機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第87話「六番目の使者」

「……しかし、木星帰りを乗せるだけにしては大仰と言うか……。先の《サードアルタイル》の攻撃も気になります、艦長」

 

 部下の言葉ももっともで、艦長は今も不明なままの《サードアルタイル》の攻撃と、そしてジオの《ラクリモサ》による無力化は成功したのかと言う懸念と板挟みになっていた。

 

「……我々は我々の職務を全うするまでだ。だからこれは……我々にとっての……」

 

 責務、なのだろうか。

 

 しかし、ザライアンはこう言った。「この宇宙に呼ばれてきた」と。

 

 それは即ち、MFでさえも何者かの意志に召喚されてきたと思うべきなのだろうか。

 

 それ以上を追求しようとして、いや、栓無い事だと思考に蓋をする。

 

「……木星帰りの言葉が真実とも限らない。私達は、せいぜいお上の思惑を汲む事くらいだ。仕事を達成すれば、少しはマシな感覚に浸れるのかもしれない」

 

「では帰宅して飲む酒くらいですか。今は信じられるのは」

 

「そうだな。晩酌くらいしか、私達の仕事への苦労を解消させるのは――」

 

 そこまで言おうとして、不意の警告に艦長はつんのめる。

 

『伝令! これは……ダレトより膨大な干渉波! こんな規模……!』

 

「報告を厳にせよ! 何が起こった!」

 

『これは……艦長! あり得ないのですが……月のダレトが……開いていきます……』

 

 報告の体を成していない言の葉に、艦長は肘掛けを強く握り締める。

 

「連邦艦ならもっともらしい報告をしろ! 今何が起こって、現状何が起ころうとしている!」

 

『ダレトより巨大質量の到来を関知! 空間跳躍です!』

 

「……馬鹿な。そんな事は今の今まで……いや、まさかMF02の出戻りか?」

 

 それならばまだ対応のしようがある、と感じた艦長は直後の悲鳴のような伝令に思考を掻き消されていた。

 

「……いえ、これは……! 違います! これまでに確認されたどのMFとも違う干渉波を認識! しかしこの反応は間違いなく……MF相当の出現規模です!」

 

「……まさか。“夏への扉事変”より先、新たに確認されたMFは存在しない!」

 

「――ならばこれは、新たに確認された事象という事なのでしょう」

 

 いつの間に管制室に入って来ていたのか、ザライアンは落ち着き払って声にしていた。

 

「木星帰り! 入室を許可していないぞ!」

 

「それでも、知っているのが僕だけなら、応じるべきでしょう。……この波長は間違いない……MF……来ると言うのか。六番目の使者が」

 

「六番目……? 五番目じゃ……」

 

 そのような認識の齟齬程度、今はどうだってよかった。

 

 問題なのは、MF相当の勢力がダレトを通じてこの月軌道宙域へと出現すると言う事実のみ――。

 

「何が来ると言うのだ……。我々では対処出来んぞ……」

 

『超重力波を確認! 空間を貫いて……艦長! これは砲撃です!』

 

 何だと、と声にする前に、宇宙の深淵たる大虚ろから引き出されていくのは、磁場を伴わせた巨大なるモニュメントのようであった。

 

 形状はちょうど「8」の字に近い。

 

 上下共にすり鉢状の砲口を持ち、その中腹部にメインカメラらしき赤い眼光を持つ。

 

 これまでの全ての常識を塗り替えられたかのようなシルエットに、そして物理法則のことごとくを無視したかのような機体形状。

 

「……MF……ッ! 新しいガンダムか……!」

 

 ザライアンが忌々しげに放った言葉も今は不明瞭なまま、砲口に収斂されていく黒々とした重力磁場が放射され、球体となって凝縮される。

 

「これは……超重力砲撃……。そんな技術、今の人類にないぞ……!」

 

「敵の砲撃範囲を概算! 我がアルチーナ艦も射程内です!」

 

「……まさかそんな……」

 

 こんな呆気ない終わりが、自分達の幕引きだと言うのか。

 

 そんな事があって――。

 

 それ以上の思案を引き裂くかのように、この宇宙に生まれ出でた新たなる使者は、宇宙の常闇を引き裂く「叫び」を発していた。

 

 それはまさに、絶叫と言うに相応しかっただろう。

 

 拡大する磁場と裏返る重力を纏わせ、極黒の重量子は、眼前の羽虫たる月軌道艦隊を飲み込んでいた。

 

「――いけない! 予定にはなかったが……来い! 《フォースベガ》!」

 

 それが何もかも闇に呑まれる前に、耳朶を打った最後の言葉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――六番目の使者が訪れた』

 

 丸まった胎児達の集う断罪の間にて、その事実だけが認証される。

 

『予定外の事は起こるものだ。しかしそれにしても規模が違う。六番目の聖獣――《シクススプロキオン》の来襲。それはこの宇宙に深刻な亀裂として生じ、我々の世界を冒す。それだけはあってはならないはずだ。世界の変動値は常に我々、ダーレットチルドレンの閾値でなければいけない。それを超える世界の変革は必要ない』

 

『左様。《フィフスエレメント》の確保よりも、今は眼前の脅威を葬り去るべきだ。六番目の聖獣へと、親衛隊による駆逐任務を与える。あの宙域に最も近いのは誰か』

 

 観測の波長が全員に行き渡り、その果てに答えを紡ぐ。

 

『――なるほど。万華鏡、ジオ・クランスコール。戦力としては十二分か。彼奴へと六番目の使者の破壊任務を充てる。なに、あれでよく出来た戦力だ。働きくらいは期待してもよかろう』

 

『全ては、我らの生存とその果てに待つ栄光のために。命を投げ打ってもらうぞ、この次元の人類よ。肉を切って骨を断つ心持ちで向かうがいい。《シクススプロキオン》へと。聖獣討伐任務――こちらの人類には荷が重かろうがそれでも、存亡の危機に瀕すれば少しくらいは抵抗もしよう』

 

 所詮はこの時空の人々へと投げられた決定だ。

 

 自分達はそこまで関与しない。

 

 ただ、あるとすれば――。

 

『ここで動かぬとすれば、嘘なのであろうがな。《フィフスエレメント》――《レヴォル》よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第九章 「忌むべき来訪者達の饗宴〈シャドウ・リターナー〉」了

 

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