Shadow Corridor 回廊に迷い込んだ1人の少女   作:楠崎 龍照

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おじいちゃんことKさんに言われて、化け物と呼ばれたヒバナちゃんに出会うため、深淵の回廊へと足を踏み入れた。

そこで、私達は真実へと向かう鍵を手に入れた。


5話 深淵 ─鍵─

 

 

 

 

 

「深淵の回廊だー」

「ヒグラシの回廊より難易度上がってそうね」

「それは言えてる」

 

橋を渡り終え、深淵の回廊の前に着いた私達はそんな事を漏らす。

ぶっちゃけ、この後に深淵よりもクソ回廊が控えているんだよね……。

 

「それじゃあ、行こっか」

「だね!」

 

私達は屋敷の扉を開いて早速現れた長い階段を降りる。

階段を降りた先には大きな部屋になっており、鳥居が3つ縦に並び、その奥に扉があった。

その光景は前と変わらないものだった。

私達が鳥居を潜ると、前方の扉がキィィっと開く。

招かれているようではあるが、正直こんな屋敷に招かれても嬉しくない。

 

「おー、ポルターガイストじゃん! 初めて見た!! 凄いーー!!」

 

一方で、由奈は目をキラキラと輝かせて興奮している様子だった。

 

「とりあえず、もう勾玉は持ってるし、このまま祭壇まで進もうか」

「はいよー!」

 

私は5つの勾玉を見せて提案する。

それを聞いた由奈は笑顔で返事をした。

だが、由奈は隣にある階段に目がいったようだ。

 

「ちょっと、あの階段行ってみない?」

「あ、うん。いいよ!」

 

由奈の指差した階段に上がる。

あれ?あんな所に階段なんてあったっけ?

私は頭に疑問が浮かんだが、多分見落としただけだろうと思いその疑問を振り払った。

 

「この扉なんだろう?」

 

階段を登り終え、1本の廊下を渡った先には堅く閉ざされた扉があった。

だけど、そんなもの金メダルを持っている我々には無意味だ。

由奈は助走をつけて、その扉にタックルを決めた。

堅く閉ざされた扉も、金メダルの前には無力だ。

扉は粉砕し、激しく吹っ飛んだ。

……やってる事は走り廻る徘徊者なんだよなぁ……。

 

「なにこの部屋?」

「……?」

 

堅く閉ざされた扉の先にある小部屋には鏡が1つ置かれていただけだった。

2人で他に何かあるか探るが何も無い。

 

「「……」」

 

私と由奈は置かれている鏡を見てから、互いの顔を見合った。

そして、2人はコクリと頷いてから鏡に手をやった。

2人の身体は白く光を放ち、瞬く間に姿を消す。

 

次に2人が姿を現したのは、明かり1つとして無い暗黒の空間だった。

私たちはそれ故に明かりを灯すと、その空間が鮮明になる。

石造りの壁で、どことなく骸流しの渓谷を彷彿とさせる空間だった。

床は浸水しており、オープンラックには手鏡や水晶、コンパス等の便利アイテムがズラリと並んでいる。

しかも、1つや2つではない。

3つ以上あったのだ。

 

「なにここ!?」

「すっご! ボーナスステージじゃん!!」

 

あまりの豪華なアイテム達の前に、私たちは歓喜の声をあげた。

私達は笑顔でそれらをリュックに積める。

これだけあれば、回廊の攻略をかなり優位に進めることができるだろう。

勾玉も持っているし、最早、幽世生活での老後と言うべきものだ。

 

「よし、全部積めれたね?」

「うん! 完璧!」

 

私の問いに由奈はウィンクをしながらGoodのポーズをとる。

 

あぁぁぁぁぁぁ可愛いぃぃぃぃぃぃぃ!

癒されるぅぅぅぅぅぅぅぅ!

