機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第85話「決意」

 コロニー、ミッシェルに下手に数日も停泊すべきではない。

 

 そう判断を下したのは明朝になってからで、レミアからしてみても苦渋の決断のようであった。

 

「……どうあったって、トライアウトに関知されてしまった以上、留まるのは適切じゃないわ。それに……ラジアルの事もある。感傷的になってしまえばそこまでだもの。……アルベルト君達は?」

 

 通信を繋いだ先に居るサルトルは沈痛に顔を伏せていた。

 

『……正直、かなり参っているって感じだ。《アルキュミア》も大破、このままじゃ出せん。ピアーナと命を共有しているのも大きいからな。《アルキュミア》は暫く修繕に出しつつ、代わりの戦力は《マギアハーモニクス》なら補填出来るが……』

 

「難しいのはパイロットのほう、ね。……これまで彼ら凱空龍に頼り切っていた分、痛みが滲むわ」

 

『それでも、アルベルト以外は人並みに悲しんでいるって風だ。……本音を言っちまうと、あいつだけは……再起不能かもしれん』

 

「でしょうね。目の前で死んだラジアルに、一番近かったようであるもの。彼の胸中は今の私達では慮る事さえも出来ないわ」

 

『それでも……艦長命令だろう。月軌道まで時間もあまりない。今は進むしかないってのも分かる』

 

「それに問題なのは、ね……あの赤い《レヴォル》に関してもだけれど……まさかトライアウトネメシスの一員が彼の……アルベルト君の血縁者だなんてね」

 

『あいつの口から語るべきだろう。おれ達は外野に過ぎん。にしたところで、運命ってのはどこまでも残酷だな。クラードと《レヴォル》が居れば……なんて益体のない事だとは思うが……』

 

「やり切れないのはお互い様よ。……それにしたってどうするか、ね。このまま月軌道まで向かうって言って、承服する人間が何人いるか……」

 

『降りたっていい、って言うつもりだろう。フロイト艦長としてみれば』

 

「……ある意味ではそう言った好機だとは思っているのよ。だって彼らは非戦闘員。それに、コロニー、ミッシェルならまだ猶予もある。彼らをどうこう出来るのは今をおいて他にない」

 

『冷酷な判断だとも思う。同時に、温情もあるとも』

 

「よしてよ……私は鉄の女なんだから」

 

 そう、自分を規定して線を引かなければやっていけない。

 

 何もラジアルとは疎遠だったわけでもない。

 

 女性クルーとして、彼女の優秀さは身に染みて分かっている。

 

 だからこそ、死なないで欲しかった、生きていて欲しかったのが本音なのだが、時は残酷だ。

 

 そんな気持ちの機微さえも振り払い、今は月へと向かうしかない。

 

 そうするしか、自分達の傷は自分達でしか癒せない。

 

『……《マギア》に関しちゃ、整備班連中もよくやれているが……おれはあくまでも技術顧問だ。だから戦術的な事を言わせてもらうと……今のベアトリーチェで、全く敵に遭遇しないという条件付きでもない限り、月航路は推奨出来ない』

 

「それもトライアウトのグラッゼ・リヨンが味方についているとは言え、一時的な協定に過ぎない。彼が敵に回らないと言う保証もない」

 

『問答だな……。グラッゼに艦の守りを頼めばそれだけリスクも高まる。しかし、今のおれ達に、グラッゼ以外に頼れる筋はない』

 

『疑問ではあるのですが』

 

 通信ウィンドウに割り込んできたのはタジマであった。

 

『《レヴォル》の回収任務に当たるつもりはないのですか? 特一級エージェントと《レヴォル》、どちらも欠いてはならない必須の駒』

 

「……確かにね。でも、だからって艦内の空気が悪い中、わざわざ強行するつもりにもなれないのよ。今は、気持ちの整理が必要なはず。だから、私はコロニー、ミッシェルで降りると言う彼らの意思があるのならば尊重するわ」

