勇者史外典:男たちは自衛官である   作:栄光

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演武展示

 2019年、元旦。

 

 グラウンドには抽選で当たった一般の観客がすし詰めで、来場者は1万人以上いた。

 ちょっとした市民球場ほどの賑わいで、保安検査を済ませた屋台も出店しておりお祭りムードだ。

 胸にリボンが着いた招待客は勇者たちの姿がよく見えるひな壇に通され、展示の開始まで屋台に行ったり記念撮影をしたりと各々の時間を過ごしている。

 

 そのころ控室にいる勇者たち、とりわけ演武を披露する若葉、球子、千景の三人は最後の打ち合わせも終えて、大社の職員が呼びに来るのを待つばかりだ。

 

「若葉ちゃん、緊張してますか」

「ああ、いよいよ本番だと思うとな……」

「タマっち先輩、頑張って」

「任せタマえ!場を盛り上げてやるぞ!」

「ぐんちゃん、いよいよ本番だね」

「そうね」

 

 声が掛かれば展示会場であるグラウンドまで向かう。

 予行演習は何回もやった、それでも実際に観客がいる本番では想定外の何かが起こるかもしれない。

 若葉は目を閉じて細く長く息を吐き、意識を丹田に落とす。

 静かな精神統一の様子を真似しようとして、球子は1分も持たず傍にいる杏に話しかける。

 口数がやたらめったらと増え、いつもの2割増しくらい騒がしい。

 千景は「失敗したらどうしよう、失敗して必要とされなくなったら……」という負の思考回路に陥りそうになっていたちょうどその時、肩を叩かれる。

 

「ぐんちゃん、いっぱい練習したんだから大丈夫だよ!」

「……完璧にこなしてみせるわ」

 

 友奈に励まされ、緊張の混ざったぎこちない笑顔で千景はギュッと拳を握ってみた。

 それからほどなくして神官服の大社職員がやって来て出番を告げた。

 

『長らくお待たせいたしました、これより勇者による演武を実施いたします』

 

 士気を高揚させるようなBGMが流れるなか、会場に三人の勇者が入ってくる。

 陽の光を受けてキラキラと輝く髪、そして凛とした顔、旺盛たる士気を感じさせる快活な足取り。

 いつもテレビなどで見る彼女たちをナマで見られるということに大きな歓声が上がった。

 駐屯地創立記念式典で新型の戦車が登場した時さながらの風景である。

 

『ただいま入場いたしました勇者は乃木若葉、土居球子、郡千景の三名です』

 

 右向け止まれで三人が並んで、勇者たちは一般の観客席と来賓席、ひな壇の三方に一礼する。

 

『会場中心の赤い看板をご覧ください、バーテックスを模した看板および巻き藁が設置されております』

 

 会場の中心に道路標識くらいの大きさの赤い看板と巻き藁がいくつも立てられていて、女性の声で想定の説明が行われる。

 

『構え!』

 

 指導教官の号令と太鼓の音に合わせて生大刀、大葉刈、旋刃盤とそれぞれの武器を構えると、開始の合図を待つ。

 

『勇者は近接および中距離戦闘をもってバーテックスを圧倒撃破します。それでは日々の訓練の精華をとくとご覧ください』

 

 太鼓が打ち鳴らされ、納刀した若葉が歩み出る。

 抜き打ち、いわゆる居合で青竹に畳表を幾重にも巻いた“巻き藁”をスパスパと四分割する。

 観客からは自然体の若葉が腕を振った瞬間に切れたように見え、袈裟斬りを終えて血を払う動作によってようやく思い出したかのように切断面から崩れ落ちる。

 目にも留まらぬ速さだと演武にならないため、速度をかなり落とし次の巻き藁の群れへと若葉は向かう。

 観客席の脇に設置された大型モニターが、敵に囲まれた若葉をアップで映す。

 太鼓の音と共に若葉は抜き打ちで1本、返す刀で2本、3本と切り、最後は脳天からの唐竹割で残心の動作に入る。

 まるで一本の線のように刃が淀みなく流れ、6本の巻き藁はあっという間に切り捨てられた。

 沸き起こる歓声。

 

