機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第292話「ノオト・ポラリス」

 

《アデプト》の放つ包囲網を抜けて、メイアの駆る《ゲシュヴンダー》はその背後より一射していた。

 

 しかしながら魔獣と言うのは伊達ではない。

 

 紙一重で回避するなり、応戦の銃撃が咲き、メイアは舌打ちを滲ませる。

 

「この実力……エージェント相当だね……! 厄介極まりないよ!」

 

『メイア! 密集陣形を取って! 《ゲシュヴンダー》は単騎戦力で想定していない!』

 

 イリスの声を受け、メイアはイリスの機体と背中合わせになっていた。

 

 火線が舞い散る戦場で、接触回線が響く。

 

「……嬉しいな。こうしてまた、ギルティジェニュエンのみんなと戦えるなんて……」

 

『感傷に浸っている時間はないから。今は敵影を一機でも墜とす!』

 

「……了解!」

 

《ゲシュヴンダー》の装備はビームライフルと格闘兵装のサーベルだけの簡素なものだ。

 

 元々、《カンパニュラ》の持つ光学迷彩を引き継ぐべく想定された機体のため、余計な武装は施されていない。

 

 だがだからこそ、この戦場で輝く。

 

 だからこそ、仲間であるという証が何よりも雄弁だ。

 

 メイアはイリスの機体と入れ替わりながら、光学迷彩を発動させていた。

 

 敵影にしてみれば、唐突に消えたMS相手に攻勢を整えようとして、また次手が回ってくるのは戦いづらいはず。

 

 ビームライフルの光条が《アデプト》の肩口を捉え、よろめいた敵機にメンバーの《ゲシュヴンダー》が上方から仕掛け、ビームサーベルで袈裟切りにする。

 

『ようやく一機撃墜……。なかなかに混戦ね』

 

「でも大きな一歩ではある。敵《レグルス》と《アデプト》を艦に近づかせない……! ボクらの帰る場所を……壊させて堪るか」

 

 ラムダは光学迷彩を解除し、オフィーリアと共に艦砲砲撃に移っている。

 

 損壊した機体は順次帰投しつつ、常に火線を切らさないようにしていた。

 

「ブリギットへ! 艦長、現状は!」

 

『芳しいとは言い難いですが、守りは固められています。クラビア中尉とダリンズ中尉の面火力で、《アデプト》が直接仕掛けるのは今のところ阻めて……』

 

 ダイキの《シュラウド》が《アデプト》相手に鍔迫り合いを繰り広げる。

 

 剣戟の手数で敵機を圧倒し、そのまま斬り伏せてから装甲を蹴りつけて変幻自在の動きを取る。

 

『当たると思ってるのかよ! 艦長の居る場所を……やらせはしねぇ!』

 

「あっちは心配しなくっても大丈夫そうだね……。ジェネシスのDDは……?」

 

《ネクストデネブ》はブリギットをオフィーリアからエネルギーチューブとアステロイドジェネレーターを連結装備して初めて稼働していた。

 

 巨大な盾にもなり得る砲門を突き出し、《アデプト》の陣形を崩していく。

 

『Iフィールドは張れないが、これだけの高火力……活かすのには充分だ』

 

 砲身が敵機を狙い澄まし、光軸で射線上に居た《アデプト》の脚部を焼き切る。

 

 敵《レグルス》部隊が艦へと爆雷を仕掛けようとするのを、シズクの《ネクロレヴォル》が制していた。

 

 ブリギットの甲板に張り付き、正確無比なビームライフルの応戦で敵を近づかせず、爆雷を射抜いていく。

 

「よかった……これならこっちに分がある。……このまま敵を押し込めて……クラードが上手くやってくれれば……!」

 

『……メイア。エージェント、クラードを信じているの?』

 

 イリスの問いかけにメイアはてらいなく応じる。

 

「当然! だってクラードは、ボクが命を預けるに足るんだと、そう確信した奴なんだからさ! 彼はきっと、得るべき答えを得てくれる。そして間違いだけを……正すために……!」

