機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第45話「戦場の邂逅」

「散開挙動! 《マギア》だからミラーヘッド戦なんじゃないんですか?」

 

 自分の傍で喚くカトリナを相手にしている暇はなく、クラードは二機がそれぞれ機動したのを視認してから、《エクエスガンナー》を飛翔させる。

 

「……挟み撃ちだ。二機で俺達を墜とすつもりでいる」

 

「それってー……まずいですよね?」

 

「ああ。大マジにまずい!」

 

 叫んでから、クラードは後退挙動を取らせつつ、片側の《マギア》へと照準を合わせようとして普段との規格の差に呻く。

 

「……駄目だ。《エクエス》じゃ全てが遅い」

 

 分が悪いと判断してさらに上方へと逃れたが、そこは先に張っていたもう一機の《マギア》の射程だ。

 

 引き抜かれたビームサーベルの残光に、クラードは咄嗟の格闘兵装であるトンファーを稼働させる。

 

《エクエスガンナー》の有するヒートトンファーが熱を帯び、《マギア》のビームサーベルと干渉波を押し広げていた。

 

 悲鳴を上げて蹲るカトリナを他所に、クラードは敵を直視する。

 

『邪魔立ては! ……ためにはならんぞ、賊め』

 

「……その声さ、あんた。アルベルトによく似ているけれどまるで反対だね。あいつはこんなところで闇雲に被害を出すような馬鹿じゃなかった」

 

『分かった風な口を!』

 

 そのまま大上段から打ち下ろす一撃にクラードの《エクエスガンナー》が大きく後退する。

 

「何で! あのまま切り結べば……!」

 

「出来ない事を言うな。《エクエス》の……こいつのパワーじゃ軍警察の《マギア》には負ける……」

 

「でも、ミラーヘッドをして来ないんなら……」

 

「あいつは大局を見ている。今は避難民と、それに伴って発生したパニックが大きい。今、ミラーヘッドなんてしたら市民に顔向けは出来ないはずだ。あんただって知っているだろう。ミラーヘッドの第四種殲滅戦じゃ、死者は数えられないんだよ」

 

「じゃ、じゃああの機体は……! ミラーヘッドが出来るのに様子見しているって事ですか?」

 

「……大きく穿てばそうなるな。余裕とかじゃない。情勢を見ているんだ。あいつ、下手なやり手のパイロットよりも面倒くさい。……俺達が下策を打つのを待っている。だから、今は戦火を広げないように、上を目指して戦うしかない」

 

「で、でもそれって……ジリ貧って事じゃ……」

 

「言い方次第かな。今は、とにかく《レヴォル》を追いたい。だってのに立ち塞がるんじゃ……俺はこいつらを薙ぎ倒すしかなくなってくる。単純に選択肢の問題だ。《マギア》二機を倒すのは何も難しくはない。だが、それは俺達の……ベアトリーチェの航路に差し支える。無用な人死にの上にベアトリーチェは月航路を目指すわけにはいかない。だからここでは相手の攻勢に耐える」

 

「もし……耐えられなかったら……?」

 

「――死ぬだけだ」

 

 ヒートトンファーを片手に翳したまま、《エクエスガンナー》は肩より担いだ長距離砲を相手へと照準している。

 

 無論、牽制だ。

 

 本当に当てようとは思っていない。

 

 先ほどのように隙だらけならばいざ知らず、今の二機はこちらの脅威を思い知っている。ならば奇襲は通用しないだろう。

 

「……ある意味じゃ、我慢比べだな。そっちとこっち……どっちが痺れを切らすか……」

 

 コロニー内での戦闘は基本御法度。

 

 だが、《レヴォル》のシグナルは一度この映画館跡地で留まっていた形跡がある。

 

 ならば相手には攻撃に移る大義名分は存在する。

 

「……撃って来るのなら、とっとと撃てよ。ならやりやすい」

 

 だが、理解しているのだ。

 

 いや、頭が醒めて来たと言うべきか。

 

 相手は下手に撃ってこない。

 

 それは自分達にとっての不利益になる事を既に学習済みだ。

 

「耐久戦になると、面倒だ。こっちとしてはこいつらに背を向けて《レヴォル》を追いたい」

 

「追えばいいんじゃ……」

 

「馬鹿なのか? そんな機動性は《エクエスガンナー》にはない。相性が最悪なんだ。《マギア》二機相手に、ミラーヘッド機じゃないこいつじゃ。ミラーヘッドが使えるとしても、一旦は飛ばないと話にならない。そして《エクエス》は重過ぎる上に被害を広げる可能性が高い。こんな状態でまともに戦えるわけがない」