「綺麗な切り口してるな」

「そうだね」

「バームクーヘンみたいだ」

「毛布じゃないんだから……」

 

 あの晩、自身の何倍もの大きさのバーテックスを切った刀さばきを再び目にして、口から出てきた感想は何とも間の抜けたものだった。

 だが、剣技自体は言葉に出来ないほど美しく、頼もしく思えて感動していたのである。

 続いて二番手の千景が大鎌“大葉刈”を携えてグラウンド中心に並べられた巻き藁へと飛び込んでゆく。

 静から動、若葉が正統派の居合剣士であるなら千景は大鎌使いという変わり種であり、機動力と薙ぎ払うような大振りにて敵を制圧する。

 大地を蹴って巻き藁のそばをすり抜けるように逆袈裟切り、振り抜き回転動作からの2本目というように刃は円運動上の標的を刈っていく。

 軸足を定めて刃を走らせていた若葉とは違って、コマのように全身を使った派手な動きである。

 

「乃木様に比べると、うーん」

「なんていうか、大味だ」

 

 近くの観客が感想を漏らす、一方でシュウジは厄介そうだなと思った。

 柄に対して刃の動きが分かりにくいから仮に着剣した小銃で戦うとして、初見であれば柄の部分を銃で受けても刃先が刺さっていたとか、視界の端から引っかけるように刃が上がってきて足首からスパっと切られていたとかありえるのだ。

 

「千景ちゃん、大鎌ってところが厄介そうだな」

「シュウジ、乃木さんなら勝てるの?」

「無理だろ、若葉ちゃんのアレ見て勝てるなんて思わねえよ」

「そうだね、銃を握る指が飛ぶよね」

 

 シュウジと安示は戦闘服装に身を包んだ状態で相対する様を想像したが近接戦闘で勝てる気がしない。

 残る手段は射撃くらいであるが、一般に狙いをつけて撃つまでにおおむね4秒かかる。

 機動力や跳躍力も通常の人間を大幅に超えている勇者状態であれば、狙いをつけるのは困難であってなおかつ4秒もあれば大幅に距離を詰められることだろう。

 それこそ不意を突いての狙撃くらいしか勝ち目がないのではなかろうか。

 10本の巻き藁を切り裂いた千景は大葉刈を立てて待機の姿勢を取る。

 

 居合、大鎌ときてトリを飾るのは球子である。

 電話でも「よーく見とけよ!」と本人に念を押され、変わり種の武器ということもあってシュウジはワクワクしていた。

 

『旋刃盤は楯状の武器で、投てきして中距離戦闘武器としても使用できます』

 

 左腕に丸い盾をつけた球子が手を振りながら歩み出てきた。

 体をひねって旋刃盤を力いっぱい投げるとワイヤーを曳きながらフリスビーのように飛んでいく。

 進路上にあった敵を模した看板を真っ二つにしつつ、大きな楕円を描くように球子へと戻っていく。

 その後も投擲角度やワイヤー操作の妙で右へ、左へと軌道を変えては次々と巻き藁を切り裂く変幻自在の旋刃盤は「まるでヨーヨーみたい」と杏が言っていたが、まさにその通りだと二人は納得した。

 どうやら同じことを考えた人も多かったようで、県議会議員の一人が言った。

 

「超電磁ヨーヨーみたいだ」

「おおっ、それですな」

「道理で見たことがあると思った」

 

