機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第43話「暗礁の因果」

「――あのですねぇ、技術顧問。我々、まさかの荷物持ちですか?」

 

 部下達の声を聞いたサルトルは、仕方あるまい、と帽子を被り直す。

 

「我らがボス直々のお達しだ」

 

 サルトルの視線の先には、コロニーでの買い物を楽しむオペレーター達とレミアの姿があった。

 

「やるせないですよ。我々に休暇はなしですか?」

 

「そう言うなって。随分とベアトリーチェ出港まで待ったクチだろう? 今さら一日や二日の休暇だ。文句を垂れるもんでもない」

 

 レミア達は私服に着替えており、どこからどう見てもOLのようにしか映らないであろう。

 

 彼女らをしかし、警護するのは自分達の役目だ。

 

 もしもの時に強襲でもされれば危うい立場の者達である。

 

「……身辺警護くらい、エンデュランス・フラクタルが渡りをつけてくれるかと思ったんですがね」

 

「我が社はあれで忙しい。それに、そろそろ来訪者が来る頃合いだろう」

 

「地球で商売していたって言う、営業部門の……」

 

「彼が来て補給物資を預けてくれれば、少しはやりやすくなる。今は、単純に休暇を楽しもうじゃないか」

 

「……です、ね。それにしたって、ここは平和で……何だか見劣りしちゃうほどで」

 

「コロニー、シュルツは統合機構軍のお膝元だ。ここで仕掛ける奴が居るとすれば、それは自分達の保身も何もかもを投げ打った馬鹿くらいなもんさ」

 

「その馬鹿との戦闘を思案に上げて、ですか。クラードは」

 

 今も《レヴォル》と共に在るのであろう、クラードの身の上を慮った整備班にサルトルはなに、と眼鏡のブリッジを上げる。

 

「あれで何かと聡い奴だ。このコロニーで平和に受け渡しだけが済むとは思っていないんだろうな。ポートホームを介したくないのは、下手に相手に出方を見られたくないのもある。キャッシュが残れば厄介だ」

 

「何か起こるとでも?」

 

「……起こらないのがもちろん、第一だが、あいつの直感は当たる。さすがは特級のエージェント。勘だけは外した事がない」

 

「……来るとすれば、トライアウト……軍警察でしょうか」

 

「分からん。もしかすると、前回仕掛けてきた超長距離狙撃砲の奴かもしれんからな」

 

「……第三勢力なんて、旨味がないでしょうに」

 

「旨味云々で動いてくれるんなら、まだ読みやすい。問題なのはそういうのは度外視にして、こっちへと仕掛けて来るような連中だ。そういう奴らは一時の感情で殴りつけてくる。ある意味、暴力の矛先がしっかりしていないような奴らこそ、おれ達は警戒すべきなんだろうよ」

 

「暴力の矛先ですか……。ですが、技術顧問。あれはたった一機でしたよ?」

 

「たった一機で喧嘩を売って来たのなんてこれまでだっていくらでも居ただろう。……呼び寄せちまうのかもしれないな。クラードと《レヴォル》は」

 

 ――と、そこで視界の隅に入ったのはトキサダを始めとする凱空龍の面々である。

 

「お前ら! ここじゃさすがに凄むんじゃねぇぞ! ここはコロニー、シュルツ! おれ達の庭だったデザイアとはわけが違うんだからな!」

 

「……トキサダもなかなかに兄貴面が似合ってきましたね」

 

「まぁなぁ……。あいつ、結構メカニックとか合っているんじゃないのか? 《マギア》の整備の手腕、買ってないわけじゃないからな」

 

「他のスタッフはあまりいい顔をしていませんが、現場に出てくれる分だけマシですからね」

 

「前線にも張ってくれている。そういう点じゃ、評価したっていい。ただ問題があるとすれば……おい、お前ら。アルベルトはどこに行った?」

 

「ヘッド? いやぁ、見てないな。こっちに着いてからは自由行動だって言うんで、わざわざ連絡も取り合ったりはしないし……」

 

「そういや、ラジアルさんも居ませんね。期待の新人も」

 

 レミアと女性スタッフ達がウィンドウショッピングに明け暮れている中で、別の動きをする三人にサルトルは僅かながら気色ばむ。

 

「……嫌な予感がする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……クラードさん。もういい加減に外に行きましょうよ。今のところ、ベアトリーチェは警戒網が張り巡らされているんですから。いつまでも《レヴォル》と話していないで」

 

