「IMF……! 魔獣の量産化計画だって……? まさかそこまでやっているとは……エンデュランス・フラクタル!」
ザライアンは《フォースベガネクサス》を駆け抜けさせ、《アデプト》の銃撃網を潜り抜けていく。
高出力のビームライフルの火線が狙いを定める中で、《フォースベガネクサス》は全身から刃を現出させ、着弾と同時に逸らしていく。
「全てを断絶するだけの力だ。……いたずらに命を摘むのは気が引けるが、やむなしとする……!」
反射させた重力磁場斬撃が《アデプト》を両断し、爆発の光輪を抜けてその腕を突き付ける。
削岩機の様相を呈した刃が流転し、《アデプト》の銀色の装甲を裏返していた。
そのまま突き上げ、掲げた刃を膨れ上がらせて射線上の敵機を粉砕していく。
「……《ヴォルカヌスカルラ》の高出力砲撃を押さえないと……! オフィーリアとラムダに危険が及ぶ……!」
しかし《アデプト》の軍勢は想定よりも強敵だ。
ビームサーベルを発振させた《アデプト》が振るい上げたのを片腕で制し、機体を中心軸にして巻き起こさせた辻風で叩き切る。
「……ここまで迷いのない攻撃を敢行するってのは……ただのパイロットじゃないな。エージェント……か」
断ち割り、機体を翻した二の太刀で腹腔を貫く。
しかし《アデプト》の機動力は《フォースベガネクサス》を凌駕していた。
「……艦へと! 本丸を墜とす気か!」
《フォースベガネクサス》の漆黒の刃を振るおうとして、首裏が粟立つ。
瞬間的に機体を翻させて回避出来たのは恐らく戦闘の第六感だろう。
『行けよ! ミラーヘッドジェム!』
高速回転する自律兵装が突き刺さりかけて、ザライアンは腕を振るう。
叩き割ったその先より出現した無数の円盤兵器が《フォースベガネクサス》の装甲を狙っていた。
舌打ち混じりにザライアンは噛み砕く一撃を叩き込み、ミラーヘッドジェムを相殺していくが、相手の速力は前回よりも向上している。
死角から回り込んできた兵装をザライアンは振り返りざまの一閃で打ち破っていた。
「……まるで自在か。万華鏡の実力に比肩するだけの能力……これが、魔獣の力……!」
『いい声で啼けよ! 聖獣殺しって言うんだから、張り合いがねぇとつまんねぇから、なァッ!』
《ヴォルカヌスカルラ》の全身に搭載されたミラーヘッドの存在力そのものを変換する砲撃網に《フォースベガネクサス》を潜り抜けさせ、両断の太刀を見舞う。
しかし堅牢な相手の表層には亀裂さえも入らない。
「……なんて防御力……だったならば!」
『墜ちろよォッ!』
ミラーヘッドジェムが四方八方より迫るのを、ザライアンは感覚して砲門を叩き上げていた。
「Iフィールドバリア!」
構築したIフィールドの皮膜に弾かれた一瞬の隙を突き、《フォースベガネクサス》はその腕を《ヴォルカヌスカルラ》へと接触させる。
「ゼロ距離だ! そしてこの距離は、僕のものでもある!」
『ああ、そうかよ。だがな――触れたな?』
ぞわりと総毛立つ。
習い性の感覚で高重力斬撃を見舞ったものの、直後には後退を選んでいたのは接触したままならば間違いようもなく致命打になっていたと感じられたからだろう。
「……前と同じ……ミラーヘッドエラーを強制させる……?」
『賢しい距離を取りやがって。それでも聖獣かよ、オイ! もっと獣だってなら、喉笛齧り付いて来いよ! 狩り甲斐もねぇってもんだ!』
「……一つ、聞く。お前からは……悪意しか感じられない。来英暦の者達と多く触れてきたが、ここまでの純然たる殺気の相手は居なかった。お前は……何なんだ……?」
暫時、沈黙が流れる。
相手もこの問いは初めてであったのだろうか、と勘繰っていると、喉の奥でくっくっと嗤う声が漏れ聞こえる。
直後には哄笑となって通信網を震わせていた。
『おいおい! こいつァ傑作だな! 何なんだ、と来やがったか! 教えてやるよ、異星人。俺の名前はクランチ・ディズル。覚えなくったっていいぜ。どうせてめぇの聖獣の心臓を取り込めば、俺は無敵に成るんだからよ!』
