機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第39話「宝石の日々」

「――私と顔を合わせない。そのほうがいいって本当に思っていますよね? アルベルトさん」

 

 うわっ、と不意打ち気味に声をかけられ、格納デッキの陰に隠れて食事を取っていたアルベルトは驚愕する。

 

「戦闘待機だ! ノーマルスーツの着用義務は解かれたが、それでもいつでも出せるようにしておけ! トキサダ! お前らの《マギア》、調整が要るな。ちぃとばかしピーキーなほうが敵もミラーヘッド時の隙を突きづらい。メカニックに任せて休憩しろ」

 

 視界の中でサルトルとトキサダが《マギア》のコックピットに取り付いて言い争う。

 

「お断りだね。おれ達の整備くらい、おれ達でやるってんだ」

 

「アホか、お前は! 今までの仕様じゃ、先の戦闘時の隙が大き過ぎる。言われんと分からんのか? こっちが言い値でサービスしているって言ってるんだ。忘れるな! お前らはあくまでパイロットで、こっちのほうは専門職なんだからな!」

 

「……サルトルさんとトキサダさん達、もう一端のパイロットと整備班の関係ですね、あれ」

 

 顎をしゃくってラジアルが言いやるものだから、アルベルトは彼らの視界から逃げるようにちょうど格納デッキの機体の陰に隠れる。

 

「……で、何でアルベルトさんはこんなところで食事を? 言ったじゃないですか、今度はランチをご一緒にって」

 

「……そんなの、約束しましたっけ。……まぁどっちにしたって、オレだって戦闘待機です。こっちのほうが都合もいいでしょう」

 

「駄目ですよ! こっちじゃ滅多に会えないじゃないですか!」

 

 ラジアルが本気の形相で怒るものだから、アルベルトはただひたすらに当惑する。

 

「……あのっすね、オレ、あんたと別段親しいわけでもないじゃないですか。なのに、約束を守る義理だとか――」

 

「キスしておいて? そんな言い方するんだー、ふぅーん」

 

 思わず飲んでいた携行飲料をむせてしまう。

 

 何度か咳き込んでから、アルベルトは涙目でラジアルを睨んでいた。

 

 相も変わらずくすくすとこちらを転がすように彼女は笑っている。

 

「……シュミ悪ぃ」

 

「何がですか? 男の子とのコミュニケーション、間違っていないでしょう?」

 

「いや、それも込みっすけれど、って言うか戦闘待機でしょう? 一人も管制室にオペレーターが居なけりゃさすがに問題なんじゃ」

 

「いいんですよ、どうせ海賊とかとの戦闘を抜ければ自動航行ですし。まぁ、それに? とても優秀な電子光学技師さんが入ってくださいましたのでその辺りの心配はしばらくしなくってよさそうです」

 

「……あのピアーナとか言うの、信じたんですか」

 

「艦長命令ですので、私が信じたわけではないですけれど」

 

「……分かんねぇな。あんたらも艦長も。何を考えて敵だった奴まで抱き込んでいるんですか」

 

「それはさすがに艦長の頭痛の種なので言い出せませんよ。第一、それ言い出しちゃったら、何でアルベルトさん達だって居座っているんだって話になりますし」

 

「……オレらは、一応は筋は通したつもりですけれど」

 

「ああやって出撃するのがですか? ……正直、危なくって見ていられませんでしたよ。長距離狙撃砲を前にしてカタパルトから出撃するなんて、死ににいくようなものじゃないですか」

 

 アルベルトは唇を尖らせて恨めしそうなラジアルの視線相手に、わざと視線を逸らして応じる。

 

「……オレらはそうなんですよ。いつだって、死に物狂いの凱空龍。いつ死ぬのかなんて、誰だって分からねぇ。でもお互いに信じているから、背中だけは預けられる……。そんな吹き溜まり連中です。あんたが関わるような人間じゃない」

 

「でもアルベルトさんは違うんでしょう? 話していれば分かります。いい人なんだって」

 

「いい人って……それもまた定義が曖昧な……。あのっすね、オレらは仲良しこよししている他の集団とは違うんですよ。自分達の命を投げている……そういう人間の集まりなんです」

 

「でも、ベアトリーチェを必死に守ろうとしての出撃だったんでしょう? そこに私達が含まれていないのは、それこそ嘘ですよ」

 

 ――嘘、か、とアルベルトは胸中に結ぶ。

 

