機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第70話「忌避すべき毒」

「……レミア。レミア!」

 

 ハッとしてレミアが突っ伏していた艦長の執務机から顔を上げる。

 

 クラードはそんな彼女を慮る声を出していた。

 

「大丈夫? 全然寝てないみたいだけれど」

 

「ああ、クラードね。大丈夫よ。これでも四時間は寝たわ」

 

「……艦長の睡眠時間を削ってまでオペレーションに尽くすべきじゃない」

 

「そうもいかなくなってきているのよ。……書類仕事だけでも手が追われるのに、おまけに軍警察の胡乱な動きをちらつかせられたんじゃ、眠るに眠れないわ」

 

「……トライアウトは俺が排除する。レミアは寝ていたっていい」

 

「心強いけれどね、今は甘えられないの。艦長としての職務が本格化してきたと言うべきかしら。……シュルツから強硬策を取って出港したのを快く思っていない一派が居ると思ってちょうだい」

 

「……本社組か」

 

「その本社組のシグナルが途切れてもう二日。……逆に眠れないわよ。来るはずだった査察もぱぁだって言うんだから」

 

「……トライアウトにやられたと言う線もあり得る」

 

「あるいはもっと厄介な連中にでも絡まれているのか……。いずれにせよ、本社の査察が遅れている分には問題ないけれど、それはあなたにとっての……いいえ、違うわね。ベアトリーチェにとっての痛手となる」

 

「……例の《レヴォル》の改修案か」

 

「そのコンテナも行方不明となれば胸中穏やかじゃないのは分かるわよね? ……本社の査察があって最悪私が更迭になってもそれさえあればベアトリーチェは持ち直せる。月航路までの不安が少なくなったんだけれど、今は不安が募るばかり。このままじゃいずれ《レヴォル》だって頭打ちが来る」

 

「俺は誰にも負けない」

 

「それは根性論よ。あなたの振り翳すものじゃない」

 

 精神論で勝つと言っているのは今のレミアの状態を癒すのには向いていないのだろう。

 

「……だがだからと言って何日寝ていないんだ。四時間と言っても仮眠以下だろう」

 

「あなただって何日も寝てないでしょう? デザイアでの勤務中はほとんど寝ていなかったって報告があるわ」

 

「……お喋りも居る」

 

「結構報告だけは怠らないから重宝しているのよ? 凱空龍、だったかしら、彼らは」

 

「……俺はエージェントだ。あんたは艦長、職務が違う」

 

「重責は似たようなものだとは思うけれどね。……ねぇ、クラード。前回の戦闘時に仕掛けてきた《レグルス》とか言う新型機、あなたはどう見ているの?」

 

「あの動きは……恐らくは最初に仕掛けてきた奴と同じだ。声も聞いた。……黒い旋風の……」

 

「グラッゼ・リヨン。データはなるべく集めておいたけれど、あまり役に立たないかもね。性格分析じゃ、彼みたいなのはトライアウトに属さないと出ているし」

 

「それでも軍警察にこだわってベアトリーチェを追う理由くらいは出てくるだろう」

 

「案外、単純かもしれないわ。あなたを追うため、それで納得出来ない?」

 

「意味が分からない」

 

「……でしょうね。いいわ、グラッゼに関して言えば私が報告書を仕上げておく。あなたは会敵しただけだもの。本来、《レヴォル》のライドマトリクサーの仕事じゃないし、何よりもあなたには似合っていない。《レヴォル》のライドマトリクサーとして戦うのが板についているあなたにはね」

 

 レミアは自分の事を慮ってくれているのは分かるが、それでも今は艦長の職務のほうが重要である。

 

「……俺は誰にも負けない。レミア、あんたは休め。その間に、俺が連中を蹴散らしてやる」

 

「強い言葉は結構だけれど、やれないと意味ないのよね。……私にだって責任はあるもの。あなただけを頼りにするわけにはいかないわ」

 

「……だがそれも、結局はベアトリーチェありきの話だ。艦長職はこの艦と運命を共にする者のはず。適度に休まなければ沈むのは何も俺達だけじゃない」

 

