Shadow Corridor 回廊に迷い込んだ1人の少女   作:楠崎 龍照

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注意。

初めにも申し上げましたが、青柳由奈さんの容姿、性格にかなりの差異があります。
原作をこよなく愛する人は、見ることをオススメしません。
ご注意ください。


4話 骸流しの渓谷 ─出会い─

 

 

 

 

視界が晴れたが、またもや見たことの無い場所に戸惑う。

 

「ここ……どこ?」

 

……深淵の回廊に似ている丹塗の壁が特徴の巨大な渡り廊下だ。

壁にはヒグラシの紋章が印された灯篭が、一定の間隔で架けられていた。

そして、浸水している。(この場所は、旧影廊の大食らい擬きに追いかけられる場所と想像してもらって構わないです)

厚手の長靴があってよかった。

 

「……何この、霊道みたいな……」

 

1周目と経験したことが無い歴史の連続に、恐怖と不安とワクワクが混じり合い、私の精神を興奮させる。

……ていうかこの場所、灯りと合わさって凄い不気味の雰囲気だ。

そして、怖いくらい静か。

私の歩く時に生じる水の音以外が聴こえない。

 

「こういう雰囲気が1番精神的に来るかもしれない……」

 

私は念の為に、カメラを持ってゆっくりと歩く。

水のちゃぷちゃぷという音のみが聴こえるだけで、その他一切の環境音がない。

その内、気が狂うのではないだろうか?

 

「すんごい大ボスが出てきそう……な……」

 

そう言い終えるか終えないかの瞬間に、私の後ろから鏡の割れる音がこの廊下に反響した。

 

「……っ!?」

 

私は超人レベルの反射速度で振り返った。

完全に敏感になっている。

今の私は感度3000倍どころの騒ぎでは無いだろう。

 

 

─FOOOOOOOOOOOOOoooooooooo!!!!!─

 

 

そして、この幽世(せかい)で2番目に聞きたくない声が響き渡った。

私は頭を抱える。

 

「フォーって、フォーって……嘘でしょ? こんな所で来るの?」

 

私が絶望に顔を青く染めている中、その声の主は、ひび割れた鏡から貞子のように這い出てきた。

多分、今までの登場で1番迫力があると思う。

 

憎悪振り撒く影……。

ヒバナちゃんの母の魂と言える存在。

私はバッと走った。

走る際に水が身体中にかかるが、気にしない。

ぶっちゃけ、中に競泳水着を着てるから、最悪脱げばいい。

死んだら元も子もない。

今は、全力で走る!!!

 

 

─アアアアアアアアアアアア!! ァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!─

 

憎悪も私を呪い殺そうと追いかけてくる。

さっきまで静寂だったこの空間が、奴のせいでやかまし過ぎる空間へと変わってしまった。

最早、母というより山の神である。

 

─アアアアアアアアアアアア!! ァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!─

 

「黙れぇクソババアァ!!!」

 

あまりのやかましさに、私は憎悪の声よりも大きい声量で叫ぶ。

瞬間的に、憎悪の声量を超えた気がする。

 

 

─アアアアアアアアアアアア!! ァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!─

 

 

「あぁもう、うるせーぞクソババアァァァ!!!!!」

 

後ろから聞こえる憎悪の声に、私はマジギレ。

女の子が言うようなものでは無い言葉を憎悪にぶつけた。

 

「あぁーあのババアマジでホントに……!!」

 

煩い。

私はそんな事を心に思いながら、全力疾走をする。

幸い、金メダルの力によって、憎悪の速度よりも勝っていた為、何とか逃げ切る事が出来そうだ。

 

「このまま進めば……って……なにこれ!?」

 

前方に迫る暗闇を見て、私はピタリと立ち止まる。

私の眼前に広がるのは、巨大な滝つぼ。

水が音を立てて流れ落ちていた。

 

「……」

 

私は直ぐにキョロキョロと周囲を見渡す。

残念ながら、逃げ場などはない。

後ろから憎悪振り撒く影が迫ってきている。

 

「……ええぃ! やるしかない!!」

 

私は固唾を呑んで、「やあああああああ!」と大声をあげて、滝ツボに飛び込んだ。

 

「絶対に生きてやるぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

彼女が落ちたのを見た憎悪振り撒く影は、憎しみの籠ったモヤに包まれて姿を消した。

 

 

 

 

 

「ねぇ大丈夫!? 生きてる!?」

 

……。

誰かの声が聴こえる。

ルキア?

