残滓のうち、ひとつ 作:花見饅頭@クー
現王殺害の翌日。
最後の伝令を終えたその足で隣国へと亡命した数名の兵卒によってレウケの現状が伝えられると、萎縮していた国々はレウケの遺産を切り分けるべく一斉に武器を取った。
間もなく国境は踏み越えられ、己を護るだけの
兵士のひとりもいない城下は即座に陥落。見るからに裕福そうな民家であったり、価値のある機材や資料を備える施設はすぐに襲われた。抵抗した民はやはり殺され、そうでない者は役職や立場を問わず、手近な荷車に家畜のように詰め込まれていった。
当然、王城も瞬く間に囲まれ、誰が最初に玉座を手に入れられるのかと、その場にいた全ての者が瞳をぎらつかせていた。故レウケ王がクドラシア中から掻き集めたであろう宝物を想像し、誰もが武器を握る手に力を込めた。
絶対的な存在であったレウケは既に崩れ、主を亡くした城はクドラシアの新たな大戦の火種となりつつあったのだ。
──結論を言うと、玉座に座るものは誰もいなかった。
我先にと城門を潜ろうとする集団からひとりが飛び出し、床の大理石を踏んだ瞬間、その首は落ちた。少し後方にいた者はそれに気付くと立ち止まったが、勢いに任せて屋内に雪崩込んだ者たちは、皆同じ結末を辿った。
王城の確保を放棄した軍勢のひとり曰く、王が死に、兵士もことごとくが殺された筈のそこには、金色の杖を携えた
男は城を奪取すべくして立ち向かってくる雑兵を何も言わずに殺し続けた。戦闘を愉しむでもなく、侵略に憤るでもなく、羽虫を殺すように淡々と杖を振るっていた。
そして、城の中から生きた人間が居なくなると、優雅に翼を広げながらにっこりと笑ったのだった。
略奪は日が落ちるまで続いた。軍勢が引き上げていった後には、無残に破壊された町並みと、呆然として立ち尽くす僅か数人ばかりのレウケの民が残された。
王城だけは、大量の死体が転がっている以外には何の変わりもなかった。謎の翼人を恐れた人々が、結局そこだけは手を付けたがらなかったからだ。
生き残りは狭くなった城下に身を寄せ、ただこれからの暗い人生を前にして震えていた。
──そして。
ある新米魔術師はカーテンを締め切った自宅でひとり膝を抱えて蹲り、争いから目を逸らし続けていた。
略奪者の魔の手は彼の家には及ばなかったが、両親は深夜になっても戻らなかった。きっと無事でいる筈だ、と祈るより先に、彼は脳裏にふたりの死体が転がる様を思い描いていた。
やがて魔術師は蹲ったまま静かに眠り、何の夢も見ることなく、夜明けと共に目を覚ました。
彼が顔を上げると、閉めていた筈の窓もカーテンも開いており、鉄錆臭い風が廃墟を吹き抜けているのがよく見えた。星混じりの緑がかった空には雲ひとつ出ていない。
ここ数日でも特に晴れやかな朝に嫌気が差し、彼は視界からそれを締め出そうと1日ぶりに立ち上がる。凝り固まった肉が痛む。肉に阻まれた骨が軋む。
魔術師は窓際に立って、遠くから届き始めた金色の陽光の欠片を浴びる。ふと手元を見下ろすと、一昨日、師であった男が居た窓枠に、取るに足りない成績表と水に濡れた鳥の羽根が慎ましく置かれていた。
「……絶対に、殺してやる」
フェザーのケープが揺れる。
オルランドはそう言って、また泣いた。