「痛っつ……!」
カトリナは何かが肉体を通り抜けたのを感覚してその場に蹲る。
「カトリナ嬢! どうしたんすか……!」
「今……」
右腕に刻まれた思考拡張の赤い印が疼いている。
少し痺れるが、その程度だ。
だが、何かが巻き起こったのは間違いなく認識していた。
「……今……おかしな事が、起こりませんでしたか……?」
トーマは茫然としているが格納デッキでティーチが叫ぶ。
『何ですって? 敵陣営同士が……同士討ち?』
ノーマルスーツに身を包んだティーチへと、カトリナもノーマルスーツに袖を通してから、漂って接触回線を開く。
「……何が起こったんですか」
『……不明な情報ですが、敵陣営が同士討ちを……ここになってどうして……』
「同士討ち……? こっちは、オフィーリアは無事なんですか!」
『……今入って来たばかりの情報ですので……精度は……』
黙っていられないと、カトリナは壁を蹴って管制室へと向かおうとしていた。
その行く手を阻んだのはヴィルヘルムだ。
「待つんだ……君が行けば、想定外の事に成りかねない……」
「でも……! 今行かないと、何もかもが……手遅れになってしまいそうで……!」
「だから待つんだ。落ち着かないといけない。情報は共有されて然るべきだろう。……シャルティア委任担当官!」
自分を追って壁を蹴って向かおうとしてきたシャルティアが不格好に格納デッキを漂ったのを、ヴィルヘルムが引き寄せる。
『わわっ……、し、シンジョウ先輩……? 一体どうしたって言うんですか……』
「分からない……んです。けれど、何だか……ここが痛む時は悪い事が起こるような気がして……」
シャルティアが自分の手の甲を覗き見ていた。
『……思考拡張の痕跡……ですよね?』
シャルティアは自身の二の腕へと恐々と手を伸ばす。
ヴィルヘルムが首を横に振っていた。
「……カトリナ君は少し型式が古い上に強度の思考拡張だ。君ほどじゃない」
「……シャルティア委任担当官も……思考拡張施術を……?」
寝耳に水の事実に驚嘆する前に、シャルティアはヴィルヘルムへと目線を投げる。
『……でも、何かが起こった。そうですよね? ヴィルヘルム先生』
「……わたしの知り得ている状況でも最悪だと仮定すれば、この戦局を分析する事も出来るが……しかしそれは……」
言い澱んだヴィルヘルムへと、カトリナは掴みかかる。
「教えてください……! 今は、知らないと駄目……そのはずなんです……!」
彼は僅かに視線を逃がした後に、ゆっくりと首肯する。
「……分かった。教えよう。ただし、管制室に向かう道すがら、でよければ、だが……」
カトリナは静かに頷き、無重力の通路でグリップを握っていた。
「これは、既に仮説として提示されていた情報でしかない。だが、この戦場がそう転がっているとすれば説明もつく」
『何が起こっているんですか……?』
「……第五の聖獣たるMF05、《フィフスエレメント》。それが覚醒した可能性が高い」
「でもそれって……確か、オリジナルレヴォルなんじゃ……」
「そう呼称はされていたが、仮説は二つある。一つは、《フィフスエレメント》こそがオリジナルレヴォルと呼ばれる存在であり、この次元宇宙に全ての聖獣を招いてきた。……だがこの仮説は矛盾する。それは何よりも、聖獣の駆り手の証言だ」
『聖獣の駆り手……ザライアン・リーブスをはじめとする……彼らの事ですか……?』
ヴィルヘルムは一つ頷き、懐の煙草のパッケージを探りかけて、その手を握り締めていた。
「……オリジナルレヴォルがMF05だとすれば、時系列がおかしい。何故、第五の使者が、それまでの四体の聖獣を呼べたのか。MF05の特殊性だと言い切ってしまえばそこまでだが、これに関しては別の言い分がある。即ち、MF05――我々が今日までオリジナルレヴォルだと思い込んでいたそれは、オリジナルレヴォルではなかった、と」
ヴィルヘルムの紡ぎ上げた結論にカトリナは待ったをかけていた。
「ま、待ってください……っ! それだと……じゃあ、MF05は、何だって言うんですか……?」