ディアルナ?

ギルティア?

助けてくれた?

 

私はゆっくりと目を開けた。

 

「あ、良かった! 生きてた……」

 

私の目に映るのは、安堵した表情の少女だった。

私と同じ白い髪をして、正直すんごい可愛い。

 

「突然、ここの川から貴女が流れてきてビックリしたんだから! 何とか助けれたけど、動かなくて溺死したんじゃないかって心配したのよ!」

「ご、ごめんなさい。助けてくれてありがとう。えっと……」

「あっ。私、青柳由奈って言うの! よろしく!」

 

青柳由奈さん!?

私は心の中で驚きつつ「岸谷アリスです。よ、よろしく」と自己紹介をした。

だけど、内心、驚き終えるや否や……。

 

「(え、由奈ちゃん。めっちゃ好み……凄い可愛い……)」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

自分の顔は見れないから分からないけど、多分メスの顔になってたと思う。

不味い、バイセクシャルの感情が……!

……抑えろ!

抑えるのよ私!

こ、こんな場所でバイセクシャルが発動していけない!

この世界で公序良俗もクソもないけど、何かダメだと思う!

……ヒグラシの回廊と深淵で妄想に浸ってた私が言っても説得力ないか……。

 

 

「ん? どうしたの?」

 

私の様子におかしく感じたのか、由奈ちゃん……違う、青柳さんはジーッと私の顔を覗き込んだ。

やめて、可愛すぎる!

こんな至近距離で見られると本当に……わー、天使だ。

こんなあの世に半分以上浸かってる和風世界にも天使がいるんだなぁ……。

 

「だ、大丈夫です。それより、青柳さんはこれからどうするつもりですか?」

「由奈でいいよ。取り敢えずKって人に会いにつもりよ。アリスは?」

「えーと、私も同じくお爺……Kさんに会いに行く感じです」

 

私がそう言うと、由奈は笑顔になって「じゃあ、私と一緒に行こうよ!」と言った。

勿論、私は即座にそれを承諾する。

二人の方が色々と楽だし、何より精神的にも良い。

ただ、由奈が好みすぎて理性が飛ばないかが不安だ。

理性がとんで襲うなんて事があれば、それはこの世界に跋扈する徘徊者と何ら変わらない。

それだけは絶対にあってはならない。

私は自身の意志に堅く決意した。

 

「とは言っても、あてがないのよね」

 

由奈は肩をガクリと下ろしてため息をついた。

見た感じ、私が初めてこの世界に来て、漂流した場所……即ち骸流しの渓谷のスタート地点だ。

それなら、ゴール地点の道はある程度分かる。

……これって由奈に私が未来から来たって暴露していいのかな?

いや、やめておこう。

ややこしくなる。

何とか、由奈に悟られないように、進んでいこう。

 

「このままあっちに進めば何とかなりそう……かな?」

 

私は鉄の扉を指さした。

由奈もその扉を見る。

すると、由奈は「よし、それじゃあ行こう!」と元気な声で言って、歩き始めた。

神隠しにあったのに、元気だなぁ。

そうして、私と由奈はKのいる場所を目指すことになった。

 

「……」

 

取り敢えず、由奈死亡ルートは回避できた?

いや、まだ油断できない。

あっ! ってなった瞬間には死んでるかもしれないんだ。

ていうか、あの玉を持たせばいいのでは?