 昔のロボットアニメの武器を思い出した議員の先生方にはたいそうウケて、ファンが増えたようだ。

 彼らの視線の先の球子は空中で回転しながら旋刃盤を投げ、ときにワイヤーで標的をぐるりと巻き取って引き付けてから破断させていた。

 古武術の鎖鎌や分銅に近い使い方であり、応用すれば敵の武器を奪ったりも出来るだろう。

 惜しむらくは勇者たちの主敵はバーテックスであって、得物を持ってくる人間ではないからこうした小技を使う機会はほぼなくて()()()のいわば“見せ剣”である。

 

『以上をもちまして、勇者による演武を終了します』

 

 万雷の拍手のなか勇者は退場し、興奮冷めやらぬ一般客が次々と退出するなか、招待客は城内に設置された会食会場に案内される。

 グラウンド南側に設置されたプレハブの警備隊会議室にテーブルを並べて紅白幕を張っただけの簡素なものであったが、そのぶん勇者と近くで触れ合えるということもあってさして問題にならなかったようだ。

 シュウジ達は準備されていた弁当を前に待っていると、六人の少女が入室してきた。

 演武をしていた三人と、裏方として会場設営の手伝いをしていた友奈、杏、ひなたの三人だ。

 主役の勇者たちはブレザーの制服姿で、ひなたは巫女服を着て勇者付であることをアピールしている。

 

「本日は私どものためにお集まりくださり、まことにありがとうございます」

 

 若葉のあいさつに続いて、大社の高位神官の式辞のあと、乾杯をして会食が始まった。

 会食参加者には四国政府や県議会の議員、大社の後援企業の会長、社長が多く、平均年齢が高めであったから、シュウジたちのような20代前半の若者は少なかった。

 勇者たちは各テーブルを回って歓談するわけだが、孫のような少女たちとの会話が弾むわけもなく、お互いが粗相のないようにと当たり障りのない社交辞令のような話しかしない。

 大社によって篩にかけられたこの場において多少の失言はあったとしても、ジョークとも取れない下品な話を勇者に振っていくような馬鹿なオヤジは居ないのである。

 そんな中で色とりどりの料理が入った料亭の仕出し弁当を結構な勢いで食べ進めていく二人。

 早飯は自衛官の習い性であり、入隊式や祝賀式典などでも部外の人より早く食べ終わってしまうのである。

 これはとても目立ってしまった。

 ゆえに安示は隣に座っていた電機メーカーの会長に「若い子の食べっぷりはいいね」などと言われていたし、短髪のシュウジはというと「今から30年ほど前まで善通寺にいてね……」と自衛隊OBのおじいさん相談役の昔語りに付き合っていた。

 

「へえ、それで相談役にまで上りつめられたんですね」

「そうだよ。自衛隊の定年は早いんだから、君たちも次のことを腹案として持っておくといいよ」

 

 定年退官後に創業した会社が大企業に成長した話をしているところに、勇者がやってきた。

 顔見知りがいると行きやすいのか、真っ先に来たのが球子と杏のペアだ。

 

「シュウジ、タマを無視して楽しそうだなぁ」

「ちょっとタマっち先輩、だめだよ」

「別にかまわないよ、ところで君たち知り合い?」

「そこのイヨちゃんが杏ちゃんの従兄で、僕はそれつながりで知り合った友達です」

「友達って、嬉しいこと言ってくれるじゃないか!なあ、あんず」

「そ、そうだね」

「で、どうだった!トリプルアクセルアタックは!」

「あの空中でクルクル回ってから投げるアレか?」

「トリプルアクセルだったんだアレ……」

 

 空中で回転する遠心力を活かしてハンマー投げのように遠投するための技だと思っていたが、どうも違うらしいということに気づいた。

 そうなると戦術的意味がなく、単に派手に見せるためだけの技だったのだろう。

 球子の得意げな様子にシュウジと安示はコメントに困る。

 

「うーん、派手に見えたからいいんじゃないか」

「その、3回転半は頑張ったね」

 

 やたら力の入った無駄な動きだったのは覚えているが一連のなかで、とりたてて印象に残るものでなかった……というわけにもいかず、二人は当たり障りのない感想を言った。

 

