機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第7話「叛逆の瞳」

「アルベルト、またここに居たんだ。今日のナンバーはいつものレトロ?」

 

 アルベルトは音楽を聴きつつ、こちらへと目配せする。

 

「おお、クラードか。どうした?」

 

「どうしたはこっちの台詞だよ。昨日、途中から居なくなったろ? 探したんだ」

 

「そいつぁ、悪かったな。……ちょっと一人になりたくってな」

 

 アルベルトの深い紺碧の瞳が伏せられる。クラードはそれとは対照的な赤い瞳で問いかけていた。

 

「……何かあった?」

 

「いんや、何も……」

 

「隠すの下手過ぎるんだよ。何かあったんだろ。言ってくれ」

 

 詰問の声音になったのを察してか、アルベルトは言葉を漏らす。

 

「なぁ、クラード。何でみんな、幸せになる手段ってないんだろうな。ハッピーエンドが流れりゃ、映画なら誰だって満足する。そのはずだ。だってのに……リアルじゃ難し過ぎて、オレにはどうすりゃいいのか、分かんなくなっちまった」

 

「そんなの、簡単な答えでしょ。幸福なんてない。不幸だけが世の中では分配され、そしてみんながその切り分けられた不幸の中で、マシな不幸を取り合っている。そういうもんだと、俺は思うけれど。ハッピーエンドだってそうだ。世の中、みんながハッピーなら、戦争なんてないし、MSも要らないし、銃も必要ない。何なら、人類そのものが、もしかするとハッピーエンドには邪魔な、ボトルネックなのかもしれない」

 

「ヒトと言う存在そのものがハッピーエンドには不向き、か。クラード、お前の論説、いつも何て言うか、達観してるよ。……オレとは違う」

 

「何も違わない、とは思うけれど。ただアルベルトが違うと思うのなら、違うのかもね」

 

「……あの娘は? 確かファムとか名乗っていたか」

 

「今、凱空龍のみんなが歌を教えている。上手いんだ、歌うの」

 

「へぇ……拾い物にも福があるといいな」

 

「どうだろうね。そろそろ……始まるのかもしれないし」

 

 アルベルトが問い返す前に、激震が喫茶店を揺さぶる。まさか、とアルベルトは目を見開き、立ち上がってこちらを信じられない眼差しで見据える。

 

「……知っていたのか?」

 

「アルベルトの言う話とは違うかもしれないけれど、ファムを拾いに来た連中が来るのは何となく。ピリついた殺気が今朝から漂っている。――トライアウトだ」

 

 こちらの返答にアルベルトは奥歯を噛み締めて叫ぶ。

 

「軍警察だと……! させねぇ! クラード! 《マギアハーモニクス》を!」

 

「もう呼んでるよ」

 

 地下の喫茶店から上がった先に、クラードの愛機と自分の乗機が並んでいる。

 

 アルベルトはクラードの肩を叩き、分かっているな、と声に含みを持たせる。

 

「……トライアウトとやり合うのは他のならず者連中とはまるで違う。奴ら、統制されてるんだ。オレらの戦略が何も通用しないと思え」

 

「言われるまでもないけれど、ね。常に試練は前より来る、後ろより来るのは過去だけだ」

 

「それは誰の言葉なんだ、って聞いている暇ぁ、ねぇか!」

 

 クラードは《マギア》に乗り込むなり、操縦桿を握り締め、指先に回路の淡い光の血脈を宿らせる。

 

 すると自分用に最適化された視野が広がり、操縦桿を握っているというローテクな動きから、そのまま神経を直結させられる感覚へと移行する。

 

「俺はマニュアルからライドマトリクサーの使用に入る。いつものごたごたとは違うから、ちょっと繊細なモードになる」

 

『……感謝するぜ。クラード、だが墜とされるなよ。相手は見誤っても軍警察……多分だが、ミラーヘッドの令状持ちだ。こっちのミラーヘッドは令状の前じゃ掻き消されちまう』

 

「そんなの分かり切ってる。アルベルトこそ、ミラーヘッドジェルは入れておいたから、もしもの時には頼むよ」

 

『……そのもしもにならない事を祈るばかりだぜ……。《マギアハーモニクス》! アルベルト、出るぞ!』

 

 飛翔したアルベルトの赤紫の《マギアハーモニクス》に合わせて、クラードは自身の《マギア》を稼働させていた。

 

「……クラード。《マギア》、先行する」

 