 いくら虚飾を並べ立て、どれほどもっともらしい理屈を立てたところで、それでも拭い去れないものはある。人はそれを、きっと真実だとか本音だとか名前を付けるんだろうが。

 

「……なら、あの時オレにあったのはクラードの戦いに報いなくっちゃいけないって言う、意地っすよ。女には分からないかもしれないっすけれどね」

 

 こちらの物言いにさしもの大女優とは言えむっとしたのが気配で伝わる。

 

「女でも分かりますよ」

 

「さいですか。にしたって、慣れってのは怖いもんで。オレら相手にもうこの艦の人間は物怖じしなくなっているでしょ。それってのも、まだまだ先の月航路のためだってのは、知っているのは一握りっぽいですけれど」

 

「……アルベルトさんって、勘はいいほうなんですね、それでも」

 

「あのっすね。それでもとは何ですか、それでもとは」

 

「さっきのお返しですよーっだ。どうです? 言い負かされるのは」

 

 まさかこんなに早くカウンターを喰らうとは想定しておらず思わず舌打ちが漏れてしまう。

 

「……これだから、女は始末に負えねぇ」

 

「アルベルトさん、こんな隅っこでご飯食べてるんじゃなくって、ランチに行きましょうよ。今なら戦闘待機ですし、食堂も空いていますから」

 

「それ、オペレーターの言葉っすか。まぁ、でも、野郎連中の目がないってんなら、別にいいっすけれど」

 

 そう言うや否や、彼女はその腕力で自分を引き寄せる。

 

 ラジアルの小ぶりでありながら形のいい柔らかなものに腕が触れていた。

 

 思わず腕を引っ張り上げ、しどろもどろになるのを、ラジアルは微笑む。

 

「あっれー? アルベルトさん、小さいのも好きなんだ?」

 

「……何がっすか。セクハラじゃないっすか」

 

「いいんですかー? 私がアルベルトさんに胸触られたって言ったら、男の人達黙っていないかも?」

 

「……うっ、それはっすね……。いや、勘弁してください。野郎連中に吊るし上げ喰らうなんてそんな死に様は御免っす」

 

「なぁーんて! 冗談ですよ? 何なら触ってみます?」

 

「い、いや! あんた何言って……!」

 

 こちらのうろたえ具合にラジアルはあっけらかんと笑う。

 

「赤くなっちゃって、かっわいいー! アルベルトさん、乙女な上に実はお子ちゃま? そんなナリで?」

 

「……う、うるせぇっすよ。第一、あんた一応女優でしょう? だったらその、気ぃつけるべきはオレじゃなくってそっちじゃ……」

 

「別に、私はいいんですけれどねー。触られた事も一度や二度じゃないですしー」

 

 へっ、と意想外の言葉に返答しかけて、そうだった、と額を押さえる。

 

「……そういやあんた、何でもOKな女優だった……」

 

「でしょー? そういうところ、純で可愛いんですから」

 

「だから、からかうなって言ってるでしょ……。大体、女優業とそういう……その男っ気があるかないかは別の話なんじゃ……」

 

「華やかだからと言って、別に言い寄ってくる人の一人や二人、居ないわけじゃなかったんですけれどねー」

 

 ごくりと生唾を飲み込むと、ラジアルはふふっ、とミステリアスな笑みを浮かべていた。

 

「……まぁ、アルベルトさんが気にかかるんなら気を付けます。だって、あなたが私刑に遭うのなんて見たくないですし」

 

「……本当、勘弁してくださいよ、まったく。下手な噂が立つと嫌なんですから」

 

「嫌……ですか? 私と噂立つの……」

 

 一転して不安げな眼差しで瞳を潤ませるものなのだから、女とは魔性だと思い知る。

 

 いや、この大女優だからこそ出来る芸当なのだろうか。

 

 それは、と言葉を詰まらせていると、ラジアルはくすっと笑い出す。

 

「やっぱりアルベルトさん、悪い人じゃないと思うんですけれどねー」

 

「……ランチはなしっすよ、そんなんじゃ」

 

「あれ? 怒っちゃいました? 変だなー、こんなところで怒っちゃうような沸点低い方じゃないでしょう?」

 

「オレは沸点低いっすよ。所詮は宇宙の暴走族のヘッドなんで」

 

「凄んだって無駄なんですってば。さぁ、行きましょう!」

 

「待ってって! あんた力強いんだから……」

 

「ライドマトリクサーですもんねー」

 

