機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第二章「青春の日々にサヨナラを〈グッバイ・ユースフルデイズ〉」
第8話「それは眩き流星」


 閉じていた意識を緩やかに覚醒に導かれ、ぼうとした視界の中でそれを見据える。

 

 黒スーツの男達が周囲に佇んでおり、彼らは拘束椅子に座らされた自分と、そしてその眼前にある蒼いモニュメントを擁するアタッシュケースを交互に観察していた。

 

『脈拍70、意識レベルはノーマル』

 

 ガイド音声が滅菌されたような白い個室に響き渡る。

 

 どうやら自分は自由を奪われた上に、全身をモニターされているらしい。

 

 アタッシュケースより屹立したモニュメントがこちらを見返している。

 

 ――そう、全く確証の外であったが、その物質は自分を確かに見ているのだ。

 

 値踏みするかのような眼差しを、不明なる機械のモニュメントより感じ取る。

 

「PE037」

 

 その呼称は戦闘時の自分の固有名称だ。顔を上げて、モニュメントの脇に立つ男へと視線を配る。

 

「……何だよ」

 

「君は第七管区にて、ミラーヘッドの殲滅戦に巻き込まれた。その際、部隊は全滅。君が搭乗していた《エクエス》も大破。その結果、生き残ったのは君だけだ」

 

「……だから何だって……」

 

「第四種殲滅戦において、生き残りを我々は評価したい。それがたとえ偶然の産物だとしても」

 

 自分の側に立つ男達が後ろ手に拘束されている自分の腕を引っ掴む。

 

 神経を引っぺがされるかのような激痛に顔をしかめた自分に、吐き捨てるかのような声。

 

「ライドマトリクサーか。しかし、ナノマシン施術――神経伝導に思考拡張……それだけでは足りないはずだ。我が社で君を買い叩こう。その代わり君には我が社の所有物となっていただく」

 

「所有物……? 俺の新しい雇い主だとでも言いたいのか」

 

「雇うと言うのは値しないな。君の生き死にの権限は全て、我が方が持っている。いずれにしたところで、PE037は最早死亡扱いなのだ。君に、帰るべき場所はない」

 

 別段悲しかったわけでも、寂しかったわけでもない。

 

 ただ死に場所くらいは選びたかったという程度だ。

 

「……そうか。俺はもう身勝手に死ぬ事も出来ないと?」

 

「残念ながらね。ミラーヘッドの戦線で生き延びたんだ。その生命力は誇っていい」

 

「生き意地が汚いの間違いだろうに」

 

「それもまた、正しい」

 

 男はアタッシュケースのモニュメントに視線を配る。

 

 モニュメントはちょうど眼底検査のような形状をしていて、真横にはバイタルデータの波形が絶えずモニターされる。

 

「……それは何だ?」

 

「ああ、これかね? 今、君を覚えてもらっているんだよ」

 

「覚えてもらっている……? ただの機械にしか見えない」

 

「今はそうだろう。だが、果たすべき責務が果たされる時に、この物体――《レヴォル》は君の助けになる。そのはずだ」

 

「……《レヴォル》」

 

『脈拍85。意識レベルノーマル』

 

 ガイド音声が鳴り響く中で、自分は《レヴォル》と呼ばれた機器と向かい合う。

 

 それは恐らく、運命の始まりだったのであろう。

 

「PE037、君には我が社の特殊エージェントとして登録してもらう。名前はもう決まっていてね。前任の席が空いたのでその名前を使ってもらう。君は今日から――クラードだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……クラード、クラード……!』

 

 ファムの声がノイズ交じりの通信チャンネルより漏れ聞こえる。

 

 接合された可変腕より伝わる振動。電磁の周波数が脳髄にキンと鋭く突き立って来る。

 

 今の今まで使ってこなかったライドマトリクサーとしての手段――それを用いて四肢を広げた白亜のMSが敵を見据える。

 

『隊長! あのMSは……!』

 

 うろたえ気味の《エクエス》へとクラードはすぐさま接近させ、肉薄と共に一撃を与えていた。

 

《エクエス》は腹腔を穿たれ、そのまま崩れ落ちる。

 

 王冠の形状を持つ隊長機へと同期した視界を振り向けたクラードは、《レヴォル》の鋭い爪を軋らせて、突き刺した装甲板の欠片を払っている。

 

「……幕切れの時は来た。さぁ、俺達のカーテンコールと行こうか」

 

『何だ……お前は……何なのだ!』

 

 隊長機が恐慌に駆られたようにミラーヘッドの分身体が一斉に編隊を構築し、それら分身体の一斉掃射が放たれ、蜂の巣にしていた。

 

《マギア》ならば回避すら困難であろう硝煙の塊――だが《レヴォル》は獄炎に対して鋭い眼差しを投げ、ミシリと指先を軋らせて《エクエス》隊長機へと肉薄をせしめた。

 

 下段より鋭く手刀の一閃。

 

 その腕を引き裂き、抱えられていたファムを助け出す。

 

 落下の途上にあるファムを片手で保護してから、クラードは《エクエス》本体のアサルトライフルの銃撃を装甲に受けていた。

 

 それでも《レヴォル》には傷一つつかない。

 

 思考拡張で繋がった装甲越しではくすぐったくもない。

 

『この機体は……何だって言うのだ!』

 

「――《レヴォル》だ」

 

 その声が相手に聞こえたのかどうかは分からない。

 

 ただ、敵コックピット部位を睨み据え、そのまま《レヴォル》の爪を突き立てようとして、放られたミラーヘッドの分身体を身代りにされる。

 

 前面に楯突いて来た分身体の腹腔を射抜いてから、本体である《エクエス》が遠く離脱挙動に入っているのが窺えた。

 

「……ここは逃げるが勝ちという事か」

 

 クラードは真紅に染まった瞳で崩落したコロニーを眺める。

 

 ビル群は朽ち果て、汚染水のスプリンクラーが舞って穢れた虹を構成していた。

 

 軍警察の《エクエス》は撤退機動に入っていく。

 

 それらを最後まで目にしてから、クラードはこちらへと接近する熱源に意識を割いていた。

 

《マギアハーモニクス》の機体照合がもたらされると共に、少しだけ戦闘の気配を緩める。

 

『……そのモビルスーツは……クラード……なのか?』

 

「ああ、アルベルトか。こいつは……」

 

 そこで不意に眩暈を覚える。

 

 くらりと傾いだその時には、腕の可変が解かれ、元のモールドへと戻っていた。

 

《レヴォル》からの意識レベルが遠のき、クラードは昏倒するかのように、そのまま淵のない眠りへと落ちて行った。

 

 

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