 出撃したその時には、既に敵部隊がコロニーの上層から攻めて来ていた。

 

 配備されているのは型落ちと呼ばれている《エクエス》だが、どれもが濃紺のカラーリングを誇っている。

 

 ――濃紺の《エクエス》は軍警察の証。

 

 他の大多数の《エクエス》とはまるで異なった動きをするのが特徴だ。

 

 肩口を背部に格納し、強襲形態を取った《エクエス》が静かに可変し、その眼窩を収縮させていた。

 

 空間戦闘に順応している様子の《エクエス》編隊が凱空龍の拠点へと雪崩のように迫ってくる。

 

 おっとり刀で凱空龍の仲間達が対応するが、MSの稼働前に撃墜され、それぞれが照準器を合わせる前にコックピットを撃ち抜かれてしまう。

 

『散れ、散れーッ! 相手はトライアウトだ! 普通の戦術は通用しない!』

 

 そう言って面子の陣営を整えようとしているのはトキサダだ。彼は《マギア》で立ち回り、《エクエス》編隊に対してビームライフルによる応戦を行っているが、どれもこれもが簡単に回避されてしまう。

 

『……野郎! まるでライドマトリクサーかよ!』

 

 焼き付いたトキサダの悔恨にアルベルトがヘッドとしての声を振り向ける。

 

『今は下がれ! トキサダ! オレとクラードが道を作る! その間に、非戦闘員と、腕に自信がない奴は退去しろ! でなければ喰われるぞ!』

 

『ヘッド……悪い、じゃあ前は任せるが……死ぬなよ』

 

『……ったく、誰に言ってやがる。クラード! やれるな?』

 

「そっちも誰に言ってるのさ。俺達は最高のチームだろう」

 

 クラードは瞬間的に敵影の次手を読んで速射ビームスプレーガンで動きを鈍らせる。

 

 その隙を突いてアルベルトはビームサーベルを抜刀し、敵の《エクエス》を両断していた。

 

『勢いづくと、呑まれるぞ! 相手の波に逆らうな! 上手く敵のやり口に合わせて――』

 

『ヘッド! 俺達の天使が……ファムがまだ拠点から逃げ切れていないんだ!』

 

 そう言って接触回線を試みてきた仲間の《マギア》が直近で爆ぜる。

 

 敵のビーム兵器の直撃を食らった《マギア》が焼け落ちるのをアルベルトは至近で目にしたのだ。

 

 ――動揺、硬直し、動けなくなる。

 

 それは予見出来たために、クラードは相手の軌道に回り込んでヒートナイフを抜き放つ。

 

 敵のビームサーベルを間際で受けてから火花の散る全天候モニターを仰ぎ見て、袖口に仕込んだバルカンを稼働させる。

 

 バルカンの薬きょうが跳ね、《エクエス》のメインカメラを潰していた。

 

『……クラード。昨日の娘が、まだ……』

 

「言わんとしている事は分かる。助けに行くからアルベルトはここで耐久を頼んだ」

 

『お、おう……。クラード……二人とも無事を祈っている』

 

「いつものアルベルトらしくないじゃないか。そんなの、問い質すまでもないだろう、俺達なら」

 

 クラードは《マギア》に加速をかけさせて拠点へと一直線に向かう。

 

 既に拠点に辿り着いていた《エクエス》へと肩口から体当たりして、《マギア》の内部フレームが軋んだのを感じていた。

 

《マギア》は《エクエス》に比べれば装甲はないも同然。

 

 同じ質量でぶつかり合えば《エクエス》に分がある。

 

 即座に銃口を向けて来た《エクエス》に、クラードはナイフを逆手に握らせて敵のビームライフルの銃身を狙い澄ましていた。

 

 読み通り、弾倉に引火したヒートナイフが炸裂し、敵が銃を取り落とすのと、クラードが《マギア》の腕を突き出し、ゼロ距離で袖口のバルカン砲を叩き込んだのは同時であった。

 

 敵のコックピットブロックが焼け焦げ、大穴を穿つ。

 

 よろめいた《エクエス》を押し飛ばしたその視界の中に、クラードはファムを発見していた。

 

『……クラード……ミュイ……こわいよ……』

 

「ああ、心配しなくっていい。敵の陣営はこっちに向かっては来てない。なら、まだ対処の方法は――」

 

 そこまで口にしてから、クラードは不意に首裏の皮膚が粟立ったのを感じていた。

 

