機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第312話「ひとりじゃない」

 

 一つ、二つと数えるのも厄介な相手に、クラードは《マギア》を疾駆させていた。

 

《アデプト》の火力包囲網へと、真正面から愚直に向かえば一撃で撃墜させられる。

 

 ゆえに、その火砲を掻い潜り、超接近戦でビームスプレーガンを放って眩惑させ、肩を蹴って包囲陣を抜けていく。

 

「わわっ……クラードさん! 急加速が過ぎますよぉ……っ!」

 

「我慢していろ。少しはMSの段階加速への耐性があるはずだろうに」

 

 クラードはマニュアルの駆動系を操り、今も穴底より無限に湧く《アデプト》の軍勢を睨む。

 

「……いちいち相手取っていれば損耗するのはこっちだ。だからこそ――最短距離を講じさせてもらう!」

 

 ミラーヘッド段階加速を経て、敵機を踏み台にし、次なる敵影へとビームサーベルを刺突させる。

 

 アステロイドジェネレーターを貫いた感覚に、そのまま敵勢へと放り投げ、収縮爆発に相手を巻き込んでいく。

 

「エンデュランス・フラクタル最深部って言うのは? マップくらいは出してくれ」

 

「ちょちょ……っ、ちょっと待ってくださいよ……っ!」

 

 カトリナがマップを呼び出す前に、クラードは急加速と減速を交互に行いながら《アデプト》の軍勢を振りほどく。

 

「……それでも追い縋ってくるのが居るな……」

 

《アデプト》の加速度は《マギア》を遥かに凌駕している。

 

 腐っても魔獣だ。

 

 片側に取り付くなり、至近距離で爆雷を起爆させる。

 

《マギア》が激震し、半身が削がれていた。

 

「わわっ……クラードさん? 大丈夫なんですか、これ……!」

 

「いいから。あんたは早く、マップの準備を。俺と同期してくれ。そうしないと堂々巡りだ」

 

「り、了解ですっ……! えっと、エンデュランス・フラクタルの最深部までの最短ルートは……これっ! これですっ!」

 

 カトリナの呼び起こしたデータがポップアップウィンドウとして浮かび上がり、クラードは覚悟の加速を決めていた。

 

「……よし。ならばそちらへと向かう。針路上に居る《アデプト》全てを迎撃する事は難しい」

 

「えっと……つまり?」

 

「――強引に押し通る。そういう意味だ」

 

《アデプト》を蹴り上げ、その躯体を跳ね上げさせて《マギア》を穴底に直進させる。

 

「クラードさん! 落ちてるぅー……っ!」

 

「落ちてるんじゃない。このまま直角に……針路へと向かう!」

 

 眼前に迫った《アデプト》へと飛び蹴りを見舞った途端、《マギア》の細い脚部が根元から折れ曲がる。

 

 すかさずパージさせて相手を爆風に巻き込み、クラードは広く取られたゲートへと向かっていた。

 

《アデプト》が重力を無視したように上下左右より這い回ってくる。

 

「うわわっ……来ますよぉ……っ!」

 

「泣き言を言うな。追いつかせなければいいだけだ」

 

「で、でもぉ……っ!」

 

 ミラーヘッドメギドの段階加速を経た赤銅の《アデプト》はすぐさま《マギア》へと追い縋ろうとそのマニピュレーターを伸ばす。

 

 クラードは舌打ち混じりにビームスプレーガンを照射し、銃身で殴りつけていた。

 

《マギア》を追い越し、眼前で減速した《アデプト》相手にカトリナが視界を塞ごうとする。

 

「まだだ!」

 

 抜刀し、逆手に握り締めた刃で《アデプト》の頭蓋を叩き割る。

 

 そのままの勢いを殺さず、《マギア》は最深部に続くゲートを滑り落ちて行った。

 

 何度かの衝撃波と、コックピットを揺さぶる感覚。

 

《マギア》は巨大な扉の前で倒れ伏していた。

 

 クラードはコックピットの緊急射出プログラムを起動させ、空気圧縮で弾き飛ばす。

 

「……着いたぞ」

 

「ふ、ふへぇー……。もうこんなのは懲り懲り……」

 

「すぐに降りろ。奴らはまだ俺達を探している。ここも、長くは持たないだろうな」

 

 カトリナの腕を引いて、クラードは扉の機密パネルへと取り付いていた。

 

