「現状、モルガンへの帰投率、三十パーセント以下。このままでは……」
「ええい! 全機を帰せとは言わん! だが、我々騎屍兵師団の名折れと言うものもあろう!」
統合機構軍より臨時艦長としてモルガンの師団長に襲名した途端、このような乱戦に巻き込まれれば当惑もするのだろう。
慣れない艦長職で怒声ばかりを発する艦長に、オペレーター達も戸惑いの渦中にあった。
「《ネクロレヴォル》隊、敵艦隊へと向かっていきますが、そろそろミラーヘッドジェルが尽きるリミットです。一度帰投信号を打つべきではないでしょうか?」
進言したオペレーターに艦長は肘掛けを殴りつける。
「み、認めん……認めんぞぉ……! ここまで損耗するなど……! そもそも、王族親衛隊が全滅と言うのがどこかおかしいのだ! せっかくの騎屍兵もこれでは形無しではないか!」
「《ネクロレヴォル》からの反証もなし。撤退信号で様子を見ましょう、そうすれば――」
振り向いたオペレーターの顔色が蒼白になる。
艦長が何だと問い返す前に、銃弾が彼の頭蓋を撃ち抜いていた。
「な、何者――!」
声を発しかけて眼前の銃口に艦長は絶句する。
「……あ、あなたは……」
「ブリッジを、明け渡してもらおうか……!」
「……リヴェンシュタイン王族佐官……。な、何故……! 何故なのです! こんな時に、一体どのような……!」
その言葉を遮るかのように、ディリアンは銃弾を天井に撃っていた。
「黙れ! 貴様らのような卑しき存在が、わたし相手に言葉を弄するんじゃないぞ……! 騎屍兵のヨゴレ部隊風情がぁ……!」
艦長の額に銃口を突きつけて、ディリアンは歯を軋らせる。
「ご、ご乱心めされたか! 今は、そのような状況ではございません!」
「乱心? そうか、乱心に見えるか、わたしの……この高貴なる行動でさえも……貴様らは……!」
立ち上がって銃口を向けようとした操舵手を撃ち抜き、続いて砲雷長の足を射抜いていた。
「臨時艦長、あなたは最後だ。命令を下してもらいたい。騎屍兵全機を、敵重要艦たる、オフィーリアに向けて、総攻撃」
「む、無謀です! あの艦には聖獣が味方しているのですよ!」
「聖獣が何だと言う! こちらには魔獣が居たはずだ!」
声を張り上げ、ディリアンは他の者達を照準する。
自分の命令を聞けないのならば、すぐにでも殺すという意思が伝わったのか、艦長は声に恐れを宿らせていた。
――そうだ、これこそが自分の特権。
支配による隷属こそ、相応しい。
「あの騎屍兵はわたしの事を恐れていなかった……! あの忌々しいヴィクトゥス・レイジも同様だ……! わたしを敬わぬものは邪魔なのだよ! この世界は全て! このディリアン・L・リヴェンシュタインのものである!」
足を引きずって砲雷長が信号を打とうとしたのを、ディリアンは察知してその背中を撃ち抜いていた。
「逆らう者は皆殺しだ! ……これこそが! これこそがわたしの存在意義! わたしの支配を受け入れぬ人間は、皆死ね! 死んでしまえ!」
艦長は慎重に、それでいて震える唇で声にする。
「お、落ち着いてください……誰も、あなたには逆らい、ません……。何が……望みなのですか……」
「騎屍兵を向かわせろと言っている! 一度で聞こえなかったのか?」
艦長の口腔部へと銃身を突き入れる。
艦長は何度もいやいやをするかのように頭を振ってから、目尻に涙を浮かべていた。
「騎屍兵に命令せよ! オフィーリアを墜とせ! そしてアルベルトをわたしの前に救い出せ!」
何度も頷いた艦長の口から銃口を外すと、彼はむせて涎を垂れ流す。
「き、騎屍兵を攻撃配置に……」
その命令を受諾させようにも、ブリッジに居る者達は軒並み殺してしまっていた。
仕方あるまい、とディリアンは顎でしゃくる。
