機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第31話「トリガーとしての行方」

「――何やってるのかしらね、本当に。私とした事が」

 

 艦長室でぼやいたレミアは、こちらへと意識を向けたのを感じていた。

 

「クラード。報告書を受け取りに来たのはいいけれど、あなた、あの子に銃口を向けるなんて、軽率よ?」

 

「悪かったよ」

 

「……悪いなんて一ミリも思ってないくせに」

 

「で、あいつは何なの」

 

「……今のところ分かっているのは、地球連邦軍の旧式ライドマトリクサーって言う線は全くの無根拠じゃないって事かしらね。あの子の乗っていた救難ポッドも、それに彼女自身の施術痕も、記録上全て地球連邦のデータベース上に確認出来る。……とは言ってもほとんど廃棄データよ」

 

「つまり、あいつはもう」

 

「ええ。言わんとしている通り。――彼女は記録上、もう死んでいる」

 

「……やっぱりか」

 

「やっぱり? クラード、あなた何となくでも分かっていたの?」

 

「……死を恐れていない眼をしていた。なら、そいつは馬鹿かもう死んでいるかのどちらかだ」

 

「あなたは後者ね、クラード。死んだように生きてる」

 

 ドッグタグを弄る。

 

 自身の証明――あの日死んだどこかの誰か一人の、生きた証。

 

「他に分かった事はないの」

 

「そうねぇ……。昔のライドマトリクサーって、専用の乗機があるはずなのよ。今みたいに《エクエス》の互換性があったわけじゃないから。だから、彼女はあの状況から察するに、専用機に乗る前に艦が轟沈したか、あるいは……」

 

「その専用機を見失って、宇宙を彷徨っていた……。だが何十年も? あり得るのか?」

 

「ダレトが開いてからこの先、宇宙開拓なんて誰もやりたがらないわよ。最初期の開拓民がみんな居なくなったようなものでね。そういう連中はそれこそ宇宙暴走族に成り下がったか、あるいは海賊ね」

 

「……宇宙海賊か」

 

「この宙域だって馬鹿に出来ないわ。ピアーナが連れられたという事は、それこそ彼らの縄張りかもしれない」

 

「……大丈夫なのか。この航路が最適なはずだろう?」

 

「月航路までの最短ルートとは言え、安全ルートとは誰も言っていない。……海賊の襲撃もあり得るわ。クラード、あなたは戦闘待機を命じます」

 

「……《レヴォル》で待っていれば、来るとでも?」

 

「確証はないけれど、ピアーナがもし、海賊連中にとってのお宝なのだとすれば、可能性はぐんと跳ね上がる」

 

「……俺は軍警察とならいくらでもやり合うし、トライアウトなら何機でも撃墜する。それがどれほどの手練れでも」

 

「でも?」

 

「……素人相手に本気になってもどうしようもない」

 

「それ、あなたが言う? クラード。特一級のエージェントである、あなたが」

 

「命令なんだろ。ならそうするよ」

 

 立ち去りかけた自分をレミアは言葉で制する。

 

「油断は禁物よ、クラード。虎穴に入らずんば虎子を得ず、私達はもうとっくに、虎の寝床に入っているのでしょうからね」

 

「……次の補給地まで戦闘は最小限にだろう。《レヴォル》で駆逐すればいい」

 

「……そう思っているようにはいかないのかもっていう事よ。大体、レヴォルの意志は何を囁いているの?」

 

「……変わらないよ。俺が最初に会った時から、あいつだけは変わらない」

 

「他の全ては変わってしまったような言い種ね」

 

「……その通りだろう。あんただって変わったよ、レミア」

 

「エージェント、クラード。これより二十四時間の戦闘待機を命じます。もしもの時には《レヴォル》で出撃。いいわね?」

 

 有無を言わさぬ上官としての言葉にクラードは首肯する。

 

「ああ、分かっている。俺の役目は月航路までこの船を無事に守り通す事だ。私情なんて挟まない」

 

 扉を開けたところで待ち構えていたのはカトリナだった。

 

「……またあんたか」

 

「またって……! クラードさん! 私はあなたの――!」

 

