勇者史外典:男たちは自衛官である   作:栄光

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広報外出

 2018年9月15日土曜日

 2キャンプの整備工場でシュウジたちは、月に一度行われる戦車のB整備を行っていた。

 戦車は戦闘機と違って自分で整備しなくてはならない。

 そう、“戦車マンはパイロットではない”のだ。

 来週の頭から県警と合同で“対テロ警備訓練”が実施されるため、土曜日は整備日となったのである。

 レンガ倉庫にコンコンと一定間隔でハンマーの音が響き、エンジン音とのセッションを始める。

 履帯、いわゆるカタピラは履板をコネクター・センタピンと呼ばれる金具で繋いでいるのだが、走行と共に摩耗して抜けそうになるから運転前に点検が必要である。

 コネクターが抜けると履帯が切れるので、念入りに2ポンドハンマーで叩いて打音を確かめるのだ。

 

「藤岡2尉、こことここが浮いてます」

「そうか、やっぱり、再生品は緩みが早いな……」

 

 かつて第332共通教育中隊の中隊長をしていた藤岡武2尉がそうぼやいた。

 2014年の春、第110教育大隊に異動でやってきた機甲科の幹部で、今は教え子たちのいる新設戦車隊の中隊長をしているのだ。

 連隊本部での打ち合わせが予定よりも早く終わったため、B整備の様子を見るためわざわざ整備工場までやってきたのである。

 

「そうなんですか?」

「ああ、展示の用廃車から部品取りした奴を使ってるから」

 

 3キャンプ(乃木館)の庭に飾られていた74式戦車から状態のマシな物を取ってきてサビ取り研磨したもので、シュウジが叩いた車両だけでも2つ、3つ音が高いコネクターが見つかっている。

 しかしメーカーに発注をかけられず、2015年以前のように部品取り車が多くいるわけでもないので、多少の不良部品でも騙し騙し使うしかない。

 車体をぐるりと回り、すべてのコネクターを叩いた後、サスペンションのアームや転輪の小窓を見てオイルシールなどから赤い作動油(ATF)が漏れていないかを確かめる。

 油気圧姿勢制御方式の戦車は洗車時や待ち伏せに有効だが、こうした弱点を抱えているのである。

 

「あっ」

 

 車体下を覗き込んでいた安示が声を上げる。

 

「佐倉班長ここ、漏れてませんか?」

「ああ、滲んでるな。もうちょい頑張ろうか」

 

 安示の乗る95‐4502号車は車体左の第4転輪アームのシール部が怪しく、そう遠くないうちに作動油が赤い雫となって路面に滴り落ちるだろう。

 しかし、シール材や一部の部品は四国内のある企業が建機用のラインの一部を転用するということで生産が始まったようで、重整備を担当する直接支援隊(DS)に届き次第交換作業が行われることになっていた。

 こうした戦車の足回り整備作業は昼過ぎまで続き、午後からは戦車の戦闘室内やエンジン回りの整備に移る。

 青いツナギの整備服を脱ぎ、迷彩作業服に着替えた戦車隊の隊員たちが道路を渡って隊員食堂に向かったとき、テレビは四国政府からの“重大発表”一色だった。

 

「朝言ってた、重大発表か」

「なんやろなぁ」

 

 正午に重大発表があるということで、レポーターが丸亀城前に集結していた。

 四国内で最も古い天守の脇には檜舞台が設けられ、その脇には日章旗と神樹を象った大社の旗が掲げられている。

 自衛官は早食いが性となっており、テレビをチラチラと見ながらも箸は止まらない。

 昼ごはんが肉うどんとおかず数品という素早く流し込むように食べられる内容だったのもあり、シュウジたちはサッと食堂を出ようとしていた。

 着席10分でラストスパートとばかりにうどんダシを飲みながら、サラダを食べている。

 そのとき、テレビに5人の少女が映った。

 

『ごらんください、こちらの少女たちが勇者です!政府の発表によりますと……』

 