私は歩きながら由奈に、ある金剛玉を渡した。

その玉を見た由奈はキョトンとする。

 

「ん? 何これ?」

「これ死ぬのを身代わりにしてくれるの!」

「え? 凄いじゃん! どこで手に入れたの!?」

「あ、えと、えーと……えーと……えーーとーー……ヒ、ヒグラシの回廊で見つけたの!」

 

私は冷や汗を流して、苦し紛れの内容を由奈に言った。

それを聞いた由奈は「そんなのあったんだ!」と金剛玉を見つめながら驚いていた。

 

「う、うん! あとこれも渡しておくね!」

 

そう言って、私は金メダルと赤い液体が入っている水筒を渡した。

 

「金メダル?」

「そう。これを首に掛けておくと、走っても疲れることも無く、永遠に走れるの!」

「これもヒグラシの回廊に?」

「え? う、うん! そうだよ!」

「へー! 凄いね!」

「でしょ? この水筒の中には、赤い液体が入ってるから傷ついたら、その水筒を飲むといいよ!」

「アリスありがとう!」

 

満面の笑顔で感謝の言葉をする由奈。

ワーーーー、くっっっそ可愛い。

何この天使、最強じゃん!

由奈の可愛さに、私は徘徊者になりそうだった。

 

「そういえば、アリスも神隠しにあったんだよね?」

 

金剛玉と水筒を自身のカバンにしまった由奈は、私の方を見ながら訊いてきた。

 

「うん。由奈も?」

「美術に使う石を探してたら、いつの間にかボロボロの神社に辿り着いて、そこにあった鏡に触れたら昔ながらの回廊に居たって感じだよ」

「あー私も似たような感じね」

 

そんな事を話しながら割と高い段差を降りて、前と同じ道筋を辿る。

バシャンと水飛沫が舞い、下半身が水に濡れてしまう。

 

「うやぁぁぁぁぁ冷たーーーい!」

「ひーーーーちべたいーーー!!」

 

ビショビショになりながら私達は湖から出る。

私達は肩を窄めて両手をプルプル震わせながら、舗装された道を早歩きで進み、近くにあった燭台の火で暖をとった。

物凄いデジャブに襲われつつ、濡れた服を何とかして乾かす。

だが、そんな事をしていると予想外の事が発生した。

バンっ!と扉を破壊する音ともに、乱暴に鳴らす神楽鈴が鳴り響く。

 

「え!?」

「は!?」

 

堅く閉ざされているはずの扉を叩き割って、神楽鈴の徘徊者がやってきたのだ。

 

「嘘!? 前の時と違うじゃん!!」

「……え?」

 

思わず口に出してしまった私。

だが、そんな事を気づくことなく、携帯を取り出して神楽鈴の徘徊者に向けてフラッシュを焚いた。

 

「由奈! これ借りるね!!」

 

由奈の有無を聞く前に、私は燭台をぶんどって怯んでいる神楽鈴の徘徊者に走り出す。

 

「うらあああああああああ!」

 

私は燭台で神楽鈴の徘徊者をぶん殴り、吹き飛ばした。

 

「由奈逃げるよ!!」

「え、ちょっ!?」

 

私は天狐の面を被り、呆然とする由奈の手を引っ張って、壊れた扉の奥へと全力で走った。

そして、あの彼岸島で見た事のある螺旋階段の場所までたどり着いた。

 

「ふぅ……危なかった……」

「ねぇ、アリス」

 

額に滴る汗を拭いながら安堵する私に対して、由奈は少しだけ不思議そうな表情をして話しかけてきた。

私は「んえ?」と少し間抜けな声で返事をする。

 

「……さっき前と違うって言ってたけど、以前に来たことがあるの?」

「……………………え? あ、え?」

 

由奈の質問に、私は一瞬だけ時間が止まってしまった。

私は素っ頓狂な声を出してしまう。

 

「その狐のお面も、どこで手に入れたの?」

「……え、えーと……」

「……本当の事を言って欲しいな」

 

怪訝な表情をして優しく、それでも疑念に満ちた口調の由奈の前に、私は観念する。

 

「信じられない話だけど……」

 

と前置きをして、今までの事を全て洗いざらい話した。

 