「委任担当官でしょ。何回もしつこいな。レミアに用があるんじゃ?」

 

「あっ、そうだった……。レミア艦長、そのぉー、サルトルさんから預かったこの宙域の探索図なんですけれど」

 

「じゃあ、俺はもう行く」

 

 脇をすり抜けかけて、白衣を引っ張り込まれる。

 

「駄目ですぅー! クラードさん、また逃げるつもりでしょう!」

 

「……逃げないし白衣離して。破けるだろ」

 

「誓いますかぁー……!」

 

「……分かった。誓う」

 

 落ち着いたのを確認してから、荒い息をついてカトリナはレミアに説明する。

 

「探索図がどうかした?」

 

「いえ……何だか不自然なコロニー痕と言うか、明らかに人為的なデブリがあるらしくって……これってどういう事なんですか、って尋ねたら、艦長に話せばいいって言われて……」

 

 カトリナは全く事態を呑み込んでいないらしい。

 

 だが自分とレミアの間では暗黙の了解になっていた。

 

「……レミア。悪い予感が当たったみたいだな」

 

「……そうね。頭痛薬、足りるかしら?」

 

 額を押さえたレミアにカトリナは小首を傾げたところで、激震が艦内を見舞う。

 

「ひゃぅっ……! な、なに……?」

 

「敵襲だな。レミア、俺は《レヴォル》で出る」

 

「ええ、頼むわ、クラード。本当、悪い予感ばかりが当たるのね」

 

「ど、どういう事……?」

 

「あんたは随分と愚図だって意味だ」

 

 その言葉をカトリナが咀嚼して怒りを返す前に、今一度振動が艦長室を揺さぶり、カトリナだけが無様に転がってしまう。

 

「うぅ……なに……?」

 

「カトリナさん。管制室に向かって。クラード、出る前に一度だけ確認を。……ピアーナが手招いている可能性もある」

 

 その赴き先をクラードは返答していた。

 

「……撃つのは俺の役目だろう? 分かっている」

 

「月航路に入る前に轟沈なんて洒落にならないわよ」

 

 クラードはグリップを握り締め、廊下を行き交う。

 

 その背中にカトリナが追従していた。

 

「その! ……どういう意味……」

 

「敵が来る。あのピアーナとか言うのがマーカーの可能性が高い」

 

 端的に事実のみを口にするとカトリナは目を戦慄かせる。

 

「……嘘でしょう。だって彼女は……!」

 

「旧地球連邦のRMだ。何か仕掛けられていたのか、それとも拾った人間に害意がこうむるようにでもしていたのか。いずれにせよ」

 

「いずれにせよ……?」

 

 クラードは素早く壁を蹴り、ピアーナの待つ軟禁室に向かう。

 

 カトリナはまるで追いつけないようで、自分が軟禁室に辿り着いた時にはへろへろになっていた。

 

「……く、クラードさぁん……早過ぎ……」

 

「別について来いなんて一言も言ってないよ」

 

 クラードは迷いなくパスコードを打ち込んで扉を開ける。

 

 後ろ手に拘束されたままのピアーナの金色の瞳と眼差しを交錯させたのも一瞬、クラードは拳銃を突きつけていた。

 

「な、何を……! 何をやっているんですか! クラードさん!」

 

「言っただろ? それとも何回も言わなくっちゃ分からない? こいつがマーカーだろう。これから先、航路を阻まれたんじゃ話にならない。禍根はここで摘む」

 

 引き金に指をかけたところで、カトリナが射線に入ってピアーナを庇う。

 

「……退け」

 

「退きませんっ! ……何だってそんな……酷い事を……」

 

「酷い? 何を言っているんだ? 俺達の目的は月航路の確保、それ以外は全て排除命令が出ている。そいつが障害物だって言うんなら、迷いなく排除する。当然だろう」

 

「と、当然って……! そんなの駄目ですっ! 正しくありませんっ!」

 

「……正しくって何だよ。あんたは何を知っているんだ? 旧地球連邦のライドマトリクサーがどういう扱いを受けて、どういう処置を施されているのか知りもしないで」

 