 生身の自分では敵いようのない力で引っ張られ、アルベルトは食堂に向かう廊下をいくつか折れ曲がっていく。

 

 幸いにして、誰かとかち合う事はなかったが、それでも食堂で待ち構えていた相手に硬直していた。

 

「あ、アルベルトさんに、ラジアルさん! お疲れ様ですっ!」

 

「あ、うん……お疲れっす……」

 

 カトリナがランチを取っており、ラジアルはふぅんと訳知り顔になったかと思うと、こちらの肩をつついてきた。

 

「アルベルトさんもA定食でいいですよね? ここ初めてですし」

 

「あ、ええ、まぁ」

 

「じゃあ食券取って持って来るんで。席を取っておいてくださいよ。そうですねぇ……ちょうどシンジョウさんの向かいが空いてますので、そこで」

 

「えっ、ちょっ……あんた……」

 

 嵌められた、と分かった時にはもう遅く、カトリナはニコニコしながら前の席を示す。

 

「どうそっ! 私はお気になさらず」

 

「いや、気になさらずって言われても……」

 

 とは言え、こうしてカトリナと面と向かって話すのは久しぶりで、何だか最初に会った時よりもなお色濃い緊張に晒されてしまう。

 

「アルベルトさん、ラジアルさんの映画、全部観ていたんですよね?」

 

「え、ええまぁ……。いくらFランクコロニーって言っても映画くれぇはありましたから」

 

「すごいなぁ……。私は何個か観た事はあるんですけれど、ラジアルさん本人とまさか同じ職場になるなんて思いも寄らなくって。ビックリする事だらけなんですよね、この艦に入ってから」

 

「そ、それはオレもそうっす……ビビる事だらけで……」

 

 こうして目の前にカトリナが居るだけで、心臓が跳ね上がっている。心拍が相手に伝わってしまうのでは、と言う危惧さえも浮かべたアルベルトへと、何のてらいもない純度の高い笑顔が向けられる。

 

「これ、美味しいんですよー。私の血統の中にある、東洋の文化の食事で。うどんって言うらしいんですけれど」

 

「はぁ……うどんっすか……」

 

「うーん……っ! さっぱりしていて美味しいーっ!」

 

 にこやかに頬張るカトリナの笑顔を直視出来ず、アルベルトは直上の電灯に意識を割いていた。

 

「そういや……クラードはどうしてますか……。オレ、全然話出来なくって……」

 

「そんな暇もないですもんねぇ。クラードさん、いつもお忙しそうなので私のほうが困っちゃってるんですよ。もう少しアルベルトさんとお話ししたほうがいいって言うべきなんでしょうか?」

 

「い、いえっ! 委任担当官って仕事、楽じゃないんでしょう? なら、オレの事は別にいいんです。クラードとオレの問題っすから。カトリナさんに手をかけさせるわけにはいきませんし」

 

「そうですか? ……でも、意外かなぁ……」

 

「何がです?」

 

「いや、アルベルトさん話しやすい上に、ラジアルさんと仲良くなっていらっしゃるなんて。何だか最初の印象と真逆で……あっ、失礼なら謝ります。こんな物言い、駄目ですよね……?」

 

 困ったような表情で上目遣いに尋ねてくるものだから、アルベルトは紅潮しかけた頬を誤魔化すために口元を手で覆っていた。

 

「アルベルトさん? どうなさいました? 気分でも……」

 

「いや! マジに大丈夫ですんで! ……その、オレの事はお気になさらず」

 

「い、いえっ、気にしますよ……っ! 何か、ご気分を害されるような事を言いましたかね……」

 

「い、いえっ、カトリナさんはその……そういう事は言っていません。オレの問題ですんで……」

 

「――お話に花が咲いているところ悪いですけれど、A定食を頼んでおきましたね」

 

 ラジアルが如何にも自分が邪魔者と言うオーラを出しつつ自分の隣に座る。

 

 それもわざとらしく、席を近づけて。

 

「ラジアルさん、オペレーター業務ご苦労様です。すごいなぁ……咄嗟の判断ですもんね」

 

「ええ、まぁ。でも、シンジョウさんだって大変そうじゃないですか。エージェントの方の専用窓なんて」

 

「で、ですかね……。でもレミア艦長からはお叱りを受けるばかりで……」

 

「艦長も分かってくださいますよ。あれでも部下の苦労はしっかりと汲んでくれる艦長ですし」

 