私は以前にこの場所に来た事。

その世界では、青柳由奈は溺死している事。

Kこと、失踪していたおじいちゃんの事。

皆を救う為に、時を司る神様にお願いをして、過去に戻った事。

それら全てを由奈に語った。

 

普通の人が聞けば、頭のおかしい人だと笑うだろう。

だが、由奈はその事を真剣に聞いてくれて「そうなんだ」と一言。

 

「教えてくれてありがとう!」

「信じてくれるの?」

「うん! だってこんな非現実的な世界に来た時点で、何が起きても普通に信じられるよ」

 

と笑って言った。

 

「でも、本当の歴史では、私は死ぬのかー。まぁ、この世界に来た時点で死ぬのは覚悟してたから、別に驚くことは無いかな」

「(この子、強いなぁ)」

 

由奈の発言に、私は関心してしまう。

 

「こういう経験も悪くは無いよね。仮に生き残って元の世界に生還できたら、それも良い経験として死ぬまで忘れられない思い出になる!」

「由奈って凄いポジティブなんだね」

「だって、こんな世界来たら前向きにならないとやってられないもん!」

 

ケタケタと笑う由奈。

その笑顔に私も笑みがこぼれてしまった。

もー。可愛すぎるってえええええ!

私は徘徊者(意味深)になるのを抑えて、この螺旋階段を降りた。

 

 

─シャン……シャン……シャン……シャン……シャン……─

─カンッ!! シャリン……!! カンッ!! シャリン……!! カンッ!! シャリン……!!─

 

奥から神楽鈴の徘徊者と錫杖の徘徊者の音が聴こえてくる。

……あれ?

私が初めてこの場所に来た時って神楽鈴の徘徊者だけだよね?

……なんか増えてる……。

 

「いるね。徘徊者が……」

「なんか増えてるし」

「未来では違うの?」

「うん。神楽鈴の徘徊者だけだった」

「……難易度上がってる?」

「多分……」

 

私と由奈は、徘徊者に聞こえないような小さい声で会話をしながら、ゆっくりと台座のあるセーフティーゾーンのような場所へと向かった。

その場所は行李が置かれて、台座には鏡と赤い液体が入った大瓶がいくつも置かれてある。

 

「この水筒に液体を全部入れよ……」

「あ、私も手伝うよ」

 

そう言って、私達は瓶のコルクを抜いて水筒に赤い液体を入れた。

これにより、大容量の水筒三本に赤い液体を満タンに入った。

私は天狐の面を被っているため、赤い液体は必要ないので全部の水筒を由奈に渡した。

重くはなるだろうが、金メダルを持っている故にスピードが落ちることもないだろう。

空っぽになった大瓶は、爆竹代わりに使えると思い、リュックにしまおうとした。

だが……。

 

「あっ……」

 

瓶が手から滑り落ち、床に落下。

耳を塞がなくなる程の音が、この渓谷に木霊した。

 

「やっっっば……!!」

「アリスぅぅぅ……!?」

「ごめーーーん……!!」

 

私達はムンクの叫びのような表情を浮かべ、断末魔を上げる。

その時だ。

 

─シャン……シャン……シャンシャン!!!……シャン……シャン……─

─カンッ!! シャリン……!! カンッカンッ!! シャリン……!! カンッ!! シャリン……!!─

 

2体の徘徊者の音が、2回連続で鳴った。

多分、こちらの音に反応したということだろう。

 

「ヤバい……! 由奈! この鏡で飛ぼう……!」

「わ、分かった!」

 

私は由奈の手を掴んで鏡に触れた。

二人の視界は白く包まれ、その視界が晴れた時、私達は格子でできた牢屋と思われる場所に転移した。

真っ先に私が思った言葉は、「は?」である。

あのエロ触手(竜蟲)のいる場所じゃないの?と思った。

 

「ここ……どこ?」

「……わ、私が行った歴史と違うんだけど……」

 