「それ、休む事を拒否し続けたあなたが言える義理? ……まぁいいんだけれどね。私からしてみれば、あなたもカトリナさんも、あまりにも先急いでいるもの」

 

「……何で俺とカトリナとやらが一緒に出てくる」

 

「あら? 不服だった? 案外、人間らしいじゃない、エンデュランス・フラクタルの特級エージェントも」

 

「……意味が分からないだけだ。それに委任担当官だとか言っても、あれはまだ全然足りていない」

 

「その足りていないのが、彼女のいいところだと思うけれどね。何も、充足だけが人間にとってよりよいものだとは思えないわ。不足もまた、人間を仕上げるのに必要なものでしょう」

 

 不足もまた必要――と言うのはどこか逃げ口上めいていたが、それでも今の自分にとって不足はただの無意味でしかない。

 

「《レヴォル》の改修案も持ち越し、その上で敵との遭遇率だけが上昇する。……いい気分じゃない」

 

「それはそうかもね。でもクラード、あなたには力がある。その力をよりよく成熟させるためには、少しの困難も必要なのよ。まぁ、ベアトリーチェも出港してから先、困難だらけであるけれど。それにしたってピアーナの存在や、凱空龍の皆はよくやってくれているわ。もちろん、あなたもね」

 

「……面倒の種がそうはならなかったのならば、まだマシなだけだ」

 

「素直じゃないわね、相変わらず。コーヒーでも飲んでいかない? 寝覚めにはいいわよ?」

 

「いや、これ以上俺が長居しても迷惑なだけだろう。レミア、俺は《レヴォル》のところへと行く。いつでも戦闘に出られるように」

 

「……気負い過ぎないでね。あなたの身体はあなただけのものじゃないんだから」

 

「気負うなんて、それは俺らしくはないだけだ」

 

 艦長室を後にしたクラードは不意打ち気味に角を折れたところでカトリナと遭遇する。

 

「……クラードさん。どうしたんです? 艦長室から来たんですか?」

 

「あんた、また書類仕事をレミアに押しつけようってのか」

 

 抱えている書類を見やって嘆息をついた自分にカトリナは、いえ、と応じる。

 

「……これは私の仕事なのでっ。……と言うか、レミア艦長、ずっと缶詰めじゃないですか。このままじゃまずいんじゃないかって、バーミット先輩から助言をもらったんです」

 

「何をするんだ?」

 

 カトリナがじゃーんと取り出したのは香水であった。

 

「バーミット先輩のお気に入りのナンバーらしくって。これなら少しでも元気が出るんじゃないかなって」

 

「……女って香水で元気出るのか。単純だな」

 

「クラードさんは? これからどうなさるんです?」

 

「どうもこうもないよ。俺は《レヴォル》で敵との遭遇に際しての警戒。それ以外にない」

 

「えーっ! もったいないですよ! どうせなら、ちょっとブレイクタイムにしません? 現状、ベアトリーチェは自動航行モードですし、電子戦ならピアーナさんが担当していますから私達の仕事は少ないですし」

 

「……私達のって、一緒にしないでくれる? 俺はやる事があるんだ」

 

「《レヴォル》とずっと喋っていたって行き詰っちゃいますよ。……少しは私とお茶、駄目ですか?」

 

 カトリナの目は僅かに潤んでいる。

 

 何か聞いて欲しい事があるのだろう。

 

「……委任担当官が泣き落としとか」

 

「食堂に行きましょうっ! 私、いつも似たような食事なんでクラードさんが何を食べるのか楽しみですっ」

 

「人が何を食べるのかなんて楽しみなのか?」

 

「分かりません? ……だってクラードさん、何か食べています?」

 

「ライドマトリクサー施術の一部として空腹は感じにくくなっている」

 

「でもゼロじゃないんでしょう? だったら何かお腹に入れないと」

 

「……つくづく疑問なんだけれど、あんた、そんな事して何が楽しいんだよ」

 

「へっ? ……だって誰かと食事するのって楽しくないですか?」

 

