機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第50話「ミラーヘッドエラー」

「しかし、随分とやらかしたなぁ、クラード。一度修繕作業に移らなくっちゃ、こいつは直せんぞ」

 

 サルトルは《レヴォル》のメンテナンスブロックに端末を差し込み、今もリアルタイムで送られてくる情報をさばいている。

 

 自分はと言えば、コックピットに乗り込み、レヴォルインターセプトを起動させていた。

 

「……もう一度聞くぞ、《レヴォル》。メイア・メイリス。この女を知っているはずだ」

 

『“レコードの中には残されていない”』

 

「俺相手に嘘や誤魔化しは通用しない」

 

『“機械が誤魔化しなんて言ってどうする? ……本当に見知らぬ少女だ”』

 

 嘘はない、ように映る。だが、ここで認めてしまえば、メイアは特例であった事になり、説明がつかない。

 

「……クラード。本当にレヴォルの意志に準じた人間であった可能性も捨てきれんのだろう」

 

「そう設計しなかったのはあんたらだ。サルトル、あんたはこの《レヴォル》を開発段階から知っているはず。レヴォルの意志はそうほいほいと誰彼構わずなびくものではない。そうだろう?」

 

「……そうだと思うんだがなぁ。おれにも分からん。どうあったって、《レヴォル》のログを漁ったってどこにも見つけられんのだ。そのメイアとか言う少女の痕跡を。証言しているのは、お前さんと、そして期待の新人だけ。この二人だけの証言じゃ、本社の人間の査察を潜り抜けられんぞ……」

 

「……査察はいつ入る?」

 

「このコロニー、シュルツに居る間に、だな。一応は三日間はここに居なければ補給路も絶たれる。そうなれば月航路までなんてジリ貧もいいところだ」

 

「コロニーが焼け落ちても、か。厚顔無恥だな」

 

「そう言ってくれるなよ。おれだって嫌さ。だがな、補給もなけりゃ飢え死にしちまう。ここは少しばかり面の皮が厚いほうが、生き残れるって言うもんだ」

 

「……サルトル。あんたは知っているんだろう。月航路へと向かう意味を。だったら、無駄を排すればいい。俺の存在がイレギュラーだと言うのなら、その障害を排除してでも」

 

「そんな殺生な事言うなよ。お前はうちの切り込み隊長だ。そんな奴に、不確定要素が強いから降りろとでも? おれは死んでも言えないね。第一、お前が一番に危ない橋を渡っているんだ。それはベアトリーチェのクルーならみんな分かっている事だろうに」

 

「……分かっていても、危険ならばやめたほうがいい。《レヴォル》の事が、ここに来て初めて……分からなくなった。俺はこいつの全てを知っていると思っていたのに……」

 

「何だぁ、恨めしい女みたいな事言いやがって。言っておくが、お前の事をどうこうだとか、《レヴォル》をどうこうってのも艦長の考えだ。おれみたいな下々には結局のところ開示されてもいないんだよ。どれだけこいつの事を分かっているつもりでも、な。……よし、データの洗い出し完了。もしもの時のダミーも仕掛けてある」

 

「……危ないよ。そんな事して。本社の連中だってそこまで馬鹿じゃないだろ」

 

「大丈夫だ。おれが何年、こいつの完成まで面倒見たと思ってる。欺くくらいはわけないさ」

 

 自信満々に言ってのけるサルトルに、クラードは水色に揺らめく脈動へと視線を据える。

 

 ――レヴォルの意志。

 

 自分がこの世界で唯一の寄る辺だと思っていたものに、イレギュラーが存在したなど笑えない。

 

 それは居場所の喪失に等しい。

 

「……俺は、何一つとして掴んじゃいないのか……」

 

 モールド痕の腕へと視線を投じる。

 

 この腕は、何かを掴み取るためのこの掌は――また何もかもを掴み損ねて、そして滑り落ちる。

 

 そんな事を容認出来るはずもない。

 

「……補給中に本社の連中が来た時は、俺を通して欲しい」

 