 

『……そう。メイアは、エージェント、クラードに、恋しているのね』

 

 出し抜けに放たれた言葉にメイアは操縦系統を一瞬だけ乱してしまう。

 

「ば……っ! 何言ってんの、イリス! 今は戦闘に集中でしょ!」

 

『あれだけ色恋事に無縁だった“罪付き”のメイアも、そういう事には疎かったってわけね』

 

「……からかわないでよ、まったく。クラードとは……そういうんじゃないだと思うんだ。何て言うのかな、魂の色の底の部分で……どこか一緒って言うか……」

 

『それが気心の知れた、って言うんじゃないの?』

 

「……ああ、もうっ! 今は向かってくる敵に! ほら、油断している場合じゃないよ!」

 

 メイアはそう言い切りつつ、しかし悪い気分ではない事を感じていた。

 

 誰かに焦がれるのは思えば初めてかもしれない。

 

 他人の恋路に口出ししたり、茶化したりするのには慣れているはずなのに、自分の事になるとこうも不格好に陥ってしまうのか。

 

 だがそれでもいいのだろう。

 

 今は、それで充分な心地であった。

 

「さぁ、向かってきなよ! ボクらは負けない……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦場をさまよい歩くのには、随分と慣れてきたのが恐らく銃を握って半年が経った頃合い。

 

 敵を葬るのにいちいち頓着でさえも浮かべなくなっていた。

 

 首から下げた「御守り」を撫でて自分は指先から感覚される声を聴く。

 

 それは戦場に放り込まれた時から、自分へと囁く声であった。

 

 付けられた名前を失い、永劫に地獄の業火に焼かれ続けるかに思われた、狂気の脳髄でその声だけが明瞭に自分の指標を告げる。

 

「……《ゼロポラリス》、か。お前はずっと、そう言っているな」

 

 返答すると、同じようにこの戦場に放り込まれた兵士が言葉を投げる。

 

「それ、キミの名前? 《ゼロポラリス》っての」

 

「……いや、俺には名前がない。名無しなんだ。生きていくのに、指標は少ないほうがいい。だから、番号だとか識別信号程度で構わないんだろう」

 

「それじゃ、この部隊だと呼びづらいでしょ。あたしは生きて帰るつもりだからさ。キミの名前を教えてよ」

 

 そう言ってくれたのは戦場では損耗されていくばかりの少女であった。

 

 年のころは自分と同じくらいであろう。

 

 浅黒い肌の少女は、片腕が義手であった。

 

 胸元にプロテクターを付け、心拍を同期するコードを接続している。

 

 ここ最近、民間に降りて来た「ライドマトリクサー」と呼ばれる技術の一端であろう。

 

 軍部では随分と昔から研究が進んでいたようだが、思考拡張に比べればまだ一般浸透率は低い。

 

 少女は細腕に見合わぬ銃器を構え、壁を背にして敵兵へと一射する。

 

 口笛を吹き、どこか憔悴し切った笑みを浮かべていた。

 

「……何故、笑える。ここはもう絶対の死地だ。死ぬ以外に道なんてない」

 

「どうかな……。案外、生き延びたりして?」

 

「……楽観視は死を招く。それがどうであれ、一度でも生きられると誤認すれば、下手を打つぞ」

 

「……キミさ。何だってそこまで悲観的なの? 確かにあたし達は、死ねと言われて投げられた爆弾なんだろうけれど。そこまで気が滅入っていれば生き残れるものも生き残れないよ?」

 

「……生き延びる気はない。ここまで来るのにどれだけ死んで来た? 一手でも誤れば死に堕ちる。運がいいか悪いかだけだ。それだけの意味に集約される」

 

「……難しい言葉を知っているなぁ、キミは。将来は学者にでも成れるんじゃない?」

 

「馬鹿を言え。……一般兵に学者身分なんて分不相応なユメだ」

 