 ラジアルは言葉の表面では穏やかでカトリナに刺々しいところはないが、どこかでアルベルトは目が笑っていないのを感じ取っていた。

 

「それにしたって、シンジョウさん。いつまでリクルートスーツなんですか? ベアトリーチェの制服に袖を通せばいいのでは?」

 

 素朴な疑問にカトリナはうぅーんと呻る。

 

「そうなんですけれど……どうにもまだ慣れなくって。だから期待の新人だとかまだ言われちゃうんでしょうけれど……」

 

「そうなんですね。私はでも、もうさすがに期待の新人は言い過ぎだと思いますけれどねー」

 

 同調する様子を持っているが、ラジアルの言い草に相手を慮ってのものはない。

 

 しかし当のカトリナは気にしていない様子で、自分の境遇を分かってくれている相手だと認識している。

 

「そう……ですかね。じゃあそろそろ制服に袖を通したほうが……いいのかな? アルベルトさんはどう思います?」

 

「オレ? オレっすか……? 何で?」

 

「何でって……私がリクルートスーツのままだとやっぱり、クラードさん、まともに取り合ってくれないんでしょうか? アルベルトさんならクラードさんの事、分かるんじゃないんですか? 半年も一緒に居たんですから」

 

「いや、オレは……。あいつの事、まだ何一つ分かっていなかったみたいなもんですし……。それに、相手の服装がどうだとか、あいつは気にするような性質じゃありませんよ。どんな格好でも、相手に対しては同じスタンスのはずです」

 

「じゃあ、シンジョウさん! 思い切って水着でも選んでみません?」

 

 急に飛躍したラジアルの言動にアルベルトは当惑の目線を振り向けてしまう。彼女はウインクして笑っていた。

 

「アルベルトさんも、むさくるしい男ばっかりなんで、水着の女性くらい見たいですよね?」

 

「いや、あんた何言って……!」

 

「……そう、ですかね? リクルートスーツ姿のままなくらいなら、水着でもいいのかも……」

 

 何故なのだか、当のカトリナは真面目に悩んでいる。

 

「いや、悩むのおかしいでしょ! あんた、普通にしていりゃ別におかしなところなんて……」

 

 思わずツッコんだ自分相手に、カトリナはぷっと吹き出していた。

 

 ラジアルも口元を押さえて控えめに笑う。

 

「アルベルトさん、おっかしー! 水着なんて選ぶわけないじゃないですか」

 

「いや、そのぉー……私もラジアルさんのノリに悪乗りしちゃいました。何だかアルベルトさん、思ったよりも乙女な反応してくれるので……」

 

 二人分の笑い声を引き受けながら、アルベルトは憮然とする。

 

「……お、怒りますよ、オレだって」

 

「あっ、ごめんなさい……。でも、男の子をからかうのって、何だか面白いですね」

 

「でしょー? 言ったじゃないですか。アルベルトさんは意外に乙女で繊細なんだって」

 

 示し合せての言動だったのが余計に性質の悪い。

 

 アルベルトは運ばれてきたA定食のチキンを頬張りながら、舌打ちを漏らす。

 

「これだから……女ってのは……」

 

「ああ、怒らないでくださいよ。私達、こうしてアルベルトさんと対等に話せるの、何気にすごいと思ってるんですから」

 

「ええ、それは私も思います。……だって最初に通信繋いだ時、すごい剣幕で怒鳴られちゃいましたから」

 

「あっ、その時はその……オレも余裕なくって……」

 

 そう言えば謝る機会を見逃してばかりだ。

 

 ここで一旦、それまでの無礼を謝っておこうと佇まいを正しかけて、ラジアルが制する。

 

「いいんですよ。ああなったら誰だって余裕なんてないんですし。それにアルベルトさんが謝ったって、あの状況はどうしようもなかった。違いますか?」

 

「いや、違わないですけれど……それでも失礼な物言いだったなって……スンマセン……カトリナさん」

 

 頭を下げた自分にカトリナは戸惑って返答する。

 

「い、いいんですってば、アルベルトさん! ……私も最初の仕事でワケ分かんなかったですし……ラジアルさんの言う通りに、あの状況で落ち着けって言うほうが無理な話ですから」

 

「いや、それでも礼節を欠いていました。オレ、頭に血が回っちゃうと、周りが見えなくなっちゃうんで……」

 