ガクリと肩を降ろして絶望する私。

その中で、由奈は「面白いことになってきたね! 本当の歴史とは違う未来、何だかワクワクしてきた!」とウキウキの様子だ。

そのメンタルは凄いと思う。

 

「とりあえず、この扉開くのかな?」

「ねえ、今気づいたけど、神楽鈴の音聴こえない?」

 

由奈に指摘されてハッとなったのだが、確かに何処からか神楽鈴の徘徊者がいるようだ。

シャン……シャン……シャン……。

と音が鳴っている。

格子の扉は、キィィィーと音を立てて開いた。

 

「……神楽鈴いる?」

 

私はゆっくりと牢屋から顔を覗かせると、奥の牢屋の中に緑色の着物を着た神楽鈴の徘徊者がいた。

それに、その神楽鈴の徘徊者の首元には勾玉で出来た首飾りを付けていた。

 

「あの色って……」

 

私は緑色の神楽鈴に思い当たりがあった為、その牢屋に近づく。

 

「アリス、大丈夫なの……?」

 

由奈は心配そうに私に言うが、私は「あの神楽鈴は大丈夫だと思う!」と返した。

私は格子の扉を開けようとするが、鍵がかかっていて開かない。

 

「ねえ、由奈! ごめんだけど、走ってこの扉壊してほしい!」

「え? わかった」

 

由奈は少しだけ、戸惑いながらも全力で走ってショルダータックルを決めた。

すると、格子の扉は粉々に粉砕し吹っ飛んだ。

 

「よし、これに限る!」

「金メダル凄いねこれ」

 

私と由奈はそんな事を言っていると、緑色の着物を着た神楽鈴の徘徊者は、私たちの方を向き直し一礼した。

予想していなかった神楽鈴の行動に、私たちは一瞬ポカンとしつつ、直ぐに会釈し返す。

すると神楽鈴の徘徊者は、一際大きい神楽鈴を鳴らした。

 

─シャァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!─

 

「え?」

「ちょっ!?」

 

すると、私と由奈、神楽鈴の徘徊者の身体がフワッと浮かび上がった。

私たちは驚く隙も与えられず、別の場所へと転移させられた。

 

「まさか、連続で転移する事になるなんて……」

「この世界面白いね♪」

 

そんな感想を言い合いながら、私達はキョロキョロと辺りを見渡した。

すると、傍にいた神楽鈴の徘徊者は、鈴を鳴らすのをやめて、私たちの後ろを指さした。

 

「「???」」

 

私達は指差す方向を振り向くと、そこには以前ヒグラシの回廊で見つけたような大勾玉の場所があった。

巨大な般若の面が飾られて、その下に置かれた台座には、大きな勾玉が備えられている。

 

「ここって……!」

 

不意に神楽鈴の徘徊者の方を見る。

彼女は、何も言わずにコクリと頷いた。

私は大勾玉の場所に駆け寄って、それを手に取った。

 

「ありがとう!!」

 

私は笑顔で神楽鈴の徘徊者に言うと、彼女は深くお辞儀をして、持っている神楽鈴を1回だけ鳴らした。

 

─シャァァァァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!─

 

今度は、私と由奈だけが宙に浮かぶ。

私と由奈は彼女に「ありがとうございます!」と感謝を述べた。

すると、彼女は小さく手を振っていた。

 

─待っていますよ─

 

「へ?」

「え?」

 

何か声が聴こえた気がした。

……視界が映えると、そこは水浸しの岩部屋についた。

岩の色を見るに先ほどいた渓谷の何処かのである事に間違いは無い。

あの憎悪振りまく影が現れる付近の場所だ。

やっと戻ってきた。

 

「ねぇアリス。さっき何か言ってたよね?」

「うん。待っているって言ってたような気がする」

「どういう事だろう」

 

由奈は首を傾げて考えていた。

あの神楽鈴の徘徊者は、あの大勾玉のいる場所まで転移してくれた。

そして、待っているという言葉……。

……やっぱり、あの血痕もどきの回廊にあった大きな岩扉の先に何かあるんだ。

 