「でも、ユメは見るのだけは自由だから、さ。……ねぇ、さっきから銃声が劈いて、ほとんど耳聞こえないの。けれどキミの声だけは……最期まで聞いていたいな」

 

「その割にはよく回る舌だな。まるで死を恐れていないかのような」

 

 こちらの言葉に少女は快活に笑う。

 

 おおよそ戦場には似つかわしくない声量であったが、ほとんどが重爆撃の連鎖が掻き消していった。

 

「死は怖いよ。死ぬのは……やだなぁ、お腹も空いてるし。腹いっぱい、ステーキでも食べたい気分だ。ああ、あとパンも。硬いんじゃなくってさ。八枚に切れるような柔らかいパンがいいな」

 

「……お前のような人間はこういう時にまでそんな事を言えるんだな。俺は無理だ。未来に展望も、ましてや希望もない」

 

「夢も希望も、か。でもそれってさ……結局のところ命一つ、投げ切っていない人間の言い草じゃない?」

 

「……俺達の命はこの戦場を統括している人間のものだ。もう自分のものなんて何一つない」

 

「それは嘘じゃん。嘘だけは分かるんだ。だって、あたし達にはこれがある」

 

 弾倉を装填し、少女は微笑んでいた。

 

「……武器しかないと言うのか」

 

「悲観するもんでもないって事だよ。あたし達は簡単に死ねる。自分の命の価値は、思ったよりも自由で、そんでもって思ったよりも軽い。だから、鉛弾と同じでさ。それで何を成すかって言うのも自由のはずじゃんか」

 

 自分の命が鉛弾と同じだと言うのは、想定外の価値観であった。

 

「……俺はだが、生き延びたって何かをしたいわけでもない。何かに落胆しているわけでも……」

 

 渇望も、欲求も何もない。

 

 空っぽの自我を持て余すばかりだ。

 

 じゃあさ、と少女が銃身を撫でる。

 

「あたしの恋人になってよ」

 

「……何でそうなる」

 

「あたしさ、まぁそこいらじゃよくある話だけれど、上官の相手させられてるの。それも嫌気が差しちゃって……恋人が居れば、断れるかもだし」

 

「恋人が居たって、そんなものは変わらない」

 

「かもね」

 

 そう言って少女はまた笑うのだ。

 

 壊れそうな笑顔で。

 

 それでも今を生きる人間の微笑みで。

 

「……少し魔が差した。それでもいいのかも……しれないな」

 

「嘘、ホントに? キミってそういうの、全然なんだと思ってた」

 

「会って十分も経っていないだろう、俺達は」

 

「あー……だからなのかな。ほら、あたし達、さ。子供だから、それでもって消耗品の兵士なもんで、顔合わせた次の日には死んじゃってるのが日常だし。たまーに生きてる人を見ても、地獄でも見たような顔をして、口の中に銃口放り込んで死んでいくのも見たし。……あーあ! 一生分の人間の死に方見たかも。こっからは、さ。じゃあ人間らしい事しようよ」

 

「人間らしい事とは何だ? 何がある?」

 

 こちらの質問に、少女は馬鹿正直に悩んでいた。

 

 弾丸の飛び交う戦場で、相手へと銃撃し物陰に隠れ潜んでいる現状とはまるで正反対のように。

 

「えーっと……じゃあデート! デートしよっ!」

 

「デートって、何をするんだ」

 

「あっ、知らないや。うーん……多分、毎晩しているのは違うんだよねぇ」

 

 少女は暗い過去を持っているようであるのに、一欠片だってそれをおくびにも出さない。

 

 否、現在進行形で、彼女にとって世界は地獄に沈んでいるのだ。

 

 ならば、それ相応の瞳をしているものなのに、エメラルドグリーンの眼差しは好奇を宿していた。

 