 “勇者”は伏せられ、“お役目”に対する箝口令すら敷かれていたのに突然の発表だ。

 一言でいえば「え?マジ?」だ。

 映像を見たシュウジはむせかえり、安示は箸が止まる。玉嶋は画面の少女たちと同期のふたりの様子を見比べた。

 夏休み前に安示の言っていた従妹の女の子が今、テレビに映っているようなのだ。

 

「ヤッスン、右端の子って、イトコ?」

「うん」

「ウソやろ……まあ、そういうこともあるやろな……」

 

 大野はポカンと画面を見つめて、一拍おいて納得したように言った。

 逃避行において不思議な力を発揮した安示の親戚なんだし、そういう事もあるだろうと。

 

「同期のいとこが勇者だった件、というか真ん中のあの子って」

「顔はわかるけど、名前が出てこない!」

「えっと、……乃木さんだ!」

「乃木の若葉ちゃん!」

 

 あの日、本州から脱出してきた者たちはみんな彼女の姿を覚えていた。

 避難民の先頭を行き、最後の鷲羽山トンネルで白い化け物を切り捨てた少女の姿を間近で見たのだから。

 一方、元から四国に居た者や去年入った新隊員たちは、新しいアイドルユニットがデビューしたくらいにしか思っておらず、“勇者”という言葉の意味も解っていなかった。

 

「みんな可愛いな」

「おいおい、アイドルちゃうぞ」

「じゃあ5人は何の集まりなんだ?」

「勇者だってさ」

 

 彼女たちが戦うということはすなわち敵が壁の中の人類を喰らわんとしていることであり、この平和は彼女たちの献身によって作られているということだ。

 何もできずバーテックスから逃げ延びた隊員たちにとって、勇者の発表はあの夜に感じた無力さ、これからの長い戦いを想起させるには十分だった。

 

『ただいま大社より勇者の氏名が公表されました!』

 

 乃木若葉(のぎわかば)高嶋友奈(たかしまゆうな)伊予島杏(いよじまあんず)土居球子(どいたまこ)郡千景(こおりちかげ)というテロップと共にアナウンサーが名前を読み上げていく。

 中継動画の向こうではカメラの砲列、機関銃のようなフラッシュの前で乃木若葉が所信を表明する。

 シュウジたちは若葉の所信表明を最後まで聞くことが出来なかった。

 そう、テレビにクギ付けになっていつまでも食堂にいるわけにはいかないからだ。

 食堂を出た一行はそのまま近くの厚生センターに向かい、大画面のテレビで続きを見ようとしたがすでに人でごった返しており、生中継が見られるような状況ではなかった。

 結局、午後の戦車整備を終えて夕食の食堂や居室のテレビで何度も同じ映像を見ることになった。

 

 報道番組はむこう一週間、勇者お披露目会一色でどのチャンネルもずっと特集であって、他のニュースの紹介は二の次、三の次という感じである。

 ゆえに、“爆発物や銃火器で武装した集団が丸亀市に入り市役所に立てこもった”という想定で県警と合同で対テロ訓練をやったニュースなど、わずか5分にも満たない紹介で終わる。

 国分台演習場においてパトカーが自衛隊車両を先導し、建物の中から銃を乱射するテロリストに対して戦車を使って投降を促し、連装銃を使って制圧するという内容である。

 見どころは戦車後部に小銃小隊が跨乗(こじょう)しての移動、いわゆるタンクデサントで接近し下車、援護下で建物に突入という市街地戦を意識したものだ。

 戦車は死角が多いうえ上面に撃てないから普通科隊員がカバーし、時に窓から突入するための足がかりとして活用されるのである。

 事前に教育も兼ねてシュウジたちもエンジングリル上に跨乗したが、日光やエンジンの熱で熱い、排気と土ぼこりで目が痛い、揺れがあって怖いという貴重な経験を得た。

 