 

『わたしもそれには同意見だ。元々、デザイアで拾ったような命。彼らには幸福に成る権利がある。ミッシェルならば治安もいい。ここで別れたところで、彼らはそこまで危険でもないだろう』

 

 ヴィルヘルムの意見も含め、凱空龍は一旦、落ち着きどころを求めている節がある。

 

 しかし、その手綱を握っているのはあくまでもアルベルトだ。

 

「……アルベルト君は、どうしているの……?」

 

『部屋で塞ぎ込んじまっているらしい。……無理もない。しかし、降ろすんなら早いほうがいいってのもまた確か。……さすがにトキサダ達に無理やり叩き起こせとは言えないさ』

 

 艦内カメラを見やると、アルベルトの部屋の前でトキサダ達が戸惑っているのが窺えた。

 

 こんな時、切り込んでくれるのはきっとクラードであったはずなのだが、彼は依然行方不明のまま。

 

「……思いたくなかったわね。こんな状態で、まさか月航路なんて」

 

『兵力も足りていない。エンデュランス・フラクタルの支社から補給だけは得られたんだが……兵站があったってその戦力を扱う人間が駄目になったら終わりだろうに』

 

「手詰まりってわけ。……私達らしくない……」

 

 そこで嘆息をついて頭痛薬を飲み干そうとしたレミアは、凱空龍の面々に向かい合った人影を発見する。

 

「……何をやっているの。カトリナさん?」

 

 艦内カメラの中で、カトリナは真っ直ぐに、凱空龍の人々と対面し、そしてアルベルトの部屋の扉へと歩み寄っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あんた……」

 

「アルベルトさんは……どうしていますか」

 

「どうしてって……。ヘッドはさすがに今回ばっかりは参っちまってる。何であいつら……! ラジアルさんを目の前で墜とすなんて……許せねぇよ……ッ!」

 

 トキサダは骨が浮くほどに握り締めた拳を震わせるが、カトリナは腫らした目のままで応じていた。

 

「アルベルトさんに会わせてください」

 

「……何言ってんだ、あんた。そんなの出来るわけねぇだろ! 今は酷だって、分からないのかよ……」

 

「分かっています。私も……馬鹿みたいに泣きました。でも泣いてばっかりじゃ、きっとクラードさんが帰って来た時に、幻滅しちゃう。だから私は……」

 

 アルベルトの部屋へと歩み寄る。

 

 その肩をトキサダが掴んで頭を振っていた。

 

「よしてくれ。ヘッドはただでさえおれらより辛いんだ。そんななのに……追い打ちをかけるような事なんざ……」

 

「……アルベルトさんが一番辛いのは分かります。どれほどラジアルさんの事を想っていたのかも。だからこそ、ここで問い質さなくっちゃいけないんです」

 

 扉を潜り、カトリナは暗い部屋の片隅に座り込む、アルベルトの丸まった背中を見据えていた。

 

「……アルベルトさん。艦長から下船許可が出ました。降りる人間はミッシェルで降りていいようです」

 

 返事はない。それでもカトリナは搾り出すように声を発する。

 

「……辛い人間は……月面まで向かうのがどうしても辛ければ、今のうちに言っておいて欲しいと、そう言っておられます」

 

「……何であんたがそんな事を言いに来る」

 

 昏い声。生きる気力を失ってしまったかのようなか細さ。

 

 カトリナは深呼吸してから、彼の名を呼んでいた。

 

「アルベルトさん……こちらを向いてもらえますか」

 

「……今は誰の顔も見たくないです」

 

「それでも……今はこっちを向いていただけるとありがたいです」

 

 アルベルトは本当に力なく、ゆっくりとこちらに向き直る。

 

 全ての気力が凪いだかのようなその憔悴しきった面持ちへと――カトリナは思いっきり張り手を見舞っていた。

 

 鋭い音が残響し、後ろの凱空龍の面々が当惑したのが伝わる。

 

