機動戦士ガンダムダレト   作:オンドゥル大使

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第97話「聖獣討伐作戦」

 

『ドッキングベイを離脱。《フルアーマーレヴォル》、出撃姿勢に』

 

 その声が響き渡る前に、何重にも制動構造の整えられたコックピットの中で、クラードは強烈なGを感じていた。

 

 胃の腑を押し潰すだけの勢い。これが《フルアーマーレヴォル》、これが新たなる獣の躍動。そして――この戦場を終わらせるためだけに放たれた矢でもある。

 

「この程度で……終わってくれるなよ、《レヴォル》……。俺は、この戦いに終止符を打つ。なら、俺は加速の向こうに行ってまでも、敵を打ち倒すまでだ」

 

 こちらへとおっとり刀で銃口を向けてきたのはトライアウトネメシスの《エクエス》であったが、《フルアーマーレヴォル》はそれに対し、機体を逆立たせて応戦の銃撃を放っていた。

 

 照射される銃撃網を《フルアーマーレヴォル》は身に纏ったIフィールドで弾いていく。

 

 だが、《レヴォル》の手にするビームライフルはどれもこれも当てずっぽうで、命中する感覚はない。

 

『敵は図体ばかりだ! 一気に叩くぞ』

 

「それは……どうかな」

 

 武装モジュールを解放し、コンテナより射出されたのは三角錐のアタックウェポンであった。

 

 アタックウェポンは敵影を照準に入れるなりミサイルを四方八方に撒き散らす。

 

《エクエス》が慌てて推進剤を焚いてそれらを回避しようとするが、既にロックオンされていた数機が爆発の光輪を押し広げ、内側より爆ぜていく。

 

 その空間を《フルアーマーレヴォル》は滑走し、戦場を突き抜けていく。

 

「……敵の第一陣は超えたな。まずはベアトリーチェにかかる火の粉を払う。《レヴォル》、敵影マルチロックオン。照準――掃射」

 

 トリガーを絞る感覚。

 

 打ち出されたのはコンテナの基部表面を滑る小型のビーム照射機であった。

 

 直後、《フルアーマーレヴォル》を中心軸にして火線が舞い散る。

 

 ベアトリーチェを包囲していた《エクエス》はそのことごとくが撤退を余儀なくされ、ほとんどが撃墜されていく。

 

『クラードか? ……助かった』

 

「トキサダ、退いてくれ。《マギア》だって限界が来ているだろう。俺が戦場を先導する。ベアトリーチェは安全圏まで撤退、その後、月の陰に入って月軌道艦隊との戦闘は避けて、うまい具合にエンデュランス・フラクタルの月面支社の助けをもらってくれ。そうすれば死なないはずだ」

 

『……それはいいんだが……クラード。おれ達はもう、この艦と運命を共にするって決めてんだ。おれ達がトライアウトの機体は押さえておく。お前はその間に……敵の本隊を叩いて欲しい』

 

 無論、そのつもりだ。しかし、現状では敵の包囲があまりにも強過ぎる。

 

「……アルベルトも帰って来ているとはいえ、本調子じゃないんだ。このままじゃ押されるだけだよ。俺はこの月面の闘争の本拠地を撃ち叩く。そうしないとジリ貧だ。戦える奴はすぐにでも艦の守りに入って欲しい。ベアトリーチェが墜ちてしまえばそこまでだからな。俺の戦いはあくまでも敵の中心の打倒。そのためには、ベアトリーチェから離れる必要がある。艦がどうなっても、すぐには戻れそうにない」

 

『ああ、分かっている。ヘッドが来てくれるんなら凱空龍は百人力さ。おれらの心配はすんなよ。お前はお前の道を行け、クラード』

 

「……少し意外だな。トキサダ、あんたは俺の事、嫌っていると思っていたけれど」

 

『ああ、嫌いだぜ。だが、任せるに足る相手だってのは分かっている。……ラジアルさんが命をかけて守ってくれた場所だ。おれらだって男なんだ。銃くらいは取らせてくれよ』

 

「……そうか。嫌いでも割り切れるもんなんだ」

 