 それはさておき、対テロ警備訓練が増えたのには理由がある。

 天災から3年経って、バーテックスと遭遇したことのない者の中に、世情不安を利用してひと旗揚げようという者が現れたのである。

 四国政府転覆を狙う極左政党のほか、バーテックスの存在を神の遣いとして集団自殺をほのめかすカルト集団や、天災避難民支援の義援金と謳い集金する義援金詐欺と大小さまざまな集団が現れ、摘発されていったが一部は地下に潜って機を窺っている。

 高知県や徳島県の山奥の集落において、いくつかの団体が不穏な動きをしているという公安からの情報提供もあったことから、自衛隊は警戒態勢を取っていたのだ。

 それは政府と密接に繋がっている“大社”も宗教組織である以上例外ではなく、たとえ手を結んでいても100パーセントの信用はしないのである。

 ヨガ教室に始まって国家転覆を企てていた“真理教”、また東部方面総監と親しくしたうえで体験入隊などをしていたが、突然総監を切りつけて立てこもったあげく割腹した“楯の会”という前例があるのだ。

 前者は自衛隊員を勧誘して洗脳して犯罪行為に加担させ、後者は著名人が興した愛国に燃えた団体ということもあって信じていたら、いきなり政治的主張と共にズバリとやられた事件である。

 とはいえ、大社が四国政府や自衛隊に反旗を翻して戦うことになった時点で四国の終わりがやってくるので、“大社の反乱”は万が一という可能性の低い想定であったが。

 

 シュウジたちが過激派やカルト教団を想定した警備訓練をしているころ、勇者の少女たちは丸亀城で戦闘訓練の傍ら取材を受けていた。

 丸亀城はかつて一般公開されている観光地であったが瀬戸大橋に近いということもあって、急ピッチで整備が進められて前線拠点として運用されている。

 具体的には芝生広場に勇者の少女たちが起居する宿舎や食堂が建てられ、教育を行う教場として三の丸に武道場、本丸の空き地に二階建てのプレハブ校舎が建てられたのである。

 現在では一般人の立ち入りを制限するために、内堀に架かる5つの橋には拒馬(きょば)、自走式の車両停止装置が設置され警備隊が配置されている。

 特に市立資料館や場内駐車場がある西側は、生活宿舎も近いということで厳重に守られ、少女たちを狙う不逞の輩が侵入しないように警戒線が幾重にも張り巡らされていた。

 さらに警備隊や警察で対応できない事態になった場合、7キロ南方にある善通寺駐屯地から即応部隊が駆け付けられる立地条件であるから、大社の前線拠点としては最適であったのである。

 

 

 

 朝、高嶋友奈は見返り坂を駆け上り、三の丸、二の丸を通って天守閣の脇に建てられた校舎に向かう。

 毎回長い坂道を登らないといけないので使い勝手はあんまり良くないし、体力のない人にとってはそれだけで苦行だと思う。

 友奈はいいトレーニングだと感じているようで、軽やかな足取りでコンクリート舗装の坂を上り、二の丸のトイレ前の自動販売機でジュースを買ってから教室へ入った。

 

 

「ぐんちゃん、おっはよー!」

「おはよう」

「あれ、若葉ちゃんは?」

「乃木さんは雑誌のインタビューに行ってるわ」

 

 普段は若葉が一番乗りで教室の整頓や掃除をしているが、今日は朝から若葉が出版社に行き不在のため、千景が一番乗りとなっていた。

 

「そうだった、今日も一日がんばろうね」

「そうね……えっと、それは?」

「ぐんちゃんの分だよ、訓練の日だから」

「ありがとう、高嶋さん」

 

 友奈の手からペットボトルを受け取った千景は肩掛け鞄の中に入れる。

 ふたりが格闘訓練について話しているところに、球子と杏がやってきた。

 

「おはよー!なんだ千景と友奈だけか……」

「若葉さんとひなたさんは昼過ぎに帰ってきますよ」

「昼過ぎってことは、若葉だけ今日の格闘なしかよ!」

「タマっち先輩、来週は私たちの番だよ」

「それはそれ、これはこれだ」

 

