機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第61話「半端者の意地」

《エクエスルージュ》が旋回軌道に入り、四肢を稼働させて最小限度の機動力で弾道を回避していた。

 

 直後にはデブリへと突き刺さった弾丸が爆ぜている。

 

 ダビデは下方へと逃れつつ、応戦の銃撃網を張る。

 

 だが、相手は既に射程を心得ている様子で、機体をロールさせながら半身になってビームサーベルを抜刀してみせた。

 

 その勢いに対して、ダビデも剣を抜き、干渉波のスパーク光が散る中で相手を睨む。

 

 漆黒の塗装を施された機体はデュアルアイセンサーを持ち、黄色に輝くゲインを引き上げている。

 

 その機体形状そのものは《エクエス》と大差ないシルエットであったが、各所に備え付けられた加速を補助するバーニアが稼働し、想定よりも膂力が大幅に設定されている。

 

 振り落される――その感覚で振り払った相手へと速射ライフルで照準。

 

 すぐさま敵影は上方へと逃れ、応戦の銃撃を見舞うが、狙い撃たれるほどの腕ではない。

 

 跳ね上がった機体が刃を握り、加速度を上げて相手へと肉薄し、唐竹割りの一閃。

 

 しかし機動力で勝る相手は、打ち下ろされた一撃を華麗に避け様に片腕の陰に隠した銃口を《エクエスルージュ》へと向けていた。

 

 完全に振り下ろした形の《エクエスルージュ》は隙だらけだが、簡単にはやらせない。

 

 制動用の推進剤を直近で焚き、相手の眼を幻惑させる。

 

 その隙に距離を稼ぎ、デブリ帯へと潜り込む。

 

 容易くは撃てないはずだ、と判じたダビデに反して、相手はデブリの陰に隠れるでもなく、何とデブリを踏み台にして跳躍してみせていた。

 

 その速度、伸びやかさは《エクエス》の比ではない。

 

 瞬間的に距離を詰められ、刃を見舞うも、それは場当たり的な対処であった。

 

 相手の居合いの速度のほうが遥かに速い。

 

 そのまま機体を薙ぎ払われたところで、ブザーが鳴り響いていた。

 

『戦闘シミュレーション終了。リンクを解きます』

 

 デブリの暗礁宙域の背景が溶け、全てはこの格納庫で起こった出来事なのだとダビデは関知する。

 

「……いい試合でした。グラッゼ・リヨン大尉」

 

 返答しつつ、シミュレーター用のパイロットスーツの密閉感からようやく逃れたダビデはインナーに風を通す。

 

『なに、私もまだまだであった。いいや、それよりも君の腕が鋭くなったと、評するべきかな』

 

「お世辞はいいですよ。私は強くなっていません。大尉こそ、《レグルス》をもう物になさっている」

 

 対面に佇む漆黒のMS――《エクエス》の発展形たる《レグルス》は操り手であるグラッゼの意識を受けてデュアルアイセンサーを輝かせる。

 

 その腹腔のコックピットハッチを開き、グラッゼは格納デッキを浮遊する。

 

『ティーチ。少し反応が軽いな。もう少しペダルを重めにしてくれると浮足立たなくって助かる』

 

『了解です。……にしても大尉ってば、これ、《エクエス》の時よりもだいぶ重くしてあるんですよ? 筋トレでもなさるつもりですか、MSのコックピット内で』

 

『君らが望むのならばそれもいいな』

 

 軽口を叩きつつ、メカニックチームに囲まれたグラッゼは笑いも織り交ぜながら自分のほうへと接近する。

 

 コックピットハッチを開け、挙手敬礼しようとしたところで手で制される。

 

「私との模擬戦を買って出てくれるのは君くらいなものだ、DD。その有り難さ、痛感する」

 

「いえ、私にとっても有益ですので。出来れば《エクエスルージュ》の機動性をもう少しあげたいのですが」

 

「《レグルス》に乗ればいい。君ならばエース級だ」

 

「……そう容易くは行きません。まだトライアウトジェネシスでは配備数も少ない機体です。そう易々と私が乗っては部下にも示しがつかない」

 

「堅いとは、思うがね。だが《エクエスルージュ》、死合ってみればなかなかに手強かった。いいリハビリになりそうだ」

 

「リハビリ、ですか。大尉はやはり、あのガンダムと死合うつもりなので?」

 

「それが目下のところの目標だな。クラード君と死合えなければ私としても仕上げたものも錆びると言うもの。次の戦闘の機会に向けて全力で自分を鍛え上げていく」

 

「……敵いませんね、大尉には。その向上心、部下に爪の垢でも煎じて飲ませたいくらいです」

 

「誰もが皆、私になれるわけでもない。適材適所がある。それを忘れてはいけない」

 

「心得ております。……ですが、ガンダムとやり合おうと言うのは……何も大尉だけの特権ではなさそうで」

 

