機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第69話「観測する者よ」

『レヴォルの意志――貴方方がレヴォル・インターセプト・リーディングと呼ぶそのシステムには何か、致命的な欠陥があるのでは?』

 

 そう提言したピアーナの声に、サルトルは飲んでいた携行飲料をむせていた。

 

「大丈夫ですかー? 技術顧問」

 

 同じように《レヴォル》から概算される言語を読み取っていたトーマに心配されて、サルトルは何度かむせてから応じる。

 

「ああ……ったく、死ぬかと思っただろうに。……ピアーナ嬢、それを他の連中に吹聴するなよ」

 

『何故です? これは貴方方の生命線に直結しますが』

 

「……おれ達だってレヴォルの意志の明確な言語化は避けているんだ。それはあのクラードだって同じはずさ」

 

『クラードが、貴方方と、同じく……《レヴォル》から結論を先延ばしにしているとでも?』

 

「ああ、どうにもその気はある。と言うか、そうじゃなくっちゃあいつの行動原理の説明もつかない」

 

「実際、クラードさんってそんな感じですからね。我々に分からない事でもクラードさんなら《レヴォル》に関して分かっちゃうんじゃないですか?」

 

 同じように端末のキーを叩いて概算作業を行っている整備士のエーリクの言葉に、ピアーナは心底理解出来ないとでも言うような声を飛ばす。

 

『だとすれば……クラード、彼の行動原理は不明なままじゃないですか。総員に共有化のされていない価値観をバネにして、それで戦っているとでも?』

 

「ああ、案外、その感じだろうさ。ユーリ、調子はどうだ?」

 

「ぼちぼちですね。前回の《アルキュミア》との連携、めっちゃよかったですよ。あれのデータが今後活きてくれば」

 

「おれ達の戦いは少しずつ楽になってくれる、か。……実際、どうなんだ? ライドマトリクサーの身分で他人に専用のMSを貸し出すって」

 

『……いい気分じゃないですね』

 

「そうだろう? クラードも似たような事を感じたんだろうさ。シュルツでの事、観測出来たのは当事者だけだ。クラードは相当参っていたはずさ。だから艦長だって休暇を出したんだろう」

 

『休暇……そんなもので、あの鋼鉄のライドマトリクサーがどうこうなるとでも?』

 

「実際、《アルキュミア》の調整の時間を稼ぐ事は出来た。結果論とは言え、万々歳だ」

 

『……気に入りませんね、そういう結果が良ければ全てが、みたいなの』

 

「だがこの世に残るのは結果だけだろうさ。ピアーナ、お前さんだってクラードが居なければいつまでもデブリ宙域を漂って、死ぬ事も出来なかっただろう。そういう点ではもう少し感謝をだな……」

 

『あり得ません。第一、何であのクラードに感謝なんて? 彼を蔑みぞすれ、温情を与えてやる事なんてありません』

 

「そう決めつけてやるなって。実際、前回の戦闘では上手く転がったんだ。アルベルトの《マギアハーモニクス》は? 進捗どうなってる?」

 

「こっち、ハード面での洗い出ししてますけれど、ちぃーとヤバいっすね。このままじゃ戦闘のログが霧散しちゃいます」

 

 トーマは別の端末に浮かび上がった《マギアハーモニクス》のステータスを呼び出し、片手ではファストフードを噛り付いている。

 

『……トーマ様。少し品がないのでは?』

 

「あーしはいっつもこうなんで。第一、メシなんて食える時に食っておかないと持たないっすよ」

 

「おれ達整備班は戦闘に関しちゃどうにも出来ん。だから貢献出来る時に貢献させてもらう。これも仕事だ。ピアーナ嬢、あんただってそうのはずだ」

 

『わたくしは……。そもそも、レヴォルの意志がどうのって言う話なんじゃ……』

 

「問題があるシステムなのは重々承知だよ。……だがまぁ、クラード以外をそこまで乗り手だと認めないって言うはずだったのに……そういや、お前ら。ハイデガー少尉を知らないのか? あの人への手土産もシュルツで手に入ったってのに」

 

 格納デッキに陣取るのは高出力の《エクエス》の改修機であった。

 

『それがハイデガー少尉の?』

 

「ああ。こいつはすごいぞー。なにせ、あの超長距離狙撃型の《プロトエクエス》のデータを反映させた、狙撃機能特化型の《エクエス》のカスタムだ。それプラス、格闘兵装にも充実を加えた最新式さ。見た目は《エクエスガンナー》から大きく外れちゃいないが、それでもこいつの実力を見れば《レヴォル》とそう比肩しても違いはないはずなんだがなぁ……」

 

「ハイデガー少尉、こっちに顔出さなくなりましたね」

 

 ユーリの論調にサルトルは腕を組んで唸る。

 