 いつも通り賑やかな球子とそれにツッコミを入れつつも穏やかに笑っている杏の姿に、この3年間を感じさせる。

 長い坂に訓練が始まる前に疲れていた杏と、本丸の石垣上に教室が置かれていることに不満を漏らしていた球子だったが、今では一日に何往復も出来るようになっている。

 

 わいわいきゃいきゃいと賑やかな教室に、角刈りの格闘指導の教員が入ってきた。

 彼は大社職員であるが、かつては格闘指導官や幹部レンジャーを持っていた猛者である。

 ある刑事ドラマの再放送を見ていた球子がその風体から、“団長先生”というあだ名をつけた。

 普段は穏やかな人であるが格闘の訓練が始まると、途端に戦闘員の貌に変わるのだ。

 

「おはようございます、今から15分後武道場に集合してください」

「はい!」

 

 遅れるとペナルティ、罰走(ばっそう)と呼ばれる反省があるから急いで着替え、駆け足で武道場に向かう。

 真っ白な格闘訓練着の少女たちはラジオ体操を終えると、二人一組となって乱取り稽古を始めた。

 

「ええええい!」

「いやあああ!」

 

 組み合わせをコロコロと変えながらいくつもの技を実践する。

 五人であれば指導官も入って三組であるが、本日は若葉不在のため四名二組である。

 

「高嶋、打撃の後に隙が大きい!」

「はい!」

 

 団長先生ほか数名の格闘指導官は、合気道や日本拳法をベースにした自衛隊格闘に近い徒手格闘術を教えている。

 手足のないバーテックスに対し組技や寝技の類は全く効果がないから大幅にオミットされ、打撃技が中心となるはずだった。

 ところが戦技研究に熱心な友奈や若葉によって、万が一も考えて少しは残したほうがいいのではないかという提案がされ、投げや組技の練習も残ったのである。

 

 

「伊予島、もっと突っ込め。掴みかかるには間合いが遠い!」

「はい!」

 

 投げ技を繰り出そうとする杏と勇者パンチの使い手である友奈が組み合っている隣では、球子と千景が打撃主体の練習をしていた。

 小柄な球子は投げ技が苦手であるからで、千景はというと他人と密着することに抵抗を覚えるから打撃技となってしまうのである。

 入り身で飛び込んできた球子のパンチを千景は右手で弾いて受け流し、そこから肘打ちを放つ。

 だが左胸の下を球子の結んだ髪がするりと抜けていって右頬が見えたかと思った瞬間、()が飛んできていた。

 空振りしたパンチの勢いと傾いた体そのままに、踏み出した右足を軸に後ろ回し蹴りを放ったのだ。

 寸止めであったが後ろ回し蹴りに驚き、目を丸くする千景。

 

「なに、それ」

「へっへーん、この間習得したタマの必殺技だ!」

「はぁ……何に使えるのかしら、それ」

 

 ドヤっとばかりに得意げな球子に千景はため息とともにあしらう。

 

「タマちゃん!今の後ろ回し蹴り良いね!」

「そうだろ!やっぱり友奈はわかってるなあ」

「タマッチ先輩いきなりやると危ないよ、生兵法は大怪我の基っていうし」

「あんずは心配性だな~」

「土居、思い付きとはいえ蹴る前に左足を浮かすな。やるならノーモーションでヒュッと行け」

 

 技の完成度は見様見真似といった物ではあったが、とっさの球子の判断を褒めた友奈。

 杏は球子が調子に乗りすぎないようにたしなめ、団長先生が講評を入れた。

 15分間の乱取り稽古が終わると次の組み合わせに移って杏と千景、球子と友奈が向かい合う。

 

「はじめ!」

 

 勇者の集合教育が始まり、10月で格闘訓練が始まって3年になる。

 最初は型稽古や体力練成の反復だったが、最近になってこうした乱取り稽古や試合形式の訓練が増えてきている。

 

