『――コミュニケートモードへと移行。“どうした。クラード。これから海賊が攻めて来るって言うのに、ご機嫌じゃないか”』
「ご機嫌……そうかな。そう見えるのか」
『“張り詰めていたのに比べればいい傾向だ。海賊のうち一機、《アルキュミア》と呼称されるMSは強大だった。下手に肩肘を張っていると敗北するだろう”』
「……やはり、《レヴォル》。お前から見てもそうだったか」
『“事象の客観視だ。相手はライドマトリクサーだと言うのならば、それなりの戦力と仮定すべきだろう”』
「だから、俺はレミアにサインを貰って来たんだがな。……《レヴォル》、リミッターの解除の命令が下った。本気でやっていいそうだ。俺達の幕を開ける」
『“ほぉ、それは楽しみだ、とでも返せばいいのかね”』
「……お前を操るのは俺だ。期待してくれていい。本気のお前と、俺が居るのならば、勝利出来る、その可能性が高くなった」
『“ではクラード。最終認識コードを戦闘中にコールを願う。そのタイミングはそちらに譲渡する”』
「ああ。俺は二度も三度も、負けていられない。そして――来たな」
パイロットスーツ越しに感じる殺気の気配が鋭くなり、ベアトリーチェ艦内が揺れ動く。
しかし敵の襲来を予測出来ていたのだ。
まだ平時の落ち着きを保ったままの艦内で声が響き渡る。
『モビルスーツ各機、発進準備に!』
サルトルがコックピットハッチを叩く。クラードは回線を開いていた。
「何?」
『……ピアーナから聞いている。最悪壊してくれてもいいとの事だ』
「自分の生命線なんだろう」
『それでも、おれ達を危険に晒すよりかはマシだと思ってくれたらしい。ありがたいんだか、そうじゃないんだか』
ぼやくサルトルにクラードはコックピットの中で告げる。
「安心しろと、言ってくれ。俺は《アルキュミア》を無事に回収し、そして海賊連中を一掃する。それで手打ちだ」
『簡単そうに言うがなぁ、クラード。……相手だって手練れなんだろう?』
「ああ、それは間違いない。ライドマトリクサーだって言うんなら、そのはずだ」
『……だって言うのにいつも以上に落ち着いてくれちゃって……。お前は本当に変わらないよ、クラード』
「だろうな。俺は変わらない。……そのはずだ」
ピアーナを撃てなかった自分も、カトリナに対し温情を抱いた自分も、今は必要ない。
ここに至るのには――敵を撃つ事のみに長けた戦闘機械。
カタパルトデッキへと移送されていく《レヴォル》へと可変腕を接続させ、鋭い電流が脳髄を打ち据える。
真紅に染まった眼差しを投げ、クラードは発進位置についていた。
『《レヴォル》、カタパルトボルテージ上昇。射出タイミングをエージェント、クラードに譲渡します』
「了解。エージェント、クラード。《レヴォル》――迎撃宙域へと先行する!」
青い電磁がのたうち、コアファイター形態のまま射出された《レヴォル》がベアトリーチェから離れ、敵影の佇む宙域へと嘴の如き鋭い機首を向ける。
「……まずは《マギア》による第一波。それはいちいち気にしない」
《マギア》の第一陣が蒼い残像を纏い、ミラーヘッドの準備に入ったのを艦砲射撃と凱空龍の《マギア》部隊が応戦する。
『狙撃切らすな! クラードの道を作れ!』
アルベルトの声に、応! と返事する面々の声を引き受け、クラードは《マギア》の滞留する第一陣を突き抜けていた。
続いて第二陣はデブリの裏側に潜み奇襲を講じている。
それにも対応している間はない。
「《レヴォル》、照準を俺に任せてくれ。マニュアルモードで敵を狙い撃つ」
オートマチック照準からマニュアル照準へと移行し、《マギア》が潜んでいるであろうデブリを一つずつ潰していく。
デブリを粉砕された《マギア》にまでは手が回らない。
なので、第二陣も予定通りの秒数で通過する。
カウントが刻々と移り変わる中で、クラードは《レヴォル》を加速させていた。