「少し心当たりがある」

「本当!?」

「だけど、そこに行くには、もっと奥に行かないといけない」

「OK! それじゃあ、そこまで行こう!」

「そうだね!」

 

そう言い終えると、私と由奈はキョロキョロと辺りを見渡し、棚に置かれた物を物色する。

 

「色々と、あるね!」

「だね!」

 

私と由奈は懐中電灯と爆竹、フラッシュカメラを発見した。

たが、床から奇妙な触手が生えているのを見て、立ち止まる。

 

「わー、何これエッッローー!」

 

由奈は顔を少しだけ赤らめてはしゃぐ。

それを見た私はちょっとだけ安心した。

……あぁ良かった。

この触手をみてエロいと感じるのは私だけじゃなかった。

私達は触手を無視して歩く。

 

「この触手襲ってこないね」

「うん。ウネウネ動いてるだけで私達をどうこうしようって感じじゃなさそうだね」

「正直、このまま触手に襲われたら襲われたで面白そうだけどね!」

「……おおふ……」

 

由奈の発言に私は少しだけ吹き出す。

なんか、私も同じようなことを考えてた気がする。

 

「それはそれで、ちょっと体験してみたい感じしない?」

「うん! する!」

「だよね!!」

 

由奈の質問に私は迷いなくそう答えた。

由奈も嬉しそうにワイワイはしゃいでいた。

そんなくだらない話をしながら1本道を歩いていると、鉄の扉が見えてきた。

正史ではここで由奈が……。

私はチラリと由奈の方を見る。

それを見た由奈は何かを察したのか「ここで私が死んでいた?」と少しだけ笑って言った。

 

「う、うん」

「そっか。でも、この歴史ではそうなってないから安心だね」

 

不敵な笑みを零してそういった。

私は「絶対に生きて帰るよ」と言い返す。

鉄の扉の前に着いた私達は、さっきの回廊で手に入れた鍵を取り出して解錠する。

そして、その鉄の扉を開けた瞬間───。

 

 

─FOOOOOOOOOOOOOOoooooooooooooo!!!!!!!─

 

 

凄まじい殺気が襲いかかる。

 

正直来ると思った!!

まだ、農具を持ったクソ野郎よりマシだ!!

私は即座に捻りハチマキを頭に巻いて、その上に天狐の面を被る。

 

「な、なに? 何の声?」

「説明は後!! 全力で走るよ!!」

「え? うん!」

 

慌てふためく由奈の手を掴んで走り出す。

絶対にヤバい奴が来ていると察したようで、由奈も金メダルの力を存分に発揮しながら大地を駆ける。

 

「後ろからヤバい奴が来てるの! そのヤバい奴を見続けてると呪い殺されるから、極力見ちゃダメ!!」

「分かった!!」

「あと凄い煩いけど、怯まずに走れば何とかなるから!!」

「りょーかい!!」

 

私は走りながら由奈に、クソババアの事を説明する。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ!!」

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……!」

 

化け物との逃走をして暫くが経過する。

天狐の面+ねじり鉢巻の私と金メダルの由奈のスピードには、憎悪振りまく影もそう簡単に追いつけずに、私たちは丹塗りが施された大きな廊下にたどり着いた。

そして、その先は建物が崩れており行くことが出来ない。

 

「え、行き止まり?」

「大丈夫。この場所で正解」

 

不安そうな由奈を安心させる為に、ニヤリと笑みを浮かべて、そう返事する。

 

 

──アアアアアアアアアアアア!! ァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアア!!!─

 

 

憎悪振りまく影の雄叫びが聴こえてくる。

 

「本当に煩いね」

「でしょ?」

 

由奈は後ろを向いて、耳を塞がながら笑った。

私も呆れ笑いを浮かべる。

 

 

─アアアアアアアアアアア!!!!