 

私達は念の為に水晶を構えつつ、この部屋を散策することにした。

すると、直ぐに扉を見つけることができた。

恐る恐るその扉を開けると……。

 

「うわぁ……」

「え……これは……あー……」

 

扉の先にあった物を見て、私はドン引きする。

流石の由奈も、あの光景には絶句していた。

扉の先には1本の廊下があり、その奥には謎のレバーが設置されてる……のだが、廊下の両壁にびっっっっしりと、本当にびっしりと能面が飾られていたのだ。

もう凄い、本当に凄い。

能面専門店でも開けるんじゃないか?ってレベルで飾られていた。

 

「これは……怖いね……」

「う、うん。動き出しそう……」

「怖いこと言わないで」

「ゴメン」

 

最早あまりの不気味さに、ただただ真顔で言い合う私たち。

だが、そんな事をしていては先に進むことができない。

私は意を決し、全力で走った。

水しぶきとか知ったこっちゃない。

だが、その行動がいけなかった。

 

「いっ!?」

「へっ?」

 

1部の能面から羽音が聴こえ、それが一斉に私の方に向かってきたのだ。

能面に擬態した虫である。

面蟲とでも呼ぼう。

 

「いやああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ぎゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」

 

私と由奈は悲鳴(由奈の方が音量が大きい)を上げてパニックになる。

 

「いやぁいやぁいやぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ギィィあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!」

 

2人とも両手をブンブン振り回しながら抵抗する。

最早水晶を使うなんて事は頭になかった。

深淵の回廊の最下層で、2人の少女の断末魔が木霊していた。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「あー……あー……あー……あー……あー……」

 

あの後、2・3分は面蟲に弄ばれて、2人とも息を切らしていた。

暴れた為に、ビショビショで若干の事故現場感がある。

 

「ちょっ……んふっ……もおおおおお! んははははははは!!」

「んくっ! んっふふふははははははは!!」

 

人間というのは、訳分からん事が起こると意味もなく笑えてくるものである。

2人も例外では無く、あまりの可笑しさに心の底から大爆笑していた。

一頻り爆笑し終えた2人はずぶ濡れで、レバーを下ろす。

すると、先程私達がいた方から、っと鍵が解錠する音が聴こえてきた。

 

「行ってみよっか」

「うん」

 

2人は少しだけ警戒心を持って、元の部屋に戻る。

壁からゆっくりと、顔を覗かせると右から灯りが見えていた。

私達はその灯りの方に向かうと、いつの間にか扉が現れてその奥には燭台の火が灯っている。

あれ?

さっき探した時こんな扉あった?

……あのレバーがトリガーになって、この奥の部屋が出現したとか?

何にせよ、私達は扉を開けて奥へと進む。

石造りの階段があり、それを登った先には見た事のある場所にたどり着いた。

 

「ここって……!」

「……!」

 

その場所はヒグラシの回廊や骸流しの渓谷にあった大勾玉の置かれている祭壇だ。

私はその大勾玉を取って小箱にいれた。

 

「ねぇ、アリス。これって出られるの?」

「多分、この手鏡使えってことじゃないかな?」

「あー……。そゆこと?」

「うん」

 

私達は手鏡を使い、この場所から別の場所に転移する。

 

「アリス、この回廊暗くない?」

「うん。ヒグラシの回廊みたいに燭台がないからね……」

「なんかそれだけで難易度上がってると分かるよ」

 

転移した私と由奈は、直ぐに懐中電灯を持って周りを確認する。

その場所は中部屋で、台座が2台並べられて置かれていた。

台座には赤い着物が2着、乱暴に放置されていてるのが確認できた。

そして、その横に縄で縛られている黒い大箱が置かれていて、何かの物置部屋なのかな?と考えてしまう。

ただ、この縄で厳重に縛られた大箱の中身は絶対に開けない。

死体とか入ってたらキツイから。

 

「何かある……?」

「ううん。何も無いね……」

 

その部屋をくまなく物色した私達は、この部屋を後にしようと戸を開けようとした……が。

ライトが点滅し始めた。

 

「……」

「……」

 

私達は戸に手をつけたまま、時間が止まったように硬直する。

戸の裏からドスッドスッドスッと何やら巨大生物が歩いている足音が聴こえてきた。

私は察する。

あぁ、また新規徘徊者だと。

 

「何の徘徊者?」

「わ、分からない……」

 