 

「えと……つまり?」

 

「……物分りが悪い脳に教えてやる。最悪のシチュエーションだって事だ」

 

 しかし、ここで撤退機動を取れば、敵にベアトリーチェの位置情報を教える事になってしまうだろう。

 

 隠れ潜めるような背の高い建築物も皆無。

 

 その上、今しがた敵が粉砕した映画館跡地からは、今も悲鳴と怨嗟が漏れ聞こえてくる。

 

「……い、いやっ……こんな悲鳴……」

 

「嫌でも聞くしかないだろうさ。ここで居続ける限りはな」

 

 操縦桿を握り締めたまま、クラードは明滅する施術痕を忌々しげに睨む。

 

「……《レヴォル》と同じ規格なら、今頃は圧倒出来ているのに。武装だって少ない上に、決定打になるものは一個もない。こんなのじゃ勝てない」

 

「そ、それって……相当にヤバいって事なんじゃ……」

 

「今さらだろうに。何言ってるのさ」

 

『そこの《エクエス》のパイロットに告ぐ。投降するのならば、今ならば許そう』

 

「このタイミングでよく言うよ……。断る、と言ったら?」

 

『……死んでもらう。テロリスト風情が……!』

 

 真正面から照準した《マギア》の光芒を《エクエスガンナー》は機体に備えたローラーを駆使して半身になって回避する。

 

「ようやく……こっちの好機か……!」

 

「えっ、どういう……」

 

「我慢比べって言っただろう? それはこの一撃を待っていた……!」

 

 痺れを切らしたのは向こうのほうだ。

 

 ――今ならば獲れる、そう確信した神経が敵機に向けて長距離砲を一射し様に、ローラーダッシュで砂礫を巻き上がらせながら相手へと肉薄する。

 

《マギア》ならば、この後の行動は一つだけのはず。

 

 その目論み通り、相手は飛翔して数発の牽制弾をこちらへと掃射する。しかし、どれもこれも当てずっぽうなのは既に予見通りだ。

 

 相手は命中させる事を念頭に置いたわけではない。

 

 ただここでの足止めと、そして自分達への殺意を募らせ、結果論として攻勢に移っただけ――それ即ち、ただの機銃掃射なだけだ。

 

 落ち着いて対処すれば命中するわけではない。

 

 クラードはそのまま機体を旋回させて砂塵を巻き上がらせ、《マギア》の精密機器の塊であるスラスターシステムを阻害する。

 

「……あれだけ長い間《マギア》を使ってきたんだ、機体特性は分かっている。《マギア》のスラスターノズルはほとんど精密機械のそれ。なら、こんな火災現場の砂礫なんて一番に吸い込むとヤバい」

 

 その思索通り、直上を取ったはずの《マギア》は急速に硬直する。

 

《マギア》の推進システム上の欠陥だ。

 

 吸引型の《マギア》のスラスターは、大出力とそれに伴っての高速のミラーヘッドを可能にするが、同時に市街地での戦闘には向いていない。

 

 思わぬ阻害を引き起こしかねないシチュエーションに身を置いた時点で、相手の失策だ。

 

 クラードの《エクエスガンナー》は長距離砲を一射する。

 

 敵《マギア》の脚部が折れ曲がり、溶断してそのままパージされる。

 

「やった! これでこのまま押し切れば――!」

 

「よし、逃げるぞ」

 

「ふへっ……? 何でですか、クラードさん! このままなら勝てるんじゃ……!」

 

「本当に愚図なんだな、あんた。相手もプロだ。これで正気になる。目が醒めた相手に対してこれ以上の追撃は旨味がない。だからここは出来るだけ距離を……!」

 

 だが想定していたよりも醒めるのが早い。敵の《マギア》はこちらへと狙い澄ました光芒を放ち、機動力で落ちる《エクエスガンナー》は一手遅れた形となる。

 

 ビームライフルの光条が《エクエスガンナー》の肩口に担いだ武装に引火して、クラードはそれを分離させる。

 

 銃身の折れ曲がった長距離砲は、最早無用の長物だ。

 

 しかし長距離砲を外したからと言って軽くなるわけでもない。

 

 元々、ミラーヘッドを想定していない《エクエスガンナー》の装備ではどうあっても勝てないだろう。

 

《マギア》二機に挟まれた状態には変わらない。

 