「聖獣の心臓は渡さない……そして僕は負けるつもりもない。今ならば……《ヴォルカヌスカルラ》を破壊するだけで命は取らないでおく」
『命は取らないだぁ? 寝ぼけた事言ってんじゃねぇよ。戦場において! 命のやり取りだけが意味のある言葉だろうが! てめぇの身勝手でこの極上の戦場を、馬鹿に高尚に仕立て上げてんじゃねぇぞ!』
ミラーヘッドジェムの円盤が刃を回転させ、一直線に向かってくる。
ザライアンは《フォースベガネクサス》の両腕で挟み込み、白刃取りを決めていた。
その膂力で回転を止め、刃の斬撃で粉砕する。
『痺れるねぇ、その力! 圧倒的な殺意の象徴! もう分かってるんだろうが! 俺とお前に! 違いなんて一個もねぇって事が! 互いにこの世界じゃ生き辛いだろうに! 殺戮機械なんじゃぁ、なァ!』
「違う! 僕は人間だ!」
『人間とは、ご大層めいた大言壮語で自分を飾り立てりやがる! だったら人間の証明ってヤツを! 明かして見せろよ、MF!』
「僕は……! 僕に託してくれた者達のために戦う! 故郷を守り、愛すべき者達に報いるためだけに!」
自律兵装を叩き割り、一直線に斬撃を延ばすも、《ヴォルカヌスカルラ》は身に纏った赤銅の皮膜で弾き返していた。
「高密度のミラーヘッドによる……防御障壁……!」
『ミラーヘッドメギドだ。防御だけじゃねぇ! てめぇには及びもつかないだろうさ!』
直後、ミラーヘッドジェムが赤銅の色相を帯びてこちらへと狙いをつける。
「ミラーヘッドなら……僕に及ぶわけが! 《フォースベガネクサス》!」
《フォースベガネクサス》の全身に宿った蒼い血脈を奔らせ、滾った斬撃網で自律兵装を打ち破ろうとしたが、刃は触れた途端に霧散する。
「……効いていない? いや、これは……解除されている……?」
『まったく、連中も考えたもんさ。自律兵装それぞれに俺の権能を付随させるなんざ、とんだデタラメ兵器もあったもんだ。こいつらは俺の分身みてぇらしくってよ。ミラーヘッドエラーを引き起こす! 触れただけでなァッ!』
その声が響き渡った直後、接近戦は危険だと判定して、四つの砲門から火砲を叩き込む。
しかし灼熱の憤怒に包まれたミラーヘッドジェムは健在――否、それどころか砲撃のエネルギーを纏い、《フォースベガネクサス》の装甲へと突き刺さる。
削られていく装甲に激痛を感じ、ザライアンは手を払うイメージで自律兵装を遠ざけるが、反対側からの応酬によろめく。
「……ミラーヘッドを無効化する……力……」
『てめぇらが来英暦以外の技術で出来ているとか、小難しい事は分からねぇが、それは結局のところ、ミラーヘッドの延長だって言うんなら、砕く術は心得てる。鏡を壊すのは得意でな』
ザライアンは四肢から高重力磁場の刃を振り撒き、自律兵装へと放ちながら《ヴォルカヌスカルラ》の背後を取るべく段階加速に身を浸らせる。
「……如何に多大な力量……技術の粋を持っていようとも、MSの急所は分かっているつもりだ!」
その装甲が堅牢であろうとも、後背部へと斬りつければ――そう判じた神経はしかし、末端神経の如く浮かび上がった節足部位を前に遮られる。
「隠し腕だと!」
『《ヴォルカヌスカルラ》の魔獣の性能は俺の戦士としての基本能力を引き上げてくれてるんだよ。後ろを取ったくらいで勝ちを確信するなんざ、それでも宇宙飛行士かっての!』
隠し腕たる節足が《フォースベガネクサス》を拘束する。
「……嘗めるな。《フォースベガネクサス》のパワーゲインなら……これくらい」
『それくれぇは考慮の上だ。触れた時点で下策だって事、忘れてるんじゃねぇのか?』
ハッとしたその瞬間にはサブアームが《フォースベガネクサス》の胸元を軽く叩く。
それだけで全てのシステムがダウンし、ザライアンはコックピットの中で己一つだけを持て余していた。
「……《フォースベガネクサス》……?」
まさか、またしてもだと言うのか。
震撼したザライアンの耳朶を打ったのはクランチの勝利を確信した声であった。