「楽しいだなんて思った事はない。食事は最小限度でいいんだ。下手に誰かと会食したって、面倒ごとが増えるだけなんだし」

 

「……むーっ……、クラードさん、本当に夢がないんですね」

 

「どう言われようと結構だけれど、食堂なんかに行ったところで、意味があるとは思えない」

 

「意味とかじゃないんですぅー。そういうの分かんないんだから、もうっ」

 

 意味ではないとすれば何だと言うのだろう。そこに何か特別なものを持ち込もうとでも言うのだろうか。

 

 食堂はそこそこ空いていて、カトリナはいつも座っていると言う席に書類を置いて予約しておく。

 

 クラードは離れて座ろうと思っていたが、カトリナにその首根っこを押さえられていた。

 

「対面に座ってくださいよ。何のための委任担当官なんですか」

 

「……委任担当官との職務には食事の内容まで含まれていないはずだけれど」

 

「そういうんじゃなくって……! ……クラードさん、バーミット先輩の言う通り、お堅いんですね」

 

「バーミットの言う事を信じるのか。あいつ、下手な事ばっかり流布するんだからな」

 

「でも直属の先輩ですし、私からしてみればクラードさんだって立派な……そのぉー、立派な……」

 

「思いつかないんならそもそも言うなって話だろうに」

 

「うぅー……それは指摘されたらどうしようもないですけれどぉー……」

 

 コーヒーやそもそもそう言った嗜好品はセルフサービスだ。

 

 クラードは辛うじて自分が飲めるブレンドコーヒーを待っている間にカトリナが何かを注文しているのを横目にしていた。

 

「……コーヒー一杯でなびいたみたいで、何だか癪だな」

 

 そう言いつつクラードが席に戻ると、カトリナが持ってきたのは何と立派な食事である。

 

「……ブレイクタイムなんじゃなかったのか」

 

「あっ、そのぉー……お昼抜いちゃってたんで、お腹空いちゃって……」

 

「何か腹に入れなくっちゃいけなかったのはあんたのほうか」

 

 こちらがコーヒー一杯なのに対し、カトリナは定食を頼んでいる。

 

 その頬が僅かに紅潮していた。

 

「そのぉー……こいつ、こんなに食うんだ、とか思ってますよね?」

 

「別にどうとも思ってない。ただ、馬鹿みたいだなとは思う」

 

「……それって、思っているって事ですよね? ……はぁー、もう。でも美味しそうだから、いいや」

 

 いただきます、と手を合わせてすすり上げている食べ物にクラードは関心を向けていた。

 

「……何だそれ。見た事のない食べ物だな」

 

「あれ? クラードさん、うどんを知らない……?」

 

「他所の食べ物なんて知らないよ」

 

「メジャーじゃないんですかねぇ……。私、東洋の血が流れているので、このメニュー大好きなんですよ? 天ぷらうどん付きA定食っ!」

 

「よく食うんだな」

 

「ほら! やっぱりそう思ってるー!」

 

 カトリナはそれでも目の前の定食をがつがつと美味そうに食べる。それが何だか今だけは単なる気紛れか、それとも自分にもその影響があったのか、クラードは頬杖を突いて尋ねていた。

 

「……それ、美味いの?」

 

「ふへっ? あ、とってもおいひんですひょっ!」

 

「食いながら喋るなよ」

 

 ごくんとうどんを飲み込み、カトリナは笑顔で言い直す。

 

「美味しいんですっ! 何て言うんですかね、私もちょっとその気はないと思ったんですけれど、艦内食って思ったよりも栄養があって……」

 

「あんたは作れないのか?」

 

「私? 私はそのぉー……料理って一品しか作れなくって……」

 

「それって何」

 

「……言ったら笑いますよ」

 

「笑わないから。早く言えって」

 

「……オムライス」

 

「……はぁ?」

 

 カトリナは羞恥に耐え忍ぶかのように、ぎゅっと唇を噛んで言い放つ。

 

「お、オムライスですよぉ! オムライスしか作れないんですぅー!」

 

「……オムライスって、卵でメシを包んだあれか」

 

「あ、あれ? 笑わないんですね」

 