 その上、戦局は先ほどまでよりも悪くなっている。

 

「……熱源関知。まだ援軍が居たのか……!」

 

「どどど……どうするんですかっ! このままじゃ、負けちゃう……」

 

「喚くな、騒ぐな、静かにしてくれ。これ以上の失態を重ねないように、今策を巡らせているところだ。……だが、ちょっとキツイな。砲撃装備を失った《エクエスガンナー》じゃ、持っているのはせいぜいヒートトンファーくらいなものだ。こんなもの、何の役にも立たない」

 

 せいぜい、敵の眼前で弾けさせての目晦まし程度。

 

 ビームサーベルを有する敵に対しては、トンファー装備では不利に働くのみ。

 

「……上から来るのは……あれは、《エクエス》じゃ、ない……?」

 

「新型機か。まさかここで実戦投入してくるなんてな」

 

「お、落ち着いている場合ですか……っ! このままじゃ、私達……っ!」

 

「ああ、死ぬな」

 

 絶句したカトリナへと視線を流し、クラードは言葉にする。

 

「そんなに驚く? 今の状況を整理したら、自然と予測はつくでしょ」

 

「いや、でも……」

 

「ベアトリーチェまで帰投するだけの推進剤の容量もない。武装もないんじゃ、《マギア》相手だって勝てない。俺のライドマトリクサーとしての機能を最大限まで使えたんなら、まだ勝ちの目があったんだが、不可能だ。《エクエス》じゃ、その最新鋭の機体には遠く及ばない」

 

「……冷静に言っている場合じゃないですよ、クラードさん。あの機体、こちらに照準を……」

 

「ああ。上に行ってもどこに行っても、これじゃあ負け筋だ」

 

 しかし、とクラードは思案する。

 

 ――本当にここまでなのか?

 

 レヴォルの意志が何者かに触れ、そして反応したと言うのならば、死地の中にも何かを見出せるはずだ。

 

 そしてその死地とは――まだここではない、どこかのはず。

 

「……俺は知っている。まだここでは死なない、いや、死ねない。だから応えろ……! 俺の中の叛逆の心よ。《レヴォル》は俺をまだ、見限っていないはずなんだ……」

 

 敵機の反応が直上より注がれる。

 

 機体照合、《レグルス》と出た《エクエス》の発展機はそのまま、口径の発達したビームライフルの銃口を、自分に据えていた。

 

 カトリナが直後に訪れる死を予感して、瞼をきつく瞑る。

 

 しかしクラードは決して目を逸らさなかった。

 

 眼を背けるな。現実から、逃げるな。ここで覆い被さってくる死なんてものは、跳ね除けろ。

 

 それこそが、自分の――。

 

「俺の生きる目的だからだ……! 応えろ、《レヴォル》!」

 

『――なるほどね。この子がキミを選んだ理由、分かった気がするよ』

 

 不意に聞こえてきた暗号回線と共に、《レグルス》の横合いに加速して入って来たのは、コアファイター状態の《レヴォル》であった。

 

 そのまま《レグルス》を押し返し、四肢を押し広げてスタンディングモードへの可変を実行する。

 

 円弧を描いて敵機へと接近し様にビームライフルを速射させて銃撃。

 

 黒煙を上げた《レグルス》へと浴びせ蹴りを叩き込み、踏み台にして他の《レグルス》や《エクエス》の援護を防ぐ。

 

「……《レヴォル》……。違うな、何だ……。誰が乗っているんだ……」

 

「く、クラードさん……いき、てる……? 私達……生きて……」

 

 感慨にふけっている場合でもない。

 

 クラードは《エクエスガンナー》を急速後退させ、背後に付いていた《マギア》を突き飛ばす。

 

 虚を突いた形ならば、《マギア》のフレーム構造では《エクエス》の体当たりを無効化出来ない。

 

 そのまま《エクエスガンナー》で走り込みつつ、クラードは《レヴォル》へと暗号通信を繋いでいた。

 

「こちら、エージェント、クラード。《レヴォル》、《レヴォル》……! 何があった? 応答しろ!」

 

『無駄だって。この子、今はボクに懐いているみたいだし。まぁ見ておきなよ。レヴォルの意志が選んだ戦い方って言うのを』

 

「……何を言っている。レヴォルの意志が、選んだだと……」

 

「女の子の声……ですよ、クラードさん……」

 

 互いに震撼する場所が違ったが、それでもこの戦局自体はまずいのだと認識出来る。

 