《フルアーマーレヴォル》はベアトリーチェ甲板部から離れるなり、月軌道艦隊が今も戦闘継続を行っている密集区へと突き抜けていく。

 

「……にしても、死の臭気が濃いったらないな」

 

 ベアトリーチェはあれでも本丸の戦闘からは離れていたほうだ。

 

 月軌道艦隊が砲撃を浴びせ込んでいる対象へと、クラードは深紅の瞳を投げる。

 

「8」の字を象ったかのような異様なシルエットだが、三角錐の推進剤を持つ躯体はただ単純なモニュメントではないのは窺える。

 

 上下に巨大MA相当の砲口を備えているそれは、まさに要塞。

 

「……拠点防衛用の、MF……。相手にとって不足は、って奴だな」

 

《シクススプロキオン》の機体照合がもたらされ、クラードは今も応戦の火線の棚引かせている《エクエス》や《マギア》を視野に入れる。

 

 どれもこれも、豆鉄砲に等しい火力で《シクススプロキオン》に攻撃を放つも、敵の単純な装甲の堅牢さに防がれている形だ。

 

「……《ネクストデネブ》みたいなIフィールドは持っていない。なら、火力で押し込めば……」

 

 そう判じたクラードは直後、《シクススプロキオン》が高重力を形成したのを目の当たりにしていた。

 

 上下の砲口に高重力磁場が固められ、凝縮した直後、ライドマトリクサーの肌を粟立たせるプレッシャーを感じ取る。

 

「……これは、まずい……!」

 

 何が、と言う主語を欠いたまま、クラードは《フルアーマーレヴォル》をぐんぐんと上昇させていく。

 

 その直後には、《シクススプロキオン》の放射した高重力砲撃が月軌道艦隊の半数を飲み込んでいた。

 

 まるで段違い。

 

 こちらの火力の数十倍に等しい《シクススプロキオン》の火力は、最早、彼我戦力差などという生易しい言葉では言い表せないだろう。

 

 まさに殲滅戦。

 

《シクススプロキオン》の砲撃を浴びた艦隊はそのほとんどが蒸発よりも惨い結果へと引き落とされていく。

 

「……あれは、まるで圧死だ」

 

 そう、高重力による物体の圧縮、その後による質量の崩壊。

 

 月軌道艦隊の半数は、と先に述べたが、その実は艦隊の全域を包み込むほどの威力であった。

 

 だがそれを減殺せしめたのは艦隊の前面に佇む緑色の機体の恩恵だ。

 

 鋭角的なシルエットを誇る機体の照合結果に、クラードは瞠目する。

 

「……あれが……MF04、《フォースベガ》か」

 

《フォースベガ》は《シクススプロキオン》の重粒子砲撃をその身に帯びた無数の大剣で斬撃、否――断絶していた。

 

《フォースベガ》の斬り払った部位だけが、まるで無風地帯のように重力の投網より逃れ、その砲撃は上下に分断される。

 

「……斬撃だけで、重力の瀑布を叩き割る……」

 

 クラードとて驚愕しなかったわけでもない。

 

 その実力、そしてその性能、どれをとっても確かに四聖獣の一角に等しい。

 

 しかし《シクススプロキオン》は恐れを宿したわけでもない。それどころか、再チャージまでの時間は先ほどまでよりも短くなっている。

 

「……あれだけの性能の機体が、月軌道まで来れば人類は自ずと滅びる。そうさせないための存在が、俺と《レヴォル》だ」

 

《フルアーマーレヴォル》の機体が《シクススプロキオン》迎撃へと火線を棚引かせる機体群を追い抜いて直進していく。

 

 クラードは各所に備え付けられた衝撃減殺機の機能が無事に実行されているのをその身で確認しつつ、今もぶれ続ける照準器の中に《シクススプロキオン》を据える。

 

「――沈め」

 

 砲撃スロットより折れ曲がった長大な砲身を現出させ、《フルアーマーレヴォル》は砲撃を見舞っていた。

 

 一条の光芒が減殺しながら《シクススプロキオン》に突き刺さる。

 

 その紫色の装甲の一部が剥離し、火力の高さを誇るも、それでもそのモニュメントに翳りが現れたわけではない。

 