「当たり前だろう。お前は《レヴォル》のライドマトリクサーだ。便宜を図るように努力はさせる」

 

 サムズアップを寄越したサルトルを一瞥し、クラードは再び《レヴォル》への質問に入ろうとして、声を聞いていた。

 

「く、クラードさぁーん……。やっぱり、ここに居たんですね。探しましたよぉ……」

 

「何やってんの。レミアに散々言われてきたんじゃないの?」

 

「……い、言われましたけれどぉ……。どう説明すればいいんですかぁ……」

 

「知んないよ。ありのままに言えば?」

 

「あ、ありのままじゃ信じてもらえないんですよぉ!」

 

 クラードは嘆息をついてカトリナへと言葉を振り向ける。

 

「……あんた、メイアとか言う奴を見たよな?」

 

「ふへっ……? あ、ああ、はい。見ました」

 

「証言出来る?」

 

「証言……? そんな大げさな……」

 

「大げさでも何でもなくなっている。《レヴォル》に不確定要素が強いってなれば、俺の専属ライドマトリクサーとしての任が解かれるかもしれない」

 

「そ、そんな馬鹿なぁ……あり得ません……よね?」

 

 カトリナが目線でサルトルに問いかけて、サルトルは渋い顔を返す。

 

「……あのな、期待の新人。《レヴォル》に関して言えば、下手打てばおれ達全員が処罰の対象なんだ。それくらいの機密さ、こいつは。それが勝手に動いて、それもクラードの下に行くのならばまだしも、勝手に他人に誘導されて、その上操縦系統まで奪われたとなれば穏やかじゃない」

 

「……な……更迭処分とか……ですかね……?」

 

「それならまだいいのかもな。《レヴォル》の機密を持ち逃げされちゃ困る。その時には命があると思わないほうがいい」

 

 カトリナは青い顔になってあわあわと当惑するが、クラードはサルトルの洗い出したログを参照する。

 

「本当に記録にないのか?」

 

「ああ。ログを最も過去にまで参照したが、それでもだ。メイア・メイリスなるパイロットの存在を確認出来ない。まるでゴーストだな、こいつは」

 

「……ゴースト……。俺と同じように、管理権限を持っているのならば、自身の存在末梢くらいは頷けるが……」

 

「自社ならまだしも、他社の、しかも一般人にそんな事が出来るのか、だな。そうなってくると《レヴォル》のセキュリティも甘いって言う話になってくる。……やれやれ。メカニックチームの解散の憂き目なんて遭いたくないんだが」

 

「俺だって同じだ。お前達以外に《レヴォル》を触らせたくはない」

 

「……どうする? 芝居でも打って、何事もなかったって誤魔化すか?」

 

「そんなのすぐにバレる。《レヴォル》の特性を相手も知っているんだからな」

 

「……だよなぁ。一体どうすりゃいいんだか」

 

 サルトルはメンテナンスブロックに差し込んでいた端末を引き抜き、額の上に手をやって中天を仰ぎ見る。

 

 お手上げのサインだろう。

 

「……俺は処罰を受けてもいい。勝手やったからな。だがサルトル達までそれを背負う事はない」

 

「そいつはとんだ温情だと、思っていいのかねぇ。にしたって、おれも凱空龍の面々の《マギア》のメンテをしている以上、完全に門外漢は気取れんだろう」

 

「……ここに来て足枷か」

 

「後悔はしてくれるなよ、クラード。お前が連れて来たんだ、おれだって責任は取るつもりでメンテして、わざわざ出られるように調整もしたんだ。……結局のところは共犯さ」

 

「……そう言ってくれるのはありがたいけれどでも、現状芳しくないのは事実でしょ。どうあったって、本社の連中の眼をどうにもできない」

 

「そこがなぁ……。目下のところ悩みでもあるんだが……。おい、うるさいぞー、期待の新人。さっきから何を喚いているんだ」

 

 どうしよう、どうしよう、と先ほどから自分達の後ろで頭をくしゃくしゃにして悩んでいるカトリナへとクラードも視線を振り向ける。

 

「だ、だって本社からの査察って言うんじゃ私……クビ、ですかね?」

 

