機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

320 / 323
エピローグⅡ「物語の終わりに」

 

 弾薬は貴重な資源だとそう命令されているので、下手に費やす事は出来ない。

 

 かと言って、鉛弾なしで交渉など不可能――分かり切った情勢に、マニュアル制御に設定した《マギア》を疾走させる。

 

『アルベルトさん。敵陣はMA持ち……いわゆる“ミコシ”です。派手ですが、残存するミラーヘッドジェルを相手も惜しいはず。やれますよね?』

 

「――あたぼうよ」

 

 通信に応じて、《マギアハーモニクス》は大型MAを掲げる敵陣形へと切り込んでいた。

 

 まず加速度を上げて相手の射程へと潜り込み、足元からビームスプレーガンで眩惑。

 

 その隙を突いてヒートナイフを逆手に握り締め、敵の擁する《エクエス》の駆動系を引き裂いていく。

 

 MAに接続された大口径砲の引き金を絞ろうとした最後尾の敵には袖口に仕込んだガトリングガンで弾幕を張って応戦し、機体を旋回させていた。

 

 直後、空間を激震させる伝熱砲撃を視野に入れつつ、アルベルトは渇いた唇を舐める。

 

「……当たるかよ……そんな大きな得物……!」

 

 回り込んで敵機の首筋へと武装を叩き込み、頭蓋に位置するアイリウムとの接続を完全に断絶する。

 

 炉心がダウンしたのを関知し、アルベルトは敵影の頸椎へとヒートナイフを差し込んでトドメにしていた。

 

「……情況終了」

 

『了解。それにしても……まだまだ戦火は収まりませんね』

 

 通信ウィンドウをアクティブにした先に居たのは、赤い長髪をサイドで一つ結びにした相手であった。

 

「これも仕方ねぇ流れなのかもな。……オレらみたいなのが世界にはまだ必要ってこった。やるせねぇよ」

 

『……とは言え、吉報もあるみたいですよ』

 

「吉報ぉ? ……何だよ。ボーナスでも出るのか?」

 

『何言ってるんですか。エージェントがボーナスだとか、みみっちい』

 

「……じゃあ何だよ。シャルティア委任担当官殿」

 

 シャルティアは端末に送信されてきたメッセージを音読する。

 

『グゥエルさんの提案で、凱空龍の同窓会ですって。参加って送っておきましたから』

 

「おいおい! 何勝手やってんだ! シャル! オレは……こんな汚れ仕事やってんだ、往来を堂々と歩くなんざ……」

 

『エンデュランス・フラクタルの窓際部門でよく言いますね、それ』

 

 うっ、と手痛い一撃を受けたアルベルトはこほんと咳払いする。

 

「……あのな。まだ世界にゃ、たくさんの対抗勢力があるんだ。そいつらが何か引き起こさないように……オレみたいなのが居るんだろうが」

 

『アルベルトさんにご高説垂れられるまでもないですよーだ。それに、私もこれでいいんだとは思っているんですから。だってアルベルトさんに閑職だとか、そういうの無理でしょ?』

 

「……言うがな、シャル。これはオレみたいなのじゃねぇと出来ねぇ仕事で――」

 

『はいはーい、いつものは結構ですので、同窓会、久しぶりに行きましょうよ。だってユキノさん達も参加するって言ってるんですよ?』

 

 こちらの説教を打ち切ったシャルティアに強かに成ったものだ、とアルベルトは感心さえもしてしまう。

 

「……あれから二年、か。第二次月軌道決戦で、オフィーリアに帰ったっきりだったよな。確かに、ちょっとは顔突き合わせてはみてぇが……あいつは来んのか?」

 

『あいつって誰です?』

 

 問い返さなくとも分かっているだろうに。シャルティアはこの二年間で自分の言い出しそうな事は大抵知った上で、こうして自分を試す。

 

「……クラードとカトリナさん。二人とも、来んのかよ」

 

『カトリナさんはこっちの電波の入らないところにいらっしゃるみたいですね。全体連絡にも既読なしですし。クラードさんは言わずもがな。この人も既読なしです』

 

「……そうか。少しだけ、その……」

 

『寂しい、でしょう?』

 

 先回りされる感覚にアルベルトはパイロットスーツのバイザーを上げていた。

 

「……あのよ、オレが言い出しそうな事は分かるってのは、そうだろうさ。だがよ、オレの口から言わせてくんねぇかなぁ?」

 

『委任担当官として、エージェントの仕事は把握しておく義務がありますから。それにオフの日もね。アルベルトさん、現在三週間連続勤務、お勤めご苦労さまです。そろそろ有給を取っても上は文句を言わないと思いますよ?』

 

「……あの人が文句を言わない、ねぇ……それって本当かよ? どうせ、馬車馬のように働けってのが口癖だろ。分かってんだからよ」

 

『――あら? それが上司に向かって吐く言葉?』

 

 不意打ち気味に通信回線に滲み出た声に、アルベルトは驚嘆して前面モニターに顔をぶつける。

 

「……痛って……き、聞いていたんですか? レミア艦長……」

 

『もう艦長じゃないけれどね。エンデュランス・フラクタルの立て直しに貢献してくれているんだもの。もちろん、社員には有給を出すわ。それがホワイトな企業の義務でしょう?』

 

「……ホワイト……」

 

『ホワイトですか……』

 

 シャルティアと同時に呟いたせいか、ポップアップウィンドウに浮かび上がったレミアが怪訝そうにする。

 

『何が問題でも?』

 

「あ、いえ……、大丈夫……っす。その、じゃあ同窓会に出ても?」

 