 カトリナの声を聞きつつ、クラードは《レヴォル》に感想を求める。

 

『“前回観測した超長距離狙撃砲の主は不明のまま。データにも乏しい”』

 

「……やはり、こっちの持ち得るデータだけで追うのは不可能に近いか」

 

『“追加データがあれば違うのだがな。今のところ何か特徴めいたものも発見出来ない”』

 

「クセ……みたいなのってトレース出来ないか? これまでの戦闘結果から」

 

『“請け負うが、うまくいくとも思えないぞ”』

 

「頼む。俺には見た感じのデータしか見えないが、お前ならばその先が視えるはずだ」

 

『“機械を過信し過ぎないほうがいい。所詮は過去の膨大なメタデータとの照合だ。時間もかかる上に、空振りに終わる事も考えられる”』

 

「……それでも実行してくれ。敵の正体を知りたい」

 

「もうっ……クラードさんっ! みんな出て行っちゃったんですよ?」

 

 タラップを駆け上がってわざわざこちらへと視線を据えるカトリナに、クラードは《レヴォル》の神経系統を弄りながら応じる。

 

「まだ居たの? もう行けば。みんな行ったんだろ?」

 

「ええ! ここに居たメカニックの方々も! ……残ってこんな酔狂な事をやっているのは、クラードさんくらいなものですよ」

 

「じゃああんたも行けばいい。俺は一言もあんたに居て欲しいなんて言っていない」

 

「それってぇ……私の職務としては辛いんですよぅ……」

 

「あんたの職務がどうなったって知ったこっちゃない。俺は《レヴォル》に照合を急がせないと、次の戦闘の時に遅れが生じる」

 

「……そんなに切り詰めないんでいいんじゃ? 艦長だって降りたんですよ?」

 

「だからだろうに。レミアが降りたって事は、ベアトリーチェの守りは俺達に委ねられている。レミアが帰ってくるまではここを死守するのが俺の役割だ」

 

 視線を上げずに応じていると、カトリナはむすっとして頬をむくれさせて呻いている。

 

「……また小動物のモノマネ? やって楽しい? それ」

 

「クラードさんには嗜みってのがないんですか?」

 

「そんなものは端から捨てている。第一、あんたここに居たっていい事なんてないって分かっているんなら降りればいいんだろうに。今は誰も文句は言わない。休暇だろ?」

 

「……それはクラードさんもですっ! 私が休みなら、クラードさんも休みっ!」

 

「……暴論だな、それ。あんたはモビルスーツには乗らないから分からないだろうけれど、ここに来たって敵がないとも言い切れないんだ」

 

「か……海賊は倒したじゃないですかぁ……」

 

「海賊はね。だがその後に出てきたって言う、狙撃機が不穏過ぎる。俺はちょうど帰投していたから会敵しなかったけれど、あの状況で仕掛けて来たんだ。奴には確証があった。俺と《レヴォル》が出ないと言う確証が……」

 

「そんなのって、分かるものなんですか?」

 

「分からなくっちゃライドマトリクサーなんてやってらんないよ。……それに、何よりもタイミングがよ過ぎる。あんな好機を窺っておいて、それで急速撤退……勘繰られちゃ、まずいものでもあったとしか思えない」

 

「勘繰られちゃまずいもの……それって《レヴォル》の?」

 

「だから、分かんないんだってば。直に会えばまだ何かが伝わった可能性もあるけれど、相手は仕掛けるだけ仕掛けて、それで事情が悪くなったから撤退したんだろ。そこにどんなものがあったのか……まるで分からないままだ」

 

「……それって、クラードさんがどれだけ考えたって仕方ないって意味なんじゃ……」

 

「そうだ。仕方ないと言えばそう。だが《レヴォル》と俺には過去の膨大なデータベースへのアクセス権限がある。そいつで調べてみれば、もしかしたら昔に出会っていたかもしれない。そうなってくると、こっちの手が割れている可能性もある。もしもに備えるのが俺の仕事だ」

 

「……でも、せっかくの休暇なのにぃ……」

 

 遂にはカトリナはコックピットの脇に座り込んでしまった。

 

「……あのさ、邪魔してるって分かんないのかな」

 

「邪魔じゃないですよ。業務外なら、これも仕事の外ですし」

 

「……嫌な詭弁だよ、それ。さっきまで俺の面倒を見るのが仕事だとか言っていたくせに」

 

「それは……! ……クラードさんがあまりにも横暴だからで……」

 