新徘徊者の登場に私達は訝しげな表情をしたまま互いを見て、即座に台座の裏に身を潜めた。

暫くすると、新徘徊者はどこかに行ったようで明かりの点滅も治まった。

 

「やっとどこかに行ったね」

「うん。あー……ドキドキしたー」

 

私達は立ち上がった時だ。

背筋に冷たい感覚に走る。

周辺が嫌な空気に包まれ、鳥肌が激しく逆だった。

 

「あっ……この気配……」

「え? 何?」

 

私は直ぐに、あの徘徊者が近くにいると悟った。

一方、由奈は嫌な気配に襲われているようだが、それが何なのか理解していなかった。

念の為に、私はライトの電源をつけた。

その明かりは不規則に明滅をし始めている。

それを確認するや否や即座に電源を落とし、再び由奈と台座の裏にしゃがむ。

 

「ねぇ、アリス……」

「ぁぁぁぁぁ、みみぃ……。ん? どうしたの……?」

「何の徘徊者……?」

 

徘徊者がどこかへ行く間、由奈は私の耳元で囁く。

突然の由奈囁きASMRに私は別の意味で鳥肌が立った。

私は一瞬、徘徊者に成りかけたが、直ぐに我に帰って平静を取り戻して、忍び寄る徘徊者の説明をする。

その徘徊者の事を聞いた由奈は「新しい徘徊者だね」と関心のある表情をしていた。

 

「それにしても遅くない……?」

「まぁ、忍び寄る徘徊者のスピードって結構遅いからね……」

 

忍び寄る徘徊者の説明をして5分は経過していると思われるが、一向にライトの明滅が止まない。

アイツ、未発見時の速度が亀なのよね……。

 

「……」

「……」

 

私達はジッと、奴がどこかへ行くのを待っていると……。

 

 

─ドタドタドタドタドタドタ!─

─シャン……シャン……シャン……シャン……シャン……─

 

 

走り廻る徘徊者と神楽鈴の徘徊者もやってきた。

はよどっか行け!!

我慢の限界を迎えた私は由奈の手をギュッと握り、「走るよ」と一言。

由奈の可否を聴かずに水晶を地面に叩き割り、徘徊者の動きを止めた。

 

「行くよ!!!」

「え、あ……!」

 

扉をバンッ!と蹴破って全力に走り出す。

コンパスを取り出し、その針に従って全力疾走した。

水晶が切れるまでどこまで進めるか分からないけど、とりあえず徘徊者のいる場所からは離れたい。

 

「由奈お願い、そっちにある水晶もう1回投げて!」

「あいよ!」

 

水晶の効力が切れる瞬間に、もう一度水晶を投げて徘徊者の動きを止めた。

全力で走っているうちに徘徊者の索敵圏外へと出たようだ。

ライトの明滅が止んでいた。

そして、水晶の効力も切れて徘徊者が動き始める。

 

「何とか脱出できたね」

「荒療治すぎるよ! でも、私は好きだよ!」

 

笑顔でGoodをする由奈に癒されつつ、天狐の面に触れる。

天狐の面+捻りハチマキ、金メダルの力は恐ろしいものだ。

あれだけ全力で走ったというのに、一切の息切れがない。

マジで、このアイテム強い。

そんな事を思っていると、再びライトが明滅をし始めた。

ドロっ、ドロっ、ドロっ……と形容し難い音が聴こえてくる。

……これを表現するなら、闇の音と言うべきものだろうか?

また新徘徊者である。

 

「あ、ヤバい……」

「……走り過ぎたね……」

 

どこから来る?

ここは廊下、深淵の回廊の構造上、今私達が隠れられる場所はない。

私と由奈は互いに背を向けて、謎の徘徊者が来るのを待った。

無論、カメラは構えている。

 

「あれ?」

 

由奈は何かに気がついたのか、ふとライトを照らした。

その瞬間、私たちの視界が赤黒いノイズが走る。

 

「いた!! 黒いモヤみたいなやつ!!!」

「黒いモヤ!?」

 

由奈の声に振り向くと、そこには本当に能面を被った?黒いモヤのような徘徊者がいた。

全身が丸い闇のようなモヤに包まれて、その真ん中に能面がある見た目をしている。

何じゃこいつ……。

そうこうしているうちに、やつは私達を追いかけてくるので、まずはカメラで怯ませた隙に全力で逃走を図る。

 

「能面着けてるってことは、アイツらじゃないけど……!」

「なんかヤバそうだよね!」

 

とりあえず、私達はあの徘徊者を「深淵の徘徊者」と呼ぶことにした。

どんな能力なのか知る前に、逃げないとヤバい!

