機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第48話「過去の因果に」

「――揃いも揃って散々な結果になったわね、クラード」

 

 執務机で書類整理に追われるレミアに、クラードは苦々しげに応じていた。

 

「……俺以外にレヴォルの意志が囁くなんてあり得ない。調べは尽くしてくれ」

 

「それ、艦長である私に言う? ……まぁ、いいわ。あなたとの仲ですもの。ある程度までは追跡するけれど……それは本当にギルティジェニュエンのメイア・メイリスと名乗ったのよね?」

 

「……知っているのか?」

 

「知っているも何も、有名よ。罪付きのメイア、とも呼ばれているわ」

 

 レミアが投射画面をこちらへと向ける。

 

 映し出されていた映像はミュージックビデオであった。そのクリップの中で、メイアと名乗った少女と同じ顔の少女が声高に歌を奏でている。

 

「……歌……まさか本当にボーカルだとか言うのは……」

 

「あなたの言っているのがこのメイア・メイリスだとすれば、彼女は実力派アーティスト、ギルティジェニュエンのリーダー兼ボーカル。……でも、何でMSを? それもまるで解せないんだけれど」

 

「俺が知った事じゃない。だがあれは新型機に見えた」

 

「新型機……このグループ、一応バックに大型企業が居るみたいだけれど、探りを入れてみる?」

 

「頼む。レヴォルの意志に選ばれたとか言っていたのも気にかかる。それに、俺の命令を《レヴォル》が無視したのも初めてだ」

 

「なるほどね。いつも従順なはずの《レヴォル》があなたにまで叛逆してしまったら、それこそ事だわ」

 

「手綱は握っているつもりだったんだがな。甘かったかもしれない」

 

「そんな事はないんじゃない? あなたはこれまで何度もベアトリーチェの危機を救ってきた」

 

「……結果論だ。俺はこの艦を守らなければいけない」

 

「そこにウェットな理論を差し挟む余地はなく、ね。……クラード、一つ聞かせて。あなた、現状に満足していないんじゃないの?」

 

「……何だって?」

 

 レミアは報告書作成のキーを打つのをやめて、こちらと向かい合う。

 

「宇宙暴走族の子達を匿ったのだってそう。あなたは少しずつ、私の知っているエージェント、クラードでなくなっている気さえもする。それは錯覚かしら?」

 

「……俺は変わっていない。エンデュランス・フラクタルのエージェントとして、真っ当なはずだ」

 

「でもそこを相手に突かれた。戦闘待機じゃなかったからいいものの、もしもの時に《レヴォル》を奪われる恐れは避けなければいけないわ。今、サルトル技術顧問が必死になってデータを洗い出してくれているようだけれど、彼と整備班だけじゃ手が足りない。ピアーナも協力するように要請しておくわね」

 

「……あいつに《レヴォル》を触らせたくない」

 

「今は。わがままを言わないで。あなたと《レヴォル》はこの艦の生命線。切っても切れない、そういう存在なのよ」

 

「……分かった。それが艦長としての命令なら、俺は従うよ」

 

「……ごめんなさいね、クラード。まさかコロニーシュルツがあんな風になっちゃうなんて思いも寄らなくって……」

 

「いい。誰だって思わぬ時だった。想定外は起こるものだ」

 

「ええ、本当に……」

 

 レミアはタブレットに入れておいた頭痛薬の錠剤を水で飲み干す。

 

「……錠剤、増えたな」

 

「頭痛の種だけは尽きなくってね。月面に到着する前に使い物にならなくなったらごめんなさい」

 

「レミアが使い物にならなくなったら俺も似たようなものになると思う。だから別に背負い過ぎるな。あんただけのせいじゃない」

 

「……そう言ってもらえて助かるけれど、責任と言うのは上へと流れるものなのよ。《レヴォル》の暴走と、そして艦を一時的とは言え空けて危険に晒したのは然るべき処置を受けるべきでしょうね」

 

「あれは休暇だった。それで上も納得するはずだ」

 