「で? あんたはせっかくの休暇を棒に振るのか? レミアだってそうだし、バーミットとかファムだって外を楽しんでいる。あんたも行くべきだろう」

 

「……嫌です。クラードさんが動かないんなら私も動きません」

 

「下手なところ強情だな、あんた。俺に付き合ったって、死の臭いが濃くなるだけだ。やめておくのなら今のうちだと思うけれど」

 

「……それって、エージェントとしての言葉ですか?」

 

「俺の事を知ったっていい事なんて一個もない。……みんなそうだ。このベアトリーチェの連中は、俺の事まで抱き込んで不幸になっている。幸福は分配されないのに、不幸だけは等価なままで分配され、そしてネズミ算式に不幸は伝染する。それがこの世の真理だ」

 

「違いますっ! ――痛っぅ……」

 

 急に立ち上がったせいだろう、カトリナはものの見事にコックピットハッチに額をぶつけていた。

 

「……何やってんの」

 

「ち、違うったら違うんです! その理論は……!」

 

 よろめきながらも反論してくるので、クラードは視線を合わせずに淡々と応じていた。

 

「違わない。不幸だけがこの世の中で絶対だ。みんなが手を取り合える都合のいいハッピーエンドなんてない」

 

「それはっ……! そのままの理論じゃ……クラードさんがあまりにも、報われないじゃないですか……っ!」

 

「そうだよ。俺は報われようなんて思っちゃいない。元々、幸福の数は決まっていて、その定数に達すると自動で不幸のほうがばら撒かれる。そういう理なんだ、この世界ってのは」

 

「だからっ! それが違うって言っているんですっ! 誰だって、幸福になる権利はある! 私は絶対に、幸せになるんですからっ!」

 

「……バーミットの言っていた幸せ女がどうのこうのってこの事か。あんたの幸せ論がどうだろうが知ったこっちゃないが、俺に押し付けるな。俺とあんたの幸福の形は違う」

 

「違いませんっ! どこかに誰だって報われる、そういうハッピーエンドがあるって思えるから! 私はこの会社に入ったんですから!」

 

「ならなおの事だな。エンデュランス・フラクタルに居る以上、あんたはこれよりも先の幸せなんて見られない。大体、幸福に成れる定数はもうとっくの昔に埋まっている。そんな誰かの席があるところに無理やり席を作ろうとして、それで何になるのさ。そこに何があるって言うんだ」

 

「あ、あるのにはあるんですっ! クラードさんにはまだ見えていないだけで、それはきっと……っ!」

 

「じゃあ、教えてくれよ。この不幸でクソッタレな世界のどこを見渡せば、そんな幸せとかは落ちているんだ? そいつが誰かの手にあったのなら、デザイアで人は死なずに済んだんじゃないか。いや、デザイアだけじゃない。俺がこれまで戦ってきた戦場で死んだ奴らは、じゃあその幸せの定理からは外れた、それこそ除け者だって言いたいんだろ?」

 

「……そんな事……!」

 

 カトリナの目を見返す。

 

 大きく見開かれた瞳から、涙の粒が伝い落ちていた。

 

「違わないはずだ。あんたの定理ならな。俺だけじゃない、死んだ奴らには最初からその資格なんてなかったって、あんたは言っている。俺の論理よりよっぽど残酷だ。不幸の中で幸運を拾うんならまだいい。だがあんたの言っている事は、幸福の中で不幸を拾っちまうって言う、この世の悪の側面を強調しているだけじゃないか。あんたの言っているの、正しいように、耳馴染みだけはいいように聞こえるけれど、でもその理論じゃ……人は救えないよ」

 

 立ち上がったクラードは硬直したままのカトリナの脇を通り抜けていく。

 

 ――そうだとも。人を救うのはいつだって、理論めいた代物じゃない。

 

 人を殺すのもまた、理論では割り切れない損耗だ。

 

 そこにいちいち心だの、幸せだのを割り振っていれば人間は駄目になっていく。

 

 摩耗した人間一人一人に、いちいち気を配っていれば、今度は自分の番だ。

 

 そうやって人は死んで行くし、殺される側になった時に相手の幸福まで考えていれば刃が鈍るだけ。

 

 それが分かっているからこそ、摩耗を減らし、損耗を最小限度にして戦う。

 

 いつだってそれが正しかった。それこそが、エンデュランス・フラクタルのエージェントとしての――。

 

「でも……っ、でもクラードさん! そうじゃない時も……きっとあったんじゃないんですか!」

 