「クビならまだマシだな」

 

「ああ。首が飛ぶとすれば物理的な意味だ」

 

「どどど……どうすれば? 私、まだ何もしていませんよ?」

 

「……とっくにやらかしはたくさんやっているけれど、まぁ自覚ないんならいいや。どっちにしたって、本社連中が来るまではこのコロニーに別命あるまで待機。どうしようもない」

 

「く、クラードさん……! らしくないですよぅ! 何だって今回は諦め調子なんですか……!」

 

「エンデュランス・フラクタルの本当の上層部門の怖さを知っているからだけれど、まぁそれはあんたには関係ないからいいか。どっちにしたって、《レヴォル》の解析結果が出ない以上は、ベアトリーチェの強制出港は本社からの命令無視になる。それに、補給だって得られない」

 

「まぁなぁ……。補給路を得てそのまま出港ってわけにはいかんだろうし……。そもそもそんなヘマをやらかすような本社の連中じゃないからなぁ」

 

 サルトルが腕を組んでうーんと呻る横で、クラードは《レヴォル》のコックピットブロックに触れていた。

 

「……《レヴォル》、お前は何を思っている……」

 

「問いかけたって仕方ないだろう。コミュニケートモードでも話さないんだ。分からないんだよ、こいつは」

 

「……だがこれまで俺は《レヴォル》に導かれてきた。これから先もそのはずだ。だから……応えて欲しいのに……」

 

「クラードさん……」

 

 カトリナはキッと《レヴォル》を睨み上げ、そのままコックピットに入っていた。

 

 もちろん、《レヴォル》から返って来たのは認証エラーである。

 

「何やってんの」

 

「私……! 少しでも役に立ちたいんですっ! もしかしたら私の記憶を証拠として出せば、《レヴォル》とクラードさんはどうとでもなるかも……!」

 

「ならないよ。俺が反証させて反応しないんだ。こいつの中には本当に、あのメイアとか言うのの記録はないんだろう」

 

「じ、じゃあ何だって言うんです? 何だったんですか、彼女は。だって《レヴォル》に乗って、あんな戦い方までして……!」

 

 カトリナの言わんとしている事は分かる。

 

《レヴォル》を手足のように扱えるのは自分だけだと、つい数時間前までは思っていたくらいだ。

 

 それなのに、急にその座を奪われたとなれば自分のほうが胸中穏やかではない。

 

「……《レヴォル》は何を見据えているんだ……」

 

 その鋭い眼差しに問いかけても、今は無言しか返ってこない。

 

「……クラード。おれ達が何とかする。もしもの時は強硬策でもいい、《レヴォル》と共に逃げろ。そうすれば処罰は免れる可能性も――」

 

「そうなったらサルトル達が死ぬ。俺は皆が死んでまで、自分だけ生き意地汚く生きるつもりもない。それに……これは俺の生涯をかけてのミッションだ。遂行しなくっちゃ、俺の存在理由はなくなる」

 

 首から提げたドッグタグを弄る。

 

 名前をとうの昔に失った代物。

 

 だが自分の指標として在り続ける証。

 

 自分と言う、ただの名無しを、まだエージェントの名前で縛り付ける、ある意味では呪縛――。

 

「そういや、話は変わるんだが、《アルキュミア》の改修が終わった。次の戦闘からは出せそうだ」

 

「出せそうって……誰が乗るのさ」

 

「まぁ、ピアーナ嬢か、あるいは他のライドマトリクサーか……」

 

「他のって……居ないだろ、この船には」

 

「まぁなぁ……。儘ならん事がこうも重なるとどうしようもない」

 

「……サルトル。らしくないよ、諦めてる?」

 

「そりゃあ、お前、ちょっとばかし人間、弱気にもなるだろ。本社の査察は単純に憂鬱だし、そうじゃなくってもこの艦は色んなところから狙われてるんだ。目下のところ、手がいくつあったって足りないくらいさ」

 

「……現状は手詰まりに近い、か」

 