「単純思考で結論付けるのならば、第五の使者であり、五番目の聖獣だ。MFとパイロットをこの来英歴に呼んでいたものとは別の存在という事になる」
「でも……クラードさんはずっと……! オリジナルレヴォルの奪還を目指していて、三年前のレヴォルは、確かに《フィフスエレメント》だったって……!」
『そ、そうですよ! 矛盾して来ます! じゃあ、オリジナルレヴォルって言うのは、何だって言うんですか……』
「あくまで仮説、という前提条件で話を聞いて欲しいが」
前置きしたヴィルヘルムはグリップを強く握り締める。
「オリジナルレヴォルと呼ばれる存在は別であり、MF05、《フィフスエレメント》自体は、クラードと共に在ったレヴォルそのものだったのだろう。三年前に戦い、そしてダーレットチルドレンに確保されたのは間違いなく、我々のレヴォルであった。だがオリジナルレヴォルだと思い込んでいたそれは、ただの五番目の聖獣だ。呼んでいたのは、違う」
「だからそれが変だって……! じゃあオリジナルレヴォルって言うのはどこに居るんですか……!」
「ザライアン・リーブスはこう言っていたはずだ。呼び声は限りなく弱まっていると。そして、彼の証言を借りるのならば、《ダーレッドガンダム》の特殊性でさえも違う。あれも、オリジナルレヴォルではない」
『ヴィルヘルム先生……話がごっちゃになっていますけれど……』
「何も複雑に考える事はない。レヴォルは第五の聖獣であったが、我々の言うオリジナルレヴォルとも、ましてやダーレットチルドレンの期待していた存在とも違う。……エンデュランス・フラクタル上層部の読み通りだった、と言うわけだ。元々、《レヴォル》は《オルディヌス》としてダーレットチルドレンによって開発された。だがその二号機をエンデュランス・フラクタルは強奪。クラードは最初から、言っていた。全ての聖獣の殲滅、それこそが宿願だと」
「……全ての聖獣の、殲滅って……」
「恐らくはそれが成された。今、この次元宇宙で生き残っている聖獣は、ただ一つ。《フィフスエレメント》が権能を発揮する条件が整った、と言うわけだ」
『《フィフスエレメント》の権能ってのは……一体何なんです? 話振りじゃ、相当マズそうですけれど……』
ヴィルヘルムは一拍の沈黙を置いた後に、確証じみた声で応じる。
「……推測するに、この来英歴に存在するある技術を組み込まれた存在へのカウンター……。それが発動した」
「ある技術って……」
カトリナは問いかけつつ、まさかという感覚があった。
つい先ほど、自分の肉体を突き抜けた痛みこそが証明であるのならば、その答えはただ一つ。
「……ライドマトリクサー。即ち、エーリッヒ・シュヴァインシュタイガーのもたらした技術恩恵による現代科学の申し子達。それがカウンターの条件だろう」
『……でも、私は……』
シャルティアが二の腕をさする。
「君に施術したのは、わたしが独自に作り上げた別の系統樹の思考拡張だ。だから反応しなかった」
ヴィルヘルムの語った真相はしかし、全てを塗り替える。
「……そうだとすれば……」
こちらの顔色を窺い、ヴィルヘルムは沈痛に呟いていた。
「……その通りだとも。六十億の人類にもたらされた叡智そのものが牙を剥いた。現状、月軌道からここまでだけかもしれないが、やがてこの悪意のシステムは、世界を覆う。地球圏で、ライドマトリクサーや思考拡張の技術が使われていない場所のほうが稀だ。世界が……終わる」
まさか、とシャルティアが眼を戦慄かせる。
『そんなの……そんなの黙っていられませんよ! だってそんな……世界が終わるなんて……』
「言うは容易いが、我々は転がり出した石に過ぎない。もう、止める術はないのだろう。カトリナ君、君が何故、この呪縛のようなものから逃れているのかも分からない。計算上であるのならば、君の思考拡張痕も影響を受けるはずだ」
「……けれど私……何ともない……」
何度も手を握ったり閉じたりするが誰かに操られている感覚はなかった。