「多分……だけれど、一緒にご飯食べたりするんだと思う。お腹いっぱい食べて、それで手を握る! あっ、でも上官みたいに無理やりはやだな……。すっごくもどかしい距離で……相手の事とか考えてさ。きっと楽しいよ!」

 

「……先んじて言っておくが、俺は恋人になる気はない」

 

「えーっ! なってよ!」

 

 爆雷が発動し、先遣隊が空中より派遣される。

 

 ここ近年で急速発展したモビルスーツと呼ばれる兵器。

 

 そのフラッグシップ機たる《プロトエクエス》は携えた銃火装備で敵兵を蹴散らしていった。

 

 その分、歩兵の事を考えていない音叉が鼓膜を叩く。

 

「く~……っ! うるさっ! うるさいんだから、もう! ゆっくりお喋りも出来ないよ!」

 

「俺達は必要ないのかもしれないな。あれだけで百人力だろう」

 

「じゃあ逃げちゃう? この戦場から」

 

 少女はいたずらを思いついた程度の気軽さで、自分へと手を伸ばす。

 

 義手の指先が開いたのを凝視していると、彼女は、そっか、と何かに気づいた。

 

「こっちじゃ失礼かな。生身のほうがいいでしょ?」

 

「……お前は、何なんだ。死に行くだけの戦場で、何を求めている?」

 

「うーんと……デートのお相手?」

 

「頭に精神点滴でも打っているのか? とっくの昔に壊れた脳髄で、この戦場を楽しんでいるようにさえも映る」

 

「いや、それは違うかな。だって死にたくないし。前に飛び込んで銃撃の的になるのは痛そうだからやだ。そりゃー、兵士なら死んで意味を示せって言うのも分かるけれど、死んじゃったらそこまでだし」

 

 どうしてなのだか、少女の哲学にはこのどん詰まりの戦場に不意に差した光明のように感じられた。

 

「……それがお前の哲学と言うわけか」

 

「哲学なんて大層なもんじゃないよ。あたしは、さ。もう将官の相手だとか、片腕ないってのにそういうのばっかりだとかがやなだけ。そりゃー、女であるからそういう使い道なのは分かるんだけれどさ。逃げ出したいし、一緒に逃げようよ。ひとりじゃ怖いけれど、二人なら平気そうだ」

 

「……ひとりでは無理、か」

 

「どんな事だって、ひとりじゃ上手く行かないよ。だから、さ。逃げるのも一つの手段! さ! 逃げよ!」

 

 おかしな事を言う兵士も居たものだ、と僅かながら自嘲して少女は微笑みかける。

 

「キミ、笑っていたほうがいいよ。うん、そっちが似合うな」

 

「……そうか。だが悲しむ気にもなれないんだ。どっちつかずなんだろうな、俺は」

 

「逃げよ! キミとあたしはこの世界の果てまで、一緒に逃げ回るんだ! そんでもって、海の見えるいい風が吹く家を買って、そこにしわくちゃになるまで過ごす! これって最高じゃない?」

 

「現実逃避もそこまで行けば立派だな。分かっているのか? 目の前には紅蓮の戦場だぞ」

 

「分かっているから言ってるの! あたしみたいなのはどうせ長続きしないよ。上に飽きられてよく分かんないままに捨てられるか、何かの拍子に的にされてお終い! そういうもんだと思うしさ。だったらなおさら逃げたほうがいい!」

 

 不思議なもので、少女の言葉は後ろ向きには聞こえない。

 

 全て前向きに未来を語っているようにさえ映る。

 

「……俺に、逃げ回れるだけの運があるとも思えないんだがな」

 

「運は運だし、仕方ないよ。そう、仕方ない。……逃げ回ってった末にどうしようもないんなら、もうそこで諦めちゃおう! それも一個の人生だ!」

 

《プロトエクエス》が戦場を分断する。

 

「……すごいな、モビルスーツって奴は」

 

「ええ? あたしがすごいって?」

 

「言ってない。本当に耳が終わってるんじゃないのか?」

 