 神経を引っぺがされるかのような悪寒に、習い性の機体を滑らせ、ファムをそのマニピュレーターで保護する。

 

 瞬間的に放射されたのは幾重もの火線を描いたビームの光芒であった。

 

 拠点を撃ち抜き、直後には紅蓮の業火に包ませている。

 

 振り仰いだ先に蒼い残像を纏った《エクエス》が居並んでいた。

 

 ――否、居並んでいるのではない。

 

 それらはたった一機の分身体――ミラーヘッドシステムの産物だ。

 

『そこまでだな! ならず者連中め! この軍警察のエリート! ガヴィリア・ローデンシュタインを前にして、型落ち《マギア》で対抗とは片腹も痛いところ! ここで墜ちろ! Fランクコロニーのウジ虫共が!』

 

「……誰が」

 

《マギア》を後退させるが、敵のミラーヘッドの誇る分身体は遥かに素早い。

 

 まるでそれそのものを波のように使う。

 

 分身体が横合いから近接武装で攻め立ててくるのを、クラードは片手に握らせたヒートナイフでさばいていたが、それでも手数には限界があるもの。

 

 ヒートナイフを持つ腕ごと寸断され、それでも、と推進剤を焚いて逃げに徹するが、今度は上方から一気に降下してきた分身体に阻まれ、逃げ場をなくしたクラードは《マギア》に分身体を蹴りつけさせるが、その蹴りを相手は受け流してカウンターの銃撃網を浴びせてくる。

 

 ファムの悲鳴が劈く中で、クラードは次第にレッドゾーンにまで追い込まれていく自身の機体を感じていた。

 

 じりじりと、この戦場がどん底になっていくのを体感する。

 

 他の仲間達も逃れた様子はない。

 

 ほとんどが軍警察に捕縛されたか、あるいは銃殺刑に処される。

 

 殲滅戦の心構えだ。敵にこちらを逃すような余裕はない。

 

 当然、打てる手はすべて打ってあるはずだろう。

 

 濃紺の《エクエス》の中でも、わざわざ頭部に冠のような意匠を施された隊長機が、分身体を手繰ってクラードの《マギア》へと、それそのものが圧倒的な暴力としか言いようのないミラーヘッドの威圧を発揮する。

 

 一機一機が、本体と同等の性能を誇るミラーヘッドの荒波に飲まれ、クラードの《マギア》は半壊していた。

 

 ファムを何とか守り切っているが、それも奇跡的なレベルだ。

 

 被弾箇所は八十パーセントを超え、警戒アラートが鳴り響いている。

 

「……このままじゃ、いずれにせよ撃墜か」

 

『賢い判断を乞う、ならず者なりの、な。生きたければ、そのパッケージを渡せ。そうでなければ――戦争だ。お前達は地を這いつくばって死ぬ。決定事項なのでな。今さら覆せまい』

 

「……戦争、か。狭い世界で生きているんだな」

 

『その狭い世界に集約されるのが、我々なのだよ、ウジ虫め。害虫駆除は面倒だが、同時に楽しい。こうしてミラーヘッドの、我々の手塩にかけて育成したアイリウムの統合能力を存分に振るう事が出来る! 貴様らのような底辺相手にな!』

 

「……それはご高説をどうも」

 

 蒼い分身体が奔り《マギア》の肩部装甲を引き剥がす。

 

 それと同期して、マニピュレーターから力が失せ、ファムが眼を大きく開いて自分の手から離れていく。

 

 ――裏切り、離別、信じていたのに――あらゆる感情がない交ぜになったその眼差しにクラードは手を伸ばしかけて、ぎゅっと拳を握る。

 

「……これじゃ、駄目だ。《マギア》とこいつのアイリウムじゃ、俺はまた……」

 

『引き渡し感謝する! それではさらばだ! ウジ虫連中よ! 我がミラーヘッドの前に塵芥と化せ!』

 

 ファムを随伴機が受け止め、隊長機のミラーヘッドが全力で叩き込まれる。

 

 その瞬間、クラードは割れた地平を目にしていた。

 

 コロニーの大地が引き裂かれ、そこから取りこぼされてただ宇宙の常闇へと堕ちていく。

 

 それはどこまでも続く奈落への墜落。

 

 必死に手を伸ばそうにも、《マギア》の両手はもう存在しない。

 

 ひび割れたコックピットブロックより、「無酸素状態注意」「減圧」などのアラートを聞きながら、クラードは「取り繕い」を排除して呟いていた。

 