「……だから不明な事実が多いのだと言っている。それに、これは仮説だ。三年前の状況と、そしてエーリッヒ・シュヴァインシュタイガーと呼ばれる人間の人格を想定しての戦局なのだが……どこかにイレギュラーがあったとしか思えない」
カトリナの背中がエアロックに差し掛かる。
飛び込んだ自分達に、管制室のレミアは驚嘆していた。
「カトリナさん……? 戦闘待機じゃ……!」
「今は、そのような事を言っている間さえも惜しい。艦長、戦場はどうなっている?」
拡大モニターに映し出されていたのは、敵の用いていた《アデプト》なるIMFが敵勢と同士討ちをする悪魔の光景であった。
艦艇を無数の光条が射抜き、トライアウトブレーメンの艦隊が総崩れに陥っていく。
「……たった十分足らずで、敵の無敵に思えた艦隊は全滅……。魔獣《アデプト》に対し、現行人類は無力、という事なのでしょう。敵は撤退する様子もなく、どうしてなのだか艦隊もまともな艦砲射撃を敢行する事もない」
「艦長、識別信号、出ました。……やっぱし、これって一種の波形パターンですね。月軌道から、こっちに受信されてきたのは」
「見せてくれ。……なるほど、そういう事か」
「ヴィルヘルム先生? 分かった風になるのは勝手だけれど、分かるように説明してくれるのかしら?」
バーミットは脚を組んで不遜そうに唸る。
ヴィルヘルムはモニターの一つへと飛び移り、波形パターンを照合させていた。
「……これは、間違いなくレヴォル・インターセプト・リーディング。我々がレヴォルの意志と呼び続けていたそれだ」
「月から、レヴォルの意志……? でもそれって……」
「今は、この波形パターンは音階で表記されている。これは歌だよ」
「歌……?」
「酷似した波形パターンを、しかし我々は知っている」
「……ヴィルヘルム先生、いつもの煙に巻く言い草は、今は勘弁願える? あたし達も死にたくないのよ」
ヴィルヘルムは咳払いし、つまり、と結論を述べていた。
「サンプルは、既にあったんだ。我々がそれを、結びつけなかっただけで。何故、《レヴォル》にメイア・メイリスが乗れたのか。何故、クラードしか呼び合わないはずの《レヴォル》のシステムに、彼女は肉薄出来たのか。これが――答えだ」
キーを打った途端、メイアの歌声が管制室を包み込んでいた。
「……でもこれ……鎮魂歌……?」
ライヴの音声を基に再構築されたメイアの歌声はしかし、平時の歌唱とはまるで違う。
「知っていたはずだ。我々の認識が過去に倣うものであるのならば。《レヴォル》を操るに足る素質を持つと言う事実。それがどういう意味なのかを。メイア・メイリスの歌声と、レヴォルの意志の波形パターンはきっちりと……合致する。《レヴォル》が暴走したんじゃない。メイア・メイリスの……本来の乗り手の声に従っただけだ」
その結論にカトリナは異を唱えていた。
「ま、待ってくださいっ! 本来の……乗り手って……。だって《レヴォル》のパイロットは、クラードさんのはずじゃ……」
「これも経験に倣う事が出来る。ヴィヴィー・スゥの存在。“クラード”と呼ばれし存在は、雌雄に限定されない。彼女もまた“クラード”であると言うのならば、メイア・メイリスがこの次元宇宙……来英歴のクラードであったとしても何らおかしくはない」
「じゃあ……クラードさんは……何なんですか……? あの人はだって、三年前に《レヴォル》に乗っていたんでしょう?」
ノーマルスーツのバイザーを上げたシャルティアの質問にヴィルヘルムは沈痛な面持ちで黙りこくる。
「……恐らく間違いがあったとすれば、一つ。エーリッヒ・シュヴァインシュタイガー。彼の賢人の存在こそが、我々の視野を曇らせた。クラードは彼と融合する事で、その真実の片鱗に近づいていたはずだ。それが波長生命体への進化と言う、結果であったとしても」
「……クラードさんは……この次元宇宙の……来英歴のクラードじゃ、ない……?」