 

「ついて来てる!?」

「え? わぁ!? アイツ来てるよ!!」

 

私の言葉に振り返った由奈は、驚愕しながらわたしに訴える。

ゴポゴポドロドロと溶岩が落ちるような音をたてて、深淵の徘徊者は追ってきていた。

 

「どうするアリス!?」

「水晶まだあるよね!?」

「あるよ!」

「勿体ないけど、それ投げて!!」

「あいよ!!」

 

私は走りながら由奈にそう言った。

由奈は直ぐさま水晶を取り出して、それを捨てるように投げる。

再び世界がモノクロになって徘徊者の動きが止まる。

 

コンパスを確認すると、針が激しく揺れている。

多分、祭壇が近いのだろう。

少し長い廊下を走り、曲がり角を曲がると、祭壇があった。

ヒグラシの回廊とは違い大部屋ではなく、屋敷から出た闇に覆われた場所にあり、辺りは巨大な湖に囲まれていた。

その湖には灯籠がいくつも浮いていて、非常に幻想的な光景である。

私は「そういえば、こんな感じだったな」と懐かしさにふけっていた。

 

「何ここ!? 凄い神秘的!!」

 

初めて見る由奈は目を輝かせて、携帯を取り出して写真を連射していた。

あ、私も写真撮ろうっと。

少しの間、この風景の写真を撮りまくり、満足した私達は目の前にある勾玉を5つを納める。

すると……。

 

「え、何? 何!?」

 

深淵全体を揺らす、地響きが起きた。

由奈は焦った様子で辺りをキョロキョロと見渡していた。

私もそうだった。

これはビックリする。

そして、私達の目の前に広がる湖が二つに割れて、湖の中から長い橋が現れた。

 

「すっご……」

「ホントにね」

 

その神がかり的な光景を前に由奈は絶句している様子だった。

私もその光景を前に同意する。

 

「それじゃあ、行こうか」

「う、うん!」

 

呆気に取られている由奈に言って、私達は橋を渡って鏡のある小島まで向った。

そして、そこにある鏡に触れた。

視界が暗転する。

そして、別の場所に転移した。

飛ばされた先は大きな部屋で蝋燭で辺りが明るい場所だった。

壁の感じからして先ほどいた深淵の回廊の何処かだと推察できる。

だが、神楽鈴の音が鳴り響いていた。

私は知ってるけど、由奈の反応が見たいから少しだけ黙っておこう。

 

「え、待ってよ。何で神楽鈴がいるの?」

 

由奈は警戒しながら、ライトをつける。

光は明滅しておらず、煌々と前方のボロボロの襖を照らしていた。

その破れている襖の隙間から、緑色の着物が見えている。

それを見た由奈は先程の反応とは真逆の反応を見せた。

 

「え? あの神楽鈴の徘徊者って敵じゃない?」

 

骸流しの渓谷で出会った友好的な神楽鈴の徘徊者を見た由奈は、少しだけ疑いの表情を見せながらも襖に近づき、襖を全開にする。

 

「ねえ、アリス。この神楽鈴の徘徊者って、安全なんだよね?」

「そうだよー」

 

満足した私はそう言って、神楽鈴の徘徊者へと近づく。

 

我々の到来を待っていたのだろう。

彼女は奥へと歩き出した。

 

「……」

「……」

 

私達は神楽鈴の徘徊者の後ろについて、長い長い廊下を歩いた。

神楽鈴の徘徊者が進む事で、壁にある吊灯篭に火が灯されていく。

 

「物凄い大物感があるね」

「うん。それ私も思った」

「アリスもそう思うよね」

 

