機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第33話「戦闘意識」

「あり得ないっしょ! 何で? 勝てなかったって?」

 

 捲くし立てた直後に歯噛みし、コックピットから這い出る。

 

「族長! あの新造艦、戦力なんてまるでないってそういう情報だったんじゃ――」

 

 銃声が余計な言葉を遮っていた。

 

 うろたえた部下は邪魔になる。

 

 撃ち殺した遺骸相手に舌打ちを漏らしていた。

 

「……俺に意見のある奴は居るか?」

 

 言葉は帰ってこない。反論なんてあるはずもない。

 

 ここは自分の支配域だ。

 

 それも長い間、数十年規模でこのデブリ帯を仕切っていたと言うのに。

 

「……あの艦がこの宙域の宝を奪いやがった。十三年! 十三年だぞ! それだけ探して一ヒットもしなかった宝を、あの新造艦が! エンデュランス・フラクタルが握っているって言うんなら、それは俺達の物のはずだよなァ!」

 

 肯定の声援が帰ってくるのを気分よく味わいながら、しかし、と紫色の紅を引いた唇で爪を噛んで思案する。

 

「……何だって一発で仕留められなかったァ? ……あの白いMS。手練れだって言いたいのかよォ……気に入らないねぇッ! お前もそう思うだろう――《アルキュミア》!」

 

 仰ぎ見た白銀の騎士の面持ちを持つMSが赤い眼窩でこちらを見返す。

 

「十三年だ! ……こいつは見つかった、お宝に辿り着くための地図。それは見つかったんだァ……なのに肝心要のお宝はデブリ帯に停滞する特殊な磁場の波長のせいで中々見つけられなかったァ……。そこにあるって分かっていても、下手に手出しすれば戦力が分散する。トライアウトに勘繰られるのも始末が悪いィ……ってのに、だ! あの新造艦、デブリ帯を突っ切ってきやがる! それは俺達に、何もかもいただいちまっていいって、そう言っているって事だよなァ!」

 

 然り! と波のように返答が来る中で、ボス、と声がかけられていた。

 

「何だ、気分いいってのに。水差しやがってェ……」

 

「いえ、その……。こいつらどうします? デブリ帯を漂っていた漂流者ですが」

 

 突き出されたのは軍警察の一員であった。

 

 コックピットから飛び降りるなり、うーんと顔を覗き見る。

 

「……旨味はありそうなんだがなァ……。今の俺はあの新造艦が欲しい。何かァ……何かないものかァ……。トライアウトの下士官とは言え、殺してしまうのはちと惜しい。何かァ……?」

 

「あ、あんたら、あの新造艦の情報が欲しいのか?」

 

「おんやァ? こいつはラッキー! 教えてくれるって言うのか? ……しかしいいのかねェ……後から軍警察の報復は怖いからなァ……」

 

「し、心配は要らない! 我々は機密を保証する! その代わり、本隊へのルートを取らせて欲しい! このままじゃ、帰るに……」

 

「ああ、ああ! 確かに。帰り道も分からないってのは憐れで涙が出て来るぜェ……可哀そうだからなァ……俺も憐憫の心が湧いて来ちまうゥ……」

 

 左目の下に刻んだ涙の入れ墨をなぞっていると、軍警察の構成員の一人が舌打ちする。

 

「……海賊風情が。我々は軍警察だぞ! こんな真似をして、ただで済むと思うな! お前らみたいなクズは――」

 

 そこで銃声が木霊する。

 

 撃ち抜かれた構成員の遺骸が転がったので、適当に足蹴にしていた。

 

「すまーんな。聞こえなかったァ? 何て言ったんだ、軍警察の諸君?」

 

 ひぃ、と短い悲鳴を上げて一人がその場で膝を折るのを、もう一人がこちらを見据えたまま、しっかりと声を発していた。

 

「……協力はする。だから、殺さないで欲しい」

 

「おんやァ? 急に賢明ィ! ……だが賢い事はいい事だ。俺も賢い奴を殺すような外道じゃねェ。だから生かしてやってもいいィ……」

 

「ほ、本当か? なら、教える! あの新造艦の情報を! な?」

 