「間違いがあったとすればそれもだろう。わたし達は信じ込んでいた。来英歴のクラードこそが彼なのだと。しかし、その前提条件を崩されてしまえば、容易くその領域は消え去る。逆転の発想だ。メイア・メイリスが《フィフスエレメント》に対応する“クラード”であったのならば、では我々が接してきたクラードは何者であるべきなのか。《レヴォル》を動かし、その叛逆の意志そのものである、レヴォル・インターセプト・リーディングに合致せし者。《レヴォル》を稼働させられる事がクラードの素質であったとすれば、ヴィヴィー・スゥ、ザライアン・リーブスも条件に適合する。彼らは別次元の代物ではあったが、《ガンダムレヴォル》を動かすに値していた」
「……あのね、ヴィルヘルム先生。ここで繰り言したって、結局は同じ事でしょ? 生きるか死ぬかの状態で答えを先延ばしにするものでもないわよ」
「これはこれは、手厳しい。しかし、よく考えて欲しい。クラードがでは、この来英歴のそう言った存在ではないとすれば、では彼がこれまで打ち立ててきた武勲はどうなるのか。《レヴォル》を動かし、戦い、前線で何度も何度も我々の窮地を救ってきたクラードは、では何者であるのか? ……カトリナ君、君はその答えの一端を、握っている」
まさか、とカトリナは首から下げていたドッグタグを浮遊させる。
「……クラードさんに適合していたんじゃ……ない。このドッグタグこそが……クラードさんである事の、証……?」
「そう考えれば辻褄が合うんだ。《レヴォル》が認識していたのはクラードという個人ではない。そのドッグタグに刻まれた、何者かの意志。だとすれば、メイア・メイリスと言う名の“クラード”ではなく、平時は彼に従っていた理由にもなる」
「でもこれ……弾丸が食い込んでいて……文字も掠れて読めないんですよ」
「それは本当にそうだろうか? カトリナ君、今の君ならばともすれば、読み取れるんじゃないか? クラードが常に、読み取って来たその意図を」
カトリナは慎重に、ドッグタグの表面へと親指を這わせる。
途端、脳髄に差し込まれたのは「声」であった。
思わずよろめき、その場に膝を折る。
「カトリナちゃん! ヴィルヘルム先生、何を……!」
「いえ、バーミット先輩……これ、多分……クラードさんがずっと、ずっと読み込んできた、答えなんだと……そう思います」
バーミットを制し、カトリナは思考拡張の至った指先でゆっくりと、ドッグタグが伝達する「声」を読み取る。
弱々しいが、確かな鼓動を伴わせるそれは、命の灯火――。
「“……我が名は……《ゼロポラリス》……《ガンダムレヴォルゼロポラリス》……”」
紡ぎ上げた言の葉に、ヴィルヘルムはやはり、と言葉にしていた。
「……そこに居たのか。数多の聖獣をこの次元宇宙に呼び寄せた根源、彼らの呼ぶオリジナルレヴォル、それそのものが」
「ドッグタグが生き物だって……言いたいんですか、ヴィルヘルム先生……!」
「ある意味では、別系統の生命体だろう。《ガンダムレヴォル》であると言うのならば、この来英歴の本来の主だ。そして、ザライアン・リーブスの証言にあった声とやらが、ライドマトリクサーにしか読み取れない声なのだとすれば、それも頷ける。これまでクラードが手離さなかったんだ。誰にも解析なんて出来なかった。特別だったのは、クラードではない。クラードの手離さない、《ガンダムレヴォルゼロポラリス》こそが――こちらの次元宇宙で開発された《ガンダムレヴォル》と適合する存在だった」
「けれど……そんな事って……? だって、どう見たってドッグタグにしか……」
絶句するシャルティアに、カトリナは言葉の先を継いでいた。
「“……我はクラードであり、そしてクラードではない。《ゼロポラリス》と言う名の《ガンダムレヴォル》であり、クラードの要素を内包する波長生命体だ”……これが、波長生命体……?」
「語っていただけるのならば説明の手間も省けるのだが、しかし、理解が必要ではあるだろう。エーリッヒ・シュヴァインシュタイガーが封印されていたテスタメントベース、その波形パターンは《レヴォル》と同質であった。これはつまり、《ガンダムレヴォル》に類する生命体と、そしてそれの駆り手が同じである事に由来していると考察出来る。レヴォル・インターセプト・リーディング、通称レヴォルの意志とは、波長生命体の持つ固有生命パターンなんだ。彼らはそのパターンに適合する生命体とだけ、命を共有する。《ガンダムレヴォル》とは我々の進化の先にある、生物系統樹の果てだと、そう認識しても? オリジナルレヴォル」
