信頼出来る情報筋なのか、という議論にレートが上がったその時には、ディリアンへと口答えしていたのはダイキであった。
「何だと! 親衛隊だからって偉そうに!」
「やめろ、中尉! ……真実です。エンデュランス・フラクタルの戦闘艦、ベアトリーチェはコロニー、ミッシェルへと停泊中。今ならば奇襲もかけられます」
「それならば今すぐに迎撃を。親衛隊の機体も持ち込んだはず。前のようにはいきません」
「……《マギア》の発展機、《アイギス》……。ですが、こちらも慎重を期したいと言うのは御理解いただけますかな? 我々とて石橋を叩いて渡るようなものなのです。下手に何度もコロニーへと攻撃を仕掛ければ、それだけでダメージになりかねない」
「前回は大義名分がありました。今回もそれは継続中。相手は賊の船です。墜とすのに何の躊躇いもないでしょう」
「おい、親衛隊身分だからってなぁ、俺らを小間使いみたいに使えると思うなよ! 俺達はれっきとした、正規軍なんだぜ!」
「中尉! ……すいません、口さががなく」
「いえ。……そもそも何故、こうして同席しているのかも不明ですが」
「クラビア中尉は貴官を守護する役割に入らせます。そのためには事前準備は滞りのないほうがいい」
「……なるほど。如何に上への言葉がなっていなくっても、実力だけは確かなようですからね」
「ケンカ売ってんのか! ……見てくればっか揃えたって、戦力にならなけりゃ同じだろうが!」
「中尉、身の程を弁えたまえ! ……我々としても親衛隊、ひいてはリヴェンシュタイン家には融資を募っている身。あなたの御言葉には賛成いたしますが、しかし……奇襲と言うのはいただけない。丸腰かも知れない相手ですぞ」
「丸腰かも知れないからこそ、今、叩くのでしょう。……弟以外は殲滅戦の構えで行ってもらっても構わない。一人残らず殺し尽くしていただきましょうか」
「ほう、よろしいので?」
上官の眼差しが変わる。
――それが許されれば本当に、全滅までやるとでも言うような、試す物言いであった。
「もちろん。わたしの目的は弟の目を覚まさせるだけ。他はどうだって構いません」
「……分かりやすくってよろしいですな。では、クラビア中尉。君は《レグルス》でリヴェンシュタイン殿を守ってくれ。《アイギス》はまだ試験機だ。何が起こるか分からんからな」
「しかし! 中佐殿! それはみすみすと言う奴なのでは?」
「命令だ。……口答えは許さん」
その厳命にダイキは舌打ちを滲ませる。
「……親衛隊ってのは偉そうでいいですなぁ! おい!」
わざと肩をぶつからせたダイキに、上官が声を飛ばした時には彼は既に退室していた。
「……すいません。向こう見ずなのです」
「いえ、彼の実力は前回の戦闘でよく分かりました。あれほど撃墜されたのに突っかかるメンタルは称賛に値する」
「……クラビア中尉、いやダイキは……あれで戦災孤児なんです。テロリストの自爆テロで両親を失っております。自身にも酷い後遺症を負っていて……これは言い訳にはならないでしょうが、戦いにおいてのみ、自分の存在価値が許されると思っている節があります。その上で、彼の実力自体は本物。どうか寛大な心で見過ごしてやってください」
「問題なのは、実戦で役立つかどうかのそれだけ。わたしは別段、気にも留めません」
――あんな下賤なるものなど、と言外に言い置いたつもりであったが、上官は部下が許されたのだと思って嘆息をついていた。
「いや、申し訳ない……。私はこれでも、彼の親代わりのつもりでした。軍属になってからはずっとあいつは私の部下です。あれもあれで私を慕っているつもりでいる。分かりやすい奴なのです、あいつは」
「いえ。中佐殿の心持ち、あの者も分かる事でしょう」
まぁそれは、この戦闘の如何に関わらずであろうが。
ディリアンは三次元図に落とし込まれたコロニー、ミッシェルの外観と内部構造を頭に叩き込む。
「……中型コロニーとは。統合機構軍のお膝元でしょう」
「ええ、だからこそ相手も油断しているのだと考えています。我々としてみればチャンスだとも」
「ですが、前回もわけの分からぬ横槍が入りました。あれの情報開示を求めても?」
「ええ。……ジェネシスの連中が仕留め損なった機体の事でしょう。我が方で独自に調べたところ、あの白いMSはやはり、エンデュランス・フラクタルの所有物のようで」
「新型のMSを企業が率先して開発を?」
「……統合機構軍はただでさえ少し先走った動きの目立つ陣営。新型機くらいは建造していても」
「可笑しくはない、ですか。ですがあれは少し特殊でした。あんなMSが存在するなんて」
「だからこそ、忌むべき火薬庫なのでしょうね。ガンダムとはよくも言ったところ」
「……ガンダム」
その忌み名を思い出す度に、あの場でアルベルトを回収出来なかった己の弱さが浮き立つ気がして、ぎゅっと骨が浮くほどに拳を握り締める。
自分にとっては因縁の名だ。
「……もし会敵した際には、撃破しても構いませんね?」
「ええ、それはこちらも承認していますが……あれは特殊のようです。お気を付けになられたほうがいい」
「ミラーヘッド機ならば戦い方は心得ています」
「そうですね。釈迦に説法のようなものだ。親衛隊身分の方に、ミラーヘッド機の戦い方なんて」
「潜入より、十分以内に仕留めてみせます。それくらいの自信はある」
何よりも、以前のように慣れていない《マギア》ならばともかく、《アイギス》で負けるような愚を犯すわけにはいかない。
上官と共にディリアンは格納デッキへと向かっていた。
「俺の《レグルス》、前回ちょっと重かったぞ! ペダル推進、上げておけ!」
ダイキは小隊規模を指揮するのに余念がない様子で、その様は先ほどまでの無遠慮な士官と言うよりも、歴戦の兵士の面持ちであった。
「……ダイキもずっとあれならばよいのですが……上に突っかかる癖さえ直せば、昇進も狙える身分だと言うのに」
上官は真実からダイキの親代わりなのだろう。
その眼差しに滲んだ親心、分からぬわけもない。
「……わたしは彼の手助けは出来かねます。もしもの時には」
「ええ、それは構いません。ダイキも分かっているはず。《アイギス》には独自権限を与えておきます。ミラーヘッドオーダーはこれより四十八時間、あなたが優先して保持するものとして」
「感謝します。令状までもらえるとなれば、今度こそ、本当に……」
負けるわけにはいかない。
それだけは、絶対にしてはならないはずであろう。