急速度のGがかかるコックピットの中でクラードは最奥に佇む白銀の騎士の機体を睨み据える。
「……《アルキュミア》。そいつさえ倒せば総崩れだって言うんなら……!」
照準器の中に狙い澄ました瞬間、《アルキュミア》を保護するように軍警察カラーの《エクエス》が射線に入る。
「邪魔だ……!」
機体をロールさせて敵のビームライフルを潜り抜け、そのまま先鋭化した思考回路を上昇の中にある《レヴォル》の内側で展開させる。
四肢を開き、《レヴォル》はビームライフルを携え、《エクエス》三機へと掃射する。
散開した《エクエス》を狙う前に、《レヴォル》は急加速を得たまま下降し、《アルキュミア》へと肉薄する。
「一気に決めるぞ、《レヴォル》! ゲインを叩き上げろ……!」
『ヒューッ! イカすねェ! 白いMS! 俺との一騎討ちを望もうってのかいィ!』
「一騎討ち? そんな余裕をかましている時間はない。すぐにでも終わらせてやる」
ビームライフルを速射させ様に《レヴォル》は敵の懐へと飛び込み、蒼い輝きを伴わせて掌底を浴びせかける。
しかし相手は距離を稼いでから支持アームをそれぞれ伸長させ、盾の裏側に隠した銃火器を稼働させていた。
『格好の的だァ! ぶちのめされろ!』
照準警告が鳴り響く中で、クラードは頭蓋に突き立った電流を感知しつつ、機体を横滑りさせる。
敵機の火線は明後日の方向を射抜き、クラードは静かに言葉を紡ぎ上げていた。
「……《レヴォル》。武装承認コード、“マヌエル”。リミッター、解除……」
途端、《レヴォル》の眼窩に蒼い炎が点火し、その機影が残像を居残して翻っていた。
《エクエス》と《アルキュミア》が狙い澄まして十字の形で火器を奔らせたその時には、既に《レヴォル》の姿はそこにはない。
『……何だァ? 掻き消えやがったァ?』
「――ここだ」
《エクエス》の背後へと立ち現れた《レヴォル》がゼロ距離でビームライフルを速射させ敵を射抜く。
もう二機の《エクエス》は爆散した味方機へと迷わずに銃撃を絞るが、その時には全て――遅い。
ビームライフルを捨て、クラードは《レヴォル》の両腕で《エクエス》二機の間に割って入り、その頭蓋を掴んでいた。
『な、何ていう、速さ――!』
「――墜ちろ」
蒼い粒子束が至近で爆ぜ、《エクエス》二機を葬り去る。
《アルキュミア》を操っているライドマトリクサーもこの速度にはさすがに応戦出来ないのか、僅かに気圧されているようであった。
『……何なんだ、お前ェ……ッ! その、機体ィ! 何なんだァ!』
「《レヴォル》だ」
ビームライフルが三基分、それぞれ盾の内側にマウントされた状態で速射されるも、それらは自分達を捉える事はない。
既にその時には、《レヴォル》は蒼い眼光に叩き据えるべき敵を目にしている。
敵機は即座に反応してビームサーベルを抜刀していた。
クラードは奥歯を噛み締めて加速度に耐えながら回転軸の回し蹴りを敵機の間接へと叩き込む。
脚部に格納されていた近接火器が現出し、至近距離での銃撃が《アルキュミア》の躯体を打ち据えている。
『ぐがぁ……ッ! 何で……何でだァッ! 何で……そんなに速い! ミラーヘッドにしたって、度を過ぎた速さだって言うのが……!』
「俺と《レヴォル》は一時的にミラーヘッドにかかっているリミッターを解除出来る。もっとも、これを使えば面倒ごとが増えてしまうが……お前らを即座に掃討しなければ俺達の航路に差し支える。ちょっとした面倒なら背負うさ」
その瞳を細め、純度の高い殺意を携えたクラードと《レヴォル》が宙域を跳ね上がる。
《アルキュミア》は防御の陣形に入り、そのまま一撃をいなそうとしてきたが、その時には赤い残光が薙ぎ払われていた。
点火したヒートマチェットを横薙ぎに一閃、そのままの勢いを借りてさらに上段から打ち下ろし。