「な――ッ! 何してんだ、あんた!」

 

 アルベルトも何をされたのか分かっていない様子で、呆然と自分の瞳を見返す。

 

 カトリナはアルベルトの襟元を掴み上げ、そのまま声を張り上げていた。

 

「ここで終わっていいんですか! こんなところで立ち止まっていて、いいんですかっ! ……クラードさんなら、あの人ならきっと、そう言ってくれるはずです。月航路までの旅路、何もなかったなんて言わせません! ……私達は向かうか諦めるかのどっちかしかない! なら……どっちも選択しないのはズルでしょう……!」

 

 アルベルトはその言葉に触発されたかのようにぎり、と奥歯を噛み締めたようであった。

 

「……あんたに何が分かる……。護ると決めた人が、かけがえのない人が、目の前でぼろきれみたいに死んでいったんだぞ。そんななのに……あんたは、オレに戦えって言うのかよ……ッ!」

 

「……戦えとは言っていません。ただ、うじうじと悩んで、諦める事も立ち向かう事も忘れた人は……今の艦内には居て欲しくないだけです」

 

「降りるか戦うかだって……? あんた何様のつもりだ。そんな事を言う権利なんざ……」

 

「ありますっ! 私は委任担当官、それはクラードさんだけじゃない、あなた達の委任担当官でもありますっ! ……だから、こういう時こそ気丈に……振る舞わないといけないのにぃ……っ……」

 

 耐え切れなくなって大粒の涙が頬を伝う。

 

 今だけは、冷徹な委任担当官に徹しようとしたのに、そんな虚像さえも張り切れなくなってカトリナはぼろぼろと泣いていた。

 

 子供のように泣くものだから、アルベルトも当惑した様子である。

 

「……何で、あんたがそこまで泣くんすか」

 

「だって、だってぇ……ラジアルさん、とってもいい人だったからぁ……っ! 死んじゃうなんて、あんまりです……ぅ。居なくなっちゃうなんて、あんまりなんです……っ!」

 

 崩れ落ちた自分にアルベルトは脱力し切っていた。

 

「……こういう時、鼓舞する側が泣いちゃ駄目でしょう」

 

「でも、でもぉ……っ! どうしても嫌で……逃げ出したい……っ! でも駄目なんですぅっ……私だけは……逃げちゃ駄目なんですよぉ……っ!」

 

 カトリナは片手でアルベルトの襟元を掴んでいたがほとんど力は消えていた。

 

 本来ならその襟元を掴み上げて堂々とした佇まいで言い切るつもりであったが、それさえも出来ずにこうして泣き崩れるのはズルいはずだ。

 

 だって言うのに、自分は格好さえもつけられないのか。

 

 そんな自分に嫌気が差す。

 

 アルベルトは自分を見下ろして、そしてふと呟いていた。

 

「……そっか。愛されていたんだな、あの人は」

 

「……ふへっ? アルベルト、さん……?」

 

「……ラジアルさんならきっと、前に進めって言うんでしょうね、オレに……。こんな情けない自分に、前に進めって……」

 

 アルベルトは自分の手を取ったかと思うと、ゆっくりと引き起こしてから、涙で腫らした眼差しを交差させる。

 

 完全に立ち直ったわけではないが、それでも戦う人間の瞳であった。

 

「……アルベルトさん……」

 

「艦長に会わせてください」

 

「……今、何て……?」

 

「艦長に会わせてくださいって言ってるんです」

 

「そ、それはその……降りるって、事ですか……」

 

「……艦長に会ってから考えます」

 

 アルベルトは肩で風を切りながら、艦長室へと向かおうとする。

 

「レミア艦長は、今は管制室で……!」

 

「面倒くさい。どうせ艦内カメラで観てるんでしょう! ……オレの意見を言わせてください」

 

『……騒がしいわね』

 

「レミア艦長……」

 