「それだけ、クラードさんの事、大事に思ってくださっていたんですね。委任担当官として、何だか誇らしいです。こんな理解者が近くに居たから、クラードさん、デザイアを大事にしていられたんだと思うんですよ。だってそうじゃなくっちゃ、エージェントの身でそこまで真剣になれないはずですし」

 

「ある意味じゃ、アルベルトさん、クラードさんを引き留めたんじゃないですか? そっちに行っちゃわないでくれって」

 

「オレが、クラードを引き留めた……?」

 

 明確な感覚の伴わない言葉に戸惑っていると、カトリナの端末が鳴り響く。

 

「あ、はい。えっ、サルトルさんのところにピアーナさんが? ……すいません、ゆっくりランチの時間を取りたかったんですけれど、急用みたいで。行ってきますねっ!」

 

 微笑んでうどんをすすり上げてふんふんと鼻歌交じりに去っていくカトリナの背中を眺めていると、ラジアルがぽつりとこぼす。

 

「……そんなに好きならとっとと告っちゃえばいいのに」

 

「こ、告……ッ……!」

 

「いーんですよ、別に。私の口から本人に言ったって」

 

「いや、それはズルいでしょ、ラジアルさん!」

 

「何にもズルくないと思うんですけれどねー。アルベルトさん、このままじゃシンジョウさんを一生遠くで眺めていて終わりそうですけれど」

 

「お、オレは、そんなつもりなんて……」

 

「じゃあどういうつもりなんです? シンジョウさん、クラードさんに取られちゃいますよ?」

 

「と、取るだとか取られるだとか、そんなのあいつには関係ないでしょうに」

 

「そう思っているんだとすれば相当おめでたいですけれど。ま、他人の恋路なんで私は別にどっちでもいいんですけれどねー」

 

 ラジアルの言動には振り回されっ放しだ。

 

 ある意味ではラジアルの思惑通りに進んでいるのだろう。それはそれで癪で、アルベルトはささやかな抗弁を発する。

 

「お、オレは別に、カトリナさんのどうこうだとか思っているわけじゃないっすよ……」

 

「本当に? じゃあどうだって言うんです? あんなに誰が見ても分かりやすく見惚れちゃって、説得力なんて欠片もないんですけれど」

 

「……見惚れちゃっていますか」

 

「ええ、存分に。何なら傍から見るとちょっと異常なほどに」

 

 ラジアルの評は嘘ではないのだろう。アルベルトは静かに肩を落とし、首回りを撫でる。

 

「参ったな……。オレ、自分でも分かりやすい性質だとは思わなかったのに」

 

「あら? もうカトリナさんの事、何とも思っていないとか言うのは否定しないんですね」

 

「……言ったってあんたを楽しませるだけでしょう」

 

「分かっているじゃないですか」

 

 付いて来た野菜ジュースを飲み干しつつ、ラジアルはそれでいて雅な動きを絶やさない。見ていても気持ちのいい動きとはこの事を言うのだろう。

 

 一つ一つがまるで何かのコマーシャルのように美麗で芝居がかっている。

 

「……ラジアルさんってずっとそうなんですか。どの仕草もその……女っぽいって言うか……」

 

「ずーっとCM女優もしていますし、自然とこうなっちゃったんですよ。何せ幼少期から女優業ですからね」

 

「ああ、そういや見た事あるな、ラジアルさんのCM……」

 

「アルベルトさん、そんな事言っている間に、シンジョウさん、本当に手の届かないところに行っちゃいますよ? 後悔のないように動くのが一番だと思うんですけれどねー」

 

「……後悔がない、か。何だかオレには、とんと縁遠いものに思えてきちまって……」

 

「何なら次の補給コロニーの入港時にシンジョウさんとデートでも行けばいいんじゃないんですか?」

 

「で、デートって……ガラじゃないし示しも付かないっすよ……」

 

「今さら宇宙暴走族のガラってのも通用しないような気はするんですけれどね。まぁでも、次の補給地には三日間くらいは居る予定ですので、何ならお茶の約束でも取り付ければいいんじゃないですか? シンジョウさんも働き詰めで疲れているから、多分オーケーしますよ?」

 

「……そんなもん、浮ついた事はシュミじゃねぇっすよ」

 

「うわっ、出た……アルベルトさんの言う、趣味じゃないって言うの。よくないと思いますけれどねー。趣味だとか趣味じゃないとかでタイミングを見失うの」

 

「……本当に、シュミじゃねぇんですが……それでも、後悔のないように、か」

 

 

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