「……笑うようなポイントでもないだろ」

 

「いや、でもこれ言うとそのぉー……大学の友達とかから笑われちゃうって言うおなじみパターンがあって……」

 

「俺はそのパターンじゃないって話だろ。オムライスとか、よく分かんないけれど」

 

「……クラードさん、オムライス食べた事ないんですか?」

 

「デザイアで半年、その前からずっと。俺はエージェントクラードだ。余計なものは食わないようにしている」

 

「……それって、お腹空かないって事ですか」

 

「何だよ。憐れむのなら好きにすればいい。俺は最低限度の栄養補給だけでも活動をし続けられる。だからどうだっていい話じゃ――」

 

 その時、カトリナが不意に立ち上がり、テーブルを叩く。

 

「駄目ですっ! ご飯食べないと力出ないじゃないですかぁ! ……分かりました」

 

「何が分かったって」

 

「食堂、ちょっと借ります」

 

「……何言ってんだ、あんた」

 

「クラードさんに! 本物のオムライス! 作ってあげますからっ!」

 

「……オムライスに本物も偽物もクソもないだろ」

 

「食堂でクソは禁止! ……食堂、お借り出来ますか?」

 

「いいですけれど……オムライスを作るって……」

 

「クラードさんが美味しくって美味しくって、それでどうしようもなくなっちゃって頬っぺた落ちちゃうくらいのオムライスを食べさせてあげるんですっ!」

 

「……何だそれ。人間の頬が物を食べたくらいで落ちるわけがない」

 

「物のたとえじゃないですか! ……まぁいいですよ。私、オムライスしか作れませんけれど、でもオムライスだけなら友達とかに言われました。プロ級だって」

 

 カトリナは髪の毛を括り上げ、エプロンを纏う。

 

「……おい、待て。俺はそれを食べないといけないのか」

 

「そう言っているじゃないですか。大丈夫です、物の二十分程度で出来上がりますから。ご飯と卵が三つ。それにケチャップとベーコン、あとはネギとほうれん草! それがあれば出来ちゃいますんで!」

 

「……何を意地になってるんだ。俺がそのオムライスを食べるとでも?」

 

「食べてもらいます! いいえっ、食べたくなるオムライスを作りますからっ!」

 

「……何だよ、それ」

 

 馬鹿馬鹿しいと一蹴するのは簡単だったが、クラードの網膜に焼き付いているのは先ほどのうどんを旨そうにすするカトリナの姿であった。

 

「……俺にも残っているのか。そんな真っ当さが」

 

「作りますよっ! じゃあまずは、ボールに卵を――!」

 

 割ろうとして激震がベアトリーチェ艦内を見舞う。

 

 想定外の衝撃に全員が姿勢を低くしていたが、クラードだけは冷静に事の次第を見守っていた。

 

「……敵襲」

 

『艦内、全域で戦闘警戒。聞こえているわね? クラード』

 

「バーミット。敵襲だな? 何者が仕掛けている?」

 

「……クラードさん」

 

 へたり込んだカトリナへと、クラードは一瞥を寄越す。

 

「……持ち越しになったな」

 

『エージェント、クラード。《レヴォル》の出撃許可が下りたわ』

 

「……出撃許可か。いずれにしたところで、俺が出るだけの話だ」

 

「ま、待って……! 待って、クラードさん!」

 

「……何。俺は戦いに行くだけだ。それだけが俺の存在理由なんだからな」

 

「そんな悲しい事……」

 

「悲しくっても理由がそれしかないだろうに。《レヴォル》が待っている」

 

「じ、じゃあその……私も待っていますっ!」

 

「……はぁ? 何言って――」

 

「その……縁起でもないかもしれませんけれど、普通にオムライスっ! 食べてもらいたいですのでっ!」

 

「……本当に縁起でもないな。帰ったら食う、それでいいだろう」

 

 それだけ言い置いて、クラードは格納デッキを目指す。

 

 既に戦闘機械へと変換した己の自我を持て余しながらも、クラードは声を走らせていた。

 

「……ピアーナ、聞いているんだろう。敵は何者だ」

 