《レヴォル》は自分が操る時とは違い、格闘兵装よりも射撃武器をメインにして戦っていた。

 

 まずは銃撃で敵の動きを牽制したところで、急速接近し、そのまま軽業師めいた動きで蹴りを奔らせて相手を撃退していく。

 

 脚部格納武装である火器を出現させて接近してくる敵を引き剥がし、またしてもヒット&アウェイに近い挙動で後退。

 

 そのまま無理な機動は踏まず、《エクエス》と《レグルス》を同時に相手取ってもまだ余裕がある。

 

 敵機をビームライフルの掃射で叩き飛ばしてから、そのままターンをして後方より抜刀する相手を撃ち抜き、的確に数を減らしていく。

 

「……俺の戦い方とは真逆か……」

 

「すごい……。何であんなに鮮やかに《レヴォル》の機動を? だって、《レヴォル》はクラードさんの専用機だったんじゃ……?」

 

「俺もそうだと、思っていたんだがな。何かが違う……。あいつ……もしかして遊んでいるのか……?」

 

「遊んでいるって……まさかそんな! だって敵は軍警察ですよ?」

 

「……そんな相手でも、遊んでいるような挙動でどうにか出来るって事だ。相当な手練れか、あるいは無根拠な馬鹿かのどちらかだろうさ」

 

 クラードは追跡してくる《マギア》を見据える。

 

 執念深く追い立ててくるのは片足が外れたほうの《マギア》であった。

 

『貴様だけは……アルベルトを惑わした……! 墜とす!』

 

「何を言っているんだ。惑ったのは勝手な話だろうに。お前が――墜ちろ」

 

 だが直後には、《マギア》は無数の分身体を生み出し、中距離からの射撃に入っている。

 

 クラードは舌打ちを滲ませてビルの陰に入っていた。

 

 分身体の一斉掃射がビルを焼き尽くし、そのまま火力で薙ぎ倒そうとしてくる。

 

 ローラーで市街地を抜けて草原地帯へと遁走してから、ヒートトンファーを稼働させ、敵の精密な狙撃をトンファーを一回転させて防御する。

 

 しかしそれも一回きりだ。

 

 二発目以降を防御するのにはマニュアルでは足りない。

 

 弾き返したつもりのビームライフルの銃弾が頭部へとめり込み、カメラアイに支障を来す。

 

 頭蓋の半分を融かされた衝撃波で《エクエスガンナー》は容易く横倒しになっていた。

 

 そのまま地面を滑り、カトリナが蹲って悲鳴を上げる。

 

「……くそっ! ……動け! って言っても無駄な話か。スターターもかからない。このままじゃ撃墜される」

 

「何で! 何でそんなに落ち着いて……っ!」

 

「落ち着いているのは、《レヴォル》の動きだ」

 

 半分の全天候モニターが消失している中でも中空で《レグルス》と《エクエス》を同時に相手取って、攻勢に移っている《レヴォル》が視界に入る。

 

『助けて欲しい? 助けて欲しいのなら援護するけれど?』

 

「要らない。戦場で助けを乞うのは死にかけの傷病兵か、イカレた士官だけだ。俺は誰かに助けを乞う事はない。自分で道を切り拓く」

 

『……へぇ。キミ、面白いね。興が乗った。助けてあげるよ、《レヴォル》のパイロットさん!』

 

 急加速のまま下降に入った《レヴォル》が分身体を生み出す《マギア》へと強襲をかけるも、相手とて馬鹿ではない。

 

 即座に多段銃撃で弾幕を張る。

 

 しかし《レヴォル》を操る何者かはその射線を潜り抜け、真正面から《マギア》の本体へと飛び蹴りを浴びせていた。

 

 よろめいた《マギア》と同期して、分身体もよろめく。

 

 それを好機と見たかのように、《レヴォル》は的確に分身体を射抜き、一つまた一つと掻き消していく。

 

 最後には残った本体の《マギア》のコックピットへと、ビームライフルの銃口を据えていた。

 

『……ガンダムめ……』

 

『それ、何の名前? この子の? ガンダムか……いいね。じゃあ《ガンダムレヴォル》ってワケだ』

 

《マギア》がその隙を突いて手首を一回転させ、《レヴォル》を一瞬だけ引き剥がす。

 

 その機を逃さず、コックピットを射出させ、随伴機の《マギア》に回収させていた。

 

《レヴォル》がいくらか牽制の銃撃を放つも、《マギア》は深入りせず、そのまま撤退挙動に入っていく。

 

