残滓のうち、ひとつ 作:花見饅頭@クー
序文
──むかしむかし、あるところ。
クドラシアと呼ばれる異界、その中心部に位置する大国レウケにて。
そう短くないクドラシアの歴史の内、武力、魔術、軍略において生存競争を勝ち抜いたレウケはいつしか世界一の"強国"となり、広く武や術を修める者は、今や皆レウケに集うとも言われる程になった。
レウケ現王は頂点の国力を得ても尚足りず、諸外国や果ては漂流した異界人ですら強者と見れば自国に引き入れ、兵力に変えていったのだ。周辺国はレウケの急速拡大を恐れ、結託してそれを糾弾しようとしたものの、傍若無人たるその勢いは留まるところを知らず、結局次第に萎縮し反発を止めた。
結果として、クドラシアから争いの火は消えた。争いが如何に無駄かを飲み込まされた者たちは、大人しく武器を錆び付かせることにしたのだ。最大の火薬が未だ積もり続けているだけに、この平和を喜ぶ者はごく僅かであったが。
無論、そんな事情は
さて。
そんなレウケの魔術院の中でも、一際突出した才知を持つ魔導師がいた。鳥を模した杖を携えた、フェザーのケープを纏う年若い青年である。一見しては院のどの教師陣よりも幼いが、その身体には並の魔術師では及びもつかない程の魔力が流れていた。
その魔導師は数ヶ月前、クドラシアを横断する旅の過程でレウケを訪れた所をスカウトされた。何でも旅銭を稼ごうと街中で披露していた芸が城兵の目に止まったのだと言う。まるで複数の人間がひとつの身体に収まっているかのように、魔導師は様々な魔法を事も無げに使いこなして見せたのだ。
その手腕を見た王は、彼を魔術院の教師のひとりとして雇用した。在籍していた魔術師たちは、どこの馬の骨とも知れない存在を教壇に立たせることを渋ったが──生徒の心配の為でもあり自己の威信の為でもあった──青年の謙虚な物腰と恐るべき実力を見せ付けられては、閉口せざるを得なかったという。
彼はまさに、院において"最強"の術師だった。眩いまでの力を持ちながら研鑽を怠らず、悩める学徒に進んで自らの知恵を授けた。王にとってはまたとない駒であり、魔導師にとっても新たな叡智を得る機会であった。
彼の名は一躍レウケ上層に広まった。稀代の天才──生きた叡智、そう彼は呼ばれていた。
その魔導師の名は──