 高重力砲撃を充填した《シクススプロキオン》に、クラードは舌打ちを滲ませながら、武装コンテナより新たなる武器を引き出していた。

 

 補助アームを機体の肩より伸長させ、《レヴォル》の両腕に担がれたのはMS戦においてはほとんど無用の長物であろう、ハイパーバズーカであった。

 

「ミラーヘッド戦じゃ、こんなの当たらないだろうけれど……それだけ図体が大きければ別だろう」

 

 何よりも、実体砲撃が意味を持つのならば、たとえ砲弾を使い切ってでも相手に弾幕を浴びせたほうが効果的であるはず。

 

 バズーカの砲撃が無数に光輪を形作るが、それでも全く衰えを知らぬ《シクススプロキオン》の強度にクラードは苦汁を噛み締める。

 

「……どれだけ装甲が堅くっても、中にパイロットが居るって言うんなら、少しでも軌道をずらせるはずなんだが……」

 

 その目論見が叶わないように、《シクススプロキオン》は再び重力を凝縮、装填させ、磁場を辺りに撒き散らしていた。

 

 高重力のせいで《シクススプロキオン》ほどの巨体でも視野の向こうで歪む。

 

 クラードはそれでも接近を諦めなかった。

 

 霞み行く敵の彼方に叩きのめすのが己の役割。引き絞られた弓矢は、命中しなければいけない。

 

「ここで――迎撃する」

 

 マニューバを高めて一気に加速し、《フルアーマーレヴォル》は下部に備え付けていた巨大なビームサーベルを稼働させていた。

 

 その出力だけで艦砲射撃相当の熱量を誇る巨大ビームサーベルはそのまま《シクススプロキオン》へと叩きつけられ、その装甲を融かしていく。

 

「……これでも照準をずらさないのだとすれば、それは相当だって事だが」

 

 だがさすがに干渉波のスパーク光が焼き付き、《シクススプロキオン》の砲撃にも翳りが見られていた。

 

 高出力のサーベルの熱線を受け、《シクススプロキオン》の上部が砕け散り、生じた膨大なデブリが《フルアーマーレヴォル》へと津波のように叩きつける。

 

 不思議な話だ。

 

 攻撃しているのはこちらのはずなのに、その返り血でダメージを受けているなど。

 

 だが、一度だって自分はここで撤退なんて無様な真似は犯さない。

 

「……このまま……焼き切ってやる……!」

 

 血の一滴になっても構わない。

 

 ここでのMFの粉砕はこれまでの戦歴を大きく塗り替えるであろう。

 

 ――それに、とクラードは笑みさえも刻む。

 

「俺の命はこの時のためにあった。なら、それを喜んで投げ打たないのは、嘘だろう」

 

《フルアーマーレヴォル》の格闘兵装が《シクススプロキオン》上部を貫通する。

 

 これで勝負あったか、と期待した自分へと冷水を浴びせるかのように、黒煙の向こう側より生じたのは無数の――手であった。

 

《シクススプロキオン》のどこにそんなものを隠していたのか、おびただしいまでの支持アームの群れが、《フルアーマーレヴォル》を拘束し、直後には、下部に位置する砲門が月軌道艦隊ではなく、自分と《レヴォル》を照準する。

 

 だが、それも織り込み済み。

 

 ならばここでは、恐怖すべきではないのだろう。

 

「……恐怖するのは、お前のほうだ。俺の射程に入ったな?」

 

 武装コンテナより突き出されたのは円柱状のアタックウェポンであった。

 

 相手へと突き立つなり、その先端部に構築されていた砲身が蒼い残火を引き写してゼロ距離射撃の勢いを灯す。

 

「……《レヴォル》の掌底を極大化した武装だ。とくと喰らえ」

 

《シクススプロキオン》の堅牢なる装甲へとぶち当たった武装が爆ぜ、貫通する衝撃波が宇宙の常闇を震わせる。

 

 それは如何に生物としての息吹の薄い《シクススプロキオン》であろうとも、驚嘆せざるを得なかったのだろう。

 

 亀裂が走り、その装甲部がぼろぼろと崩れていく。

 