「ど、どういう事なのか知らなくってもっ! 駄目なものは駄目だと言い切れますっ! それくらい、私でも……っ!」

 

「じゃあ尚更退きなよ。分かっているんなら庇う理由ないだろ」

 

 こちらの殺気にカトリナは一瞬だけ気圧されたようであったが、それでも銃口を据えられたまま逃げようともしない。

 

「……俺は標的を逃すような生易しい人間じゃない。撃てと言われれば誰だって撃つし、それはあんただって例外じゃない。邪魔をするんならここで死ぬのもいいのか?」

 

「し、死ぬのは嫌です……っ」

 

「じゃあ退け。死ぬんだぞ」

 

「でもでも……っ! ここでクラードさんがピアーナさんを撃つのを見るのは、もっと嫌なんですっ!」

 

「……分かんないな。そいつ、ただの標的だ。それにあんたとは何の関係もない。二十四時間行動を共にしたのか? それとも変な情でも? ……どっちにしたって不要な代物だ。あんたはそんな馬鹿みたいなマーカーを庇って鉛弾を喰らって死にたいのか?」

 

「……だ、駄目なんですっ! クラードさんがそんな事をしちゃ、駄目なはずなんですっ!」

 

「駄目って何だよ。あんたは俺の何なんだ。説明出来ないんなら、ここで殺す。異論はない」

 

 引き金にかけた指に力を込めようとして、カトリナは涙目になった後に、声を弾けさせる。

 

「……私は……私はあなたの……エージェント、クラードさんの……委任担当官なんですから――ッ!」

 

 銃声が爆ぜる。

 

 弾痕は、軟禁室の一角にめり込んでいた。

 

 カトリナが脱力してその場に膝をつくのを、クラードは信じられない心地で自身の拳銃を見やる。

 

「……何で。俺は何で見誤った?」

 

 カトリナがしゃくり上げて泣き出す。

 

 その様子を、何故なのだか自分は、黙って見つめていた。

 

「……俺は、撃てたはずだろう?」

 

 だが実際には。銃弾は何もない空を穿っただけ。

 

 自分は今の一瞬、状況判断に異物を差し挟んだ。

 

 それはエージェントとしての的確な判断力に不必要な代物のはず。

 

「……俺は……」

 

「――クラード、と言いましたね」

 

 ピアーナがこちらと視線を外さず、カトリナを挟んで対峙する。

 

 クラードは再び銃口を向けていた。

 

「……お前は……」

 

「このわたくし、ピアーナ・リクレンツィアとして、嘘偽りなく話します。恐らく襲ってきているのは、《アルキュミア》をわたくしから奪った海賊でしょう」

 

「《アルキュミア》……?」

 

「わたくしの愛機……であったものです。もう、何十年も前の話ですけれどね」

 

「何でそんな事を俺に話す。どういう意図がある?」

 

「……つい先ほどまで、わたくしは貴方に殺されるのだろうと思っていました。貴方の言う通り、わたくしがマーカーなのでしょう。わたくしを擁する限り、この艦は危険に苛まれる」

 

「……分かっていて言っているのか」

 

「ええ。ですからわたくしも、殺されるくらい甘んじて受けようかと、そう思っていたのですが……思いも寄らぬとはまさにこの事。割り込んでくれた彼女の行動に、少しだけ目が醒めました。わたくしは貴方達に協力しましょう」

 

「……協力? 何が出来る。旧世代のライドマトリクサーだろうに」

 

「旧式でも、わたくしはほぼ全身がライドマトリクサー。ならば艦制御はお手の物です。この艦の電子装備は最新のようですが、相手に虚を突かれるという事は、少しばかり粗がある様子。わたくしが、艦制御を行います。その代わり、と言っては何ですか……」

 

「艦制御をお前に託すだと? ……いい加減にしろ。俺達の艦をどこの誰とも知らない奴に託すわけがない」

 

 銃口を向けたままの自分にピアーナは決して視線を逸らさずに応じる。

 

「でしょうね。ですからこれは取引です。わたくしの愛機、《アルキュミア》を無傷でとは言いませんが、確保してください。あの中には月面航路に向かうための切り札が入っています」