「……ああ、そうさ、幸運なんてない。ハッピーエンドは誰にとっても都合のいい幸せなんかじゃない。俺に与えられたのは、それに相応しいバッドエンドだけだ。――だったら、バッドエンドの中で抗ってみせる。生き意地汚くってもいい。俺は、俺自身の運命に――叛逆する……!」

 

 ――瞬間、世界全てが「裏返る」。

 

 その言葉を紡いだ瞬間、高熱源を探知した《マギア》と同期した視界を振り向ける。

 

 宇宙の深淵を貫き、青い推進剤の尾を引いて、白い戦闘機が相対距離を合わせて来ていた。

 

 その全体像は甲殻類の一種にも映る。

 

 鋭角的なシルエットを誇るその機影は、真っ直ぐにこちらへと向かってきていた。

 

「戦闘機(コアファイター)だと? 一体どこの……」

 

 こちらからのシグナルを無視して、白い戦闘機は《マギア》の能力をハッキングし、鏡合わせのように相対して無音の宇宙でコックピットブロックを開く。

 

 その行動に導かれるようにして、クラードは《マギア》のコックピットブロックのハッチを空気圧縮で飛ばしていた。

 

 暫し、無音を漂った後に、白い戦闘機のコックピットへと流れてその背中がリニアシートへと吸い寄せられる。

 

 座り込んだ瞬間に気密は保たれ、クラードは様々なシステムを擁する謎の機体の胎の中で、下部より引き出された特殊な操縦桿を目にしていた。

 

 接続部が剥き出しになっており、まるで何かの接合を当初より想定されているかのようだ。

 

 メインディスプレイに無数の文字列が浮かんだ後に、一つの名称が紡ぎ出されていた。

 

 ――「REVOL」と。

 

「……《レヴォル》。そうか、お前……形はあの時とは違うが、《レヴォル》なんだな? ……俺を迎えに来たのか。なら……俺は応じなければならない。運命に抗う、叛逆の徒として」

 

 クラードはゆっくりと、操縦桿に手を伸ばす。

 

 すると、腕に刻印されたモールドが点滅し、次の瞬間には、腕が肘口まで展開、可変し、操縦桿に代わる腕を接合部に翳す。まるで招かれるようにして、接続が果たされ、クラードは脳内に叩き込まれる膨大な情報にめまいを起こす。

 

 疼痛が未だに収まらない中で、クラードはメインディスプレイを睨み据えていた。

 

 その瞳は、ただの赤色から光を帯びた深紅に変わっている。

 

 ――ああ、そうさ。もう「取り繕い」のクラードは――要らないな。

 

 そう断じた直後には、全ての「取り繕い」は意識の向こう側へと排除し、何もかもを消し去る「己」を剥き出しにする。

 

「――目標をロック。全てのインジケーターをクリア。武装を承認。ミラーヘッドの適合率は七割以上。よってこれより、エージェント、クラードは《レヴォル》による敵兵の殲滅を行う」

 

 引き裂かれた大地を縫ってファムを奪った《エクエス》が追跡してくる。

 

 恐らくは確実に仕留めるためだろう。

 

 その銃口が据えられた、刹那――。

 

 クラードはその紅色の眼光を敵に向ける。

 

 瞬間――戦闘機形態が弾けていた。

 

 現出した腕が《エクエス》の頭部を打ち据える。

 

『戦闘機に……腕……!』

 

 驚愕の声が響き渡ると同時に、《レヴォル》は機体を百八十度展開させていた。

 

 脚部が引き出され、全身の装甲が波打ち、段階的に機体シルエットを形成していく。

 

 変形完了までおよそ三秒――その間、全ての照合結果が、この機体が《レヴォル》である事を指し示す。

 

『専用アイリウム、レヴォル・インターセプト・リーディング正常稼働、光彩認証、静脈認証、生態パターン、意識レベルを含むメンタルバランスオールクリア――反証開始。ヒューマニズムコミュニケートサーキットを始動。発声言語を解読。25セコンド後に出力可能です。概要伝達及び認識における全ての対応を認証ユーザー、ライドマトリクサーに一任します。193日ぶりの帰還、お待ちしておりました。専任ユーザー、クラード』

 

 コックピットで響き渡った声に、クラードは応じる。

 