「艦長自ら、伝令を打て。“オフィーリアを轟沈させろ。ただしアルベルトは生かせ”と」
「あ、アルベルトとは……一体誰の――」
「わたしの弟だ! 知らないとは言わせんぞ!」
遮るようにして艦長の足を銃撃する。
血の玉が浮かび上がり、ブリッジが鮮血で満たされていく。
狂気の空間でディリアンは喉の奥を震わせて高笑いを上げていた。
「わたしこそが勝利者だ! 最終的に全てを支配するのはこの! わたしのような血筋こそが最適なのだよ!」
艦長が伝令を打とうとするがあまりにも遅い。
痺れを切らせたディリアンが艦長の後頭部へと銃口を突き付ける。
「統合機構軍より配された臨時艦長だろう? 使えないな、貴様は」
「や、やめ……!」
頭蓋を撃ち抜き、脳しょうをぶちまけた艦長を心底侮蔑し、血潮を払う。
「やれやれ。誰も彼もが役立たずだな。信号は……これでいいはずだ。騎屍兵と! そして汚れ仕事を完遂するだけのモルガンの連中は自ら志願して死んで行く! それこそ、この舞台を彩る最後の演目だろう!」
モルガンは自分の制御下にある――全能感にそれだけで達しそうになるが、ディリアンは恍惚とした表情で死した艦長の帽子を奪い取っていた。
自ら被り、そして声を伝令させる。
「わたしこそが! リヴェンシュタイン家の長兄、ディリアン・L・リヴェンシュタインなのだからな!」
暗礁の宇宙を行く艦艇から自動迎撃の砲門を引き出させ、敵勢を照準させる。
火砲が流れていく中で、ディリアンは艦長席へと座り込み、血濡れの艦橋で頬杖を突く。
「さぁ! ガンダムは皆殺しだ! やれ! 殺せ! わたしに従わない者は全て、焼け落ちてしまえ!」
哄笑が天井へと吸い込まれていく中で、ディリアンは終わりの淵に立った戦場を見据えていた。
「艦長! モルガンが急接近……これは……帰投信号? この状況で?」
うろたえたバーミットへとレミアは呟いていた。
「……戦場の狂騒に呑まれたか、あるいは理知的な判断かの区別がつかないわね……。いずれにしたところで、弾幕を張って迎撃! ……ちょっと待って。ピアーナ、何?」
ブリギットよりもたらされた秘匿通信網に、レミアは片耳で押さえたヘッドセットに耳を傾ける。
『あれは……明らかな異常行動です。如何に統合機構軍の間に合わせの軍人が座っているとしても、あの挙動はモルガンのそれではありません……』
「あなたが言うと説得力があるわね……。じゃあだとすれば? 一体何が……」
『分かりません……分かりませんが、良い兆候ではないのだけは確かでしょう。ブリギットで牽制砲撃を見舞いながら、モルガンを……迎撃します』
しかしそれは、見知った者達を葬ると言う決断に他ならない。
僅かに震えるピアーナの口振りを、レミアは聞き逃さなかった。
「……ピアーナ。あなただけに任せて私達に下がれ、と言うのは確かに、言えるのはその通りでしょうけれど、もう一蓮托生なのよ。ここは、オフィーリアにも加勢させてちょうだい」
『……しかし……貴女方にはそこまでやらせる義務も……』
「もう義務だとか権利だとか言っている場合でもないって事よ。ピアーナ、私達にも握らせて。あなたが保留し続けているトリガーそのものを」
暫時、沈黙が流れた後に、ピアーナはこぼしていた。
『……了解、いたしました。わたくしも、少し軽んじていたのかもしれませんね。貴女達の決意と言うものを』
「オフィーリア、このまま艦砲射撃を見舞いつつモルガンへと前進。ダリンズ中尉の《ネクストデネブ》の火力で押し返します」
「……艦長、随分と太い作戦ですけれど、大丈夫ですか?」
「ここ一番で太くならなくっちゃ、いつ恥を捨てるって言うのよ」
「それもそっか。……お供しますよ。地獄の果てまで、ね」
「……バーミット、それは異性に言う言葉よ?」