「もしもの時の身の振り方は決めておいたほうがいい。カトリナ嬢も、だぞ」

 

「わ、私も……?」

 

「……って言うか《レヴォル》に乗ったって無駄だから降りて。鬱陶しいよ」

 

「う、鬱陶しいって何ですか! こうやって一心に念じていれば……もしかしたら届くかも……」

 

「届かない。あんた、ライドマトリクサーでもないくせに何が出来るって言うんだ。それにその席は俺の席だ。勝手に座って欲しくない」

 

「……うぅ……そこまで言う事ないんじゃ……」

 

「だが待て……。そうだ、席だ」

 

 サルトルの閃いた声音にクラードは視線を振り向ける。

 

「どういう意味?」

 

「ピアーナ嬢だよ。彼女は電子光学技師の地位についている。レヴォルの意志が目覚めた時、彼女は電子的にそれを分析出来る立ち位置に居たはずだ」

 

「……ピアーナに聞けば」

 

「突破口が見えるかもしれない」

 

 でも、とクラードは格納デッキの周辺を見渡す。

 

「どこにも見当たらないけれど?」

 

「……首輪でも付けておくんだったか? 電子戦においては彼女のほうが上だからな。逃げようと思えばどこにでも逃げられるったらそうなんだよな……」

 

「待って。首輪ならここに居る」

 

 視線を振り向けた自分に、カトリナはきょとんとする。

 

「ああ、そうか! カトリナ嬢の言う事だけを聞くんだったか!」

 

「へっ……へっ?」

 

「ピアーナを呼んで欲しい。あいつのログならば、《レヴォル》に何が起こったのかが分かるはずだ」

 

「で、でも私……ピアーナさんの居場所なんて分かりませんよ?」

 

「こうすれば嫌でも出てくるはずだ」

 

 迷わず拳銃を向けると、どこからともなくピアーナの声が響き渡る。

 

『お待ちなさい、クラード。……貴方は相変わらず、野蛮ですわね……』

 

「どこだ? どこに居る?」

 

 サルトルが見渡していると通信ウィンドウが開き、《レヴォル》の暗号通信網に接続される。

 

「あっ……ピアーナさん! どこに……?」

 

『艦の電子戦闘用の端末に座ってずっと解析作業を行っていたんです。……貴方達の言いたい事はもう分かっています。レヴォルの意志が目覚めた時、わたくしならばどうにかモニター出来る位置に居たと言うのでしょう?』

 

「そうだ、そのはず。言っておくが、ひた隠しにしようなんて思うなよ」

 

 銃口をカトリナに向けたまま交渉すると、ピアーナは大仰にため息をつく。

 

『……全く、交渉とは名ばかりの野獣の理論ですわね。ですが、追い込まれているのは分かりました。それに、《アルキュミア》を改修してもらった恩義もあります。こちらでモニターしたレヴォルの意志……通称、レヴォル・インターセプト・リーディングの解読結果を表示しましょう』

 

 だが導き出されたのは波形データであった。

 

 サルトルはそれを凝視して問い返す。

 

「おいおい、ピアーナ嬢。これは何だ? ログじゃないようだが……」

 

『それがレヴォルの意志の発動時に見られた波形データです。音階のようにも見えますね』

 

「……音階……? 《レヴォル》が何かの音に反応したとでも?」

 

「いえ、待ってください、クラードさん。……あのメイアって人、確かバンドのボーカルで……音楽って言うのは、ある意味当たらずとも遠からずなんじゃ……?」

 

「……《レヴォル》が特定の音階に反応するように出来ているとでも? それはあり得るのか、サルトル」

 

「何とも言えんな……。だがこの波形データは拝借しておく。これから先、解読するのに役立ちそうだ」

 

『では対価に、《アルキュミア》のデータを貰いますよ。当然、わたくしにはその権利はあるでしょうから』

 

「この……ちゃっかりしやがって。まぁでも、このデータが本社の連中を説得するのに、少しでも役立てれば――」

 

 そこでサルトルの言葉が途切れる。

 

 彼のインカム越しに急に耳朶を打ったのはジャミングの嵐であった。

 