そんな会話を楽しみつつ、私達は彼女の後ろについていく。

暫くの間歩いていると、神楽鈴の徘徊者はピタリと立ち止まり神楽鈴を大きく振りかざす。

すると前方に閉まっていた扉がガチャリと開く。

 

「目的地に到着したみたいね」

「なんか奥にラピュタの飛行石みたいなのがあるけど……」

「そこまで行くよー」

「大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫」

 

そんな会話をしていると、『お前ら、はよ入れ!』と言わんばかりに神楽鈴の徘徊者は、持っている鈴を鳴らして私達を飛行石の近くまで無理矢理転移させた。

 

「ご、ごめん! 神楽鈴ごめーん!!」

「本当にごめんなさい! ごめんなさーい!」

 

少しだけ笑いの成分を含んだ謝罪を神楽鈴の徘徊者に叫んだ。

だが、先程居た場所は既に扉が閉められており、彼女には聴こえていなかった。

 

「やっちまったね」

「うん」

 

バツが悪そうにしつつ、私達は

 

緑色に光り輝く巨大な結晶のようなものが浮遊物を見上げた。

 

「なにこれ?」

「ぶっちゃけ私にも分からない」

 

なんか、生命が宿ってる的な感じだとは思うけど……。

合ってるのか分からないや。

私達は、その結晶を見ていると……。

 

『珍しいわね。人間がこんな所まで来るなんて……』

 

背後から女の子の声が聴こえた。

 

「……!」

「へ?」

 

振り返るとそこには10歳ぐらいの少女がいた。

黒い着物を着ており、目は包帯で巻かれて、火傷後のようなものが右頬にあった。

……ヒバナちゃん。

 

「えーと、アナタは?」

 

神妙な表情で見つめる私を他所に、由奈は少女に質問をした。

その由奈の質問に、少女は淡々と答えはじめる。

 

『みんな私を化け物と呼ぶけど……あなた達もそう呼びたいなら好きにするといい。実際、今の私は化け物みたいなものだし』

「……」

「……」

『でも、私に言わせれば、人間の方がよっぽど質が悪いわね……』

 

静か且つ綺麗で可愛い声だったが、呆れた口調で少し冷酷な雰囲気を漂わせていた。

 

『出口を探しているなら諦めなさい。私のような力ある者にしか開けないし、貴女達をここから出すつもりはない』

 

彼女の言葉に私は絶望する。

 

「……」

「あ、やっぱり? まぁ、そうだよね」

 

由奈は苦虫を噛み潰したような表情になる。

私はこの子を救うにはどうすれば良いかを必死に見た。

そんな私達を見た彼女は、少しだけニヤリと微笑んだ。

 

『でも、良い話があるの』

 

彼女は、左手から能面を生み出し、こう言った。

 

『永遠の命……いつの世も人間が渇望した力。貴女達は、どんな病にも害されない。どんな猛獣でもねじ伏せることができるようになる』

「え、じゃあ……あの徘徊者達って……」

 

この言葉を聞いた由奈も、流石に青ざめていた。

背筋がゾワッと凍りつくような感覚に襲われているのだろう。

あの男が言っていた、奴の口車には絶対に乗るな。

私達は考えることなく少女に言った。

 

「あ、いえ、結構です」

「そんな口車には乗らないよ!」

 

と。

 

そう言うと、少女は少し残念そうな声で『そう……』と言った。

 

『じゃあ、言い方を変えましょう。貴女達の魂にようがあるの。細工をさせてもらうから、大人しくしていなさい』

 

その瞬間、少女は持っていた能面を消し、力を解放した。

薄汚い鈴の音と共に辺りが赤く包み込まれ、先ほどのいた場所とは違う暗い海の上にいた。

辺りの海から無数の能面が現れ、そして、その2つの能面が私と由奈の目の前に現れた。

私達は抵抗しようにも金縛りにかけられて動くことができなかった。

口ひとつとして開くことができない。

 

「………………!!!」

 

しかし、その時だった。

1つの勾玉が私のポケットから飛び出して光を放つ。

すると、金縛りは解けて先ほどの場所にいた。

どうやら、少女に幻を見せられていたようだ。

光が晴れると私の前にあの男が立っていた。

 