「……うーん、あの人もあの人で統合機構軍の派遣した軍人だから、おれ達がその道をとやかくは言えないんだが……思い詰めていた様子ではあったからなぁ」

 

「《エクエスガンナー》の戦果も決して悪くはないはずなんですけれどね。《マギア》だって別に敵の頭を取ってきているわけじゃないですし、そのほとんどがクラードさんに頼り切っていたオペレーションなのは事実ですし」

 

「……だからってなぁ、ヘソ曲げる事はないだろうに」

 

『ハイデガー少尉の乗艦記録はありません。シュルツに残ったのでは?』

 

「……だとすれば、あーし達は余計に何も言えませんね。だって派遣ですもん、あの人」

 

「だよなぁ……統合機構軍の命令がかかれば、あっちだってビジネスなんだ。そっちになびく事だってあるだろ」

 

「……いい腕をしていたんですけれどねぇ」

 

『整備班が渋面を突き合わせていたって彼は来ませんよ。それに、ベアトリーチェももうシュルツからだいぶ離れています。現宙域は敵影はなし。今のところ航路に支障はありません』

 

「とは言ったって、トライアウトがいつ仕掛けてこないとも限らないし」

 

「おれ達の仕事はスクランブルがかかれば、その瞬間には帰還を祈るしか出来ん。無力なのは思い知っているつもりだが……こうも酷だときついな」

 

「あ、ラジアルさんの《オムニブス》、ちょっとペダル傾いていません? こっちに修正したほうが彼女も動かしやすいんじゃ?」

 

 トーマの提言にサルトルはデータを参照してから他の整備班に声をかける。

 

「《オムニブス》の整備を頼んだ。今の情報は暗号化して共有! 慌てろよ、次いつ出るか分からないんだからな!」

 

 返答が帰ってくるのをサルトルは後頭部を掻いてピアーナへと言葉を振る。

 

「とまぁ、忙しいっちゃ忙しいんだ。ピアーナ嬢、あんたにも出来る事はやってもらうぞ?」

 

『《アルキュミア》のデータならば渡した通りだと思いますが』

 

「……お前さん、おれ達を嘗めているな? RMなんだ、少しは技術面で手伝えって言っているんだ」

 

『提供したデータ以上は手伝いたくありません』

 

 ぴしゃりと言い放たれてしまえば、サルトルも追及出来なくなる。

 

「ま、プライバシーと言えばそうっすけれどねぇ」

 

「トーマ、お前が同調してどうする。メカニックの味方だろ」

 

「その前にあーし、生物学上女なんで。その辺よろしくーっす」

 

「女の味方は辛いな、おい」

 

『これが友情です』

 

「……どの面さげて言ってるんだ、ったく……。だがまぁ、今は納得はしよう。しかし飲み込んだわけじゃないからな。いつかはデータの提携の一つや二つくらいは承服してもらわないとこっちの作業だって進まないんだよ」

 

『レヴォル・インターセプト・リーディング』

 

 不意に言われてサルトルは疑問符を浮かべる。

 

「……何だって?」

 

『どうしてここまで他者を拒むシステムになっているのか、それだけが気にかかります。前回、解析に回した波形パターン。あれはまるで……生物のそれに近い。脳波のようですらありました』

 

「脳波、か。……RMでなければピンとも来ない要素だな」

 

『あれは結局何なのです? ただのアイリウムにしてはあまりにも他と違い過ぎる。サルトル技術顧問、貴方は知っていて黙っているのでは?』

 

「……守秘義務がある。クラードの居ない場所では話せん」

 

『ではクラードに直接聞いてみるとしましょう』

 

 通信回線が一方的に切られ、サルトルは舌打ちする。

 

「……ったく、勝手な奴が多くってオジサンは困るよ」

 

「この艦はそうでなくったって皆さん、自由ですからね。自分もまさか、ラジアルさんが《オムニブス》に乗るなんて言い始めるとは思いませんでしたよ。ヴィルヘルム先生に直談判だったんでしょう?」

 

「……まぁな。《オムニブス》は元々斥候用の機体だ。誰かが乗らないといけなかったし、出来るならそれはライドマトリクサーがよかったのは本音なんだが……オペレーターが前に出るとちょっと調子が狂うな」

 

「ラジアルさん、華っすもんねー」

 

「……何だ、トーマ。何か言いたそうな口調だな」

 

「別に何でもないっすよ。あーしはただのメカニックっすから」

 

「……その前に女の味方なんだろ? ……メカニック同士で隠し事なんてなしにしよう。そうでなければ気持ちよく作業なんて出来ないからな」

 

「それを言わないのもまた、女子なんすよねー」

 

 思わぬ反撃を食らってサルトルはむっとする。

 

「……分からんよな、若いってのは」

 

 

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