「それで納得する組織なら、とうに収まっているわよ。問題なのは、月面航路までのこの数日間……エンデュランス・フラクタルの上層部がだんまりを決め込むわけでもないって事」

 

「……敵が来るのか」

 

「構えないで、クラード。エンデュランス・フラクタルの査察が入るかもしれない。その場合、《レヴォル》は検められるわ」

 

「……俺から《レヴォル》を取り上げるとでも?」

 

「そうならないために目下報告書を作成中。……でも《レヴォル》のレコードにはメイアの搭乗した形跡もなかった。彼女もRMであるのは既に公の文章で証明済み。でも、《レヴォル》のライドマトリクサーはあなた一人のはず」

 

「……どこかでスペアを作っていた可能性は? エンデュランス・フラクタルの別派閥が、俺達への対抗策に」

 

「それはないと思いたいけれどね。だって、ベアトリーチェの最終目的にそれは沿わない。内部での軋轢なんて。ただ……警戒は怠らないで。敵は何もトライアウトだけではないかもしれない」

 

「……撃てと言われれば、俺は撃つ。心配しないでくれ、レミア。俺は今も昔も、あんたの握ったトリガーのままだ」

 

「……引き絞るのを保留した引き金のままだなんて、皮肉ね」

 

 レミアはこれ以上の心労をかけるべきではないだろう。問題なのはたった一つ。

 

「……何故、《レヴォル》は俺以外を見出したのか……。それは不明なままだ。レミア、俺はあんたを信用しているしあんたも俺に対しちゃ、それなりの信用があるとは思っているけれど」

 

「勘繰らないで、クラード。あなたを私は信じているし、その関係性に歪なんて存在しないはずよ。だから、ここでは純粋に……」

 

「ああ、レミア、俺はあんたの敵を撃つ」

 

 盟友とも、ましてや対等とも言わない。

 

 ただただ、自分は武装として在り続けるだけだ。

 

 そう断じて扉を潜ろうとして、書類の束を抱えたカトリナと鉢合わせしていた。

 

「……あのぉ……報告書、出来ました……」

 

「カトリナさん、レコードに書かれていた通りの事実を列挙してくれたのよね?」

 

「あ、はい……。プライベートなので、ちょっと書くのには憚られましたけれども――」

 

「見せてくれ。俺も閲覧する義務がある」

 

 引っ手繰った瞬間、カトリナが、あ、と間抜けな声を出していたが、クラードは構わず内容を精査する。

 

「……これって、あんた、本気?」

 

「ほ、本気も何もぉ……返してくださいよぉ……。それって人のプライバシー……」

 

「気になるわね、カトリナさん。クラード。何が書かれているの?」

 

「ああ、こいつは――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――幼馴染ぃ? 仕掛けてきたトライアウトと、あの幸せ女のカトリナちゃんが?」

 

「声デケェっすよ、パイセン」

 

 そう応じて奢った餃子を頬張っているのは、ツナギを着込んだトーマであった。

 

「……その情報ってどこから? あの場所に居たってわけでもないでしょうに」

 

「カトリナ嬢直々に聞いたんす。一番の情報の根拠っしょ」

 

 餃子を口に運びながら、トーマはそれとは正反対の甘ったるいスイーツジュースのストローを吸う。

 

「……へぇ、あの子もねぇ。何て言うか隅に置けないって言うか」

 

「生きてりゃ幼馴染の一人や二人は当然居ますっしょ。パイセンは居ないんすか」

 

「あたしは出来るだけ人間関係はその時その時で清算しつつ、次に行くようにしているからね。そっかぁ、じゃああのカトリナちゃんの昔とかを知っている間柄ってわけだ」

 

「まぁ、そうっすねぇ。カトリナさん、何でそういうのが居るって一言も言わなかったんすかね。謎っす」

 

「そりゃあんた、それこそあれよ」

 

 あれ、と名指ししてもよく分かっていないのか、トーマは首を傾げる。

 

「あーし、パイセンほど歴戦じゃないんで、よく分かんねぇっすよ。あれって何すか?」

 

