【もぐもぐ】
ギアステーションのゴミ箱には、時折ヤブクロンが入っていることがあるという。
一種の都市伝説のような話だが、ゴミ箱に入ったヤブクロンを見つけたら道具を取られるともささやかれている。
その都市伝説のヤブクロンは、実はサブウェイマスターたちが厳選したダストダスに進化する前のヤブクロンであった。
「あ、みーつけた!」
サブウェイマスターの片割れであるクダリの明るい声が高い天井に反響する。
「今日はここのゴミ箱なんだね!」
クダリの視線の先、そこにはゴミ箱にすっぽりとおさまっているヤブクロンがいた。
「はいっ、今日はいちご味のあめだよ」
「クダリ、あげすぎはよくないですよ」
「わかってるよ。だからきょうはいちごあめ一個!」
「あぁ、昨日発売された新商品ですね」
「そう、美味しかったからこの子にもあげようと思って」
仕事前の二人はもごもごと大きいあめを頬張るヤブクロンを温度の無い色をした瞳で眺める。
だが、彼らの愛する鉄道を作る鉄と同じ色の瞳にはいつくしみが確かに込められていた。
「ほんとここから出てこないねぇ」
「今日はこのゴミ箱は使えませんね」
このヤブクロンは早朝に気に入るゴミ箱を探し、見つけると中に入り、一日中そのゴミ箱を占領してしまうのだ。
「張り紙でもしておきましょう。どんなものにいたしましょうかね」
「ヤブクロン在中?」
バトルトレインでのバトルを終え、ベンチで休憩中の少年がふとゴミ箱の張り紙に気付く。
「あ、ほんとだ。ゴミ箱にヤブクロンがすっぽり」
「すげぇみっちみちだけどはいるものなんだな…」
「ゴミを食べるのは知ってるけどお菓子とか食べるのかな」
「試してみちゃう?」
ひょいぱく。ぱくっ。もごもご。ごくん。
「こうやってみるとヤブクロンもかわいいかも」
特性あくしゅうであまり好感を持たれないポケモンだが、その動きに彼らの胸はきゅんと高鳴る。
さらには彼らを見ていた人々の心までも射止めたのだった。
与えられるものを喜色満面でなんでも食べるヤブクロンに我もと我もと与え、噂を聞いたものはヤブクロンを探し当てて食べ物を与えるのがステータスのようなものとなった。
「まさかのヤブクロン餌付けブームにびっくり」
「ヤブクロンは構ってもらって喜んでいますけどもよいのでしょうか」
ノボリが首を傾げると、いいこと思いついた!とクダリが提案する。
「ヤブクロンのかわいさを知らしめるチャンス! だからいいんじゃない?」
「それもそうですねぇ…」
出たよポケモン馬鹿、その時、横で聞いていたてつどういんたちの心は珍しく一つになった。
「あれ、今日もここ?そんなに気に入ったのかな」
「あんなに毎日場所を変えていましたのにこだわりが変わったんでしょうか」
じたじたする小さな子に嫌な予感を覚える。
「まさか出てこないんじゃなくて出れないんじゃ…」
「まさか…」
こくこくこく。半ば冗談まじりだったサブウェイマスターの言葉にヤブクロンは必死に頷いている。
「そのまさかだったー!」
慌ててゴミ箱にみっしりと詰まったヤブクロンを救出する羽目になった。
余談ではあるが、最終的にはゴミ箱を破壊しなくてはならなくなり、サブウェイマスターの二人が自腹で弁償したという。
「張り紙には付け足しておきましょう…。餌を与えないでください、と」
頭を抱えながら提案されたそれにクダリも項垂れながら賛成した。
「喜ぶからといって食べ物のあげすぎはいけませんよ、クダリも」
「ノボリもね! 実はこっそりあげてるの知ってる!」
「…えぇ、わたくしも自戒せねばなりませんね」