『もちろん。あなた達の仕事ぶりはしっかりと管理しているもの。休暇は必要でしょう? エージェントにも、もちろん委任担当官にもね』

 

『あっ、でも私……まだ仕事残っていて……』

 

『駄目よ、シャルティア委任担当官。エージェントとの同行義務を命じます。これはエンデュランス・フラクタルの規定するエージェント法案第十七項に抵触しますからね』

 

『……はーい』

 

『はいは伸ばさない。……アルベルト君も、しっかり休んで明日への活力にしてちょうだい』

 

 ぷつんと通信が切られ、残された自分達は通信越しに顔を見合わせる。

 

『……上司が言うんなら、逆らえない……ですよね、アルベルトさん』

 

「まぁなぁ……。それにしても、お前、いいのかよ?」

 

『いいって……だって私は、委任担当官ですから!』

 

「いや、そうじゃなくってだな。この間、委任担当官殿のその、書斎に提出書類を持って行った時に……芸能事務所からの名刺が――」

 

 そこまで口にしたところでコーヒーに口を付けようとしていたシャルティアは吹き出していた。

 

『な……ななな……っ、何でそれを……!』

 

「あ、マズったか? いや、見ちまったもんは正直に言ったほうがいいかと思ってよ」

 

『ば、ばばば……っ、馬鹿を仰らないでくださいっ! 芸能界だとか、そういう浮ついたのは、嫌いなんですっ!』

 

「……そうは見えねぇがなぁ……」

 

『アルベルトさん! 間もなく回収部隊が現着します! 彼らと一緒に帰還してください! それが……帰ってくるまでが、エージェントですよっ!』

 

「そんな帰ってくるまでが遠足みてぇな……」

 

『とにかく! 芸能事務所のそれは……他言無用で。あっ、もちろんレミア……代表取締役にも……』

 

「分かってんよ。……そうじゃなくってもお前、弱み握られてんだろ?」

 

『分かっているのならば結構。……その認識も癪ですが。あっ、それともう一個』

 

「何だよ。同窓会なら出るって言っておいてくれ」

 

『いえ、その……。来週、お休みですよね? 代表取締役も休みはしっかり取れって言っていますし』

 

 そこでアルベルトはシャルティアの言わんとしている事を予見し、何となくそわそわしてしまう。

 

「……あ、ああ……そうだな」

 

『その……映画でも、どうですかね……。ちょうどペアチェットを取っていまして……』

 

「……シャルティア委任担当官殿。プライベート回線にしとかないと、後で聞かれちまうぞ」

 

『そ、それは……今すぐ言いたかったんですぅ……。悪いですか?』

 

「いや、そりゃあ悪くねぇけれどよ……。あ、ああ、映画、ね。悪くねぇよ」

 

『じゃあ、その……楽しみにしていますね……っ!』

 

 そう言って華のように笑った彼女の通信回線が切られる。

 

「……ったく、笑顔はラジアルさんに似てきやがって。そんでもって……素直じゃないところはお前みたいだよな、マテリア」

 

 かつて自分が愛した二人の女性の名前を紡ぎ、アルベルトは《マギアハーモニクス》で踵を返す。

 

 回収部隊が追いついて来る前に、アルベルトは襟元を緩めて風を通していた。

 

「……お前は、今どこに居るんだ? クラード。オレは……こんな世界の隅っこで、どっこい生きてる。だから、お前もきっと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 電話は三分までだ、と忠告を受けてヴィルヘルムは白衣へと袖を通していた。

 

「……急患かな」

 

「RM施術痕が痛むって、いつものおばあちゃん。……けれど、こんな事になるなんてね、ヴィルヘルム先生」

 

「君も図太いものだよ、バーミット君」

 

「あら? OLから一発転身、今度は看護師ですよ? 花形の職種、転々としているって噂でしょ?」

 

「いい噂だけでもないと言う話さ。OLか軍人のほうが似合っていたかもしれない」

 

「言いっこなしですよ、ヴィルヘルム先生」

 

 ヴィルヘルムは小高い丘の上にある個人開業医として、主に退役軍人を相手に診療所を開いていた。

 

「先生、ひざが痛むんですよ」

 

「ああ、今日は低気圧が強いですからね」

 

「それよりもねぇ、孫が可愛くって」

 

 この患者の高齢女性も、別段特殊なライドマトリクサー施術を受けているわけではない。

 

 一般的に浸透したRM施術は、今はほとんどの項目が禁止となり、義肢技術としての発展を期待されている。

 

 それも、数十年は前に通り過ぎた価値観ではあったのだが、今さら噴き出した辺り、来英歴の膿と言える事柄だろう。

 

「……そうですか。では、コーヒーでもどうです? 幸いにして、今日の患者はあなただけです。聞かせてください、お孫さんの事」

 

「あら、いいの? けれど先生、さっきお電話していたって……」

 

「ああ、ちょっと。昔馴染みの仲間が同窓会をしたいと言い出しまして」

 

「あら。それってお医者さんの?」

 

 その問いかけにヴィルヘルムは柔らかく微笑んで応じていた。

 

「いえ、戦友と呼べる間柄の……そうですね。これも長い話になりそうだ」

 

 そっと、バーミットはコーヒーカップを二つ差し出す。

 

 彼女も器用と言うか、患者相手に物怖じもせず、相手の話しやすい空気を作るのに長けている。

 

「おばあちゃん。今日はお孫さんの話、たっぷり聞かせてくださいね」

 

「ええ。けれど、気になるわ。先生の戦友さんの話。一体どんなお方なのかしら?」

 

「そうですね……話は……ちょっと長くなるんですが、まずは彼との、出会い方から」

 

 物語を紡ぐのに、時間はいくらあっても足りないだろう。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。