 もちろん徒手格闘だけでなく武器訓練も実施されているが、こちらは全員の武器が異なるため教育は困難を極めた。

 なにせ、若葉は刀で友奈は籠手(徒手格闘)、千景は大鎌、球子は旋刃盤(ワイヤーの付いた楯)、杏はクロスボウなのである。

 刀と格闘までは剣術と拳法道場から師範を招聘して何とかなったものの、長い柄の大鎌、旋刃盤(せんじんばん)のような()()()()()を使う専門家が見つからなかったのだ。

 心得がある者がいないものかと四国中を探し回った結果、徳島県の古武術研究会に属する師範を招聘することになり、棒術にアレンジを加えたものや鎖鎌、片手盾といったものを()()()()として使うことにしたのである。

 金の弓箭(きゅうせん)を武器とする杏はというと、クロスボウの射撃訓練を中心に行うことになった。

 

 そのため丸亀城グラウンドにおける訓練でもてんでバラバラで、ある日の訓練では若葉と千景が素振りをしている横で球子が模擬旋刃盤を鎖鎌と同じような動きで振り回し、杏が市販のアルミ矢で的を撃って矢の弾道を確かめ、友奈が腕立て伏せをしていた。

 

 こんな各個訓練で初陣を迎え、対バーテックスの実戦を経験すると勇者たちから聞き取った情報をもとに戦術が練られるようになる。

 大社はあくまで宗教組織であって、サービス業の経営者としての高位神官や神職として教義を講釈する神官は居ても、軍事の専門家はいない。

 協力者としてごく少数の元自衛官や警察官僚がいるものの、あくまでアドバイザーであり大社の運営や“戦略”に関われるような立場になく、結局は素人集団であった。

 そんな大社であったから武器の射程で前衛と後衛を分け、最後は勇者個人の判断に任せるという場当たり的な、戦術ともいえない指示を勇者に下すことになったのである。

 優先撃破目標も、優先すべき敵の標定方法も、想定される敵の攻撃に対する対抗手段なども一切ないまま「神樹への攻撃を阻止し、接近するものを撃滅せよ」と。

 

 丸亀城の面々が格闘訓練をしているなか、若葉は出版社の一室でインタビューを受けていた。

 階段を上がり、“週刊ゲンジツ編集部”と書かれたプレートが掲げられている部屋の前を通って応接室に案内された若葉の前には、朝のテレビ番組で時々見る中年の芸能記者が座っていた。

 この出版社の週刊誌では“CIA”というコーナーを連載しているのだという。

 CIAといっても中央情報局ではなく『功三(Cozou)いい話あるよ(Iihanasi Aruyo)』の略であるらしいが、若葉は件の週刊誌を読んだことがないので何のことやらといった感じである。

 お互い自己紹介を済ませて、世間話的なものを少ししたところで記事になるインタビューが始まった。

 

「乃木さんが勇者のリーダーとして心がけていることは何ですか」

「リーダーとして率先垂範、先陣を切って戦うことです」

 

 若葉は事前に用意されていた“台本”をもとに質問に答える。

 

「私一人ではなく……ええ、此度の勝利はメンバーの強い団結によって勝ち取れたものだと思います」

 

 大社が今の若葉に求めるのは“強くて凛々しい勇者”の姿であり、キャピキャピした愛嬌を見せるのはもっと後だと考えた結果がこれだ。

 

「まだ若いのに立派ですね、ハハハ、うちの娘とは大違いだ」

 

 若葉の硬い言い回しに芸能記者は笑う。

 

「まさか。勇者になったとはいえまだまだ未熟者です」

「そんなご謙遜を……、オフレコで、本当のところはどんな感じなの、怖かった?」

 

 若葉はちらりと部屋の隅にいる大社職員に目をやる。

 特に止めに入る様子もないので、「好きにしろ」ということだなと判断し、心のうちのひとかけらを見せてみる。

 