「やっぱり……シュウジさんも安兄さんも困惑してる」

「こらー!タマ的には最高の出来だったんだぞ!」

「ほらほら、このデザートあげるから落ち着けよ」

 

 シュウジは好きなものを最後まで取っておくタイプで、最後に食べようと残していたデザートのカットフルーツの小鉢を球子に渡す

 

「もらう!」

「おじちゃんもお腹一杯だから、あげるよ」

「私は伊予島ちゃんにあげよう」

 

 カットフルーツをもぐもぐ食べる様子に、電機屋さんの会長と相談役もついついフルーツを渡してしまう。

 

「おっちゃん、ありがとー!」

「……ありがとうございます」

 

 原則としては『食べ物の類は受け取ってはならない』とされていたが、知り合い同士や準備された仕出し弁当ということもあってお目こぼしされ、大社職員に怒られることもなく球子と杏はフルーツを食べながらテーブルの人たちと歓談に興じることが出来たのだ。

 杏と球子の次に来たのが友奈と千景のペアであり、知らない大人たちと話すのが苦手な千景のフォロー役として友奈がついている

 

「あけましておめでとうございます、高嶋友奈です!」

「郡千景です」

 

 また底抜けに明るいのが来たなと思いながら、シュウジたちも「よろしく!」と答える。

 友奈の第一声でテーブルにいた皆が話しかけやすい感じになり、隣で緊張していた千景も少しは緊張が和らいだ。

 友奈はテーブルの人々をざっと見て、丸い眼鏡をかけた薄い金髪と黒い短髪の二人組を見つけた。

 

「アンちゃんの従兄のお兄さんだ!」

「あ、はい。伊予島安示です。従妹がお世話になっています」

「お兄さんってアンちゃんによく似てますね。ぐんちゃんはどう思う?」

「ええ、本当ね。眼鏡を外したらもっと近いんじゃないかしら」

「そ、そうかな」

 

 二人の少女に顔をまじまじと見られて照れる安示。杏と球子は従妹とその友達という印象が強くさほど意識してなかったのだろう。

 

「じゃあ、タマちゃんの言ってた自衛隊さんはこっちのお兄さん?」

「ハイ、秋山士長!って……タマッチのやつどんな紹介してんだよ」

 

 ちらりと他のテーブルを見ると球子がテンションを上げて県議会議員さん方を相手に武勇伝を語っているところで、杏が所々でストッパーとして入っている。

 

「サバイバルの達人、見どころのあるタマの舎弟だぜーって」

「舎弟だってさ、シュウジ」

「土居さんのことだから話半分に聞いていたけれど……」

「こら、なんでカワイソウな奴を見る感じになってるんだよ、とくに郡さん」

「べつに」

 

 シュウジは球子から千景についても聞いていたので、どこか居心地の悪そうな感じの千景に話題を振ってみることにした。

 

「郡さんはゲームがめちゃくちゃ強いって聞いてるんだけど、どんなゲームするの」

「基本、何でも」

「外に出られないときはFPSとかやってるんだけど、オンライン対戦ってする?」

「ええ、FPSもやっているわ。最近だと『バトルフロント4』かしら」

 

 残留中、営内でオンラインFPS大会を開いた際、参戦してきた†C-SHADOW†というプレイヤーによって分隊壊滅の憂き目を何度も味わったが、目の前にいる千景がその人であるとシュウジは知らない。

 

「マジか、じゃあフレンド申請送っていい?この間えぐいヤツと当たったからなあ」

「この間の部屋はヤバかったね」

「そう?別にいいわ」

「ぐんちゃん、ゲーム友達が増えてよかったね!」

 

 戦車隊メンバーが3台のゲーム機を使って交代プレイしていたとき、戦車をことごとくC4爆薬や対戦車地雷で木っ端みじんにし、戦闘機を対戦車ロケットで狙い撃ち、歩兵では狙撃で一方的にキルを取っていたのが千景である。