『廊下で聞く事になるけれど、それでもいいんなら』

 

 角を折れたところからレミアが歩み寄ってくる。

 

 対峙したところで、アルベルトは声にしていた。

 

「……オレはもう、駄目になっちまったのかもしれません」

 

「あ、アルベルトさん……!」

 

「嘘は言いたくねぇ。……だから正直に話す。オレはもう、生きる気力も、ましてやこのベアトリーチェのために戦う気概も、もうほとんど残っちゃいない」

 

「そう。では降りるのね?」

 

「……でもだからって……ここで逃げ出すと面子も立たねぇんだよ……! オレは凱空龍のヘッド! アルベルト・V・リヴェンシュタインだ! ……だから一人でもこの艦に残るメンバーが居るんなら、そいつらのために前を張る義務がある! それが、オレの理由だ!」

 

「……ヘッド……その名前って……」

 

 うろたえ調子のトキサダに、アルベルトは一瞥を振り向ける。

 

「ああ……あの編隊の中に居た、隊長機。あの《アイギス》のパイロットは、ディリアン・L・リヴェンシュタイン。オレの兄貴だ」

 

「……お兄さん……?」

 

「そんでもって……オレはあんたらにも、そして凱空龍の全員にも謝らなくっちゃいけねぇ。デザイア崩壊時に、オレはディリアンから通告を受けていた。統制の事前に、全部分かっていたんだ。トライアウトが来る事も、どこをどう逃げれば助かるのかも。だから、お前らの命のいくつかは、オレが意図的に取りこぼしたようなもんだ。だからトキサダ、それにみんなも……。オレを撃ちたけりゃ、撃っていい。それくらいの権利はある」

 

 トキサダを含め、凱空龍の面々は戸惑っていた。

 

 それはカトリナもそうだ。

 

 まさかアルベルトがそんな秘密をこれまで抱えていたなど、思いも寄らない。

 

「……アルベルトさん……」

 

「どうした、トキサダ。撃つんなら撃て。ここでオレは禍根のはずだ。撃っても誰からも文句は出ねぇ」

 

「……ああ、そうだな」

 

 トキサダが拳銃をすっと突きつける。

 

 アルベルトは逃げもしないのをカトリナは制しかけて、彼の瞳に浮かぶ覚悟の光に何も言えなくなっていた。

 

 アルベルトは、もう覚悟している。

 

 その覚悟の行く末を、誰が否定出来ようか。

 

 彼はもう、ここで死ぬのも止むなしと確証しているのだ。

 

 だから、余計な言葉は互いに吐かない。そんなものが意味なんてないのは、彼らの間に降り立った絆が何よりも証明している。

 

「……ヘッド。おれはこれでも副リーダーくらいのつもりだった。だから、あんたが道を誤った時には、撃つのがおれの責任だって」

 

「ああ、それはその通りだろうな」

 

「……だから、だからよ……。おれは撃てるぜ。あんたを……道を誤ったあんたなんざ……いつだって……」

 

 それでも、その銃口が震え、惑っているのが伝わってくる。

 

 トキサダは顔を歪ませ、今にも泣き出しそうな面持ちでアルベルトの背中を睨む。

 

「……撃てるんだ。撃てるって……言ってくれよ、誰か……。誰だっていいのに……。おれはヘッド……あんたと一緒なら……本望ってつもりだったはずなんだ。凱空龍がどこで野垂れ死のうとよ、あんたと一緒なら、そこに誇りはあるって、思っていたはずなんだ。だってのに……! 何で迷うんだよ、トキサダ・イマイ! ……おれは……ッ!」

 

 銃声が木霊する。

 

 カトリナは思わず目を閉じていた。

 

 しかし、銃弾は天井の照明に突き刺さっただけで、アルベルトの背中を射抜いたわけではない。

 

 その場に崩れ去り、トキサダは喚いていた。

 