「恐さなどない、ただ、怒りがあった。友を喰らったやつらに報いをと決めていたから」

 

 若葉自身は淡々と言ったつもりだったが、芸能記者は何とも言えない気迫を感じて苦笑いする。

 その後にしたいくつかの質問に対し、想像していた答えとはことごとく違っていたから、どう記事にしようかと悩んだのだ。

 話を聞くに覚悟が決まりきった乃木若葉が4人の勇者を引き連れて切り込み突撃、バーテックスを撫で斬りにして勝利したようであった。

『怖かったけど頑張ります!美少女勇者たちのはじめて物語』なんてサブタイトルは吹っ飛んでしまったのである。

 結局、大社の検閲もあって出来た記事は『勇者大勝利、凛々しき乙女たちの初陣』というものである。

 その後も数社の出版社とテレビ局に対し取材許可が下りたが、いずれも好意的な内容であり、「勇者の素顔に迫る」といった物でさえ健全で好感が持てるように編集された記事となった。

 一方、踏み込んだゴシップ系雑誌で記事を書こうとしたライター数人はどこからか現れた集団によって“厳重注意”され、雑誌によっては休刊に追い込まれる羽目になったのである。

 

 「こうも取材が続くと、差し入れを考えるのも大変だな……」

 

 取材を終えた若葉は、丸亀城で訓練している仲間のために差し入れのお菓子を買って帰る。

 ひなたが用意した菓子盆に乗って提供されるチョコやクッキー、飴、羊羹といった甘味の数々は勇者たちの楽しみの一つとなっていた。

 これは若葉だけではなく、“広報外出”という名目で授業から抜け出し、平日に城の敷地から出ることが出来る者に課せられた使命である。

 あくまで課業中であるから遊びに行くことはできないが、「時間調整」ということで本屋やコンビニ、薬局に立ち寄ったりうどん店などで昼食をとることくらいは許可されている。

 とはいえ「時間調整は最低限度とする」と規定されており、本屋で長々と立ち読みしたり、繁華街でウインドショッピング、うどん店で大食いチャレンジなんて言うのはもってのほかであるが。

 このような勇者お披露目会見に端を発する変わりばんこの広報外出とマスメディアによる取材攻勢がひと段落着くころには、もう10月になろうとしていた。

 




丸亀城内の施設等は独自設定です。
ご意見、ご感想等お待ちしております。

3月21日、瀬戸大橋記念公園と丸亀城に行ってきました。
ゴールドタワーやわすゆ自販機、マリンドーム、骨付鳥と割と忠実で感動しました。


それはさておき、のわゆ原作では天守が教室に改修されているという事でしたが、実際に行って思ったのが結構狭いので(5~6人程度ならいけるか?)本作においては教室・放送室は教育隊のような「プレハブ教場」になりました。
一方、大満開の章ではどこかの学校の教室という感じであり、どう考えても天守改装はないなと思いました。
また武道場がある感じなので、どこかの施設を借りたかあるいは大手前の学校を買い上げたか……。

勇者の生活宿舎は漫画版の2階建て文化住宅(アパート)を採用。
かつて藩主の屋敷地であって広いこと、出入りにおいてよく大手一の門などが描かれていることと、本丸までの通路である見返り坂が近いことから宿舎は芝生広場付近に建てられていたと設定。

初陣、勇者お披露目の日付(9月14日夕刻に初陣、翌15日発表)はアニメ内の新聞を参考にしています。

参考資料にアニメを使うと他の媒体の情報と異なるので、すり合わせは難しい……

例:7.30天災の発生時刻、避難の猶予等

勇者史外典・のわゆは夕方で発災直後から壊滅、脱出は困難。日が昇らない。
アニメ大満開では昼間に発生して首都圏で部隊配備が行われ首脳陣脱出後、四国への避難民で長蛇の列ができるほど時間的余裕がある。

こういった事から独自設定で行きます。
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