 エージェントとして登録されていたパスワードを何度か試行してから、舌打ちを滲ませて鉄拳でパネルを叩き壊す。

 

 照合がかけられ、無数のゲートで構築された扉が開いていた。

 

「……く、クラードさん、これ……」

 

「内側に潜ってRMの脳内キャッシュに残存していたデータを送り込んで無理やりこじ開けた。……何だ、妙なものを見る眼をして」

 

「い、いえ……っ! あまりにも無茶苦茶だったので……」

 

「それは今さらでしょ。……ここからが最難関だ。行くぞ」

 

「……はい……っ」

 

 扉はちょうどMSサイズでは入れないように設計されている。

 

 無数の罠が待っていてもおかしくはなかったが、存外に静まり返った扉の先に待っていたのは――まるで玉座の如く鎮座する存在。

 

「……これが……エンデュランス・フラクタルの秘めた、最大機密……!」

 

「これって……どう見ても……」

 

 濁した先をクラードは手繰り寄せる。

 

「……ああ。――《レヴォル》だ」

 

 意匠は僅かに異なるが、それは自分の見知った三年前に引き離された《レヴォル》に思われた。

 

 ケーブルに繋がれたそれを、クラードは観察していたが、発動の兆候はない。

 

「……俺に反応しない? アイリウムがないのか? あるいは……」

 

 クラードは飛翔し、頭蓋のコックピットブロックへとその手を伸ばす。

 

 プロテクトの解除キーが要求されたが、クラードは手を押し当てて呼びかける。

 

「……《レヴォル》、俺だ。クラードだ。……応じないのか……」

 

「ま、待ってくださいよぅ……。もうすぐそこまで……《アデプト》が来ています……っ!」

 

 ゲートを無理やり焼き切り、《アデプト》が迫ろうとしている。

 

 クラードは《レヴォル》の頭蓋を叩いて再三呼び掛ける。

 

「《レヴォル》! 俺だ! ここまで来たんだ……! 俺に、俺の呼びかけに応じろ……! お前は《レヴォル》なんだろう……!」

 

「クラードさん! 時間がありませんよ……! 《レヴォル》のアイリウムが反応しないとすれば……いいえ、待って……。何、声……」

 

「声……? 何を言って……」

 

 カトリナがパイロットスーツの袖口に繋げていたのは弾丸が埋め込まれたドッグタグであった。

 

 それはかつての自分の指標そのもの。

 

「……持って来ていたのか……」

 

「《ゼロポラリス》が……“この機体にはアイリウムが……魂と呼ぶべきものが宿っていない。それは彼らがわざと用意しなかった”……どういう……」

 

「繰り言の時間もない……。敵が来るぞ……!」

 

 迫るタイムリミットを前に、カトリナは右手でドッグタグをさする。

 

「“ならば、鍵は一つだろう。エンデュランス・フラクタル、彼の者達が呼び声を求めていたのであるのならば。思考拡張脳波を使う”」

 

 カトリナがそう紡ぎ上げた途端、ドッグタグより放たれていたのは思考拡張の呼び声であった。

 

「……俺の名を呼んでいた……声と同じ……」

 

 その波長が一定の音叉を刻んだ途端、《レヴォル》の頭蓋が開き、コックピットが露出する。

 

「……そいつの意味を問い質している時間もなさそうだな。カトリナ・シンジョウ、コックピットへ……!」

 

 カトリナの手を引き、リニアシートに背を預けてクラードは両腕を翳していた。

 

 しかし、アイリウムは起動しない。自分の叛逆の意志に、《レヴォル》は反応しなかった。

 

「……何故だ、何故なんだ、《レヴォル》……俺の意志に、何故呼応しない……!」

 

「クラードさん……《ゼロポラリス》が……! “この機体にはレヴォル・インターセプト・リーディングが埋め込まれていない。魂の存在しない《ガンダムレヴォル》は動かないだろう”……そんな……!」

 

「……なら、《ゼロポラリス》、どうしろと言う……俺は……ここで諦めるなんて事は出来ない! ようやく見えたんだ! 気付けたんだ! だから俺は、俺の叛逆からは決して目を逸らすものか! 何だっていい、何だって捧げよう……! 今、力がなければ……俺はどうするって……」

 

「“だからこそ、この機体の魂には我が成ろう”……《ゼロポラリス》……が?」

 

 クラードは振り返る。

 

