機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第72話「真実への道標」

 喧騒ばかりが過ぎ去っていく中で、《アルキュミア》に乗り込んだアルベルトは発艦命令を待っていた。

 

「何やってんだ! 何が起こってる! すぐにオレと《アルキュミア》を出してくれ! クラードに危険が及んでいるんだろう!」

 

『駄目よ、今出せば二の舞になりかねない』

 

「二の舞……? クラードに何かあったのか?」

 

 苦々しい面持ちのバーミットにアルベルトは《アルキュミア》のスリッパを解除させ、そのままカタパルトデッキへと向かおうとする。

 

『待ちなさい! まだ待機よ! アルベルト君!』

 

「待ってられっかよ! ……今もクラードはヤバいんだろ? なら、そこに加勢出来ないで何が凱空龍だ!」

 

『……あなたじゃ敵わないわ。あれには……』

 

 バーミットの論調にアルベルトは歯噛みする。

 

「……そうやって、さ。あんたらいつもそうだよな。オレには出来ない、オレじゃ力不足だって……! でもよ! 負けると分かっていても、出なくっちゃいけない局面が、男にゃあるってんだ!」

 

『それはわたくしの命令で聞き届けられません。アルベルト様』

 

 不意に通信ウィンドウに割り込んできたピアーナに、アルベルトはうろたえる。

 

「……ピアーナ? ……《アルキュミア》を任せてくれたんじゃねぇのかよ!」

 

『だからと言って、死ぬと分かっている極地に出せる戦力は現状、一機もないのです。……他の《マギア》編隊の出撃もロックさせていただいております。電脳技師の権限で』

 

 その言葉の通りとでも言うように、凱空龍の面々の当惑の声が通信を流れていく。

 

『どうなってんだ! 何で出られない!』

 

『今出なくっていつ出るんだ!』

 

「……みんな……。それでも、全員、腹ぁ括った凱空龍のはずだ! 何だってここで邪魔をする!」

 

『――敵がMF、だと知ってもですか?』

 

 想定外の言葉にアルベルトは硬直する。

 

「……何、だって……」

 

『MF02、《ネクストデネブ》。それとクラードは戦っている。《レヴォル》単騎で』

 

 まさかそれほどの敵だとは思いも寄らない。

 

 だが、それならば余計に加勢が居るはずだ。

 

「……分かっていて、オレ達を出させねぇのか……」

 

『艦長命令でもあるのよ。《レヴォル》以外でMFとは戦わせられない』

 

「何で……! じゃあ何で《レヴォル》ならいいんだよ!」

 

『彼には資格があるのよ』

 

「レミア……フロイト艦長……?」

 

 まさか艦長直々に直通を繋いでくるとは思っても見ず、アルベルトはうろたえる。

 

『彼はいずれMFと……いいえ、全てのMFを破壊しなければならない任務を帯びていたわ。今はそれが早まっただけ。なら、余計な邪魔をして彼の足を引っ張るべきじゃない』

 

「……邪魔だって? 《レヴォル》だけであの四聖獣……MFとやり合せようなんて考えていたのか! あんた達は!」

 

『人でなしだと、思っていただいて結構よ。それでも、クラードと《レヴォル》なら勝ちの目があった』

 

「そんなわけ……。相手は当時の連邦艦を駆逐した化け物だぞ! そんなのと単騎でなんて……!」

 

『全ては流れの中に入っているのよ。《レヴォル》はいずれ、MF全機を破壊すべく行動するはずだった。今、時計の針を早めようと言うのなら、それに従うまで』

 

「分からねぇ……。分からねぇ、分からねぇ……ッ! あんたらはクラードを死なせてぇのか! クラードはたった一機なんだろう! たった一人なんだろ! ……そんなんで戦わせて……オレ達は高みの見物だとでも……」

 

『そうは言ってないわ。落ち着いてちょうだい、アルベルト君。理由は追って話します。今は、クラードの生存だけを』

 

「祈っておけってか……! ……あんたら、言わないようにしていたけれどやっぱり、どうかしている。《レヴォル》って何なんだ? クラードはあのMSに……どういう因縁を持っていやがる……!」

 

『説明するのには時間も状態も足りない。今はわたくしの指示に従い、艦内待機。それも艦長命令よ』

 

 ピアーナの冷たい声音を受けながらアルベルトは必死に奥歯を噛み締めて耐えていた。

 

 今もクラードは死にに行っているのかもしれない。そんな仲間に、かつて時間を共にした相手に。

 

 何も言えないまま、死んでいくのをよしとするのか。

 

 何も言い切れないまま、遠くに行ってしまうのを自分の中で無理やりにでも承服させるのか。

 