「あ、そっかぁ……。まずったんで、今のナシ、でいいですかね?」
「……本当、あなたらしいわね。こんな土壇場の戦場でも」
「そりゃあそうでしょ。女らしさを失ったら、一気に品位も落ちるってものです」
「品位、ね……。モルガンを支配しているのがたとえエンデュランス・フラクタル上層部の意図だとしても……それを踏み越えなければ、私達は読み負ける。それだけは自明の理でしょう」
「誰が操っていようと関係ないですよ。本気を出す時に出し切れないのが一番に厄介ってもんでしょうに」
「それもそうね。艦砲台を全て、モルガン迎撃に費やしてちょうだい。ここ一番で後ずされば敗北するのはこちらよ」
しかしそれは、ピアーナの帰る場所を永劫失うようなもの。
それでも、自分達は踏み越えなければいけない。
未来のため――そして何よりも己が信じる道を貫くために。
オフィーリアのミサイル射出口が開き、モルガンに向けて艦隊戦を仕掛ける。
モルガンが火線を散らして迎撃しながら、その灰色の艦艇を真っ直ぐにこちらへと向けていた。
逃げる気はお互いにない。
ここで退くくらいならば、安直なる死に集約されたって構わない。
その気概がオフィーリアとブリギットを進ませる。
絶対の死地だと分かっていても、双方の艦とそして保有戦力がぶつかり合っていく。
MS部隊が絡み合い、《ネクロレヴォル》隊と相対していく。
《アイギス》を打ち砕かれ、《ネクロレヴォル》が太刀を振るった直後から、応戦銃撃が見舞われ《ネクロレヴォル》のアステロイドジェネレーター炉心を射抜く。
収縮爆発が巻き起こり、掻き消えていく命を顧みもせず、艦隊の砲身がお互いを狙い澄ましていた。
「主砲、照準!」
『ブリギット、全砲門、開け。照準、敵艦、モルガンへと……』
モルガンの砲門が一斉掃射され、ブリギットを狙い澄ます。
『させるものか! 《ネクストデネブ》の出力ならば!』
ダビデの《ネクストデネブ》が前衛を務め、砲門で相手の主砲を防御する。
しかし、やはり本来の持ち主ではないからか、Iフィールドは展開されず、砲撃を前に盾代わりの砲門が焼け落ちていく。
《ネクストデネブ》が次手で砲身を突き上げ、モルガンを狙ったが、その背後へと回り込んでいたのは《ネクロレヴォル》隊であった。
鋭く斬り込んだ灰色の躯体がチェーンマインを連ねて《ネクストデネブ》の首裏へと投擲し、散開した直後には爆砕が機体を激震する。
その衝撃波は《ネクストデネブ》だけではなく、エネルギーチューブを連結させているオフィーリアとブリギットにも伝わっていた。
揺れるブリッジの中で、レミアはモルガンを真正面から睨み据える。
モルガンとの相対距離はまだ遠かったが艦隊戦を仕掛けるのにはあまりにも至近。
何よりも、騎屍兵の操る《ネクロレヴォル》隊が鉄壁の壁として屹立する。
「……MS部隊を呼び戻したのはそのためでもあるのね。考えなしのようで、案外うまく転がっているってわけか」
聖獣の一角である《ネクストデネブ》を撃沈する事が、翻れば艦隊を粉砕する事に直結する。
歯噛みしたレミアはその直後、《ネクストデネブ》を保護するように立ち現れたMS部隊を目の当たりにしていた。
『やらせはしねぇよ……! 艦長を……絶対にやらせはしねぇ!』
ダイキの《シュラウド》を先頭に、MS部隊が《ネクロレヴォル》隊と交錯する。
ユキノの《アイギス》が敵機の加速挙動に回り込み、ビームライフルを一射させる。
『……ええ、そう。だって、小隊長がまだ帰ってきていないもの! だから、やらせはしない……帰る場所を……守るんだって!』
シズクの《ネクロレヴォル》が敵影へと太刀筋を潜り込ませる。
相手も抜刀して干渉波が迸ったのも一瞬、シズクは掌に内蔵された超至近距離兵装を爆ぜさせていた。