 カトリナの袖口に巻かれた《ゼロポラリス》のドッグタグが煌めき、その声を思考に伝導させる。

 

「……この機体の、魂に……?」

 

「“我もまた波長生命体、そしてオリジナルレヴォルだ。クラード、お前の戦いを常に、近くで見て来た。ここまで講じてきた叛逆の意志、そしてこれからを創り上げる抗いの刃に、我は成ろう。それがあの日、黄昏の戦場でノオト・ポラリスの名を受けた、お前への祝福だと言うのならば”」

 

 ドッグタグがテーブルモニターへと落下し、そのまま吸い込まれていく。

 

 クラードが掴み取ろうとしたその時には、蒼い円環が浮かび上がっていた。

 

「……アイリウム、起動……。《ゼロポラリス》……お前、なのか……?」

 

『アイリウム初期認証を行います。内臓アイリウムのバージョンはレヴォル・インターセプト・リーディング・ゼロ。コミュニケートサーキットを起動。“行け、クラード。そしてカトリナ・シンジョウ。我はお前達の創る……叛逆の末の未来が見たい”』

 

 RM接続口が引き出される。

 

 クラードは一拍、呼吸を挟んで決意を口にしていた。

 

「……ああ、見せてやる。俺達の創る……叛逆の果てにある、未来を」

 

 両腕が可変し、繋がった途端、電磁の刃が脳髄に突き立つ。

 

 懐かしい、鼻の奥が切れて血が湧き立つ感覚。

 

 クラードは這い進んでくる《アデプト》へと視線を据え、機体の視野と同期した眼差しを投げる。

 

 片や、真紅に染まった叛逆の瞳。

 

 片や、瑠璃色に燃える調停の瞳。

 

「――《ガンダムレヴォルトゥルーオブジェクト》。エージェント、クラード。……ゲインを、ぶち上げろ……!」

 

 機体がケーブルを引き千切り、玉座から立ち上がった瞬間には直上を仰ぎ見ていた。

 

 姿勢を沈めた直後、推進剤が全開に設定され、深層より舞い上がっていく。

 

 急加速で臓腑が押し込められる感覚を味わいながら、クラードは最終防衛隔壁が迫ったのを認識する。

 

「ぶつかる……っ!」

 

「ぶつからない――ッ!」

 

 掌底の形に固めた腕を突き出し、ゼロ距離の破砕が蒼い閃光を棚引かせて白銀の月面へと浮上していた。

 

「《レヴォルトゥルーオブジェクト》。やる事は分かっているな?」

 

『“ああ。《レヴォルヘブンズオーダー》へと接触し、メイア・メイリスを救い出す。そして調律を止める”』

 

「……分かっているのなら話は早い。《レヴォルヘブンズオーダー》へと攻撃する。ミラーヘッド、行けるな?」

 

『“誰に言っている”』

 

 蒼白い残像現象を抱いた《レヴォルトゥルーオブジェクト》が月面宙域に浮遊する《レヴォルヘブンズオーダー》へと駆け抜けていた。

 

 当然、調律を停止させようとする自分達を止めないわけがない。

 

 格納武装が開き、幾何学の軌道を描いて弾頭が照準される。

 

 クラードは機体を急上昇させて振り切り、次いで急降下に転じて目標への最短ルートを講じていた。

 

《レヴォルヘブンズオーダー》がコアファイター形態のまま、戦場を染め上げる狂気の歌を紡ぐ。

 

 しかし、今の自分達ならばそれを制する事が出来るはずだ。

 

「……ミセリア・リリスの想いと、そして《ゼロポラリス》の誓い……その両方を俺は携えている……! なら、負けるわけにはいかない……ッ!」

 

 機体装甲面が段階的に開き、一斉掃射された弾幕へとたじろぐ事なく一直線の軌道を取る。

 

 ミラーヘッドの蒼い残像を帯びてクラードは必死に手を伸ばすイメージを伴わせていた。

 

「届け――ッ!」

 

 たとえこの腕が砕け果てようとも。

 

 たとえこの身体が朽ちようとも。

 

 それでも構わない。

 

 このただ一つの想いのために、命を、燃やせ。

 

《レヴォルヘブンズオーダー》へと指先が触れた途端、世界は再び白だけの世界に染まっていた。

 

「……あ、れ……? クラードさん、ここ……」

 

「煉獄、か。いや、ここは……」

 