問いかけたヴィルヘルムにカトリナは指先でドッグタグをさすっていた。
「“そう言葉にする事は出来る。だが、我とクラードはその在り方を容認しなかった。クラードは我が名前を理解していながら、それを光や水のように情報として認識出来ても、オリジナルレヴォルの存在意義までは肉薄出来なかった。彼は本当に、MF05《フィフスエレメント》こそが、《レヴォル》なのだと信じていた。三年前、自身に適合したのだと、そう信じて疑わなかった”……そんな……クラードさんが、じゃあこれまで信じて来たものって言うのは……」
「《ゼロポラリス》、だったか。固有名称は。なるほど、原初の波長生命体であり聖獣だ。ゼロの通り名が相応しい。しかし、疑問はあるとも。クラードにもっと早く、教えていればよかったんじゃないか? オリジナルレヴォルの行方は既にこの手に在り、戦い抜く必要性はないのだと」
「そ、そうですよ……! 何だってクラードさんにいつでも助言出来た立ち位置に居て、何も言わないで……名前だけを……」
ヴィルヘルムとシャルティアの疑問に、ドッグタグ――《ゼロポラリス》は超然めいたようにカトリナの喉を震わせていた。
「“ダーレットチルドレンの存在を知る必要があった。しかし、彼らは用意周到だ。我が《ゼロポラリス》だと知れば、クラードの抹殺と、そして君達の排除にかかっただろう。力を持たないまま、彼らと対立するのは危険だった。よって、我はクラード自身が我を手離すまで、真実を秘匿し続ける必要性があった。”」
「その一方で、聖獣を呼び続けていたのは、彼らこそがダーレットチルドレンに対しての抑止力であったから、か。……皮肉なものだ。召喚された彼らはあなたを探していたのに、その存在を限りなく消し去り、今の今まで潜んでいたとは……」
「“思考拡張の呼び声で聖獣をこの来英歴に呼び寄せ、そして来たるべき未来へ向けて備えなければいけなかった。それこそがこの局面。ダーレットチルドレンがダレトの向こう側へと飛び立つために、全ての権能を失うこの瞬間。我はこの情報を、ミハエル・ハイデガー……惑星のエーリッヒを名乗る彼にはある程度教えていた”……嘘、ハイデガーさんに……?」
「そう見るべきだろう。何故、ミハエル・ハイデガー……“惑星のエーリッヒ”がある程度未来を予見した立ち回りが出来たのかは、そう言った事象に集約される。断片的にせよ、何にせよ、教えていたのだな、あなたは。この未来を確定させ得るために」
「“未来は常に変動値を示している。この戦場、この状況へと転がすために、何度も何度も演算を繰り返した。その度に、我と運命を共にするクラードは確率世界の悪魔に翻弄され、命を落とす事もあった”……クラードさんが、死んでいた……?」
「高度な波長生命体であるのならば、なるほど、シミュレートも可能なはずだ。その小ささでも《ガンダムレヴォル》なのだからね。クラードが死んでいた可能性も、ゼロではないだろう。しかし、あなたはクラードの傍で、常にその可能性を棄却すべく、導き続けていた。……その結実が、彼を波長生命体に仕立て上げたのか」
『“偶然の結果だ。必然もあったが、クラードが波長生命体にまで成ったのは、彼が運命を引き寄せたからに他ならない。そうでなければ、七番目の聖獣が彼に従うものか。MF07《セブンスベテルギウス》……君らは意味を知るべきだ。《ダーレッドガンダム》の名を冠するあれが、この次元宇宙に干渉し続けた意味を。そうでなければ……”……あれ? あれ、声が……』
「聞こえなくなった、か。悠々と話を聞いている場合でもないようだ。なるほど、これは確かに……まずいな」
ヴィルヘルムは拡大化された月軌道近辺で、目標地点に存在する大型船舶を照合させていた。
レミアが思わずと言った様子で腰を浮かせる。
「……あれは……ラムダ……!」