それはかつて《レヴォル》に組み込まれていた主兵装であった。
『……生きる意味は後から付いてくる。だとすれば私は……今を生きていたい。所詮、死に損ないの戯言だと断じられたとしても……! 私がここに居ていい理由だと言うのならば!』
それぞれの想いがブリッジに響き渡り、レミアは熱くなりかけた目頭を揉んで頭を振っていた。
「……そうね、あなた達が、だって生きていたいと願うんだもの。それなら、私達は責任を持って、帰る場所を守らないといけない。それが今を生きる……人らしさだと、言うのならば……!」
モルガンの下部に搭載されたミサイルポッドが火を噴き、互いに破裂した爆砕の光輪が押し広がる。
その輝きを照り受けて、《ネクストデネブ》がその爪を払っていた。
《ネクロレヴォル》を遠ざけ、直後には砲門がモルガンを照準する。
『その艦……貰い受ける……!』
放射された火砲がモルガンの側面を掠め、獄炎が燃え盛ったがそれでもモルガンは止まる気配がない。
まるで――全ての恩讐を抱いてこちらへと特攻せんとするかのように。
「……ピアーナ? いくらエンデュランス・フラクタル上層部が狂っていたとしても……この情勢はどう考えても……」
『ええ、レミア艦長。貴女の考え通り。……今のモルガンは、真っ当ではない』
ピアーナに断言されたモルガンは既に制御を失っているようでさえあった。
落ち着けどころを永遠に失い、敵へと狂気のみを押し込む事だけを至上目的とした――災厄の導き手。
「ラムダは? 後ろを任せているとは言え、応援の火線があっても……」
「それが……艦長。あたし、信じられないんですけれど……」
濁したバーミットにレミアは視線を振り向ける。
「……何があったの?」
「……つい、三分前からなんです。モルガンが向かってきたのを嚆矢としたように……。ラムダのシグナルが完全に消えました。それに伴い、援護してくれていた《ゲシュヴンダー》も」
震える声音のバーミットにレミアはにわかには信じられない眼差しで応じる。
「……まさか、裏切り……?」
「いえ、それは考えづらいですよ。ここまでお膳立てしたのは、だってラムダの……まさか、最初から織り込み済みで……?」
こちらの問いかけが霧散した瞬間、管制室が激震する。
モルガンが艦隊ごとこちらへと突っ込んできたのだ。
状況を把握するよりも先に、破砕されたモルガンの横っ腹から、ノーマルスーツ姿の人々が吸い出されていく。
それはピアーナからしてみれば悪夢の光景であろう。
見知った者達が死んで行くのをまざまざと見せつけられれば、さしもの全身RMの彼女とて鈍る。
そして、それを狙ったかのようにモルガンの火線が狙い澄ましていた。
ブリギットの艦艇へと鋭く一射された光軸は、そのまま焼き尽くしていく。
『艦長ォ――ッ! 野郎、やらせるかよ……ッ!』
「クラビア中尉? 間に割って入れば押し潰されるわよ!」
バーミットの忠告も今は彼に届いていないようであった。
モルガンの艦の鼻先へと舞い降りようとして、何度も《ネクロレヴォル》が妨害する。
『退けよ! 退かなくっちゃ……リクレンツィア艦長が危ないだろうが!』
何度も鍔迫り合いを繰り広げる《ネクロレヴォル》との交錯を関知する前に、モルガンの主砲がオフィーリアを狙い澄ます。
「艦長……!」
バーミットの声が、全員の挙動が遅れて映る。
全ての現象が妙に遅く感じる時間の中で、レミアは砲口に充填されていく光芒を凝視していた。
そんなつもりはないのに、一秒が数分にさえも感じられる。
そのような最中で、感じられたのは「しくじった」、と言う一事のみで。
我ながら嫌気が差す心境を持て余すのが最後か、と脳裏を過ったのも一瞬、直後にはブリッジの前に機影が立ち現れていた。
「……何者……」