 ダビデが振り仰いだ先に居たのはガヴィリアであった。

 

 彼は先ほどからじっと、こちらへと視線を注いでいる。

 

「……准尉か。彼も次の攻撃隊に?」

 

「ええ、参加したいと。《エクエス》でいいのか、と言えばいいとの事でしたので」

 

「驚いたな。謙虚になったのか」

 

「大尉のお陰でしょう? ……RM施術を受けたいと癇癪を起していたそうではないですか」

 

「言ってやるな。男の矜持がある」

 

「それはプライドですか。それともエゴですか。……いずれにしたところで、一人でも戦力が欲しいのは実情。前回の長距離狙撃砲の件も片付いていません。我々以外にも、あの戦闘艦を狙っている存在が居る」

 

「その事なのだが、進展があったらしい。私はこの後、上官の下へと行くが」

 

「遠慮しておきます。大尉が今次作戦の要なのですから。私はただの士官です」

 

「私もここではただの士官だよ。君よりかは後輩だ」

 

「お人の悪い……。そういうところですよ、大尉」

 

「失礼。気を付けておこう。ではDD、勝利の栄光を期待する」

 

 ダビデは今度こそ挙手敬礼してグラッゼを見送っていた。

 

「……それにしたって、エンデュランス・フラクタル……。まだコロニー、シュルツに居るとの噂、本当のなのだとすれば随分と太い……いや、補給の目処が立っているのか」

 

「少尉! 《エクエスルージュ》の調整行います。メンテナンス状態にしておきますんで!」

 

「了解した。機敏性を少し上げてくれれば助かる」

 

「ミラーヘッドだって言うんでしょう? やりますよ」

 

 整備班の声を受けてダビデは元の「トライアウトのDD」としての冷徹さを振り向けていた。

 

「十分で頼みたい」

 

「承知しました。皆の者! 五分で仕上げるぞ!」

 

 その言葉に満足しつつ、ダビデは先ほどからずっとこちらを見つめていたガヴィリアへと降り立つ。

 

「な、何かね……少尉……」

 

「口の利き方は相変わらずなっていませんね、ローゼンシュタイン准尉。あなたはもう、私の部下として、ここでは扱うと言いました」

 

「だ、だが……まだガンダムとの戦いは決していない! 私も同行させて欲しい! 今度は下手を打たない!」

 

「……下手を打たれれば困るのはグラッゼ・リヨン大尉です。私に言う前に大尉に誓えばよろしいでしょう」

 

「……大尉殿は苦手なのだ、私は……」

 

 男同士特有のものなのだろうか。ばつが悪そうに視線を背けたガヴィリアに、ダビデは言いやっていた。

 

「一つ聞いておくと、今回の敵がガンダムだとは限りません。相手も戦力を渋ってくる可能性だってあります」

 

「……私相手に、手を抜くと……」

 

「誰相手でもでしょう。あの戦闘艦は着実に戦力を整えつつある。そんな時に、以前のような無鉄砲さで飛び出されれば敵わないのです」

 

「……言ってくれるな」

 

「ローゼンシュタイン准尉。私はあなたが部下として特別劣っているとは思っていません。しかしトライアウトジェネシスの一員としての自覚は持っていただきたい。我々はスタンドプレーで成り立つ集団ではないのです。大尉の《レグルス》を中心として、我々の《エクエス》編隊によるミラーヘッドの同時展開。これであの戦闘艦を足止めする。相手の主力がガンダムだと言うのなら、飛び出してきたところを撃つのはあなたではありません」

 

「……あの黒い旋風か……」

 

「大尉は実力者です。あなたとは物が違う」

 

「……持たざる者だと笑いたいのか、少尉……」

 

「いいえ。先にも述べた通り、我々は連携でガンダムの足を取ります。その際に邪魔にならなければ結構。別段、あなたに特別な期待をしているわけでもなければ、有力な戦術を実行してもらわなくてもよろしい。トライアウトの一翼として、邪魔さえしなければいいのです」

 

「……簡単そうに言うがな。私はあのガンダムに三度も敗走したのだぞ……! 因縁だって感じてもいいはずだ」

 

「ならば余計に下手を打つ事だけはやめていただきたい。三度の敗走が四度の失態になれば話は変わってくるでしょう」

 

「……私を更迭するかね、少尉……」

 

 拳を骨が浮くほど握り締め、震わせるガヴィリアにダビデは冷徹に返答する。

 

「いいえ。それは私の仕事ではありませんので」

 

 それだけ言い置いてダビデは踵を返していく。

 

 その背中に忌々しげな言葉だけがかかっていた。

 

「……女に何が分かる……半端者のDD」

 

 ――半端者。そう渾名される事も、もう珍しい事ではなくなった。

 

「……見てくれだけの女なんて、どうせ戦場では役に立たない。私は、ならばDDでいい。冷徹者、男でも女でもない、DDで」

 

 

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