『これで……ちょっとは落ち着いて話しが出来る? 《レヴォル》のパイロットさん』

 

「……お前は、何だ……」

 

『横倒しになったままじゃ難しいでしょ。出てきなよ』

 

 コックピットハッチを開こうとするクラードをカトリナは押し留める。

 

「駄目……っ! 敵が本気なら狙い撃ちにされます」

 

「もう本気なら撃たれているよ。そうじゃないんだろう、相手は」

 

《エクエスガンナー》のコックピットハッチを空気圧縮で吹き飛ばし、クラードは煤けた大気へと己を晒していた。

 

《レヴォル》のコックピットがゆっくりと開き、そこに収まっているパイロットの姿が露わとなる。

 

 それは果たして少女であった。

 

 年のころはまだ自分とさして変わらない。

 

 茶髪に赤毛のワンポイントを入れた、どこかパンクファッションを思わせる格好に身を包んでいる。

 

「……お前は何者だ……」

 

「ボク? ボクはメイア。――メイア・メイリス。人によっちゃ、エムエムって呼ぶかな。反政府団体ギルティジェニュエンの、まぁボーカルをやっている。このコロニー、シュルツには慰問コンサートに来たんだ」

 

「……ボーカル……コンサート……? 何でそんな奴がレヴォルの意志に選ばれた? ハッキングでもしたのか」

 

「冗談! これでも真っ当だよ。まぁ、突然にこの子が来た時には大騒ぎだったけれど、その後の動乱に比べればまだまだ序の口だったね」

 

「……お前も俺と同じ……この世界そのものへの憎悪があるとでも言うのか」

 

「……さぁね。その辺はボクには分からないや」

 

 そう言いやってメイアと名乗った少女は昇降機を用いずに降り立ち、自分と対峙する。

 

 クラードは迷いなく拳銃を取り出したが、相手は丸腰だ。

 

 唯一の所持品は、後生大事そうに抱えている――ギターだけだろう。

 

「……お前を殺して《レヴォル》を奪還する。他に選択肢はない」

 

「そう? ボクには他にもあるように感じるけれどなぁ。はい、《レヴォル》、行きなよ」

 

 その言葉に応じ、《レヴォル》が歩を進ませる。

 

 まさか、とクラードは目を戦慄かせていた。

 

「俺以外の命令を聞いた、だと……」

 

「レヴォルの意志だっけ? この子の意志は闘争なんて望んでいないようだけれど? まぁ、今は、の話でもあるか」

 

「……どうして《レヴォル》に乗れた? お前もライドマトリクサーか?」

 

「軽度のだけれどね。まぁその辺はいいじゃん。ホラ、キミの《レヴォル》が帰って来た! これでお終い! もうボクを追跡なんてしないでよね」

 

 笑顔を振り撒いて口にするメイアの足元へと、クラードは銃撃する。

 

「……へぇ……逃がす気もないみたい」

 

「答えなければ殺す」

 

「答えてもその後で殺すんでしょ? 分かりやすいったら」

 

「……お前は……」

 

 メイアはその腕に刻まれたモールド痕を見せつける。

 

 それ一つとってしてみてもファッションのように、RM施術痕は鳳凰の羽根を象っていた。

 

 翳した腕が青に明滅する。

 

「じゃあね。お迎えが来たみたいだ」

 

 その意味を判ずる前に近場の樹林へと銃撃が見舞われる。

 

 クラードが咄嗟にカトリナを伏せさせたその時には、黄色のカラーリングを持つMSがメイアへとマニピュレーターを伸ばしていた。

 

「待て!」

 

 銃口を据えた先に居るメイアは、何でもない事のようにパッと手を振る。

 

「バイバイ。《レヴォル》のパイロットさん。今度はもっといい出会い方をしよう」

 

 黄色の機体はそのまま可変し、円盤のような形状へと脚部と腕を格納させ、飛び去ってしまう。

 

 それを追う術は悔しいが、今の自分達にはない。

 

「……クラードさん。彼女は……」

 

「今は無視する。《レヴォル》、俺を乗せろ」

 

《レヴォル》が膝を折ってマニピュレーターで自分を導く。

 

「お……置いて行かないでくださいよー……」

 

「……癪だが置いていくわけにはいかない。《レヴォル》、コミュニケートモードを30セコンドだけ解放。何であいつを選んだ?」

 

『コミュニケートモードに移行。“あいつ、とは誰の事だ? クラード”』

 