「……それは嘘だろ。アルベルト……ッ!」

 

 振り仰ぐなり、アルベルトはベアトリーチェのカタパルトを内側から叩いて無理やりこじ開けようとする。

 

『何やってんだ! 機体がオーバーロードするぞ!』

 

「それでも……ッ! 何も出来ないまま、もうあの背中を送り出すのだけは……御免なんだよ……ッ! オレはもう、二度も三度もクラードを失望させた! だが四度目は……! 今度ばっかりはもう失望させたくねぇんだ! あいつの隣で戦ってやりてぇ! それが凱空龍のはずだろう、だってのに……!」

 

 カタパルトがめきりと軋んだその時、不意の熱源警告がベアトリーチェを襲う。

 

「……何が……」

 

『何、アレ……』

 

 バーミットの通信越しの絶句にアルベルトは息を呑む。

 

『あれが……ダレト……!』

 

 忌々しげに放たれたレミアの声に、アルベルトは僅かに開いたカタパルトの先で佇む雷光の守護神、《ネクストデネブ》の構築した大虚ろを目にしていた。

 

「……ダレト? 月にあるって言うんじゃないのか……?」

 

『何てこった……。月とはまた違う、新たなダレトが開き、おれ達を飲み込もうってのか……』

 

 サルトルの論調にアルベルトは問い返していた。

 

「あれが……超空間だって言うんなら、このまま進むのはヤバいんじゃねぇのか?」

 

『……悔しいがその通り。《ネクストデネブ》を押し倒してでも月航路を取るつもりだったが……どうする、艦長。これはおれの一存じゃ決められないぞ』

 

『どうもこうもないわ。クラードはまだ戦っている。なら、戦力を温存したまま、ベアトリーチェは百八十度転回。別ルートを辿って時間を稼ぎます』

 

「……何言って! クラードが戦ってるんなら、その後ろを援護するのが艦の役目なんじゃ……!」

 

『青臭い理想論だけじゃ、MFと戦うなんて出来ないのよ。それくらい分かるでしょう、アルベルト君』

 

「だが……だがよ! クラードの戦いに報いる事も出来ないで、オレは……」

 

『……アルベルト。それに凱空龍の面々。今は出撃を許可出来ない。これは技術顧問であるおれの判断だ』

 

 サルトルの言葉が重く響き渡る艦内で、アルベルトは男泣きをしていた。

 

「クソッタレェーッ! 何だって、オレはまた……間違えて……」

 

『……ヘッド』

 

 こちらを慮るトキサダ達はしかし、どこかで割り切れているようであった。

 

 ある意味では当たり前。

 

 MFとやり合うなど正気の沙汰ではない。

 

 加えてダレトの出現とくれば並大抵のパイロットでは足手纏いになるだけだ。

 

「……それでも……クラードは行ったんだぞ……」

 

『そのクラードですが、つい今しがた、シグナルをロスト』

 

 ピアーナの言葉に返答したのは、自分より先にカトリナであった。

 

『ロスト? ロストって……! それってクラードさんが……死ん……』

 

『何とも言えないわ。でも、《レヴォル》のシグナルが急速にこの宙域から離れていく。ダレトに吸引されたのか、あるいは別の空間へと跳躍したのかもモニター不可。全てを拒絶している』

 

『……そん、な……。何だって、そんな……』

 

 自分よりもカトリナのほうが悲しんでいる。その事実にアルベルトは呆然としていた。

 

「……オレより短いのに、あの人は、クラードについて悲しめるんだな……」

 

 欠落と言うわけでも、まして羨望があったわけでもない。

 

 ただ単純に、自分以外にそんな人が居たのか、と意外なだけ。

 

 クラードは戦っている。戦って、そして自分を切り売りするように命を投げ出して、その果てに待つ奈落へと通じる未来に赴いた。

 

 だが、自分は何も出来ない。

 

 このベアトリーチェを守り抜くと言えもしなければ、クラードの隣に立ち続けると断言も出来ないのだ。

 

『……アルベルト君、後で艦長室に来なさい。教えてあげるわ。それに、カトリナさんもね。あなたは委任担当官として、知る義務があります』

 

『……どういう……』

 

『クラードが何故、《レヴォル》でこれまで戦ってこられたのか。そして何故、彼はMF相手に単騎で挑まなければならないのか。それらを全て、私に与えられた権限の限りを話しましょう』

 

 思わぬ、とはこの事でアルベルトは戦慄く視界の中で通信ウィンドウ越しのレミアが頭痛薬を飲み干したのを目の当たりにしていた。

 

『……また頭痛薬が増えそうね』

 

 

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