「そりゃー、あんた、あれに決まっているじゃない。……彼氏とか」

 

 声を潜めた自分に比して、トーマはいやいや、と大声で返すものだから食堂に筒抜けである。

 

「あーのカトリナさんの元彼って事っすか? あり得ねぇっしょ!」

 

「しーっ! 声が大きいってば! ……ま、勘繰りたくなる気持ちは分かるんだけれどねー。何せ、幸せ女のカトリナちゃんよ? 男っ気なんて一ミクロンもなさそうなのに、まさか幼馴染キャラに男かー。何だかちょっと意外」

 

「意外っつーても、カトリナさん、今の今まで存在忘れていたみたいっすけれどね。そっちのほうがウケる」

 

「それはそうかも。ただまぁ、あたしほどじゃないにせよ、あの子も色々と清算して、今の立場に居るんじゃないの? 委任担当官って言うね」

 

「大丈夫っすか、パイセン。これバラしたって分かったら、カトリナさんに刺されねぇっすか」

 

「大丈夫だってば。あの子、ホントに人畜無害だし。第一、その程度で刺されるような秘密抱える人間に見える? あたしが」

 

「パイセン、歴戦の猛者っす。さすがっすね」

 

 餃子定食を平らげたトーマを前にして、バーミットは腕を組んで考え込む。

 

「でもなー、そういうの持ち込まれると困るってのも確かなのよねー。ほら、戦闘艦ってドライって言うか、下手に人情とか持ち込むべきじゃないって言うか」

 

「まー、そうっすよね。あーしも別に勘繰られて困る人間関係とかないっすけれど、みんながみんなそこまでドライってわけでもないっしょ」

 

「そうそう。……聞いた? ラジアルの話」

 

「ああ、ヴィルヘルム先生んところで一応は検査でしょ。聞きましたよ」

 

「……あの子、あれで脆いからね。艦を降りるとか言い出さないとも限らないのよ」

 

「それは他人の勝手じゃないっすか? だって第四種殲滅戦に生身だったって聞きましたよ。そりゃー誰だってビビり上がります。そこまでは関知出来ないっすよ」

 

「……トーマちゃんさぁ……あたしとしてはもうちょっと、こう……楽しく月航路のつもりだったのよ」

 

「いつでも言ってますもんね。パイセンとしちゃ、ただのOL上がりくらいのつもりだったって」

 

「それが蓋を開けてみりゃどうよ。ずーっと、この先もトライアウトとかとやり合って、その上で戦闘待機よ? これってブラック企業そのものじゃないの」

 

「うーん、その感覚は分かんないっすねぇ。メカいじりは好きなんで」

 

「……そうだったそうだった。トーマちゃんは、そういう子だったっけ」

 

「パイセン、定食残すんすか? 食っていいなら食いますよ?」

 

 こちらの頼んだA定食へと箸を伸ばすトーマに、バーミットは頬杖を突いていた。

 

「でもなぁ、下手突っついてPTSDなんてなられたらちょっとした罪悪感くらいは覚えちゃうかな」

 

「それも他人の勝手じゃないっすか。心配したってどうなるかなんてその人次第っすよ」

 

 トーマは今度は特製の野菜ジュースを抽出し、水筒に押し込んでいる。

 

「……ミュイぃ……」

 

 隣でブロッコリー相手に睨み合いを続けているのはファムであった。バーミットは次の言葉を予見して言いやる。

 

「バーミット、たべる?」

 

「馬鹿仰いな。あんた、野菜は全部食べる」

 

「ミュイーっ……バーミット、おに、あくま」

 

「どこでそんな言葉覚えて来るんだか……。ったく、あんたカワイイんだから、野菜は食べなさいよ。乙女の大敵は栄養不足なんだからね」

 

「……トーマ、ブロッコリー、たべて」

 

「いや、いただくわけにはいかないっすよ。パイセンの目が届いている間は」

 

「じゃあ、バーミットのめ、つぶすからたべて」

 

「怖い事言わないの。ブロッコリー一個に何をそこまで追い詰められているんだか。ファムはいいわねぇ、あらゆる面倒くさい事から自由になっていて」

 