……………………。─

 

 

化け物の悲鳴が聞こえなくなり、この世界から色が消えたように白黒になっていた。

そして、この世界の時間が止まっているようで、憎悪振り撒く影はピクリとも動かなくなっている。

 

「え?」

 

由奈が困惑していると、壁から梯子が降りてきた。

若干、正史通りに事が進んでよかったと安堵しつつ梯子を使って上へと登った。

 

 

 

 

 

 

 

私達が登り終えると、奥に誰か座っているのが見えた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

その人は酷く息を切らしていて苦しそうだった。

私と由奈がその人に近づくと……。

 

「止まれ! それ以上近づくな……!!」

 

男の声。

懐かしい声に涙腺が崩壊しつつそれをグッと我慢をして、質問を投げかけた。

 

「貴方が助けてくれたんですよね?」

「あぁ……」

 

私の問いに、男は私の方を振り向くことなく、そう返事をする。

 

「そっか、ありがとうございます!」

 

その言葉に由奈は大きな声で、深くお辞儀をした。

 

「気にするな。だが最初に言っておく、君たちと馴れ合うつもりはない」

「そうですか」

「君に、そっちの君に聞きたいことがあっただけだ」

「……??」

 

男は、1つのジッポライターを取り出して私に訊ねる。

 

「このライターに見覚えは?」

 

男が持っていたジッポライターをみて、私はハッとした。

急いでポケットを確認する。

何とジッポライターが無くなっているではないか。

今回は色々とゴタゴタしていて気づかなかった。

おじいちゃんゴメン。

それを見た私は、噛み付くような勢いでおじいちゃんに言い放った。

 

「ごめんなさい! 私のお爺ちゃんの形見です!! 返して下さい!」

「なるほどな……」

 

私の声に、おじいちゃんは納得したように頷いて立ち上がった。

 

「ほら、もう無くすなよ」

 

私の方にライターを投げてきた。

 

「ありがとうございます!」

「……え? 徘徊者!?」

 

由奈は男性の顔を見て驚いていた。

彼女の反応に、おじいちゃんは「あぁ、この面か」と言って、話を続ける。

 

「呪いのようなものだ。彼女に会えば、君達もすぐにわかる」

「彼、女?」

「……」

 

由奈はキョトンとしていた。

一方で私は神妙な表情になる。

 

「彼女は冷酷で残酷な化け物だ。この世界から出る方法を知るとしたら、彼女だけだろう。直接出口を聞きに行くのなら、途中まで案内しよう。……ついてこい」

 

私たちは、おじいちゃんの後を付いていくことにした。

そして、滝の流れる場所に着いた。

タンスや棚、台座が置かれており、焚き火跡もあることから、ここがおじいちゃんの住み処的な場所なのだろう。

他にも勾玉や沢山の本、紙やペンがあった。

 

「そこで止まれ。あそこだ」

 

おじいちゃんの指差す先には少し遠いが鳥居が見え、さらにその奥に屋敷らしき建物が見えた。

深淵の回廊だ。

 

「最奥の部屋で、彼女はいるだろう。彼女に会うなら、あの回廊を超えるしかない」

「わかりました」

「それじゃあ、行こうかアリス!」

 

やる気満々の私達に、おじいちゃんは忠告する。

 

「彼女の口車には絶対に乗るなよ?」

「あ、はい」

「OK!!」

「その水晶も持っていけ、俺の力を閉じ込めてある」

「さっきから気になっていたけど、貴方はもしかして……」

 

由奈がおじいちゃんに訊ねようとした時……。

 

 

─FOOOOOOOOoooooooooooo!!!!!!─

 

 

「……!?」

「……うわっ!?」

 

あの化け物の声が後ろから響きわたる。

 

「ちっ、あの面なしの怪物は、お前達を追っている。他の徘徊者とは一線を画している得たいの知れない奴だ。死にたくなかったら、早く行け!」

「は、はい!! すみません、ありがとうございます!!!」

「Kさんありがとう!! 行ってくるね!!」

 

私達は男性に深くお辞儀して、水晶をバックに入れてあの屋敷へと向かった。

 

 

 

続く

 




今回の挿絵は「たなか えーじ」氏に描いていただきました。
誠にありがとうございます!
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