 もう一人と視線を合わせた構成員が何度も頷くのを満足げに眺めていると、不意に《アルキュミア》から伝導してきた情報が網膜に投影される。

 

「おんやァ? ……こいつァ朗報ゥ! あの新造艦からの情報だ。へぇ……こんだけの戦力。やはり違うねェ、大企業の艦ってのは」

 

「お、おい……何を言って……」

 

「俺はライドマトリクサーァ! 《アルキュミア》とは百パーセントのな! だから分かっちまうんだよ、こいつの元主人が何をしていようとどうしていようと。それでも何でだか、十三年間位置情報を掴ませてもくれなかったもんだが……今になってデレてくれたのか、《アルキュミア》は俺に何でも教えてくれるぜェ……」

 

《アルキュミア》のマニピュレーターに導かれてコックピットに上がっていくのを、構成員達は目の前に吊り上げられた希望を取り下げられた絶望の眼差しで乞う。

 

「ま、待ってくれ! 何でも話す! そ、そうだ! トライアウトの巡回情報を知りたくないか……? 何でも話すから! だから……!」

 

「うぅーん、そいつァねェ、お前さん達。機密漏えいって奴だ。そんな危なくって悪い事をする奴にァ、始末を与えないといけないなァ……。昔から言うだろ? 悪い子は取って食われちまうって」

 

「ま、待てって! 俺達の情報は、とても意味がある情報で……! だから――」

 

「――うぜぇ。殺せ」

 

 銃声がいくつも鳴動し、デブリ帯に隠したアジトへと反響するのを、手に取った煙管から紫煙をたゆたわせながら、うぅーんと味わう。

 

「いいねェ……悲鳴と絶叫。俺達の本懐って感じだァ……」

 

「ボス。どうします? どうせトライアウトの木っ端構成員なんて何も知りませんぜ」

 

「だなァ……。だが、そいつらの巡回用の《エクエス》はバラしてパーツを有効活用させてもらえ。ああ、それと、死体から金目のモンは一つ残らず取っておけェ……。にしたって、この十三年間、静かだった宙域にトライアウトと新造艦、それにこいつァ……」

 

 テーブルモニターに映し出したのは白いMSであった。

 

「鎧武者って奴か。いいねェ……そそるゥ……!」

 

「仕掛けますか」

 

「まぁちょっと待てよ。……なるほどなァ……どうしたって《アルキュミア》との接続は切れないわけだァ。あっちがこっちを求めれば応じるように出来ている。だが、もう《アルキュミア》は俺のMS、俺の所有物ゥ……! いい情報をいただいたァ……者共、戦だ。戦を始めるぞ。久しぶりの艦隊戦だ。敵はエンデュランス・フラクタル……上物だぜェ?」

 

「金目の物は?」

 

「奪え。全てだ」

 

「女は?」

 

「奪え、全てだ」

 

「男や他のどうしようもないのはどうします?」

 

「殺せ、全てだ」

 

 久方ぶりの戦闘にライドマトリクサーの身でも血が湧き立って来るのを感じる。

 

 熱を感じていなかった肉体に熱を。

 

 血潮を感じていなかった身体が新鮮な血潮を求めている。

 

「うぅんァ……。久しぶりに殺しが愉しめるゥ……。何よりもあの白いの、まだ、だ。潰し足りねェ……殺し足りねェ……!」

 

《アルキュミア》の眼窩が赤く輝く。

 

 自分の闘争本能と同化した《アルキュミア》が凶暴な光を湛えて、支持アームを展開していた。

 

「饗宴だァ! 殺せ! 求める物は全てだ! 奪い、略奪せよォ……! 俺達が――正義だァ!」

 

 うねりのような声を引き受けて、その快楽に口角を釣り上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「帰投していない部隊? 哨戒機か?」

 

 ダビデの問いかけに部下は澱みなく返答する。

 

「数時間前の事です。あの宙域で張っていた《エクエス》三機のシグナルが不意に途絶えました。解析映像上には、これが……」

 

 差し出された端末に映しだされていたのは、白銀のMSが率いる《マギア》部隊であった。

 

「……海賊か。まさかこんなものが、今の時代にも居るとはな……」

 