「撃てるわけ……撃てるわけねぇだろ! ……ヘッド、あんたはおれの憧れで……そんで何があったって、凱空龍のヘッドなんだ! ……だから、おれはあんたを撃てねぇ。撃って後悔して、それで生きていたくねぇんだ! ……あんたの居ない凱空龍なんて……考えられねぇよぉ……っ」

 

 感情の発露にカトリナも涙を流していた。

 

「……お前ら……オレは裏切り者みてぇなもんで……」

 

「あんただから、信じて死んでいった連中も居たんだ。……だからおれは、あんたの判断を信じる。他でもねぇ、凱空龍のヘッドとしての、これからの判断を」

 

「凱空龍の、ヘッドとしての判断、か……」

 

 アルベルトはレミアと向かい合い、そして告げていた。

 

「オレ達をまだ使ってくれるんなら、この艦で使って欲しい。これは単純に、オレの願いだ」

 

「降りない、という事でいいのかしら? ……正直な事を言うと、下手な覚悟で居座られるほうが迷惑なのよ。これまでみたいな戦いばっかりじゃない。もう、逃れられないと思ってちょうだい。ベアトリーチェはこれより、月軌道に向かいます。その時に覚悟が揺らぐんじゃ、単純に邪魔なだけよ。私達はあなたの自己満足の道具じゃないんだから」

 

「……あんた、そんな言い方……!」

 

 思わず噛み付こうとしたトキサダに、アルベルトは、いや、と制する。

 

「……オレの我儘を通してもらおうとしているんだ。なら、ここは道理を通すべきところだろう。……艦長、オレはあんたの言い分は従う。ここじゃ、あんたがボスだ」

 

「物分りのいいほうだと、思っていいのかしらね。……とは言え、ここまで身勝手貫いて来たんだから、その辺は私としても理解しているつもりだけれど。それでもあなたがベアトリーチェを護ると誓ってくれるのなら、私達はそれに見合う働きをしましょう。月軌道まで、私達は決して墜ちるわけにはいかないのよ。それだけは承知して」

 

 レミアはそう言い置いて踵を返す。

 

 その背中にアルベルトは呼びかけていた。

 

「……あの……っ、オレを責めるんじゃないのか、あんたらは……」

 

「それが何。リヴェンシュタイン家の人間であった事? それとも、ラジアルに関しての話? ……正直ね、今はそんな衝突をしているような場合でもないのよ。コロニー、ミッシェルで得られた補給を基にして、私達はこれから休みなく月への航路を取る。その時に、下手な諍いは無用な軋轢を生む。これは分かって欲しいんだけれど、私達だって、もう戻れない」

 

 断言したレミアの背中にかける言葉はこれ以上なさそうであった。

 

「あ、あの……っ、アルベルトさん……」

 

「カトリナさん。オレ達は戦う。これはただ単にベアトリーチェのためだけじゃねぇ。オレ達なりの……ケジメなんすよ。ここまで戦い抜いたんなら、クラードが居ても居なくっても関係ねぇ。オレは――ベアトリーチェを、ラジアルさんの信じた場所を守り抜く。それくらいの我儘は通させてください」

 

 まさかそこまでアルベルトが覚悟しているとは想定外であったがしかし、カトリナは持ち直していた。

 

「……いえ、お願いするのは私のほうで……。だって、委任担当官の仕事って言ったって、相手が居ないとどうしようもないですから。……あっ、さっきぶったのは……」

 

「いえ、いいんす。いい気付けになりました。にしても……思ったよか効いたんで、その筋の才能はあったって事っすよ」

 

 そうやって互いに微笑み合う。

 

 今は、前進するだけの根拠が欲しい。

 

 それがたとえ困窮し切っただけの「今」しかない刹那的なものだとしても。

 

 自分も、彼らも同じく、未来を見ている。

 

 その先に何があるのかはまるで分からない。分からないのだが――それがただの茫漠とした闇ではないのだけは確かであった。

 

 

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