 

「……マーカーを生かすだけに留まらず、取引だと? 誰に言っているんだ、お前……」

 

「貴方にですよ、クラード。それとも、こう言ったほうがいいですか? ――PE037、作戦行動を実施せよとでも」

 

 思わぬ名前がここで相手の口から出て来て、クラードは硬直する。

 

「……何で、その名を……」

 

「言ったでしょう。電子戦ではこの艦はまだまだだと。秘匿情報にアクセスするくらい、わけないのですよ。いくらこの部屋が様々な電波を妨害していてもね」

 

「……全身ライドマトリクサーのお前を買えと言うのか」

 

「ええ。わたくしを中枢に据えれば、負けはなくなります」

 

「……この艦の行く末を左右する行動だ。容認出来ない」

 

「では撃ちますか。エージェント、クラード」

 

「……そのほうが楽に転がりそうではある。だが……」

 

 銃口を下げる。

 

 相手からはそれでも敵意が凪ぐ事はない。

 

「本当なんだな? 《アルキュミア》とやらに月面まで行くのに優位な情報があると言うのは」

 

「嘘を言うメリットがありません。どうしますか」

 

 クラードは一度泣きじゃくるカトリナに一瞥を振り向けてから、踵を返す。

 

「……《レヴォル》で出る。対処はその後だ。……あんたはそいつを管制室に。人質くらいにはなるのかもしれない」

 

「ま、待って……クラードさん……」

 

「何……」

 

「足がその……竦んじゃって……。涙も止まらないんです……」

 

 はぁ、とため息一つで憂鬱さを紛らわせてクラードはカトリナの手を取って立ち上がらせていた。

 

「これで立てるでしょ」

 

「あの、足が……震えが止まらなくって……」

 

「じゃあ、右足。前に」

 

「へっ……?」

 

「早く」

 

「あっ……こうですか?」

 

「続いて左足、前に」

 

「あっ、こう……?」

 

「歩けるでしょ。じゃあそのまま。はい」

 

 それで言葉を打ち切ってクラードはグリップを握り締めて格納デッキへと向かう。

 

 その途中、撃てなかった拳銃をホルスターに仕舞いかねていた。

 

「……何で俺は撃てなかった? いや、撃つのを躊躇ったって言うのか。俺が? このエージェント、クラードが?」

 

 そんなはずはないと否定したかったが、しかし現実はそのまま自身の甘さへと直結している。

 

「……俺は撃てただろうに……」

 

 悔恨を噛み締めつつ、サルトル達整備班を抜けてパイロットスーツを着込む。

 

「クラード! 奴さん、まるで問答無用だ! 軍警察よか性質が悪い!」

 

「そりゃ海賊らしいからね。当然でしょ」

 

「……それは本当なのか。じゃああの子は……」

 

「海賊のお宝って言ったところか。《レヴォル》、コミュニケートモードに入る」

 

「スクランブルだからな! お行儀よくリニアボルテージに入ると狙い撃ちにされるぞ!」

 

《レヴォル》はコアファイター形態のまま、ベアトリーチェの中央部分に位置する緊急発艦カタパルトに収容されていく。

 

『コミュニケートモード、開始。“どうした、クラード。脈拍が乱れているぞ。らしくないな”』

 

「らしくない、か。俺もそう思っていたところだ。……《レヴォル》。撃てない理由なんてあるのか?」

 

『“質問の体を成していない。誰をどういった理由でが不足している”』

 

「……敵をだ。それ以外に何がある」

 

『“エージェント、クラードのこれまでの戦歴であえて敵を見逃した事は一度もない”』

 

「ああ、そのはずだ。……そのはずだった。なのに、何で……。あいつか? あのカトリナとか言う……俺の調子を……狂わせて」

 

『“クラード。脈拍、脳波共に乱れている。冷静になれ。いつものお前らしくない”』

 

「……そうだな。冷静に、何よりも正確無比に。俺は俺の敵を射抜かなければいけない。……行くぞ、《レヴォル》。ゲインをぶち上げろ。敵を駆逐する」

 