「……そうじゃない時? 何の事を言っている」

 

「だって、アルベルトさん達を助けたのだって、それは確率論だとか、経験則だとかじゃないはずですっ! あなたの心が! 彼らの不幸を望まない気持ちが! そう言っていたんじゃないんですか! 叫んでいたんじゃないんですか……っ!」

 

 カトリナは涙目になりながらも、それだけは言わなければいけないとでも言うように主張する。

 

 視線を振り向け、僅かに睨んだが相手の臆した様子はない。

 

「……あんたさ、死にたいのか」

 

「……私、クラードさんを、あなたを恐れませんっ! それはあなたにとっての侮辱になるから!」

 

「……これでも、かよ」

 

 白衣の懐より拳銃を向ける。

 

 じっと見据えた銃口の先で、カトリナは奥歯を噛み締めて堪えていた。

 

 きっと逃げ出したいのだろう、ここから消えたいに違いない。

 

 それなのに、カトリナは逃げない。

 

 ピアーナを庇った時と同じだ。

 

 彼女に、逃げると言う選択肢はない。

 

「……気に入らないな、そういうの。つまんない以前に、何でそこまでしてやれる。だって、他人だぞ」

 

「他人だから何だって言うんですかっ! クラードさんはアルベルトさん達を他人だと思えないから、デザイアで救ったんじゃないんですか! そうじゃなかったら、見捨てていたはず……!」

 

「俺にエンデュランス・フラクタルのエージェント以上の価値を見出そうとするな。俺は頼まれれば誰でも殺すし、何でも葬る。それがエージェントとしての掟だ」

 

「そ、それでもきっと……っ、クラードさんは……! 私の知っているクラードさんなら……っ!」

 

「何を知ってるの、俺の。……あんたもアルベルトも、皆、勝手だよ。俺の何を知っている? 俺の事を何だと思っている? ……これでも、か?」

 

 片腕を翳し、その形状をばらけさせる。

 

 赤く明滅する生態コネクターはそれだけで嫌悪感を催させるのには充分であったはずだが、カトリナはぐっと耐えていた。

 

「……に、逃げません! 私はあなたから、絶対に逃げない……っ!」

 

「馬鹿だな、逃げたほうがいい戦局だってあるんだ。世の中にはたくさん……だってのに、逃げないを選ぶ? それは端から馬鹿だって言っているんだよ」

 

 暫し睨み合いが続いたが、これ以上の有益性がないと感じて、拳銃を降ろそうとしたその瞬間だった。

 

『コミュニケートモード解除。レヴォル・インターセプト・リーディング解放。全制御系統を《レヴォル》に委譲していきます』

 

「……《レヴォル》?」

 

 顔を上げたクラードは《レヴォル》が四肢拘束具を引き千切り、そのままカタパルトデッキへと歩んでいくのを目の当たりにしていた。

 

「……何をやっている……」

 

「クラードさん? 私を脅かそうとして、こんな事したって……」

 

「違う。これは……どうなっている、レヴォルの意志が、暴走しているのか……?」

 

『四肢制御系統へと伝達。コアファイターモードへの移行を行います』

 

「何を言っている……。戻れ! 《レヴォル》!」

 

 しかしこちらの命令系統を受け入れず、《レヴォル》はコアファイター形態へと可変し、そのままカタパルトデッキから強制射出を行おうとする。

 

「クラードさん! 何が起こって……!」

 

「分からない……。だが、あり得ないんだ。俺以外の人間にレヴォルインターセプトが反応するのは……。だからこれは暴走のはず。サルトルは……くそっ! こんな時に居ないのか……!」

 

 悔恨を噛み締めつつ、クラードは赤く明滅するモールド痕を突き上げて《レヴォル》に命じる。

 

「《レヴォル》! 俺に従え!」

 

『専任ユーザーの命令を確認。――認証不可。これよりレヴォルインターセプトは新規ユーザーのガイドに従います』

 

「新規ユーザーだと……」

 

 全くの寝耳に水の事実に戸惑っている間にも、《レヴォル》の加速シークエンスが入っていく。

 

「……まずい! 急加速してベアトリーチェの発艦デッキをぶち破る気だ。あんた! 伏せろ!」

 

 その言葉が消えるか消えないかの刹那、クラードは咄嗟にカトリナへと覆い被さり、彼女の視界を保護していた。

 

 白衣を被せて衝撃波を減殺させてから、クラードはスモークとオゾン臭気に塗れた格納デッキでスプリンクラーが回り始めるのを感知する。

 