『じゃあな、宇宙飛行士。そして聖獣の駆り手。死は潔く、そして着実なものとして訪れる。結局のところ、てめぇじゃ俺には勝てねぇんだよ。聖獣の心臓、貰い受けるぜ』
昏く沈んだコックピットへと衝撃が浴びせられる。
暗礁の全天候モニターは何が起こっているのかまるで不明なまま、ただただ自身の弱さだけを噛み締める。
「……僕は……けれど僕は……負けない、負けられない……ここで……足を止めている場合じゃ――ない……!」
ならば、禁忌へと手を伸ばす事に躊躇いなどあるものか。
ザライアンは両腕を翳す。
赤く脈打つのは封じていたはずの権能――ライドエフェクターの標。
明滅するそれが《フォースベガネクサス》の奥底で鼓動するそれと呼応し、直後、全てが開けていた。
自らの心拍と同期した両腕を振るい上げ、《フォースベガネクサス》の誇る漆黒の重力磁場が末端アームを両断する。
『何だと! ミラーヘッドエラーのはずだ!』
「……ライドエフェクター技術はミラーヘッドエラーがもし実行された場合を想定して埋め込まれた技術だ。この次元宇宙では、それは未だ発明されてすらいないが」
だがその分負荷は大きい。
今にも爆発しかねない心臓を感覚しながら、ザライアンは両腕より伝い落ちる赤い血の粒を視野に入れる。
「命を削る禁術だと言うのならば、僕に今一度、応えろ! 《フォースベガネクサス》!」
片腕を突き上げ、天高く構築された重力の太刀筋をザライアンは打ち下ろしていた。
「これが――! 僕らの世界のビームサーベルだ!」
『ビームサーベルだと……重力粒子を凝縮したこんなもんが……ビームサーベルだって言うのかよ!』
一閃が舞い、その装甲面を突き崩す。
神経が走るように末端部位まで伸び切ったそれが《ヴォルカヌスカルラ》の表皮を引き裂いていた。
形象崩壊したそれらは繋ぎ合わされる事もない。
『……これが……断絶の概念付与か……!』
内側より有機的に膨れ上がった装甲を相手はパージし、《ヴォルカヌスカルラ》の巨大な袖口からビームサーベルを構築する。
『こんの……! いい加減墜ちろよォッ!』
「僕はまだ……死ぬわけにはいかない。敗北が許されないのならば……自らの命でさえも切り売りして……! 《ガンダムレヴォルフォースベガネクサス》! 僕の命を触媒に、《ヴォルカヌスカルラ》を切断概念で抹消する!」
『冗談じゃねぇ! 聖獣を喰らうのはこの俺だ! クランチ・ディズルこそが、世界を支配する……帝王なんだよォ……ッ!』
「空白の玉座を埋めるのは……この時代に生きる者達の特権だ。断じて僕らのようなイレギュラーでも、ましてダーレットチルドレンのような狡猾なる者達でもない……。彼らが生きる時代は、彼らが決める……! それこそが今を生きる人々の、あるべき姿だ!」
『クソ喰らえ! 下等生物連中が吼えやがる! てめぇだって、聖獣って言うスペシャルな力を手に入れている自分に酔っているだけだろうが! 使命感だとか、そういうのを振り翳すには、その手は汚れ過ぎてるってもんだ!』
止め処なく紋様から血は溢れていく。
かつての戦場での感覚を思い返し、ザライアンは深紅に染まった瞳の中央に逆三角の印を浮かべていた。
「……ここで打ち止めだ。クランチ・ディズル……!」
『ざけんな! 終わるのはてめぇだよ、宇宙飛行士! 《ヴォルカヌスカルラ》、装備している全ての自律兵装を解放! ミラーヘッドジェムで突っ切れ!』
鎧じみた全貌から編み出されたミラーヘッドジェムの総数を、《フォースベガネクサス》の蘇ったアイリウムが認証する。
その総数は――大小合わせて二十を超える。
「避けるまでもない。――全て、断ち切る」
両腕のビームサーベルでまずは交差する斬撃。
それだけで半数を破壊出来たが、それだけでは留まらない。
脚部に展開した斬撃兵装を飛ばし、ミラーヘッドジェムを引き裂く。
それでも残存する円盤兵器をザライアンは機体の腕で掴み上げていた。
マニピュレーターが破砕されるよりも素早い速度で再生が及び、膂力で圧搾する。
戦闘行為に臨む度に、身を焼くように全身から迸るのは憤怒だ。