「え?Kさん!?」

「ギリギリだったな。お前達のお陰で上手く忍び込めた」

『あぁ、あなた……仲間殺しの……』

「ようやく会えたな、ずっとこの時を待っていた」

 

男はあの水晶を見ながら少女に口を開く。

 

「そこの物体、昔もそこにあったな。そしてお前はずっとここに引きこもっている……。思うに、お前にとってはさぞかし大事な物なんだろう。違うか?」

 

少女は無表情で手を振りかざした。

すると鈴が鳴り響き、男が苦しみだして膝をついた。

 

『その面、自分から被ったんでしょ。自業自得ね。……そこで大人しくしていなさい』

 

少女は無感情のまま私達の方にゆっくりと近づいてくる。

しかし、それを男が息を切らし、うめき声を上げながら私達を庇おうとした。

それを見た少女は、冷たい、冷酷という言葉がピッタリ当てはまるだろう口調で話す。

 

『そう、庇うのね? それなら……!』

「……!?」

 

少女は力強く左腕を振り下ろす。

すると、男は頭を必死に抑えて、断末魔を上げて苦しみだした。

その苦しみ方は尋常ではなく、私達は駆け寄って介抱しようとする。

 

「お……い!! 俺か、ら……離れ、ろ……!!!」

 

だが、男は苦しみながら私達に強く言い放つ。

その鬼気迫る口調に、流石の私もたじろいだ。

 

「で、でも……」

『あいつが……俺の魂に、細工をしやがった……! 俺の意識が……あるうちに……!!!」

 

再び頭を押さえて苦しみ出す。

 

「大丈夫!!?」

「お願い! やめて!!」

 

由奈は少女に懇願するが、少女はそれを無視した。

 

『貴方の魂があれば、救うことができる。悪く思わないでね?』

『……お前ら……はや、く……にげ……!!!」

 

男は断末魔を上げて、赤いオーラに包まれた。

そして……。

Kさん……いや、おじいちゃんは、巨大な徘徊者……大食らいとなった。

 

「う、うそ……」

 

目の前にいた人が徘徊者になった瞬間を目撃した由奈は両手を口元に抑えて絶句していた。

だが、大食らいの姿を見た少女は驚き、狼狽する。

 

『!? そんな、化け物になっても、まだ意識を保てるの!?』

『さ、いごの……わるあがきを……させて、もらうぞ……ばけも、のめ!!!」

『何をするつもり!? やめなさい!!!』

『やめ、る……つ、もりは、ない……!!』

 

そして、大食らいは少女に襲いかかった。

少女は舌打ちをしながら、別の場所に逃げたのか、彼岸花を舞い散らしながら姿を消す。

それを確認した大食らいは、巨大な結晶のほうを振り向いて雄叫びを上げながら飛翔、何度も何度もその体躯を結晶にぶつけた。

その度に衝撃波が辺りに伝わり、水柱を発生させた。

そして、大食らいは巨大な結晶を砕き割った。

結果、結晶は緑色の爆発を起こし、衝撃で足場は崩れて私と由奈は奈落へと落ちた。

 

 

 

 

 

続く




深淵の徘徊者
感知範囲:忍び寄る徘徊者と同じ。
スピード:忍び寄る徘徊者と同じ。
発見時の速度:忍び寄る徘徊者と同じ。
危険度:★★★★
危険度(修羅):★★★★

概要
黒い丸々のモヤをした徘徊者。
"深淵"と"?域"にのみ存在するリージョン徘徊者。
─ドロドロゴポゴポ─と溶岩が落ちたような音を発して徘徊している。
全身がベンタブラックレベルの黒さをしている為、その徘徊者がいる部分だけ真っ黒になる。
またライターの火では姿を視認する事ができない。
ぶっちゃけ大したことはない。


───────────────────────────



ドスッドスッドスッと重厚な足音をたてる徘徊者(仮)
感知範囲:忍び寄る徘徊者と同程度。
スピード:徘徊型の泣き声の主と同じ。
発見時の速度:遅い、早いの緩急が激しい。
危険度:★★★★★
危険度(修羅):★★★★★

概要
不明。

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