お待たせしました。
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“異世界”──それは限りなく遠く、そして限りなく近くにある我々が存在するこの世界とは異なる世界。
数多くの文献に記されている空想上でしか存在しえない“生物”や超常的な現象を故意に起こす“魔法”なる存在、或いは全く別の“歴史”等、その在り方は様々なれど、それ等は一貫して“異世界”と称される。
彼の者が住むこの地、“リィンバウム”もまた、その異世界の一つに数えられる。
現代の地球では中世的な時代にあたるだろうが、おそらく、最も異世界についての研究が進んでいる……いや、造詣が深い世界である。
“機界ロレイラル”、“鬼妖界シルターン”、“霊界サプレス”、“幻獣界メイトルパ”という4つの世界の中心に存在するリィンバウムは、古くから異世界との様々な交流がされてきた。
しかし、それは時として災いを招く事もある。
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瓦礫が宙に浮き、粘着質な地面の感触が不快に思わせる、黒い風が吹き荒ぶ赤黒い空間の中、赤い顎を持つ黒い異形を前に
「何故です」
異形は言う。
「何故、あなたは私の邪魔をするのです」
静かに語る。礼節を欠かせずに言葉を紡ぎ、しかし、その内に秘めた怨嗟は隠さずに。
「何故って?」
黒服は答える。黒い向かい風を切りながら、前へと足を踏み出しながら……。
「義娘を泣かせた。ただ……それだけだっ!!」
叫びながらの一閃。異形が真一文字に両断され、そのまま空間をも斬り裂いた。
「磨り潰されてな……リィンバウムでも、四界のどれでもない、次元の狭間の中で」
「なっ……!?」
裂け目へと落ちる異形。ひびの入ったガラスの様になりながらも、空間は元通りの姿へと戻っていく……異形の断末魔を響かせながら……。
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「……夢か」
固い地面の上で寝ていた様な感覚を感じながら黒いコートを着たの男が身を起こす。
「随分と懐かしい夢を見たもんだ……と」
骨を鳴らしながら辺りを見回すと、そこは白い空間だった。
シャボン玉の様な光の粒が宙に浮き、雲の様な霧が足元に立ち籠めるという、白い空間だった。
「相変わらず気が狂いそうな場所なことで……」
どうも彼にとっては見覚えがある空間らしい。
「おーい。久々にお呼ばれされたが、何の用だぁ? 女神様よーい」
虚空に向かって叫ぶ。すると……。
「せっかちねぇ……少しはゆっくりしても良いのに……」
「こんな所に長居はしたくねぇんだよ。ツルペタ女神」
白い空間の中、一点に光の粒が集束し人の姿に変わる。白のドレスを身に纏い、金色の髪と草冠、そして右手には先端部に放射状に針が伸びる金色の杖が握られている。
その美貌は神々しく、傍から見ても女神と呼ばれるだろう……が。
「だ・れ・が・ツ・ル・ペ・タ・で・す・っ・て・?」
笑顔のまま、女神は杖を左手に持ち換え、そして右手に拳銃を持ち、銃口を男の口の中へと捩じ込んだ。
「
「アンタの義娘は体育会系だからでしょうがっ! 私はそうじゃないの! なのに脚ばっかりムチムチと……」
「……増えたのか? 体じ━━」
男が言い切る前に辺りに銃声が響く。ドサッという何か物が落ちる音と朱に染まる地面、飛び散る肉片と骨片、それが男の物であるのは……火を見るよりも明らかだった。
「女性に対して体重の話はNGよ」
硝煙が昇る銃を下ろし、女神は言い放つ。聞かせる相手は、たった今射殺したというのに……が。
「━━あぁ。重々、理解してるさ。なんせ、『そんなに食ったら太るぞ』と言ったら、女性陣の目から光が消えたからな。挙げ句の果てには大剣がスッ飛んできたり、コンセントの化身の雷撃が降ってきたりと……」
たった今、脳幹に一発、銃弾を叩き込まれた筈の男が何事も無かった様に起き上がった……何故か、髪の毛の先が僅かに焦げているが。
「まぁ、そこは置いといてだ。何の用だ? ドS女神」
「ツルペタの次はドSかい……まぁ、いつもの派遣よ」
「だろうなぁ……それ以外に呼ばれた事無いし……」
男の態度に呆れる女神とガックリと肩を落とす男。しかし、どちらも切り替えは速い様で。
「━━で、今回はどんな世界に落とされるので? 慈悲深く残酷で鬼畜生な女神様よ」
「“ゼムリア大陸”。日本で言うなら昭和後期から平成初期くらいの技術レベルで、ある種の魔法も存在してたり、魔獣や魔物も出たりする素敵な世界よ。あなたのご期待に沿えまして?
「転移直後に真空空間やら初見殺しなエネミーに遭遇しなけりゃどこでも天国さ。おまけに制限が皆無と来たもんだ……好き勝手にやらせてもらうさ」
瞬間、男━━紫黒の足元に幾何学模様の魔法陣が出現し、青く光り出す。転移が発動したのだろう。
「……そういや標的は━━」
言い切る前に、その場から紫黒の姿が消える。そして、残された女神は暫く魔法陣を見つめ……膝を落とした。
「……私も覚悟を決める時、か」
縋る様に魔法陣を指でなぞる。
「……あなたは許すでしょうか、許さないでしょうか。もしも願いが叶うなら━━」
そう言うと、女神は元の光の粒へと姿を変える。後には、何も変わらない白い空間だけが残った。
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中々に闇の深い事態が発生しおった……作者も想定外デース(オイ)。
とりあえず、プロローグは終わりましたので次回から『三月騒動編』、始まるよー。
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