恐らくはヴィヴィーからもたらされた代物だろう。
彼女の感情を引き受け、《フォースベガネクサス》が四つの砲門を照準する。
《ネクストデネブ》の力そのものである火力が叩き込まれ、灼熱する装甲を弾き飛ばしていた。
『クソがぁ……ッ! 鬱陶しいんだよ! 借り物の聖獣の力で……戦っているクセによォ……ッ!』
「確かに、この感情は借り物かもしれない。だが、ここまでお前を憎むよりもまず、怒りが勝る。……これがヴィヴィー・スゥ。彼女の持つ純然たる怒りの根源か。戦いに及ぶ彼女はここまでの怒りを……常に彷徨わせて……。ならば、尽くそう。僕は、お前を――宇宙飛行士でも、ましてや第四の聖獣の駆り手でもなく、この来英暦に堕ちた“クラード”の一人として、叩きのめすまでだ」
砲門が最大出力の閾値を超え、砲身そのものを焼き尽くして純然たるエネルギーの集合体が《ヴォルカヌスカルラ》を射抜く。
巨大なる魔獣はこの時、完全に焼失していた。
頑強な鎧は蒸発し、その宙域にパーツの一片でさえも漂わせない。
伴わせているトライアウトブレーメンの艦艇が離れ行くのを、ザライアンは意識に留める。
「……勝ち抜けは許さない」
砲身を砕くエネルギーの奔流を振るい、トライアウトブレーメンの艦を打ち砕いていく。
直前に出撃した《アデプト》の軍勢はしかし、倒し切れなかった。
「……やらせるか。このまま……魔獣を全滅させて――」
『――おいおい、残心ってものを心得ていねぇようだな。ザライアン・リーブスよぉ』
太刀の腕を振るい上げた《フォースベガネクサス》へと、背後から差し込まれる。
遅れた認識でザライアンは聖獣の心臓部を貫いた大太刀を感覚していた。
「な……に……?」
『《ガンダムヴォルカヌス》。ミラーヘッドメギドの高出力質量でてめぇに誤認させた。爆砕したのはミラーヘッドの影だ。聖獣の心臓、喰らわせてもらうぜ』
引き抜かれた途端、収縮した存在力の発露にザライアンはかっ血する。
機体と同期した肉体の損耗に、思わずよろめいていた。
「……こんな、事で……」
血濡れの指先に力を入れ、テーブルモニターへと爪を立てる。
振り返りざまに一閃――それで相手は倒せるはずだが、《フォースベガネクサス》は呼応しない。
既に制御系統を指揮する能力を奪われているのだ。
聖獣の心臓を貫かれて無事で済むはずもない。
「……だが、それでも僕は……」
『往生際が悪いぜ、聖獣。《フォースベガネクサス》とやら、心臓を失ったてめぇにはもう用はねぇ。ここで朽ちろよ』
大剣を引き抜かれると共に《フォースベガネクサス》の残存する権能が失われていく。
背後で聖獣の心臓を掲げた《ヴォルカヌス》が視界に入っていた。
『これが聖獣の心臓か。難儀なもんじゃねぇの。こんなもんに縛られて戦えなくなるなんざ。だが、これで俺は英雄だ。来英暦を救う、本物の、な』
《ヴォルカヌス》が漆黒の渦を成す聖獣の心臓を取り込もうとする。
だがそれだけは看過してはならなかった。
他の誰でもない、クランチの手に渡る事だけは。
「……応えろ。僕の叛逆(レヴォル)……! まだ、やられるわけにはいかないだろうに……!」
《フォースベガネクサス》が呼応して眼窩に灯火を宿す。
恐らく、駆動出来たのは二つの心臓を手に入れていたからだろう。
最後の一撃は《ネクストデネブ》の能力であった。
「Iフィールド……バリア!」
Iフィールドの結界陣が聖獣の心臓を包み込み、直後には《ヴォルカヌス》の腕から削ぎ落していた。
『何をしやがる……死に損ないがァ!』
雄叫びを上げて《フォースベガネクサス》の両腕で大剣を受け止め、刃を無数に突き立てる。
流転した余剰衝撃波がゼロ距離で発生し、大剣を根元から叩き折っていた。
『武装を……!』
「まだ……まだぁ……っ!」
相手もレヴォルタイプならばコックピットブロックは頭蓋にあるはず。
そう判じてマニピュレーターで頭部を掴もうとして、折れた剣が一文字に走る。
《フォースベガネクサス》の眉間が叩き切られ、メインカメラに亀裂が生じていた。
