敵は《レグルス》と《アイギス》ばかり。むしろ、これは良いデモンストレーションとなるはずです。旧時代のミラーヘッド機を新時代のミラーヘッド機が蹂躙する。なかなか得られるものではないですよ? ここまでの大規模戦闘データは」

 

『……我々はあくまでも開発企業だ。戦争屋とそしられる覚えはない』

 

「銃を作る人間は犯罪者、理論ではございますまい。いつだって使う側のモラル次第。それはどのような時代でも変わらないでしょう」

 

『……戦果を期待するぞ』

 

 通信が切られ、タジマは口角を吊り上げる。

 

「戦果、ですか。しかしそれは、終わってから得られるもの。オフィーリアを舐めているわけではありません。《ティルヴィング》を破壊し、宇宙まで上がってきた。その功績、軽んじてはいけないのは必定。だからこそ、全力をもって。叩きのめしましょう、カトリナ・シンジョウ委任担当官。あなた方の掲げる理想は所詮、甘い甘い絵空事。青いだけの果実を摘むのに、理由が要りますか?」

 

「《アデプト》部隊、さらに前進。《ヴォルカヌスカルラ》へと仕掛けようとしていた敵勢を押しのけていきます。ミラーヘッドオーダー受諾」

 

「《アデプト》には全機、レヴォル・インターセプト・リーディングが搭載されています。後出しのミラーヘッドオーダーでも、我々が上回る事が出来る。さぁ、どう挽回しますか? あなた方の最後の足掻きを見せてくださいよ」

 

 タジマは一笑に付し、光輪が咲いていく暗礁の戦場を眺めていた。

 

 

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