「特定周波数をジャミング……? また敵が来るってのか?」

 

 クラードは戦闘姿勢に移り、《レヴォル》のコックピットへとカトリナを押し退ける。

 

「邪魔だよ」

 

「あの……っ、クラードさん! また……戦うんですか……」

 

「戦っちゃ、悪い?」

 

「いえ、そうではなく……。あんな戦いを経験した後でも、まだ……」

 

「どんな戦いだろうがそれは結果が全てだ。俺にとっての前回は正直勘弁願いたい戦いだったが、次もそんな下手を打つわけにはいかない。……今度は敵を殲滅する」

 

「い、いえっ! そういう事でも……ないんですよ……クラードさん……」

 

 不明瞭な言葉を吐いたまま、カトリナは整備班に押し戻されていく。

 

「レヴォルインターセプト、コミュニケートモードに移行。三分後に戦闘モードに移る」

 

『コミュニケートモード、起動。“随分と機嫌が悪そうじゃないか、クラード”』

 

「これで機嫌よかったらだいぶ楽観的だよ。……敵の数は?」

 

『“管制室に問い合わせている。……敵は、トライアウトの識別信号では、なさそうだ”』

 

「軍警察じゃない? この局面で、何者なんだ……?」

 

『“不明なままだが、こちらを敵視しているのだけは確かだ。かかる火の粉は払わなければいけないだろう”』

 

「了解した。ベアトリーチェ、《レヴォル》とクラードが出る」

 

《レヴォル》の機体がコアファイター形態へと可変し、そのままリニアカタパルトボルテージへと移送されていく。

 

「……何者が来ようと関係がない。俺と《レヴォル》が叩き潰す……」

 

『《レヴォル》、カタパルトゲージ80まで上昇。射出タイミングを、エージェントクラードに譲渡します』

 

「了解……って、ラジアルじゃないんだ。バーミット、似合わない事やってんだな」

 

『あんたが気にする事じゃないのよ。……はい、いつでも発艦準備、出来てるんでしょ?』

 

 軽口は平時のようであってそうではない空気をはらんでいる。

 

「……何かあったのか?」

 

『あんたは《レヴォル》とでも話してらっしゃい。大人の事情に口を突っ込むものでもないし』

 

「……承服した。今は敵を撃つ。エージェント、クラード。《レヴォル》、迎撃宙域に先行する!」

 

 パイロットスーツ越しに腕を接合させ、《レヴォル》は青いシグナルと共に加速度に身を任せる。

 

「……まだ入港中だって言うのに、誰が仕掛けて来るって言うんだ……」

 

 こんな局面でベアトリーチェを襲われればただでは済まないだろう。

 

 今は自分単独だと思わせる必要がある。

 

 クラードは《レヴォル》をコアファイター形態のままコロニーの外側へと周回軌道を取らせていた。

 

「……万が一にもベアトリーチェの位置関係を悟らせるわけには……」

 

 瞬間、火線が放たれ、クラードは《レヴォル》に位置取りをさせつつ、敵の背後を取るべく加速させる。

 

「悪いが、後れを取るわけにはいかない。このまま、一撃で終わらせる……!」

 

 側面に備え付けられたビームライフルを速射させ、敵陣を散開させる。

 

 目論み通り、それぞれの位置へと散開した敵編成へと《レヴォル》は突っ込み様に、腕を現出させ、敵を引っ掴んでそのまま制動をかける。

 

 スピードを殺して敵の隊長機らしき機体と視線を合わせたクラードは、その敵機編成が型落ちにも等しい《エクエス》であるのを感知する。

 

「……嘗めているのか。《エクエス》なんて、今さら!」

 

 四肢を開き、《レヴォル》がスタンディングモードに移行しつつ、敵の銃撃網を防ぐべく、掴み取った《エクエス》を盾にするが、その行動を打ち崩すかのように、一斉射撃が《エクエス》を嬲った。

 

「……馬鹿な。まだパイロットが乗っているはずだろう……?」

 

『隊長……後は任せます……』

 