「ああ、また会うとは……こんな形だとは思っていなかったがな。……《レヴォル》、声紋パスコード認証開始。RGD-003、IFF。飛んでE-54123-560G-XNNF。最終認証サインは、コールサイン “マヌエル”」

 

《レヴォル》のコンソール上で蒼白い輝きがまるで鼓動のように揺れ、こちらのパスコードを反復する。

 

『発声言語を解読、声紋認証完了……最終セキュリティラインをクリア。“マヌエル”を照合、反証完了。言語相関図を受諾。コミュニケートモードへと移行。“久しぶりだな、クラード。調子はどうだ?”」

 

「減らず口、叩いている時間もなさそうなんだ、《レヴォル》。コミュニケート言語パターンを30セコンド後には戦闘形態に移行する。いいや、そんな時間もないかもな」

 

『“それは穏やかではないな”』

 

「コアファイター形態からスタンディングモードに可変、やれるな?」

 

『“誰に言っている? 既に利害関係は一致している。それでは不満か?”』

 

 この土壇場でどこか浮ついたような返答にクラードは静かに笑みを刻む。

 

「……それ、攻撃開始時には消しておいて。余計な事を考えると、久しぶりのお前に振り落とされてしまう」

 

『“承認した。しかし何故――笑っている?”』

 

 そう問われてクラードは己の口元に張り付いた笑みをようやく意識する。

 

「……ああ、不合理でも、人間は笑えて来るもんなんだ。俺も散々“取り繕って”きて、ここで初めて知ったよ」

 

『“そうか、今後の対応に備えて学習しよう”』

 

「いや、学習の必要はない。俺が無自覚だっただけだ。それにもう……“取り繕い”の必要は、ないみたいなんだ。お前の知っている俺でいい。合わせるぞ」

 

『“了解した。最後にメッセージを受諾。優位性とは判断材料であり、新たな確率への架け橋である”』

 

「……何それ。誰の言葉?」

 

『“引用不明。記憶の中にある、言語の連なりだ。そこに意味を見出すのが人間だろう、と”。――レヴォル・インターセプト・リーディング、戦闘形態へと移行。全兵装ロックを解放。権限を専任ユーザーに委譲します』

 

「お喋りの時間は終わりか。……ああ、そうだとも。――俺は、戦う。戦うためだけの、エージェント、クラードだ」

 

『対抗勢力を認識。《エクエス》特殊改修機、軍警察、トライアウト所属です。改めて専任ユーザーへの認証を保留。本機における戦闘行為の是非を問います』

 

 アイドリングモードに入った《レヴォル》の識別シグナルに、クラードは脳髄に突き刺さった電流の感触をそのままに言葉にする。

 

 昂揚する感情。激動する鼓動。

 

 そして――揺れ動く深紅の眼差し。

 

 それは戦火の紅蓮の色彩を得て、撃つべき敵を見据える。

 

「ゲインをぶち上げろ。……一気に仕留めるぞ……!」

 

『武装承認。照準開始。殲滅戦闘へと移行します』

 

 敵機を照準する。

 

 それと同期して、《レヴォル》の蒼いメインカメラが敵MSを睥睨し、直後、空間を突き抜けたとしか思えない速度で《レヴォル》は《エクエス》の眼前に立ち現れていた。

 

『な、何を! このMSの速さは――!』

 

「――墜ちろ」

 

《レヴォル》の掌がそのまま《エクエス》の機体に触れる。

 

 その次の瞬間には、《エクエス》は全身を穿たれ、装甲から黒煙を棚引かせて戦闘不能に陥っていた。

 

『こちらオスカー3! オスカー4が撃墜……いいや、粉砕された! 隊長! あれは一体……!』

 

 オープン回線に滲む不明瞭なものへの畏怖。それらを引き受けて、白煙を切り裂き、現れたのは、まるで――。

 

『まさか……我々の統制に対抗出来る戦力など、奴らには……!』

 

『警告! 所属不明機! それ以上、近づくのならば攻撃し……』

 

 その声を遮ったのは射抜くようなツインアイの眼差し。

純度の高い、《レヴォル》の殺意に敵機が中てられる。

 

 大破した《エクエス》を突き飛ばし、クラードと《レヴォル》は、ファムを奪った敵の隊長機を睨み上げていた。

 

「……座興はここまで。幕切れの時は来た。さぁ、俺達のカーテンコールと行こうか」

 

 ――それは叛逆の始まり。

 

 

 

 

 

第一章「叛逆前夜〈ナイトビフォア・レヴォル〉」 了

 

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