 クラードは白の空間で、折れたギターを前に蹲っている人影へと歩み寄る。

 

「……メイア・メイリス」

 

「来ないで。もう……誰も信じたくないんだ」

 

 その一言が断絶のように空間が波打ち、自分とメイアの間に棘の津波を巻き起こす。

 

「クラードさん……!」

 

「いい。大丈夫だ、カトリナ・シンジョウ」

 

 制したクラードの首筋にはいつでも貫けるように固形化した敵意の針が突きつけられている。

 

「……メイア・メイリス。俺はお前を……助けに来た」

 

「助けに……? 馬鹿言わないでよ。ボクは……だってエーリッヒのおじいちゃんの……代わりだったんでしょ? こんなの、知らないほうがよかった。何で、ボクは地上で煉獄とやらの中に入っても記憶を継続出来たのか、何でこの煉獄に堕ちられたのか……どれもこれも、そう言えば説明付いちゃう……。ボクの生まれた意味なんてなかった! ボクが歌ってきた歌は、全部嘘っぱちだった……! ボクは……ただ、エーリッヒ・シュヴァインシュタイガーがこの時……この瞬間に器として意味を得るためだけに……」

 

「それは違う。違うはずだ。そうでなければ、お前は何で、俺の背中を押した。あの日……三年前の月軌道決戦からずっと……。お前はこう思っていたはずだ。間違いだけを、正して欲しい、と。ならば俺は、その願いを叶えよう」

 

「……間違いだけって……ボクの存在そのものが、間違いみたいなものじゃんかぁ……っ! じゃあクラードは、キミはボクを殺せって言えば、出来るんだろう……っ!」

 

 今までならば迷いなく応じていただろう。

 

 ――ああ。それが俺に課せられた使命ならば。

 

 しかし声を震わせたのは、全く別の意志。

 

「……俺はお前を殺したくない。一緒に、生きるべきだ。俺は俺の願いが、心の奥底で叫んでいるがなり声がようやく、どういう意味なのか気付けた。……単純な事だったんだ。――生きていたい、愛するべき者達と共に、ただ、ヒトとして……生きていたいんだ。その中にはお前も入っている。メイア・メイリス」

 

「嘘じゃんかぁ……! そんなの……嘘っぱちだよ!」

 

 無数の棘が、拒絶の津波が自分を飲み込もうとする。

 

 一歩でも下がれば、一歩でも気圧されればそれらは間違いなく射抜いていただろう。

 

 しかし、クラードは一歩も退かなかった。

 

 前へと進み、敵意と拒絶の波の向こう側を目指す。

 

「……お前には分かるんだろう。嘘か本当かは。俺の心を読めばいい。俺の明け透けでしかない、感情を読めばいい。俺はどう言っている? 心の奥底で、俺はどうしたいと願っている?」

 

「……やめてよ、やめて……。そんなのって……こんなのって、ない、よ……!」

 

 メイアは真っ二つに折れたギターを握り締め、起き上がるなり突き立てようとする。

 

「駄目……っ! クラードさん……!」

 

 腹腔へと突き刺さったのは痛みと共に彼女の感情だ。

 

 ――信じたい、信じていたい、信じさせて欲しいと言う、ない交ぜの感情――。

 

「……俺はお前を信じる」

 

「……嘘だよぉ……っ、そんなの……」

 

 蒼い血潮の滴が伝い落ちる。

 

 それを目にしてメイアがようやく顔を上げていた。

 

 視線を交わし、もう一度クラードは言葉を紡ぐ。

 

「……俺はお前を、信じてやる」

 

「……信じるって? でもだって、キミだって何度も何度も……裏切られてきたでしょう? その度に……嫌に、ならないの? 人間が、何もかもが、世界そのものが……。憎いはずだろう? 悔しいはずだろう? ……恨んだほうが楽なんだって……思い詰めていたはずだろう……」

 

「それでも。俺はお前だけを……信じたい」

 

 メイアがその手からギターを取り落とす。

 

 クラードはささくれ立ったギターの残骸を拾い上げ、そしてメイアへと差し出す。

 

「……これはお前の武器だろう? お前が世界への叛逆を講じるための、武器のはずだ」

 

 メイアの頬を大粒の涙が伝っていく。

 

 感情の堰を切ったように、メイアはしゃくり上げていた。

 