『“了承した。お前の望むままに、こちらは敵影を殲滅する”。……コミュニケートモード解除。スクランブルに入ります』

 

『エージェント、クラード。スクランブル発艦をお願いします。そのままコアファイター形態で発進位置へ』

 

「エージェント、クラード。《レヴォル》、先行する」

 

 傾斜が取られ、リニアボルテージの青い光が明滅し、ベアトリーチェ中枢甲板が開くなり、クラードは《レヴォル》を緊急出撃させていた。

 

 そのまま砲弾のように打ち出された《レヴォル》の加速度は常時の三倍を超えている。

 

 敵影を見据えるなり、クラードは照準しビームライフルを速射させていた。

 

 トリガーを引き絞ると、敵機はその身にいくつも携えている堅牢な盾で防御する。

 

 弾かれたのを視認する前に次手に移り、《レヴォル》は可変を遂げていた。

 

 ヒートマチェットを抜刀するなり、そのまま薙ぎ払う。

 

 相手も反応し、シールド裏に引き抜いたビームサーベルと干渉波のスパーク光を押し広げていた。

 

「……機体照合……《アルキュミア》。この機体か……!」

 

《アルキュミア》の照合結果がもたらされたのは白銀のMSであった。

 

 人型に近いが、異様なのは六本もの支持アームを持ち、それぞれに武装を保有している点である。

 

 シールドの裏にマウントした速射スプレーガンが火を噴き、至近で弾け飛ぶ。

 

 クラードは《レヴォル》の放ったビームライフルの銃身で防御し、そのまま僅かに後退していた。

 

 爆ぜたビームライフルの黒煙を引き裂き、《アルキュミア》の盾の裏に隠している刃が《レヴォル》の首を刈らんと迫る。

 

 そのまま掻っ切られそうになったのを、クラードは《レヴォル》のバランサーをわざと崩して姿勢を変移させ、直後には上下逆さまの視界の中でヒートマチェットの赤い残光を払っていた。

 

 敵の盾の一つが剥がれ、相手もすぐさまそれをパージする。

 

「……こいつ、手練れか……」

 

『いきなり出てきたにしては、それなりの上物じゃないか! 我々に立ち向かうなど! その新型機と新造艦、貰い受ける!』

 

「……こんなのばっかだな。生憎と俺はお前らのテンションに乗ってやるようなヒマはない。――とっとと墜とす」

 

 ヒートマチェットを両手に携え、敵影に飛び込みかけてクラードは熱源警告と照準警告を同時に受けて相手へと飛びかかけた野性を制する。

 

「……増援。いいや、違うな。デブリ帯の陰に潜んで……」

 

 デブリの陰より狙撃するのは、緑色に塗装された《マギア》である。

 

『悪いが、ここでお縄と行こうかァ! 勝てない勝負はするもんじゃないだろう? エンデュランス・フラクタルのォ!』

 

「……ただの海賊風情が、吼えるものだ」

 

 しかし状況は芳しくない。

 

 射撃武装を捨て去った《レヴォル》は三機編成相手に戦わなければいけなくなってしまっている。

 

《アルキュミア》を深追いし過ぎたのが仇になってか、ベアトリーチェからも距離がある。

 

 凌ぐのには問題ないが、《アルキュミア》の中に切り札があると知っていてはそう容易くコックピットを射抜けない。

 

「……いつもみたいにやらせてくれよ、何にも考えずに……!」

 

『俺の可愛い可愛い配下ちゃんン! ここで邪魔なのは撃ち落とすゥ! なに、フレームさえ残っていれば高く売れるもんさァ!』

 

「……誰が、《レヴォル》をくれてやるものかよ……」

 

『吼えていいのかねぇ! 俺の配下ちゃんは今もあの新造艦に向かっているんだぜェ?』

 

「……デブリに紛れて接近……。こいつらのテリトリーってわけか」

 

 デブリ帯の一部に隠れ潜みながら、鹵獲カラーに塗り固められた《マギア》二機がそれぞれ挟み込むようにしてベアトリーチェへと砲身を向ける。

 