 そんな声を接触回線に響かせて、《エクエス》が爆散する。

 

 もちろん、《レヴォル》を駆るクラードはまさか敵が乗っている人間を無視して攻撃を強行するなど思っても見ない。

 

 出遅れた自身を持ち直そうと、機体を横ロールさせ、脚部と腕に格納させていた小型火器を出現させつつ、弾幕を張っていた。

 

「少しでもこれで相手が気圧されてくれれば……」

 

 しかし《エクエス》編隊は気圧されるどころか、銃撃網を奔らせ、そのまま猪突してくる。

 

「自殺行為だ……こいつら何なんだ……?」

 

『道を開きます。隊長、アステロイドジェネレーターを射抜いて……』

 

 その言葉を皆まで聞かず、隊長機が突入してきた《エクエス》の動力を正確無比に撃ち抜く。

 

 至近で爆ぜた敵影に一瞬だけ眩惑させられた《レヴォル》へと、敵の隊長機がビームサーベルを発振させて斬り込んでくる。

 

「……こいつら、何だ?」

 

 応戦のヒートマチェットを薙ぎ払い、そのまま敵の胴体を割ろうとするも、その時には相手は基点とした部位をそのまま用いて、曲芸師さながら頭上で回転し、背後を取るのと同時に刃を払う。

 

 習い性の神経がもう一丁のヒートマチェットを即座に逆手で引き抜かせ、応戦のスパーク光が散る中で、相手の声が弾けていた。

 

『よく動くじゃねぇの。コード、《レヴォル》って言うのはよぉ!』

 

「接触回線……! 貴様……何でだ。何で、味方まで撃った。そんな事をしてでも《レヴォル》を撃墜したいのか!」

 

『ああ、したいねぇ、是非とも! それに、俺の部隊はよぉ……みんなとっくの昔に拾っただけの命さ。俺に是非とも利用してもらいたいって言う、奇特な命ばっかなのさ!』

 

「……冗談……!」

 

 そのまま《レヴォル》の膂力で払い除け、クラードはビームライフルを速射させて敵との距離を稼ごうとするが、相手はその射線をまるで予見したように潜り抜けて、そのまま至近距離での格闘戦に持ち込もうとする。

 

「……このままでは……」

 

 時間をかけるわけにはいかない。ベアトリーチェを守るためにも、何よりも《レヴォル》の現状では損耗率のほうが高いはずだ。

 

「ミラーヘッドジェルの消耗は七割。……少し危ない数値だが……いけるか?」

 

 迷っている暇はない。相手の刃が肉薄した次の瞬間には、クラードはミラーヘッドの蒼い光の残滓を引きながら加速し、敵の直上を取っていた。

 

「獲った……!」

 

 そう確信していた。

 

 敵の《エクエス》はミラーヘッドも積んでいない型落ち機。

 

 このまま《レヴォル》の攻撃網を叩き込めば――そう考えていたクラードは敵機が後退でも、ましてや恐れ戦くでもなく、この局面で接近を選んだ事に驚愕する。

 

「……馬鹿な。死ぬぞ」

 

『悪ぃが、俺はミラーヘッドでだけは死なんのよ』

 

 その意味を解する前に、敵《エクエス》の腕が固められ、手刀を払いかけたミラーヘッドの残光のうち一つの胸元を叩く。

 

 そう、何でもない。

 

 ただ純粋に、ミラーヘッドの分身体を拳で叩いただけだ。

 

 だがそれだけで、クラードはエラーに見舞われるコックピットの制御系統に震撼していた。

 

「……何だ? これは……まさか、ミラーヘッドエラーだって? 今の今まで起こらなかったのに、《レヴォル》にエラーなんて……」

 

『――ほう、相当に自信家だったんだな。あるいは敗北を知らなかったのか? いずれにしたって、お前さん、ちぃとばかし迂闊だぜ? この距離は、もう手遅れだ』

 

 その言葉に認識を新たにする前に、赤色光とテーブルモニターに表示されるエラー参照にクラードは目を戦慄かせる。

 

「……お前は……何なんだ……!」

 

 

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