割れ果てた視界の中で、ザライアンはそれでもしゃにむに迫る。
『いい加減に墜ちろよォッ!』
「殺して見せろ、クランチ・ディズル。この……宇宙飛行士、ザライアン・リーブスを……!」
だがそこまでが限界であった。
心臓の音が絶え、《ヴォルカヌス》のコックピットまであと少しのところで完全停止する。
宇宙の常闇を彷徨うしかない《フォースベガネクサス》を相手は蹴り上げ、打ち下ろす一撃で片腕を斬り落としていた。
『クソがァッ! てめぇみたいなのに《カルラ》をやられて、その上ダメージなんて割に合わねぇんだよ、おセンチ野郎が! ミラーヘッドメギド展開! これで死ねよやァ――ッ!』
眼前で《ヴォルカヌス》が赤銅色のミラーヘッドを展開し、全方位から大剣を振るい上げる。
ザライアンは、最早手立てはないと諦めていた。
当然だ、心臓を奪われ、その上で数秒間とは言え動けたのさえ奇跡。
ともすればきっと、自分が《フォースベガ》のパイロットに選ばれたのはこのような土壇場での戦いのためであったのかもしれない。
痛みと終焉の予感に瞑目しかけたその時であった。
『ミュイ……! させない……!』
虹色の輝きが周囲を覆い、ミラーヘッドメギドの太刀筋を受け止める。
『ザライアンさん! 無事ですか!』
「……《サードアルタイル》……か」
パーティクルビットを展開し、《サードアルタイル》は《ヴォルカヌス》へと四方八方から仕掛けていく。
『寄ってたかって聖獣がぞろぞろと……。水入りだ、トライアウトブレーメンの連中も死んじまったみたいだからな。さすがに聖獣と真っ向からやり合える戦力じゃねぇ。他のヤツらでも殺して手土産にするので手打ちにしようじゃねぇの。聖獣の首を狩り損ねたのは痛いが、なに、まだ次はあるだろうさ』
《ヴォルカヌス》はミラーヘッドメギドを段階加速に用いて戦域を離脱していく。
こちらへと追従した《サードアルタイル》が接触回線を開いていた。
『ミュイぃぃぃ……よんばんめ、ぶじ?』
『ザライアンさん、《カルラ》をやったんですね?』
「あ、ああ……だがクランチ・ディズルは逃した。その上……聖獣の心臓を……」
Iフィールドバリアに包まれた聖獣の心臓が宙域を漂っている。
ザライアンは《サードアルタイル》に搭乗する二人へと、懇願していた。
「……頼む。聖獣の心臓を取り込んで欲しい。他の人間に渡すわけにはいかないんだ。何よりも、《サードアルタイル》に乗る君達ならば、きっと有用に扱ってくれる」
『……ザライアンさん……けれど、聖獣の蘇生機能で……』
「もう働かない。さすがに機体外に出た心臓を元に戻す事は出来そうにない。それなら、安心出来る相手に託したほうがまだいいはずだ」
《サードアルタイル》を操る二人は当惑したようであったが、悩んでいる時間も惜しいと感じたのか、パーティクルビットで心臓を引き寄せる。
途端、《サードアルタイル》が内側より脈動し、ザライアンは自らの半身を投げたのだと認識していた。
「……もう《フォースベガネクサス》は使い物にならない。戦線より離脱する。《サードアルタイル》の二人は……」
『俺達は……このまま、前線を維持します。クラードさん達がテスタメントベースに赴いたんです。俺らがやらないと、きっと押し上げられません』
『ミュイっ! クラード、がんばってる!』
「……そう、か。推進剤も消えた僕の機体ではどうしようもない。帰投ルートに入るが、武運を祈らせてもらう」
ザライアンはコックピットハッチを開き、前線へと向かっていく《サードアルタイル》の背中を眺めていた。
パーティクルビットの慣性制御でオフィーリアへと機体は戻っていくが、果たして無事に帰れるだろうか、と全ての権能を失ったコックピットで体重を預ける。
「……《フォースベガネクサス》……僕らはやれる事は……やったはずだよな……?」
その瞳に映るのは月軌道に空いた間違いのような大虚ろたるダレト。
向こう側に位置する故郷を想える事だけが、誉れある称号だけを抱いた自分自身の残りカスのような勲章であった。