 箸袋に書いて渡されたプレイヤーネームを見てシュウジと安示は思い出した、リスポーンポイントから出て数十秒もたたないうちにヘッドショットで狩られまくったあのクソ試合の立役者である†C-SHADOW†のことを。

 FPSという共通の話題で盛り上がるシュウジと千景に、安示は友奈に声を掛ける。

 

「高嶋さんはゲームやらないの?」

「私は体動かすほうが好きだから、テレビゲームはあんまりやらないかなあ」

「そうなんだ、休みの日ずっと走ってるって杏ちゃんに聞いたんだけど」

「うん、走ってる間は色々考えられるし」

「悩んでるときは体を動かせっていうしね、何キロくらい走ってるの?」

「うーん、20キロくらいかな?もっと走ってるのかもしれないけど覚えてないなぁ」

「筋トレオタクの陸曹みたいなこと言ってるよ高嶋さん!」

 

 “陸上自衛官の三戦技”というものがあるが勇者にもあるのだろうかと安示は考える。

 三戦技とは銃剣道、徒手格闘、持続走のことで、訓練隊なんかに行くとガチな感じの隊員が目の色を変えて練成しているのだ。

 高嶋友奈は間違いなく格闘訓練隊や持続走で輝くタイプの人である。

 シュウジ達以外の人とは普段どういった事をしているのかという話題や、奈良からの逃避行の話題でほどほどに盛り上がった。

 

 

 最後にやってきたのが若葉とひなたである。

 

「お久しぶりです、秋山さん」

「お二人と直接会うのは3年ぶりですね」

「乃木さん、上里さん……」

「お久しぶりです」

 

 3年前与島パーキングエリアで別れてから、ようやく再会したのだ。

 お互いにどういう時間を過ごしたか話そうと思ったが、ここには他の人がいるから話せる内容も限られている。

 

「あの日から、ずいぶんと立派になったね」

「そういう秋山さんこそ、がっしりとして戦う男って感じだ」

「球子さんや杏さんから最近のことは聞いていますよ」

 

 ひなたはニコニコとしながら昨年10月の飯野山登山の話を出した。

 その日の晩にお土産で球子と若葉が“ひな”か“おや”かの闘争を繰り広げた話は「部外秘」であるためひなたは口にしない。

 

「よく私たちの生活は話題になるんだが、自衛隊の人は普段なにをやってるんだ?」

 

 丸亀城内での生活について多くの人に聞かれすぎた若葉は先手を打ってシュウジに質問をする。

 奇しくも3年前のあの日に聞いたことと同じことを聞いていた。

 若葉の中のボンヤリした陸上自衛隊イメージは、筋トレ以外は迷彩服を着て演習場で匍匐(ほふく)前進やら射撃訓練ばっかりやっているものだ。

 

「戦車隊のことしかわかんないけど、普段は戦車整備、草刈りとか訓練、あとは体力練成かな」

「体力練成っていうのは駆け足とか懸垂とかね」

「駆け足か、友奈もやっているな」

 陽が落ちた後にジャージ姿の友奈が城内を走っている光景が浮かぶ。

 自衛官たちも暇があれば駐屯地の中を一日中ずっと走っているのだろうと若葉は得心した。

 

「さっき聞いたけど、高嶋さんのやつは持続走競技会直前くらいでしか見ないレベルだよ」

 

 安示に言われ、延々と走っている友奈は特殊な例なのかと首を傾げる。

 

「そうなのか……じゃあ訓練って何をしているんだ?」

「戦車に乗って機関銃撃ったり、銃剣道やったり、あとはヤマに籠っての演習」

「若葉ちゃんが素振りするようなものですよ」

 

 実射に使える戦車砲弾がないので連装銃で射撃訓練をしたり、木銃を使って突き合う銃剣道の練成である。

 仕事=訓練だった教育隊と違い、部隊配属されると特別勤務やら戦闘訓練のほかに災害派遣とやるべき業務がいろいろついてくるのだ。

 