《シクススプロキオン》の内部フレームである白銀の装甲が剥き出しとなり、もう一撃、とクラードが奥歯を噛み締めたその瞬間、視界を覆い尽くす高重力の投網が機体を嬲っていた。

 

 ショックアブソーバーでも減殺し切れないほどの衝撃波。

 

 それは脳髄をシェイクし、意識の線を次々と断ち切っていく。

 

 だが、自分はこの《レヴォル》と接続されたライドマトリクサー。

 

 当然、何度昏倒の淵に立たされようとも、システムが無理やりシャットダウンと再起動を繰り返す。

 

 その波に、自我境界線でさえも持って行かれそうになってしまうが、ぎり、と感覚だけを握り締め、自分と言う境界を保つ。

 

 それは大嵐の中で無謀にも帆を張って前に進むかのごとき、馬鹿げた挑戦。

 

 しかし、そう行動しなければ、自分は自分に「殺される」。

 

 眼前に佇む強大なる魔より前に、システムの強制停止と言う形で、自分は死を迎えるであろう。

 

 ライドマトリクサーの身は、ほとんど剥き出しのままでMSと同調するようなもの。

 

 生身で宇宙に投げ出された錯覚さえも感じさせる。

 

 それでも深淵の宇宙で、絶対の冷徹さを超えて立ち向かえるとすれば、それは熱い血潮が赴く感覚のみ。

 

 こうして――《レヴォル》と繋がっている。

 

 その実感だけで常闇を掻き、強大が過ぎる敵にも果敢にも――時には無謀でも――刃を突き立てられる。

 

 今にも爆発しそうな操縦感覚。

 

 ライドマトリクサーの腕が、肉体が、精神が、自我が、これまで積み上げてきた「クラード」という経験則が――まるで塵芥のように還っていく。

 

 ある意味では無我への回帰。

 

 ある意味では自我への狂気。

 

 だが、それでも――。

 

「届けェ――ッ」

 

 己を粉砕してでも、敵を討て。

 

 敵の装甲を射抜く瞬間、激震がコックピットを見舞っていた。

 

《シクススプロキオン》の高重力砲が放たれ、月軌道艦隊を抜けてベアトリーチェの待機する戦闘宙域を引き裂いていく。

 

「ベアトリーチェが……! こいつ、分かっているって言うのか……!」

 

 だが次手は打たせない。

 

 武装コンテナより引き出したのはもう一発の円柱型の極地武装。

 

「第二波が来る前に――終わらせる……ッ!」

 

 その攻撃を撃ち込む前にその巨体がぶれていた。

 

 蒼い色相を帯びて、《シクススプロキオン》の機体が直撃を免れる。

 

「まさか……ミラーヘッドだと……」

 

 このタイミングで切り札を出してくるのは、しかし、余裕がない証だ。

 

《シクススプロキオン》を断ち切るのならば今しかない。

 

 それが分かっていながらも、直撃軌道から逃れた《シクススプロキオン》は瞬時に次弾のチャージを終え、何とこれまで充填が必要であった重粒子砲撃を分散し、拡散砲撃に移る。

 

 それは《レヴォル》が《シクススプロキオン》の脅威として挙がっている証左だろう。

 

 横合いから高出力ビームサーベルの斬撃を浴びせ込もうとして、《シクススプロキオン》はミラーヘッドによってその身を分身させ、本体への直撃を掻い潜る。

 

「それでも……それだけ図体が大きければ、避け切れないはずだ……!」

 

 ビームサーベルの残火を帯び、敵のモニュメントじみた巨体の胴体を割らんと迫る。

 

 亀裂が生じ、ビームサーベルの高熱がその堅牢なる装甲をじりじりと焼いていくが、それよりも敵の極大化した重力砲が《フルアーマーレヴォル》の武装コンテナを打ち砕き、内部に引火して《レヴォル》本体にまで衝撃波が至る。

 

「……だと、しても……ッ。死なば諸共だ……」

 

 アラートが鳴り響く中で、クラードは大太刀を振るい上げ、直後には《シクススプロキオン》の頭上へと打ち下ろしていた。

 

 その身を完全に挺した形の唐竹割り――果たしてその行く末は。

 

 

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