その言葉が明瞭になる前に噴出したミサイルポッドの攻撃がモルガンの気勢を削ぐ。
爆炎が折り重なり、世界が赤に染まった直後に伝令がもたらされる。
『……レミア艦長……皆さん、無事ですか……』
「カトリナちゃん……?」
茫然とする管制室の中で、レミアは声を発していた。
枯れかけた喉にようやく意味を通すように、問い返す。
「……カトリナさん……なの?」
『……はい。すいません、待機命令、無視しちゃいました……』
よくよく目を凝らせばその機体は《オムニブス》であり、スクランブルで出撃したのが修繕途中の装甲から窺える。
カトリナの直通通信が明瞭に管制室の内部で残響する。
彼女は咽び泣いているようであった。
目の前の現状に、だけではない。
何か、彼女にとって意味のある何かが引き起こされ、カトリナは前に出る事を決断したのだろう。
その決意に水を差す事も出来ずに、レミアは現状を顧みる。
モルガンの艦載装備はほとんど破砕されていたが、それでも主砲は生きている。
レミアは己の中に火を通すように、引き絞った声を弾けさせていた。
「主砲、照準! 目標、騎屍兵旗艦、モルガン!」
その声でようやく現実認識に戻ってきた者達が主砲の照準網の中にモルガンを捉える。
相手からの反撃が来る前に、オフィーリアの主砲はモルガンを狙い澄ましたかに見えたが――。
『――させるワケ、ねぇだろうが!』
火線が舞い散り、弾幕がオフィーリアの決断を揺るがせる。
「何……!」
前を遮っていた《オムニブス》へと直上から割り込んできた真紅の機体が赤銅色のミラーヘッドで押し返す。
カトリナの悲鳴が響き渡る中で、機体照合は絶望的なものを示していた。
「これは……! 艦長、あれは……《ヴォルカヌス》……機体照合、《ガンダムヴォルカヌス》です……!」
バーミットの声が戦場で滑り落ちていく。
《オムニブス》へとミラーヘッドを行使した《ヴォルカヌス》はその手を手繰り、半壊状態の《オムニブス》をオフィーリアの艦艇へと叩き落としていた。
カトリナの悲鳴が管制室に残響する。
「カトリナちゃん? 大丈夫なの!」
『だいじょう……敵前……あれは、《ヴォルカヌス》……?』
切れ切れの言葉は明らかに負傷しているのが窺えるも、援護射撃に割くような余裕はない。
モルガンの内蔵するミサイルが掃射され、レミアは咄嗟に声を張り上げていた。
「迎撃! 弾幕を張って相手を遠ざけて!」
「しかし、あまりにも……! 近過ぎるんですよ……何もかもが……!」
悔恨の声を搾り出したバーミットは直後には銃火器の管制に移っている。
「艦全砲門開いて! この距離でのミサイル直撃は明らかに……まずい!」
主語を欠いた命令だったが、誰もが生きようと必死になって命を散らしていく戦場で、正常に働いた事は奇跡であったのだろう。
火線が舞い散り、ミサイルの爆光が轟く。
減殺フィルターでも殺し切れない光の連鎖に、レミアは奥歯を噛み締めていた。
「……こんな状態で……カトリナさんを立派に援護の一つも出来ないなんて……」
「整備班へ! 出せる戦力はないの? このままじゃ、甲板でカトリナちゃんが焼け死んで……!」
『無理言わないでください! 先ほど出た《オムニブス》だってようやく修繕完了したんです! それに……前に出過ぎているんですよ、みんな戦場の狂気に呑まれちまって……!』
サルトルの浮かべた言葉を咀嚼する前に、モルガンの艦首がオフィーリアともつれ合っていた。
想定されていないベアトリーチェ級戦艦同士の超接近戦は、互いに地響きにも似た衝撃波を生じさせながら泥沼へと陥っていく。
「……カトリナさん……生きて……! お願い、死に急ぐのだけは絶対に……」
レミアの必死の願いは届いているのかどうかでさえも不明なまま滑り落ちていくのみであった。