「機械にとぼける機能なんてないはずだ。あいつとは、さっきのメイアとか言う女の事だ」

 

『“……すまないが、こちらの記憶領域にはメイア、という名前の認証が存在しない。それは誰の事を言っているんだ?”』

 

「誰って……! お前をさっきまで操っていた……! ……まさか《レヴォル》、奴に乗り込まれていた時のレコードがないのか……?」

 

「く、クラードさん……。《レヴォル》は何て?」

 

「……後でいい。戦闘モードに移行する。今は……残存戦力を圧倒するだけだ」

 

 コックピットハッチを閉ざし、全天候モニターへと移行した《レヴォル》のコックピットの中で、僅かに香る他者の匂い――。

 

「……女の匂いなんて、《レヴォル》には似合わないって言うのに……」

 

「来ます! 直上!」

 

「見えているに決まっているだろう」

 

 機体を沈ませ、そのまま跳躍した《レヴォル》が直上で抜刀した《レグルス》との鍔迫り合いに入る。

 

 ヒートマチェットを振り翳し、そのまま打ち下ろした攻勢に対し、敵機は距離を取りながら銃撃していた。

 

 こちらも距離を稼いで敵の火線を掻い潜る。

 

「……他の機体との連携はほぼ総崩れだ。あいつを突破してベアトリーチェへと急ぐ。悪いが、乗っている人間の安全までは考えられない。全力で行く!」

 

 腕を可変させ、《レヴォル》の接続口に繋ぐ。

 

 その瞬間、電磁の衝撃が頭蓋を揺さぶり、慣れ親しんだ《レヴォル》の視界へと同期していた。

 

 その瞳は真紅に輝き、撃つべき敵を睨み据える。

 

「ゲインを目一杯に上げろ、《レヴォル》! 敵陣に突っ込む!」

 

 ヒートマチェットを薙ぎ払う形で敵影へと振るった《レヴォル》へと、《レグルス》は上方へと逃げ様にビームサーベルを振るい落とす。

 

 その一閃を半身になって回避し、もう片方の腕で掌底を形作って《レグルス》の腹腔を狙う。

 

「邪魔だ――!」

 

 粒子束が加速し、そのまま《レグルス》のコックピットを焼き尽くすかに思われたが、相手は危険予測が立ったのか、ビームサーベルを払って一撃を回避して後退する。

 

『……その声、ついさっきも聞こえていた……』

 

「オープン回線? こんな時に何なんだ……!」

 

 即座に破壊に移ろうとしたクラードへと、まさかの人物が声をかける。

 

「……もしかして……ダイキ?」

 

「……何だ? 何を言って――」

 

『あ、ああ、そうだ。俺だよ、ダイキ・クラビアだ……! 何でそのMSに乗っている……。カトリナ!』

 

「……知り合いか」

 

「……えと、昔にちょっと……」

 

「後で報告書には書いてもらうぞ」

 

「えっ……それはそのー……プライバシーでも……?」

 

「それは当たり前だろう。現に今の一瞬で……相手はやる気を削がれたようだ」

 

 ビームサーベルを仕舞い、《レグルス》は離脱挙動に入っていた。

 

 逃げる相手まで追う趣味はない。

 

 クラードはヒートマチェットの熱伝導を抑え、敵が逃げ帰っていくコロニーの空を仰いでいた。

 

「……こちらの戦力は総崩れな上に、軍警察のコロニーへの私的介入……。何のつもりなんだ。ベアトリーチェを追って来たにしては敵の追い方があまりにも粗雑過ぎる」

 

「……クラードさん。ベアトリーチェからの信号、来ています。……よかった! アルベルトさんもラジアルさんも無事! ……との事ですっ!」

 

 嬉しいニュースを発表するかのようなカトリナの声音に比して、自分の声は陰鬱であった。

 

「……一時とは言え、《レヴォル》が俺の命令範囲から逃れた。何かがあったんだ……何かが……」

 

「く、クラードさん! 今はそんなの考えないようにしましょうよ! みんな無事が一番なんですから!」

 

「……だが、連中はどうしてこんな雑な介入を? あまりにも軽率が過ぎる。それとも……俺達の道筋をどこかで誰かが……予見しているとでも言うのか……」

 

「い、今はいいじゃないですか! 生き残ったんですよ!」

 

「……悪いが素直に喜ぶ気にはなれない。何かが……異常だった。そう思うしかない」

 

 そうでなければ――異常なのは自分のほうに、容易く傾いてしまうからであった。

 

 

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