 そこいらで虹を作り出す水流を見やり、舌打ちを滲ませる。

 

「……なんて事だ……こんなの、あっちゃいけないってのに……!」

 

「く、クラードさん……重いし見えないし……何が起こってるんですか……?」

 

「レヴォルの意志――レヴォル・インターセプト・リーディングの暴走。その赴く先は、何者かの外部ハッキング」

 

「は、ハッキングって……げほげほ……煙い……」

 

 咳き込むカトリナを無視して、クラードはビームライフルで打ち破られたカタパルトの残骸を目にする。

 

「……だが《レヴォル》ほどの機密にそう易々とハッキング出来ると思えない……。まさか、あのピアーナとか言うの、また余計な事を――!」

 

「残念ながら、わたくしのせいではないわよ」

 

 ひょっこりと格納デッキに顔を出したピアーナにクラードは殺意を向けていた。

 

「俺の《レヴォル》に何かをしたな?」

 

「いいえ。何も。わたくしの仕事は次の補給が来るまでにベアトリーチェの電子装備を整える事だけ。ただその過程で……外部の入力を受け入れやすくはなったのかもしれない」

 

 クラードは銃口をピアーナに向ける。迷いのない殺気で射竦めようとすると、彼女は肩を竦めていた。

 

「……ちょっとパニックになったからって毎回銃を向けられるのは、穏やかじゃないですね」

 

「答えろ……! 《レヴォル》に何をした!」

 

「だから、何もって……。第一、貴方が一番に分かっているのでは? 《レヴォル》に、あのMSに介入する手段はほとんどない事を。だとすれば、帰結する先は一つ。レヴォルの意志と呼ばれる仮想インターフェイスに何者かがハッキング、その上権限を奪った」

 

「それこそあり得ない。俺以外の入力を受け付けないはずだ」

 

「だとすれば、その前提条件が間違っているのか、あるいは貴方と同等の権限持ちが現れたか」

 

「俺と同等の権限……」

 

 そこまで考えを及ばせてから、いずれにしたところで、と待機準備中であった《エクエスガンナー》へと乗り込む。

 

「……俺は《レヴォル》を追う。そっちは俺に介入するな。迷惑だ」

 

《エクエスガンナー》のスターターをかけさせてから、ユーザー認証に入る。

 

 クラードはライドマトリクサーの権限でそれらを上書きし、操縦桿を握り締めた瞬間には、モールド痕に赤い光が明滅して自身へと権限を委譲する。

 

「このまま、《レヴォル》を追跡する。何者かが《レヴォル》を奪おうとするのなら、どっちにしたってかち合うはずだ。なら、俺はそいつを始末して《レヴォル》を奪還する」

 

「ま……待ってください! 私も連れて行ってくださいっ!」

 

「……迷惑かけるなって言ったよね? 何でそれが聞けないの」

 

「な、なら余計にですっ! 私は委任担当官ですし……クラードさんの身勝手な行動を許さない権利がありますっ!」

 

「悔しいでしょうけれどその通りよ、貴方。委任担当官の意向には沿わなければいけない」

 

 どうしてなのだかカトリナ側の味方についたピアーナに、クラードは舌打ちしてマニピュレーターを伸ばす。

 

「……乗れ。ただし、安全運転じゃないぞ。《エクエスガンナー》のリミッターを外して飛ばす。……こいつは制御系統に無駄が多いな。シークエンス七からシークエンス十五までをクリア! 《エクエスガンナー》、ベアトリーチェ甲板より発進する!」

 

「ちょっ、クラードさん! そんな乱暴な……」

 

「乱暴でもやるしかない。……俺から《レヴォル》を、奪わせない……!」

 

 カトリナがようやくコックピットに入ってから甲板部へと上昇し、クラードは《レヴォル》のシグナルを追跡させる。

 

「……コロニー、シュルツの郊外に向かっている? ……何があるって言うんだ……」

 

「あの……これってハイデガー少尉の《エクエス》ですから、勝手に乗ったら怒られちゃうんじゃ……?」

 

「そんなの、後からどれだけでも恨み言は聞く。今は、《レヴォル》の身柄を最優先。追跡任務に入る。エージェント、クラード。《エクエスガンナー》、先行する」

 

《エクエス》系統独特の重さを味わいつつ、クラードは《レヴォル》のシグナルだけを追って、そのまま推進剤を焚かせていた。

 

 

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