「えへへ! それ、褒め言葉! 行こっか!」

 

 手を伸ばす少女へと、ようやく自分の命を投げる気になれたのは、この果ての戦場がもう終焉に向かっているからだろうか。

 

「……名前は? まさか《ゼロポラリス》ってのが名前じゃないでしょ?」

 

 指先を絡め、そうだな、と足りていない知識を手繰る。

 

「ゼロはヒトの名前にしちゃ、指標めいている」

 

「じゃあ名前を付けてあげる! ――ノオト。ノオト・ポラリスってのは、どう?」

 

「ゼロの別読みじゃないか」

 

「でもゼロって言われるよりかは、人間味があるじゃない」

 

 確かに。

 

 少しばかり人間らしい名前に、自分はフッと口元を緩める。

 

「……逃げられるだろうか。この宿命から」

 

「逃げられるか、じゃなくって逃げるんだよ。そうじゃなくっちゃ、いつまでもぐるぐる周回するばっかりだし!」

 

 少女に手を引かれ、自分は駆け出していた。

 

 奇妙な事に、銃弾の降り注ぐ戦場で、二人だけ別の時間に生きているかのように身体が軽い。

 

 一手でも誤ればすぐに死ぬ場所だ。

 

 それでも少女は、笑っていた。

 

 心底可笑しいように笑っていたのだ。

 

 ――今にして思えばもう壊れていたのかもしれない。

 

 だからデートだの、恋人だの言って、最後の最後に戦場を掻き乱してから死にたかったのかもしれない。

 

 終わりに映った戦場は思ったよりも手狭で、すぐに戦端の終わりへと到達する。

 

 互いに呼吸を荒立たせ、少女は汗を拭ってから、こちらへと片手を高く上げる。

 

 その手へとハイタッチしようとして、するりと手がすり抜けていた。

 

 少女の肉体が銃撃を前にしてぼろ雑巾のように吹き飛ばされる。

 

 それを認識した直後には、自分の身体にも鉛弾が撃ち込まれていた。

 

 友軍と敵軍の識別信号もない、果ての戦場では向かってくる少年兵は爆弾以外の何者でもない。

 

 だから、撃たれるのは当然で。

 

 そして――彼女もそれを分かっていないはずがないのに。

 

 血染めに沈んでいく意識と視界の中で、少女は涙を流していた。

 

 だが最悪な事に即死ではない。

 

 自分と少女は、まだ息があった。

 

 痛みと虚脱する神経が肉体を支配していく中で、声を発していた。

 

 弱々しい、声を。

 

「どうして……なく、んだ……」

 

 さっきまで笑っていたのに。

 

 その悔恨を込めた声音に、少女は泣き笑いしていた。

 

「……だって、痛み以外で泣けるのは人間だけだから……。人間として……死ねる事が、嬉しい……」

 

「にんげんとして……」

 

 分からない。何もかも。

 

 分からない。何一つ。

 

 少女が泣きながら笑っている意味も。

 

 自分の血潮が彼女の血を混じり合っている、この感覚も。

 

 己を投げてこそ、命を賭ける価値があると言うのならば。

 

 この時――ノオト・ポラリスには価値があったのだろうか。

 

 数分前に彼女につけられた名前。

 

 数分前に魔法にかけられたように、この戦場を脱し切れると思っていた。

 

 だから、これは呪いだ。

 

 少女がかけた永劫消えない呪い。

 

 呪詛代わりの指標――。

 

「ああ、でもこんなにも……」

 

 満たされて死んでいくのだな、と感じて白銀のタグを撫でる。

 

 弾丸で半分が砕け、めり込んだ銃弾が意味を消失させていても、それでも声が聞こえる。

 

 ――《ゼロポラリス》と名乗る何者かの声が。

 

 この世界で張り上げた意味一つが。

 

 赤く染まった指先で、白銀のタグを強く握り締める。

 

 今だけは――消えないで欲しい魂の音色であった。

 

 

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