十字に斬り裂かれた盾が粉砕され、さらに突き上げた形のヒートマチェットの一打が《アルキュミア》の装甲に入っていた。
『……刃の面だったら、やられていたって言いたいのかァッ!』
「それが分からないほど愚かなのだったら、もう終いだな」
《アルキュミア》を蹴飛ばし、《レヴォル》はさらに敵の背面へと回り込んで支持アームを斬り伏せる。
次第に防御力と武装を奪われていく相手は、最早手段を選んではいられなくなっているようであった。
ヒートマチェットの赤い残滓が何もない空を引き裂く。
クラードは落ち着き払って敵の発動したシステムを紡ぎ上げていた。
「……ミラーヘッド。ようやく、か」
『嘗めるなよォ! 俺だってミラーヘッドが使える!』
「じゃあやろうじゃないか。第四種殲滅戦、ミラーヘッドの戦いを」
『……落ち着き払いやがってェッ! 喰らえ!』
《アルキュミア》が無数に分身体を生み出し、それぞれから火線を叩き込んでいく。
クラードは《レヴォル》を駆動させ、敵の銃撃網を難なく切り抜け、そのまま両腕を払っていた。
ワイヤーで接続されたヒートマチェットが空間を飛び越えて敵影に突き刺さる。
分身体のうち二体の頭蓋を叩き割ったヒートマチェットを呼び戻し、クラードは手元に引き寄せる直前にもう一度、機体を回転軸にさせて一閃を払っていた。
こちらへと接近を講じていた《アルキュミア》の分身体が分断され、そのまま霧散していく。
『……何でだァ……。何で届かないィ!』
「簡単な事だ。言うまでもないが教えてやる。お前より俺のほうが――強い」
敵機の拡散した銃撃を潜り抜け、《レヴォル》が蒼い残滓を棚引かせながら《アルキュミア》に接近する。
敵影は機体軸をずらして分身体を盾にして防衛するが、それはライドマトリクサーからしてみれば諸刃の剣だ。
分身体が惨く破壊されればその分だけ少なからずダメージフィードバックがある。
今の相手にはほとんど余裕も、ましてや自分を迎撃するだけの余力も残されていない。
『お前ェ……ッ! この《アルキュミア》を破壊すれば……あの艦に居るお宝だって……!』
「うん、それ、さ。考えたんだけれど一番有効な手を見つけた。要は一番要らないのは、コックピットに収まっているお前だ。なら、ミラーヘッドの分身体を全部破壊した上で、叩き込めばいい。俺達の全霊を」
『……お、お前ェ……ッ! 人でなしがァ……ッ!』
「悪いな。人であろうと、思った事は一度もない」
ヒートマチェットで最後の分身体を叩き斬り、そのまま速度を借りて《アルキュミア》へと取り付く。
『殺すのか! ……いいんだな? お前ェッ! 他の連中が黙っちゃいないぞ!』
「他って誰」
『俺を殺せば……もっと面倒な、トライアウトからも目を付けられる! 逃げ場なんてないんだよォ……ッ!』
「逃げ場、か。悪いけれど、逃げるのはもう随分と前に、やめたんだよ」
《アルキュミア》の頭部に向けてヒートマチェットの太刀を打ち下ろす。
騎士の相貌を持つ《アルキュミア》が打ち砕かれ、そして掌底をコックピットに据えていた。
『や、やめろやめろやめろ……やめ――ッ!』
「――だからさ。うるさいしつまんないよ、あんた。幕切れだ」
粒子束がコックピットを射抜く際、断末魔が聞こえてきた気がしたがきっと気のせいだろう。
コックピットを的確にくり抜いた一撃は中のパイロットを輻射熱で即死させたであろうが、システムそのものはこの手の中だ。
「……心臓だけ残して殺せって、無理な注文だ」
《アルキュミア》は騎士の頭部をひしゃげ、コックピットを引き抜かれているがまだ機体自体は死んでいる様子ではない。
そのままクラードはベアトリーチェへと伝令していた。
「《レヴォル》、敵頭目を殲滅。これより、ベアトリーチェに帰投する。それにしても……張り合いもないな。俺達のカーテンコールには……少し物足りなかったか」