「……こんな雑魚に、使うつもりはなかったんだがな……。ミラーヘッド展開――」

 

 武装承認しかけて、クラードは不意打ち気味の通信に虚を突かれる。

 

『――させねぇよ!』

 

 艦内から響き渡った通信の主は艦砲射撃に隠れて敵影を狙撃してみせる。

 

 それは凱空龍の面々の《マギア》であった。

 

「……《マギア》……。アルベルト達か……?」

 

『クラード! こっちは引き受けた! てめぇはそいつをやってくれ! 銀色のが頭なんだろ? 凱空龍、気合見せろ!』

 

 アルベルトの声を引き受けた面々が応! と返答するのを聞きながら、クラードは《アルキュミア》に向かい合う。

 

 それでも残り二機の《マギア》の連携がある。

 

《アルキュミア》が支持アームを振るい、《マギア》の部下を展開させていた。

 

 既にミラーヘッドの蒼を伴わせている敵機に対し、クラードはヒートマチェットを投擲する。

 

 片方の刃が《マギア》の武器を持つ右腕を落とし、もう片方の刃は空を裂いたものの、ワイヤー駆動で戻ってくる銀閃が大きく円弧を描いて《マギア》の胴体を引き裂いていた。

 

『……友軍が……!』

 

「……嘗めるな。俺はエージェント、クラード。エンデュランス・フラクタルの……切り札だ」

 

 両手でヒートマチェットを握り締めた《レヴォル》と敵《マギア》がビームサーベルで打ち合う。

 

 広がったスパーク光を焼き付ける前に、クラードは浴びせ蹴りで《マギア》の躯体を麻痺させ、そのまま大上段に振るい上げた双剣で相手の頭部を両断する。

 

『め、眼が……ッ!』

 

「言っているヒマ、あるのかよ」

 

 返す刀で《マギア》のコックピットを薙ぎ払い、そのまま宇宙の塵に還す。

 

『やるじゃなーい! それでこそ、貰い受ける価値があるというものよォ!』

 

「……お前ら、ただの海賊じゃないな。何でベアトリーチェを狙う。あのピアーナとか言うのは、何なんだ……」

 

『教える義務、なくなーい? まぁここで死んで行けやァ!』

 

《アルキュミア》が加速して一気に接近するのを、クラードは《レヴォル》を半身にさせて一撃を回避していた。そのまま赤い残光を払うも、その一撃を跳躍した敵機にはシールド裏にマウントされた武装に阻まれる。

 

「教えないのなら、構わない。……ここで打ち倒す!」

 

『出来るって言うのかよ! その機体だけでなァ!』

 

「……俺と《レヴォル》なら確実に勝つ。それ以外の道はない。ここでやられるのは、お前のほうだ」

 

 ヒートマチェットで《アルキュミア》の盾を粉砕させるも、直後には白煙が棚引き、敵機が急速に後退していた。

 

『悪いけれど、負ける勝負はしない主義なんだよねェー。そっちの戦力は分かった。今度は確実に獲るゥ』

 

《アルキュミア》と残存していた《マギア》が撤退していく。

 

 その機動を眺めながら、クラードは悔恨を噛み締めていた。

 

「……仕留め損なったってのか。俺と《レヴォル》が……!」

 

『コミュニケートモードに移行。“クラード、落ち着くといい。敵の戦力は総崩れに近い。こちらの勝機だ”』

 

「……いや、逃がした時点で、俺達の敗退に近い。こんな形で……」

 

『クラード? クラード、何やってんだ! 敵は逃げ帰ったんだろ? とっとと帰ってくれば――』

 

「……助けられてどうする。俺は、誰も必要としていないはずなのに、だって言うのに……」

 

 カトリナに阻まれてピアーナを撃てなかった。

 

 それだけではない。

 

《アルキュミア》と海賊部隊を駆逐出来なかったのも大きな弊害として降り立つ。

 

 クラードはコックピットの中で奥歯を軋らせる。

 

「……俺は、まだ弱い……」

 

 少なくとも、守りたいものを守るのには。

 

 自分の意地を貫き通すのには、まだ足りていないはずであった。

 

 

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