「ミュイぃ……ファム、じゆう?」

 

「あたしが観てきた中じゃ相当に自由な子の部類だけれど? 大体、未だにあんた正体不明なのよねぇ。デザイアの市民リストにも載っていなかったみたいだし」

 

「へぇー、マジに正体不明なんすか、ファム嬢」

 

「ミュイぃ……ほめられてる?」

 

「褒めてないわよ。何だかどんどん図太くなっていくわね、あんた。ただまぁ、カワイイから許すけれど」

 

「許すんすか。どこまでカワイイは正義を貫き通すんすか、ファム嬢は」

 

「……ミュイ、わかんない」

 

「ほら、ソースほっぺについてる。はぁー……何であたしが疑似子育てみたいな事をしなくっちゃいけないんだか」

 

「ミュイぃ……バーミット、ちからつよい……」

 

「黙らっしゃい。ほら、これで綺麗になった。それにしてもこの艦だってよく分かんない身分の子達を管理してんのよ。それ相応に大変なのは身に染みているはずだけれど?」

 

「わーかんないっすねぇ。凱空龍だとかの暴走族の方々、皆さん男なもんで。女なあーしとは気が合わないっす」

 

「そう言いつつ、トキサダ君とは何だか上手く行っているって聞いたわよ?」

 

 ぶっと野菜ジュースを吹き出したトーマはからかわれているのを感じたのか、頬を紅潮させる。

 

「あ、あれは上手く行っているとかじゃないっす。単純に話が合うだけで……」

 

「照れてるトーマちゃん、カワイイー。あたしも言い寄ってくる男の一人や二人居ないかなぁ?」

 

「……恋愛しに来てるんじゃないんで、自分」

 

「馬鹿ねー、トーマちゃん。相手にその気が少しでもあるんだったらもう持ち込まないと! 若いって言ったって一時みたいなもんなんだからねー」

 

「……パイセンほどの歴戦潜ってないんで。自信ないんすよ」

 

「そう? トーマちゃん、あたしから見りゃそこそこに見えるけれどねー。ツナギでスタイル隠しているけれど、それなりのものをお持ちのようだし? あたしよりあるってのは若干納得いかないんだけれどねー」

 

「……あーし、カトリナさんみたいにセクハラしたって面白味ないっすよ」

 

「そう? やっぱカトリナちゃんは別格だわ。あの子の天然さ加減ってのはずば抜けているわね」

 

「そもそもっすよ。別に誰かといい感じになったからって、それで艦を降ろしてもらえるわけでもないっしょ」

 

「……まぁ、ね。ラジアルに関しちゃ、あの子が踏み込み過ぎた部分もあるから、同情ってのはちょっと違うわ。それに、思考拡張や有機伝導のスペシャリストの乗っている艦なのよ? 降りる際には記憶をちょちょいのちょーいってな具合で弄られるのは目に見えているし」

 

「……怖いっすね、そう考えると。有機伝導技師ってのは、頭を弄るのの専門家っしょ。このベアトリーチェで一番に怒らせたらヤバいのって、ヴィルヘルム先生っすよね」

 

「あの人もまた、いい加減なところもあるけれど、一応は船医だし? 最終的な判断はあの人なんだと思うとやり切れないところもあるわ。でもま、あたしは降りる気なんてさらさらない上に、あの人のさじ加減で頭の中弄られんのも嫌だけれど」

 

「……そこんとこ、リアリストっすよね、パイセンは」

 

「リアリストじゃなくっちゃやっていけないってのよ。……ファム、睨んでも念じても、ブロッコリーはなくならないのよ。とっととカワイイお口に入れちゃいなさい」

 

「……いい。ブロッコリーたべない」

 

「好き嫌いするんじゃないわよ。クラードだってそう言うに決まっているわ」

 

「……クラード、ブロッコリーたべないファム、きらいになる?」

 

「……かもね」

 

 そう言ってやると、ファムはひょいとブロッコリーを何とか飲み込んでみせる。

 