「……やだな、やだな、本当に、こんな顔……。キミに見せる事になるなんて。だってボク、地上で、エーリッヒのおじいちゃんに、こう言ったんだよ? 確率世界の悪魔に囚われたキミを救ってみせるって。それが……本当に正反対だ。ファムも助ける、キミも助ける……エーリッヒのおじいちゃんも、助けたい……無理、なのかな……?」

 

「無理じゃない。お前が望めば、世界を変えられる」

 

 メイアは涙顔を拭ってから、そっと微笑む。

 

「……何だかな。歌で世界を変えられるってのは、ボクの専売特許だよ? キミに言われちゃうなんてなぁ……」

 

「お前の歌は世界を壊すんじゃない。世界を、変えてくれ。メイア・メイリス」

 

「……そうオーダーを受けたってなったら、ボクのやる事は決まってるよね。うん、決まっているはずだ」

 

 メイアが砕いたギターの中腹を撫でる。

 

 その指先で爪弾かれた音程は、不格好で、しかしながらそれは間違いようもなく――。

 

「……うん。ボクの音だ、これは」

 

 メイアの手へとギターは手渡される。

 

「けれどさ。……全部思い出してから考えちゃうけれど、キミ、よく平気な顔をしていられるね」

 

「……あの日、出来損ないの俺に名前をくれた奴の名前を、聞いていなかった。だから俺は真正面からお前の顔を見られる。お前の、本当の名前は……」

 

 それを制するようにメイアは人差し指でクラードの唇を止める。

 

「……こら。そういう大事な事、第三者が居るところで聞く? デリカシーって奴、ないの?」

 

 その段になって背後で恐々と言葉を発し損ねていたカトリナへと一瞥を投げる。

 

「……そ、そのぉー……あとはお若いお二人で……」

 

「ここまでついて来ておいて、何言ってんのさ。キミも相当に執念深いよ、カトリナ。クラードの事、頼める?」

 

「そ、それはもちろん……っ!」

 

 両手を拳に変えて決意を固めたカトリナに、クラードは頭を振る。

 

「……どこまでもおめでたい奴……いいや、おめでたい奴ら、か。俺も含めて」

 

「クラード。一緒に行くって言うの、意味分かってるよね?」

 

「ああ、もちろんだ。……共にエーリッヒ・シュヴァインシュタイガーを、止める」

 

「……そういう事だけじゃないんだけれどなぁ。まぁ、いいや。ボクの意味が、エーリッヒのおじいちゃんを、どうにかして救い出すって事だって言うのなら、きっと今なんだ。うん、それはきっと、今」

 

 白い光が連鎖する煉獄で、クラードはその手を差し出す。

 

 可変させ、RMの機械部分を露出させていた。

 

「……メイア・メイリス。お前にも、俺を託したい」

 

「……いいの? カトリナが見てるよ?」

 

「……一人や二人、背負う人間が増えたって変わりはしない」

 

「……なるほどね。しかし、豪胆だなぁ。目の前で、二股宣言?」

 

 悪戯っぽく笑ったメイアは、あ、違うか、とこちらを指差す。

 

「三股だ。キミ、ファム……いいや、ミセリアもきっちり救ってきたんだ。綺麗な眼だね、星色の眼だ」

 

「……ミセリア・リリスは俺に預けてくれた。自分の運命を」

 

「女ったらしー。クラードってば、案外そういうところあった?」

 

「かもしれないな」

 

 先ほどの涙を帳消しにするように笑ってから、笑い抜いてからメイアは――慈愛に満ちた笑顔を向ける。

 

「……いいよ。キミと一緒に、行こう。だって、ボク達は、ひとりじゃないんだから」

 

 メイアがこちらの腕を引く。

 

 彼女の微笑みが白い世界に沁み渡った途端、世界は切り替わっていた。

 

 暗礁の宇宙で、《レヴォルトゥルーオブジェクト》の腕を引くのは、可変を果たした《レヴォルヘブンズオーダー》であった。

 

 角を持たない有機的な躯体が、真正面からこちらを見据えている。

 

「……やれるな? メイア」

 

『……うん。やろっか! クラード! 世界を……取り戻すための歌を!』

 

 今睨むべき敵は――たった一つ。

 

 扉を背にして、白銀の鉤爪を翳す災厄の担い手。

 

『――遅かったではないか。エージェント、クラード』

 

 その腕に掴み取られていたのは白銀の騎士の残骸であった。

 

 

 

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