「パターンが見えるようだよ、悪意と言う名のパターンがね。マグナマトリクス社、視えない艦艇などどうかしているとは思うが、それはしかし、関知しなければの話。探り当てる事自体は難しくない。当たりさえつけていればね」
グラッゼは《エクエス》による機動を描きつつ、わざとトライアウトジェネシスの信号を発する。
これは投網。
この宙域にマグナマトリクス社の艦が存在する可能性が高い、という前情報を得ての狩場であった。
「ただし、確定情報ではない上に、嘘偽りを混じらされれば撃たれるのはこちら。ゆえに、私もダミーを混入させてはいる」
グラッゼの率いるのはミラーヘッドによる蒼い残像を引いた一個小隊であった。
常の自分ならばこのような受け身のミラーヘッドを使わないのだが、今回のように殊更に自分達の存在を誇示するのならば有用な使い方だ。
「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」
瞬間、何もない暗礁よりMSの反応を関知する。
「来たか……!」
機体を振り向けるなり、その照合結果に瞠目する。
「ガンダムだと? ……これは、海老で鯛を釣るとはこの事か」
こちらへと真っ直ぐに向かってくる《レヴォル》はしかし、何かが違うとグラッゼは予感する。
「……クラード君らしくない挙動だな。真正面から愚直になど」
遠距離からビームライフルが速射され、中距離まで至った瞬間には、格納武装が火を噴き、螺旋を描く弾幕を張っている。
グラッゼは直上へと逃れさせ様に、ミラーヘッドのうち、一機分を放っていた。
相手は落ち着き払ってそれを銃撃する。
「……クラード君ではないな、それは。戦い振りに美しい羅刹を感じない。あるいはこう言うべきか。……女々しいぞ、《レヴォル》」
加速してそのまま《レヴォル》へと抜刀して斬りかかる。
それを相手は心得たように距離を稼ぎ、牽制の銃撃と弾幕だけでこちらを翻弄しようと努めているようだが、どれもこれもまるで見当違いだ。
「……美しくない。君は私の焦がれた運命の麗しき獣ではない。何者だ! その《レヴォル》に乗っているのは! クラード君ではないのは分かっているのだぞ!」
『……へぇ。まさかとは思ったけれどこれは意外。黒い旋風、グラッゼ・リヨン』
「女の声……。クラード君はどうした」
『それってさ、今の局面で重要?』
「重要だとも。私は彼と死合いたいんだ。君ではない。よって、それが如何なる運命の気紛れで我が前に立とうとも、それは撃つに値せずと言う。クラード君ではないのならば、私を倒せはしない」
『倒せるさ。ボクだって、《レヴォル》のパイロットだ!』
曲芸じみた挙動で肉薄せしめた《レヴォル》はそのまま弾幕の応戦を張りながら、浴びせ蹴りによって装甲を叩こうとする。
グラッゼは一呼吸ついて、そして落胆と共にその蹴りを防いでいた。
『何と!』
「嘗めないでもらいたいな。……それにしたところで、研鑽の日々を共にした朋友の機体を駆るとは。恥を知れ! 君は我らの友情に、唾を吐いた!」
『唾だって!』
グラッゼはそのまま応戦の突風じみたミラーヘッドの銃撃網を見舞い、そして本体たる《エクエス》は既に相手の至近距離に潜り込んでいる。
『まさか!』
「そのまさかだ! 君では勝てんと言っただろう!」
あえてビーム刃を発生させず、柄だけでその横腹を叩き据える。
実力者ならばこの行動の意味が分かるはずだ。
『……今ので両断されていた……』
「君は私の美しき思い出を穢した。清算はさせてもらうぞ、その《レヴォル》の首でもって!」
『冗談!』
《レヴォル》の四肢が拡張し、その内側に格納されていた火器が一斉掃射され、《エクエス》の目を潰す。
普段の専用《エクエス》か、あるいは《レグルス》ならば完全なる回避が可能ではあったが、内偵の任を帯びている《エクエス》ではそうもいかない。
無様に飛び退り、致命傷を免れるのが精一杯であった。
「私に下がらせる……!」
《レヴォル》は、と振り仰いだグラッゼは、その反応が急速に遠ざかっていくのを関知していた。
当然、本丸だった戦闘艦の形跡もない。
上手く逃れられた、と言う形であろう。
「……やられたな。生涯の戦いを侮辱された事で、少しばかり私も大人げなかったと言うべきか。しかし、《レヴォル》のコピーなんてそうそうは出来ないはず。ならばあれは、正真正銘の《ガンダムレヴォル》であったと思うべきなのだろう。……だが、だとすれば……今手薄なのは、エンデュランス・フラクタルの……」
ここでの追撃よりも、グラッゼは優先される事象のために、ミラーヘッドを仕舞い、宇宙を駆け抜けていた。
戦闘宙域を脱していた遠距離航行用のシャトルに合流し、グラッゼは格納されてから専任メカニックに言いやる。
「《レヴォル》が……ガンダムが出た。エンデュランス・フラクタルの艦ではなく」
「ガンダムが? 冗談でしょう?」
「冗談ならば私は必死にもならないさ。……行き先を変更だ。マグナマトリクス社の支部も、幸いにして存在する。上官命令の棄却にはなるまい」
辿った航路に部下は目配せする。
「……あっちを追うって言うんですか。エンデュランス・フラクタルの……」
「私が遭遇したのが間違いなく《レヴォル》であったのならば、このコロニーに向かうはずだ。コロニー、ミッシェル。統合機構軍の補給路がある」
「ですが……上からの命令はマグナマトリクス社の……」
「だから、上官命令への反抗にはなるまいさ。支部があるのだからね」
「物は言いようですね」
「使いようとも言う。私は任務を継続しながら、あの艦の足取りを追いたい。……そうでなくては……クラード君。私が行くまでに死んでくれるなよ……」
呟いたグラッゼは携行保水液を口に含みつつ、ミッシェルまでの航路時間を概算していた。