「まあ災害派遣とかもあるし、昔みたいに訓練ばっかりやってられないんだよね」

「災害派遣か、自衛隊には頭の下がる思いだ。私は……」

 

 山林で山菜取りの老夫婦が行方不明になった際も、警察・消防に次いで動員されたのが自衛隊である。

 シュウジ達も3トン半やWAPCに分乗して現場まで駆け付け、捜索に参加した。

 大社の施設近くの森に道を間違えて迷い込み、捻挫して下山できなくなったところを救出されたわけであるが、大社や勇者には一切声が掛からなかった。

 老夫婦を背負って山道を降りてくる迷彩服の自衛官たちの映像を見た若葉は、「勇者とは何か」と考える。

 神樹の力でバーテックスと戦うことはできても、遭難した人ひとり見つけ出すことが出来ない。

 勇者の力がなくとも、他人のために一生懸命になれる人々がいる。

 そんな彼らのように“誰かのため”に戦えるのだろうかと考え、あの晩に死んだクラスメイトの顔がよぎった。

 自分は奴らに報いを受けさせてやるべきだし、大社は人命救助の組織ではないのだから。

 

「もういろんな人に言われたことかもしれないけど、あの晩に何もできなかったから……俺はバーテックスと戦える君たちがうらやましく感じる」

 過去に面会した相手に「バーテックスと戦うのはどんな気持ち?」と興味本位で聞いてきた記者や「私が戦うことが出来たらなあ」と言った格闘家がいたが、彼らとは違った血を吐くような吐露。

 

「シュウジは、いや僕たちはずっとバーテックスの影と戦っているんだ」

「私たちだって、若葉ちゃんや勇者の皆が帰ってくるのを待つことしかできません」

「秋山さん、伊予島さん、ひなた……」

「誰かのためにとは言わない、自分のために戦ってもいいから生きて帰ってきてくれ」

「生きて帰れば、次もあるから」

 

 若葉はシュウジの瞳に静かに燃える闘志を見た。

 天災の晩、多くの犠牲を目にしてなお生き残り、戦おうとする者の瞳である。

 

「わかった、任せてくれ」

 

 若葉は大きくうなずくとシュウジたちの席を離れ、去り際にひなたが安示にこっそりと連絡先を渡していた。

 積もる話は人目のない所でこっそりとやろうということだ。

 そうこうする間に会食が終わって、招待客がバスに乗って帰る時間がやってくる。

 大社の職員や5人の勇者たちに見送られてバスはゆっくりと走り出して丸亀城を出ていく。

 

「おつかれさまです!」

 

 窓を開けて叫んだ声に勇者たちはニコリと笑って見せた。

 

 

 

 

 その後、滞在先のビジネスホテルで勇者の演武に関する放送を見たシュウジは憤った。

 

「タマッチと郡さん出ないじゃん、一生懸命にやったのにそれはないだろ」

 

 どの局の番組も若葉の演武がメインで、コメンテーターもその映像を見て口々に称える。

 番組の尺がなくてカットされたのではない、焦点を若葉に当てすぎてまるで二人が添え物か、あるいは居ないかのような扱いである。

 技の完成度は若葉には及ばなかったかもしれない、でもこれは酷いとシュウジはテレビ局に抗議の電話をしようとした。

 しかし一息ついて冷静になると、この一種の報道管制ともとれる編集に薄気味悪さを感じてやめた。

 




演武回です、リアル多忙で遅れました。

いよいよ退役近づく原隊の74式戦車……記念塗装の動画を見ながら書いているとイメージが駐屯地記念式典の戦闘訓練展示となってしまいました。


ご感想等あればどうぞお気軽に、楽しみにしております。


参考
のわゆ上巻6話・ゆゆゆい「乃木若葉の章」
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