 うへぇ、と舌を出して涙目になったところを水で流し込んでやる。

 

「はいはい、偉いわよーファム」

 

「……パイセン、似合ってきたっすね、ファム嬢の扱い」

 

「あたしとしちゃ、歴戦潜ってきて最終的に行き着いたのがカワイイののお守りだなんて思わないわよ。……いいー? ファム。次は基本的なメイクをするわよー。そろそろあんたも化粧っ気ってのを覚えないとね」

 

「……ミュイぃ……あれ、やだ。かおがおもたくなる」

 

「重たいのをみんな付けてるのよ、女ってのは。トーマちゃんだってナチュラルメイクでしょ」

 

「まぁ、どうせ機械油とかで取れちゃうんすけれどね」

 

「……ふふーん? いいじゃない。トキサダ君、そういうのに弱いかも」

 

「だーから、からかわないでくださいってば……。あーし、そういうところのパイセン、苦手っす」

 

 ぷいっと視線を背けたトーマの頬を摘んで、このこのー、と取っ組み合いになる。

 

「トーマちゃんだって存分に乙女よねー。……でも、だからこそ余計に心配。ラジアルに関しちゃ、マジな話」

 

 食後のコーヒーへと視線を落とす。

 

 黒々とした液体はこれから先の未来そのもののように閉ざされている。

 

「……トラウマをどうこうする手段ってのが確立されて久しいからこそ、嫌なもんもあるっすよね。ラジアルさん、あれで大女優なわけですし」

 

「そうそう。あの子が最初に出たドラマ観た事ある? すっごい視聴率取って大衆受けした、感動の親子の奴」

 

「あー……子供の頃観たっすけれど、あの当時のラジアルさんってマジに子役だったんですよね。あっから年取っているのが信じられないくらいっす」

 

「だから彼女だって心得ているはずなのよ。自分の心の傷を癒す術の一つや二つくらいは。あたし達外野がどんだけ喚いたって騒いだってしょうがないの。彼女の問題」

 

「……冷たいっすね、パイセン」

 

「そうよ? あたしは冷たい女なの。本来ならね」

 

「……分かんなくなっちゃうっすよ、時折。バーミットパイセンの考えている事とか、何であーしなんかとよくご飯を食べてくれんのかとか」

 

「そりゃー、あんた。女子同士のよしみじゃないの。広いヘカテ級って言ったって、会う人間は限られてるんだから、ギスギスした閉塞感はなしにしたいでしょ?」

 

「……オトナっすね、パイセンは相変わらず」

 

「ま、そこんところが自分でも嫌にもなるんだけれどね。割り切っちゃえるのが、ある意味じゃ。……カトリナちゃんもどうするのかしらね。幼馴染って言ってそんで元彼かもしれない相手を……あの子は委任担当官だから、すぐ傍に居るのが導火線に火が点いた爆弾みたいなクラードよ? ……それで駄目になっちゃわないかが心配」

 

「……パイセン、カトリナ嬢にも甘いっすよね。何だかんだで」

 

「そりゃー、一応は教育係だし? あの子の進退も含めて、こっちで受け持っている部分もあるんだから。与えられた仕事はこなさないのは嘘でしょ?」

 

「はぇー、仕事の鬼っすね、パイセンは」

 

「ミュイ、バーミット、おに」

 

「同調しない。……ったく、あたしはどっちでもいいとは思うんだけれどね? ……ラジアルもカトリナちゃんも、自分の進むべき道を行けばいいとは思うのよ。ただまぁ、それが平坦な道じゃないのは、ある意味で分かり切っているようなものだし」

 

 立ち上がったこっちを見て、トーマは会釈する。

 

「ごっそさんっす。餃子定食、マジウマでした」

 

「いつでも奢るわよ。女子同士の話、していきたいし」

 

「ミュイ、またね、トーマ」

 

「はい、またっす、ファム嬢」

 

 バーミットはファムを引き連れつつ、それにしても、と声にする。

 

「……あんだけ思い詰めていたんじゃ、いつかは破裂するわね、二人とも」

 

 

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