「前時代的ですが、《マギア》とこの正体不明の白銀の機体は観測されていなかったものです。上手く隠れていたのでしょう。このデブリ宙域には特殊な磁場がありまして、それで身を隠す術に長けているのだとすれば……」

 

「送り狼は逆効果になりそうだな。かと言って、この宙域、あのエンデュランス・フラクタルの新造艦の航路と重なる……。まさか、交戦するつもりか?」

 

「あり得ませんよ。一企業の新造艦が、何だって海賊との戦いを?」

 

「……あり得ないと思えている事が立て続けに起きている。私の《エクエスルージュ》もまだ改修の目処も立たん。現状では哨戒機を充てるのも不適当だ。誰か出られるのならばいいのだが……」

 

「――その役目、私が果たそう」

 

 タラップを駆け上がって、無重力に身を任せたグラッゼにダビデは瞠目する。

 

「大尉自らですか? ならば私が……」

 

「充てる戦力がないと言ったばかりであろう、DD。なに、私の仕事は先ほど終わったばかりでね。次の命令が出るまでは持て余す。暇ならば出ておけと言うのが人情だろうさ」

 

「……しかし、相手はデブリ宙域を根城とする海賊。どのような卑劣な手に出るのか分かりません」

 

「なに、だからこそだよ。君のようなレディをなおの事、行かせるわけにはいかない」

 

「……ご冗談を」

 

「存じているさ。DD、君にはトライアウトジェネシスの統括義務がある。あの噛み付き癖の准尉殿も生き残ったのだろう? ならば部隊編成を急ぐべきだ。ベアトリーチェを追うのならば、機体編成案は通しておくべきだろう」

 

「言葉もありませんね……」

 

「しかし、何故こうも……いや、これも運命の悪戯なのだと思うべきなのだろうね。私も新型を汚したくはない。一般兵の《エクエス》を回してくれ。まだ彼と会うのには早いからな。一張羅を見てもらいたい人間相手に、下手な勝負は仕掛けられんよ。それが駆け引きというものでもある」

 

「しかし、大尉レベルの方に回せる《エクエス》は現状……!」

 

「いい。ペダルを重くしてくれ。その上で自分で調整する。心配無用。私は行って帰ってくるくらいは出来るさ。子供扱いはやめてもらおう」

 

「……失礼を」

 

 そう言って下がった部下だが、自分は《エクエス》に飛び乗ったグラッゼに食い下がっていた。

 

「……相手も分かりません。やはり、自分も一緒に……」

 

「少尉。君は、向けられるべき刃が向かう先をまかり間違えればどうなるのかを知っている人間だ。そういう人材は貴重、すり減らすわけにはいかない。戦場も選ぶべきだ」

 

「それは大尉だって同じでしょう」

 

「私はフリーの傭兵期間が長かった。ちょっとした汚れ戦には慣れている」

 

「……トライアウトの統率でも難しいとされている磁場のようです」

 

「構わんさ。暴れ馬を乗りこなす前の試運転だ。私と一緒に来るのは乗り遅れない程度の一般兵を二名でいい」

 

「……ですが大尉の《エクエス》を守る人間が居なくなりますよ」

 

「DD。私はこの数年間、ほとんどを一人でやってきた。信頼くらいはしてもらいたいものだな」

 

 笑みを刻んだグラッゼにこれ以上の言及は無駄か、と感じつつもダビデは言い置いていた。

 

「……もし、ガンダムが来たらどうするんです」

 

「そうだな、その時は……一つ格好悪いが、撤退と行こう。まだ彼と死合うのには早い。クラード君もつまらない戦に首を突っ込む性質ではないからな。私と踊りたければ彼もドレスを着るべきだ。いや、この場合はタキシードかな?」

 

「……ご武運を」

 

「君もだ、少尉。あまりつまらん事にかけずらうと価値を損なう。しかし……海賊か。面白いじゃないか。私はこれでも空想少年でね。海賊狩りは夢だったんだ」

 

 そう呟いたグラッゼに挙手敬礼を寄越してから、ダビデは声を振り向ける。

 

「出撃位置! 大尉が出られるぞ!」

 

 

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