『あら? その辺りは聡いですのね』

 

「今の衝撃……ただの敵じゃない」

 

『そうですわね。恐らく最悪の敵襲となった事でしょう。わたくしはあれを、データでしか知らない』

 

「……何を言っているんだ。《レグルス》なら前にも遭遇した――」

 

『《レグルス》ではありません。あれは、宇宙の深淵を覗く魔そのもの――』

 

「クラード! 《レヴォル》、スクランブルならいつでも行ける!」

 

 サルトルの声を聞きつつ白衣を預け、パイロットスーツに袖を通す。

 

「何なんだ……。いつもの落ち着きがないように思えるが……」

 

「それもその通りだ。何だって……この宙域に出やがった……!」

 

 忌々しげに語るサルトルの横顔の焦燥感に、クラードは瞬時に敵が想定外である事を悟る。

 

「……《レヴォル》で先行する。敵対行動中の相手なら簡単に殺せる」

 

「いや、あれは……。殺せるとかそういう次元で考えていいのか……」

 

「……何だ、サルトル。いつになく弱気だな。何があったって……」

 

『クラード。聞こえているわね?』

 

「バーミット。あんたも何だ。声を強張らせて……」

 

『《レヴォル》で出撃後、ベアトリーチェは旋回し、この宙域を離脱挙動に入るわ。あんたは《レヴォル》で敵を少しでも抑えて。そうじゃないと……喰われる』

 

「……だから何の事を言って――」

 

 そこで不意に、脳髄に響き渡ったのは宇宙の深淵を貫く怨嗟の声であった。

 

 頭蓋が割れそうな激痛が突き立ち、クラードは一瞬だけテーブルモニターに突っ伏してしまう。

 

「……何だ、この、感覚は……」

 

『コミュニケートモード限定発動。“クラード、こちらも感じている。これは……恐れ、というものか”』

 

「《レヴォル》? 俺が指示していないのにコミュニケートモードに入るなんて」

 

『“……参ったな。あれを目にすれば嫌でも、生存本能を叩き起こされる”』

 

「《レヴォル》……?」

 

『《レヴォル》を緊急射出カタパルトに移送? 馬鹿言うんじゃない! クラードに死ねって言っているのか!』

 

 言い争いをし始めたサルトルの怒声はいつになく真剣であった。

 

『仕方ないのよ。あれを前にしてしまった以上は。……本来ならばあり得ない邂逅、こんな局面で行き遭うなんて思っちゃいない……』

 

「レミア? 何だって言うんだ。全員、何が起こっている……!」

 

『“――敵が来るぞ、クラード。我々の敵だ”』

 

「《レヴォル》、お前は……何を言って……」

 

『コミュニケートモード強制終了。現時刻より、レヴォル・インターセプト・リーディングは敵存在の抹消に入ります』

 

「存在末梢? ……それは俺の許可がなければ下りないはずだ」

 

『《レヴォル》はこれより敵存在の抹消を優先し、それ以外のモードを優先順位から外します。敵性存在を確認。レヴォルコアファイターは全ての射出権限を専任RMに移行』

 

「……何が起こったって……!」

 

 クラードはおっとり刀で《レヴォル》へと可変腕を接合させ、そして《レヴォル》の視野と同期した視界の中で、敵影を捉えていた。

 

 ――瞬間、絶句する。

 

 ――血液が凍り付く。

 

 ――心臓がその鼓動を収縮させる。

 

「……あれ、は……」

 

 あり得ない。

 

 だが目の前に展開するそれは、遭遇するはずのない敵意。

 

 宇宙の常闇を無数の砲台から放射される光芒で引き裂き、怒りの雷撃が周辺宙域を打ち砕いている。

 

 今だけは、無音の宇宙が生易しいくらいだ。

 

 それほどまでに、相手は憤怒に沈んでいる。

 

 痩躯は巨大砲台を使役し、ベアトリーチェを見つけるなり、砲撃網を絞って宙域を手繰っていく。

 

「……MF02、《ネクストデネブ》……。だが何でだ。何であれが……月軌道から離れてここまで来ている……」

 

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